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キャデラック・レコード

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『キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の物語』

英題: CADILLAC RECORDS
(2008年(日本公開2009年8月15日)/アメリカ/1時間48分/ソニー・ピクチャーズ)


≪スタッフ≫

監督・脚本: ダーネル・マーティン
製作総指揮: ビヨンセ・ノウルズ / マーク・レヴィン
製作: アンドリュー・ラック / ソフィア・ソンダーヴァン
編集: ピーター・C・フランク
撮影: アナスタス・ミコス
音楽: テレンス・ブランチャード
衣装デザイン: ジョネッタ・ブーン

≪キャスト≫

エイドリアン・ブロディ(レナード・チェス)
ジェフリー・ライト(マディ・ウォーターズ)
ビヨンセ・ノウルズ(エタ・ジェイムズ)
コロンバス・ショート(リトル・ウォルター)
モス・デフ(チャック・ベリー)
エマヌエル・シュリーキー(レベッタ・チェス)
セドリック・ジ・エンターテイナー(ウィリー・ディクソン)
ガブリエル・ユニオン(ジェニーヴァ・ウェイト)
イーモン・ウォーカー(ハウリン・ウルフ)
タミー・ブランチャード

≪ストーリー≫

 野心家の青年レナード(エイドリアン・ブロディ)は、物静かで思慮深い天才ギタリスト、マディ・ウォーターズ(ジェフリー・ライト)と衝動的なハーモニカ奏者リトル・ウォルター(コロンバス・ショート)に出会う。発展しつつあったレコード・ビジネスのブームに乗ろうとしたレナードは、彼らのアルバム作りを始めることにするが……。

◇◇◇

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 先日、映画『キャデラック・レコード』を観賞してきた。ゴールデン・グローブ賞オリジナル楽曲部門ノミネート作品という。場所は恵比寿ガーデンシネマ。こじんまりとしてるが落ち着いた感じがいいところだ。以前ここで観たのは……マイケル・ムーアの『ボウリング・フォー・コロンバイン』だったけかな。日本公開は2003年だから……まぁ、結構久しぶりになる。

 物語はアメリカ、1950年代のシカゴ。チェス・レコードを立ち上げたレナード・チェスとその所属アーティストたちの栄枯盛衰と音楽界に与えた偉大な影響力をなぞっていくというもの。“音楽でアメリカを変えた人々の物語"という副題の通りだ。タイトルの“キャデラック”は、周知の通りアメ車のキャデラックのことで、レナード・チェスが成功報酬として所属アーティストに次々と新車のキャデラックを用意した=成功の象徴ことに由来している。実話ドラマということだが、物語をシンプルにするために、チェス・レコードを立ち上げたのをレナード・チェス1人にするなど、多少史実と異なるところもある(実際はレナードとフィルのチェス兄弟が創設)。

 ポーランドからの移民だったレナード・フィルはマコンバ・クラブというライヴハウスを経営していたが、人種差別も酷い当時、レコード契約がない黒人ミュージシャンを見て、自らビジネスに参入することを決意し、チェス・レコードはスタートした。
 ポーランド移民という背景もあって、黒人に対して差別意識がなかったレナードは、農場でカントリーを歌っていたマディ・ウォーターズを発見、このマディとの二人を中心に既存の音楽業界に風穴を開けていく……というもの。
 その後、マディ以降はリトル・ウォルター、チャック・ベリー(モス・デフが好演!)、ハウリン・ウルフらが所属し、ロックンロールの誕生に多大な影響を与えたレーベルとして跋扈していく。当初、見向きもされていなかった黒人音楽に焦点が当たり、60年代にはUKでのブルース・ブームからローリング・ストーンズ(このバンド名もマディー・ウォーターズの楽曲に由来)やフリートウッド・マックがチェスのスタジオでレコーディングするなど、白人たちとの関わり(そして“ロック”という白人音楽の代表格としてクローズアップされてしまう)も描かれた、ポップ・ミュージック誕生の過程がコンパクトにまとめられている。当時の世相や社会背景と音楽という構図、特に人種差別ということだが、も当然描かれていて、貧困→突然の成功→金・女・酒・クスリに溺れていくというステレオタイプなスバイラルに巻き込まれ、いつしか凋落していくという浮き沈みが端的に示されているという意味で、映画というよりもドキュメンタリーとして手ごろなテキストブックとなる映像音楽史というところだ。ヒットした楽曲が白人に盗作される(ビーチボーイズの件)などの問題もサラッとだが取りあげている。

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 映画のパンフレットなどをみると、エタ・ジェイムズ役のビヨンセが大きくフィーチャーされているのだが、物語の中盤までビヨンセは出てこない。チェス・レコードとそのアーティストという視点からのストーリーであると、エタ・ジェイムズに焦点があたることはそれほどないと思うし、これもネームヴァリューなのか……と思ったら、製作総指揮にビヨンセの名前が。ちょっとビックリ。彼女の元来持っているオーラというものもあるのだろうが、ビヨンセが出てこない前半と出てくる後半とでは色合いが全く異なってくる。
 前半はレナード役のエイドリアン・ブロディのボソボソっとしたしゃべりと濃すぎない演技が奏功したこともあり、クールな色合いで物語りは進んでいく。そのレナードとは対照的に破天荒なコロンバス・ショート演じるリトル・ウォルターやモス・デフ演じるチャック・ベリーといった、白人と黒人、経営者とミュージシャン、時に搾取側と被搾取側といった構図を保ちながら、描かれていく。どちらかというと『永遠のモータウン』に近いところもあるか。
 ただ、ビヨンセ演じるエタ・ジェイムズが出てくるとドキュメンタリーが一変してドラマティックなエンタテインメントに変わってしまう。『永遠のモータウン』から『ドリームガールズ』になってしまうというか。出自的背景や家庭環境に負い目があり、酒やドラッグに溺れていくエタとレナードが親密になっていく姿が中心に描かれるようになってしまい、マディやそのライヴァルであるイーモン・ウォーカー演じるハウリン・ウルフとの軋轢などはその直接的な原因が明らかにされることなく、隅にまでとは言わないが、外に追いやられる感じもした。

 この映画は実際に演奏した楽曲を使用しているということもあり、それは素晴らしい点なのだが、良くも悪くもインパクトが強烈なビヨンセが途中から入ってくることで、余計に浮いているように感じたのは否めなかった。彼女がソロで歌うシーンも当然のごとくフィーチャーされているのだが、その場面のみを見れば物凄い意気込みだったことが解かるくらいの熱演、熱唱で、そこは鳥肌モノというか観るに値する場面ではある。ただ、全体的な流れとして考えると、もう少々抑えてもよかったと思うのだが……。『ドリームガールズ』でジェニファー・ハドソンに持っていかれたことが影響しているのか、それを取り返そうと物凄い張り切りようなんだもの。(笑)
 そういうこともあって、後半では黒人が白人社会を変えて行くという流れが、レナードとエタとの恋物語へとシフト・チェンジしてしまう印象を与え、いかにして白人中心のシーンに風穴を開けることが出来たのか、また社会への影響をなしたのはどの点においてかという結論は、ぼやかされたままで、チェス・レコードに所属したアーティストが後年に殿堂入りした、などの功績で締められてしまったのは、核心を描ききれなかったかという印象を受けてしまいやや残念なところであった。
 ブルースがいかにロックンロールになり、アメリカを、世界を熱狂させたのかというところを描くアプローチとしてはいいと思うのだが、それが強い熱意がみなぎるビヨンセに持っていかれてしまったという感じ。勉強になったけど……という何かスパイスが1、2つ抜けてるというもの足りなさが残ってしまった。

◇◇◇

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 それにしても、ビヨンセ。自分にはどうしてもオセロの中島のように見えてしまった(笑)ので、それも映画から一人浮いているように見えた原因だったと思う。オーヴァーアクション気味だし……って、いや、ビヨは嫌いじゃない。嫌いじゃないんだけど……。
 自分はそれほど興味がないのだが、車好きには次々と報酬として与えられるキャデラックを堪能するという手もあるかもしれない。
 あと、自分は字幕版を観たのだが、会話のあちらこちらに“マザー●ァッカー”という発言がもういいだろってくらい出てくるので(当然ながら字幕には翻訳されませんが)、笑えたかも。すぐに“お前のかーちゃんデーベソー!”っていう子供の口げんかみたいな感じがして、人間味あふれているな、という意味で。(笑)

 観ても損はないと思いますが、絶賛! までにはいかないな。とはいえ、“ダッキング・ウォーク”(あひる歩き)をして演奏するチャック・ベリーを演じた芸達者なモス・デフや、まるでロッキーのライヴァルか狼男かみたいないかつさが強烈なイーモン・ウォーカー演じるハウリン・ウルフ、チラッと出てくるローリング・ストーンズ(もちろん、本人たちじゃないですよ)など、見どころもあります。ジンをラッパ呑みするシーンでは、ビヨンセが突然クリスタル・ガイザーのCMのように踊りだしたらどうなるだろうとか妄想しながら観るのも、いいと思います(ウソ…爆)。

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