*** june typhoon tokyo ***

INCOGNITO@BLUENOTE TOKYO

Incognitoandjocelyn00
 クリスマスはブルーノートで。と、別にしゃれ込んだ訳ではないですが、来日の度に観賞しているインコグニートのライヴ“INCOGNITO with special guest JOCELYN BROWN”@ブルーノート東京に行って来た。今回のスペシャル・ゲストはジョセリン・ブラウン! 旧くからインコグニートを知っている人は、おそらく90%以上が今回のライヴの一番の楽しみは“ジョセリンが歌う「オールウェイズ・ゼア」”だと思うが、自分もそのうちの一人。メイザもそうだけど、パワフルなヴォーカリストは年々体型がやたらと幅を利かせるようになってしまう傾向にあるので(苦笑)、長時間ステージにいるとは思わないが、生ジョセリンを観るのと観ないのとでは格段の違いなので、神経を研ぎ澄まして待つことに。
 といいながら、ライヴがスタートするとあっという間にそんなことは彼方にぶっ飛んでしまい、ブルーイ率いるユニットが放つグルーヴに身体を揺らしている自分がいたり。(笑)

 この日はブルーノート東京公演の最終ステージとあって、盛り上がりも相当なもの。インストの「ソーラー・ファイア」からノリノリになり、その途中でトニー・モムレルがステージ・インすると、早くも観客を煽ってスタンディング・ライヴ状態。今回サイド席からの観賞だった自分ももちろんテーブルに椅子をしまいこんで応戦。
 ステージは毎度の事ながら大所帯。左奥にブルーイ、今回のツアーでユニットに加わった若いドラマー、ピート・レイ・ビギンが中央、ベースのフランシス・ヒルトンを経て右奥にクリスマス・トゥリーの電飾を頭からかぶったキーボードのマット・クーパー
が右奥。左手前には、サックス&フルートのフィン・ピーターズ、トランペットのシッド・ゴウルド、トロンボーンのトレヴァー・マイルスのホーン・セクション3人衆、そして、トニー・モムレル、ヴァネッサ・ヘインズ、ジョイ・ローズのヴォーカルが陣取る。ここにスペシャル・ゲストのジョセリン・ブラウンが加わったり、こちらもまた新入りとなった、ジョイ・ローズの娘であるシェレル・ローズ(ブルーイが「超カワイイネー」と紹介していたが、若くてキュート)がコーラスで参加する。

 このステージ、自分が最大の印象を受けたのは、ジョイ・ローズの熱唱。これに尽きる。今回、当初参加予定だったイマーニが急遽ヴァネッサ・ヘインズに変更したこともあったし、娘とのステージ共演ということで、「シェレル、母さんを、ヴォーカリストというのはこういうものだということを、よく観ておきなさい」ということを体現したかったのかは解からないが、インコグニートのヴォーカリストのなかでは比較的控え目な印象があったのだが(といっても、歌唱自体は常に控え目ではないが)、それを遥かに凌駕してしまった。しっとりとしたメロウ・チューンの「ディープ・ウォーター」で魅せた足元から身体を揺さぶり起こすような熱唱は圧巻の一言で、最前席で観賞していた若い日本人女性(たぶん、シンガーだと思われる)を巻き込んでヴォーカルの掛け合いをしたりと、かなりのぶっ飛びようだった。これにはトニーやヴァネッサも見合って“凄いね?”と驚きの表情を浮かべていたくらい。そして、この彼女の渾身の歌唱がさらなる垂涎の空間を生み出すことになる。

 その垂涎の空間とは、もちろん当初から目当てにしていたジョセリン・ブラウンのステージ。店員のエスコートでステージ・インした彼女。マイク・スタンドの位置には椅子がセッティングされていて、歌う直前まで椅子に腰掛けているところから考えると、通常の生活でも長時間立つのがきついようだ。とはいえ、ひとたびマイクに向かえば、聖歌隊で培ったヴァイブス、ハウス・クイーンと呼ぶに相応しいリズム感、ジャズ、ヒップホップ、サルサなどジャンルを超えた多様性を備えた深い懐がみなぎるヴォーカルが放たれる。ハスキーというのも生ぬるいくらいの渋さを携えた太いヴォーカルで瞬時に空間を濃厚に染め上げるそのパワーは、オーディエンスに一瞬の驚愕と永続する最高のグルーヴを与えていた。どこからともなく狂喜の喊声がステージへ無数に投げかけられていた。
 「オールウェイズ・ゼア」は蛇足で語るに及ぶまい。それに比肩する、いやそれ以上のヴァイブスを生み出したのが、前述のジョイ・ローズとの見事な邂逅をみせたアンコールでの「ナイツ・オーヴァー・エジプト」だった。ジョイが偉大なシンガーと共演出来る悦びと自らが持つありったけの力を漲らせた迫真の激唱を繰り出せば、クイーンと呼ばれたシンガーの性か、ジョイに負けず劣らずの気迫溢れる熱唱で応えるジョセリン。感化されたバンド・メンバーは恍惚の表情でプレイを続け、ヴァネッサは「フィナーレ!」と叫ぶ……。グルーヴという名の下で空間が一体化した瞬間だった。主演・ジョセリン・ブラウン、助演賞・ジョイ・ローズ、ではない。少なくともこの瞬間は、ジョセリンとジョイの二大主演と化したのだった。演奏後どちらともなくその場で抱擁し合ったのが、その証明ではなかっただろうか。

 セット・リストは、新作『テイルズ・フロム・ザ・ビーチ』からの3曲を含む、新旧入り混ぜた構成。ジョセリンのリード・ヴォーカル「エイント・ノー・マウンテン~」は感涙モノだったが、「アイ・ヒア・ユア・ネイム」を本編ラストに配したのは個人的には新鮮だった(定番曲となっていた「モーニング・サン」「エヴリデイ」などもないのに、このヴォリューム!)。しかも、この時点で23時30分になろうとしていたからか、通常は一旦ステージ・アウトしてのアンコールとなるが、「ボクも歳だから、(一旦引き返さずに)このまま続けていいかい?」「もう一度、ジョセリンの歌聴きたいでしょ?」とブルーイがいうと、そのままアンコールに突入。そして、前述の邂逅へと繋がるのだった。

 その他にもいろいろな“仕掛け”があり、楽しませてもらった。ドラムのピート、ベースのフランシス、キーボードのマットが、ブルーイの「今日はそれぞれの楽器を入れ替えてやってみよう!」と提案すると、ピートがベースに、フランシスがキーボード、マットがドラムの位置へと進む。会場から「おおっ」という喚声があがるなか、キーボードを鳴らすフランシスにブルーイが「チック・コリア?」とジョークを。しかしながら、その演奏はやはり本格的なもので、マットもドラムを目の前にして「どうやろうか…?」と思わせるような間を作ったあとで、タン!タン!タン!と叩き出すもんだから、オーディエンスはさらにヒート・アップ。そこに
ブルーイがラップ風の曲を歌い出し、観客とのコール&レスポンスがスタート。このステージでは毎度おなじみの日本のギャグを言うことはなかったが、楽しませることについては決して忘れない人だなと痛感した。

 新しく参加したメンバーについてだが、まずは、イマーニに替わって参加したヴァネッサ・ヘインズ。今回、ジョセリンとともに注目していたポイントの1つだったのだが、彼女はイタリアの老舗ハウス・レーベル“イルマ”からデビューして話題を呼んだ松下昇平のプロジェクト、M-SWIFTのメイン・ヴォーカルとして知っていたので、ハウスとのマッチングには問題ないことは解かっていた。まだ多少慣れない部分もあるとは思うが(演じ手も聴き手も)、元来ジャジーでソウルフルなヴォーカルは、予想以上に適応性があったと思う。今後、インコグニートの楽曲をより咀嚼出来れば、もっといいムードを持った歌唱でのパフォーマンスが期待出来るのではないか。M-SWIFTは“Knife Edge”レーベル移籍第1弾として今年9月に『EVENING SUN』というアルバムをリリースしているが、そこでタイトル曲にジョイ・ローズがフィーチャーされていたり、「Brighter Days」「Time」ではトニー・モムレルがフィーチャーされていたりするから、ジョイやトニーの推薦があって、今回の参加に繋がったのかもしれない。
 次に、イングランド出身のドラマー、ピート・レイ・ビギン。リチャード・ベイリーのドラムが染み込んで離れないという人には、多少不足も感じるだろうが、それは比べてしまうことが間違いというもの。時に不思議なリズム・ブレイクを取り入れたりして、違和感が残るところもあるだろうが、基本的にはパワフルで勢いが感じられる“叩ける”ドラマーだと思う。まぁ、勢いというところが若さであり、その時期特有の青さであると感じるか、新鮮でフレッシュと感じるかは、聴き手の好みに委ねられるところだろうか。

 アンコール「ナイツ・オーヴァー・エジプト」が終わってのブルーイのMC。「来年は30周年になります。今までさまざまな人たちとプレイしてきた。そのなかには、なかなか上手く関係を築けなくて離れてしまったものもいる。でも、今こうやっていられるのは、一緒にやってくれている仲間と、僕たちの音楽をサポートしてくれるみなさんがいるからです。ありがとう。」「僕たちは、アジア、アメリカ、ヨーロッパ……さまざまな場所で活動をして多くのアーティスト、ミュージシャンと交流してきた。でも、どこにいっても必ず聞かれることがあるんです。『ブルーイ、日本の何がそんなにいいの?』って。(笑)どこでもそう言われます。で、僕はこう答えるんです。『日本のみなさんが与えてくれる熱いエネルギーが素晴らしいんだよ』って。」
 そして、「多くの偉大な“レジェンド”と言われるアーティスト、ミュージシャンと一緒に共演してきた。そして今ここでジョセリン・ブラウンとそれが実現出来たことに感謝したい」とブルーイが言うと、ジョセリンの目から一気に涙がこぼれる。歓声とスタンディング・オベーションに包まれる中で涙を拭うジョセリン。いやぁ、いい場面だった。これまで多く彼らのステージを体験しているが、その中でもトップ・ランクに入る充実のステージだったのではないだろうか。

 最後の最後に、メンバーをそれぞれ出身地とともに紹介して、いつものごとく「Beyond Color, Beyond Creed, We're ONE NATION under a groove!PEACE!!」と言って、ボブ・マーリィ「ワン・ラヴ」をともに歌いながらのステージ・アウトで終演。充分質、量とも堪能した。ただ、この時、すでにあと10分で0時(!)になるくらいの時間に!(爆) 平日で翌日仕事のある人たちにはちょっと辛いというオチも。案の定、駅のホームや改札で携帯で終電をチェックしたり、駅員に訪ねたりする人たちや、タクシーへ乗り込む人たちの姿を多く目にしたのだった。(苦笑)

◇◇◇

<SET LIST>

01 SOLAR FIRE
02 WHO NEEDS LOVE
03 TALKIN' LOUD
04 WHEN THE SUN COMES DOWN
05 DEEP WATERS
06 N.O.T.
07 STEP ASIDE
08 BAND INTERLUDE (Drum Solo & Bass Solo)
09 COLIBRI
10 STILL A FRIEND OF MINE
11 AIN'T NO MOUNTAIN HIGH ENOUGH (with JOCELYN BROWN)
12 PIECES OF A DREAM (with JOCELYN BROWN)
13 ALWAYS THERE (with JOCELYN BROWN)
14 Bluey's RAP (Drum/Bass/Key SESSION)
15 REACH OUT
16 DON'T YOU WORRY 'BOUT A THING
17 I HEAR YOUR NAME
≪ENCORE≫
18 NIGHTS OVER EGYPT (with JOCELYN BROWN)
19 ONE LOVE (OUTRO)

<MEMBER>
Jean Paul “Bluey” Maunick (G,Vo)
Jocelyn Brown (Vo)
Vanessa Haynes (Vo)
Joy Rose (Vo)
Tony Momrelle (Vo)
Cherrell Rose (Vo)
Finn Peters (Sax, Fl)
Sid Gauld (Tp)
Trevor Mires (Tb)
Matt Cooper (Key)
Francis Hylton (B)
Pete Ray Biggin (Ds)

◇◇◇

 アメリカ、トリニダード・トバゴ、ジャマイカ、セント・ルシア、イングランド、スコットランド、……そして、ブルーイのモーリシャス。国籍を超えたボーダレスなユニット。それはそうなんだけど、今回はところどころに、「オバーマ!」を匂わせる発言も。それに対して観客も「イエス、ウィ・キャン!」と応えたり。あれ、“ビヨンド・カラー”は? と。(笑) ここにも、オバマの影響が。ジョセリンがいたのもあるのかもしれないね。それだけ、黒人差別、また人種問題っていうのは根が深いということなんだけれど。オバマに対する特に黒人の思いというのは、期待というより信じたいとか祈りに近いものがあるのかもしれないなぁ。

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