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*** june typhoon tokyo ***

Esperanza Spalding@Zepp DiverCity TOKYO


 80分の“ミニシアター”で見せたもう一人のエスペランサ。

 グラミーで最優秀新人賞を獲得し、ジャズの枠だけにとどまらない人気を博す米ポートランド出身のベーシスト/ヴォーカリスト、エスペランサ・スポルディングが新たに立ち上げたプロジェクトによる公演、〈エスペランサ・スポルディング・プレゼンツ:エミリーズ・D+エヴォリューション〉(Esperanza Spalding Presents: EMILY'S D+EVOLUTION)を観賞。

 先日リリースされたトニー・ヴィスコンティとの共同プロデュースによるアルバム『エミリーズ・D+エヴォリューション』は自身のオルターエゴ(別人格)“エミリー”を主人公としたストーリーテラー作風のため、『チェンバー・ミュージック・ソサイエティ』や『ラジオ・ミュージック・ソサイエティ』のエスペランサを期待していた人は拍子抜けしたかもしれない。キャッチーでアップ・テンポな楽曲はほとんどなく、歪みやローファイも用いた重厚な内容のアルバムを引っ提げたツアーだからか、平日夜に台場というシチュエーションなのか、会場のZepp DiverCity TOKYOのフロアは半分強ほどしか埋まらなかったのは、やや残念なところであった。

 たしかに『エミリーズ・D+エヴォリューション』はキャッチーという意味で即効性を持つアルバムではない。エスペランサの誕生日の前夜の夢に出てきたキャラクター、エミリーが人間の退化(D=Devolution)と進化(Evolution)について語るというコンセプチュアルな作品ゆえ、何度も咀嚼しないと理解も深まらない、言ってみれば難解な作品。そのアルバムを可視化したライヴゆえ、当然ステージングもシアトリカルなものとなる。左手にギター、ドラム、右手奥にキーボード、その手前に柵の前に並んで立つ男女コーラス3名が配されたほかは特別な装飾やステージセットはなし。ミュージカルというか芝居仕立てといったスタイルでオルターエゴの物語は進んでいく。



 冒頭ではアフロで黒と白を配列したフロアドレス姿で歌いながら登場。だが、途中でステージ後方へ赴き、こちらに背を向けたかと思うとドレスがツリー状の形に早変わりし、エスペランサの姿が見えなくなる。しばらくすると、ドレスの裾からひょっこりと顔を出してきたのは、アフロヘアの女性ではなく、メガネをかけたエスペランサの別人格のエミリーだ。シルエットがくっきりと映る白のトップスとパンツ姿で、目や顔の表情までも使って感情を露わにしようとするたち振る舞いは、明らかに最初に麗らかに登場したエスペランサとは別人だった。

 眼前に繰り広げられるポエトリーなドラマに入り込んでいくうちに感じたのは、ミュージシャンというよりも表現者という方がしっくりくるかもしれないということ。最小限のリズム隊と自身が弾くベースやキーボード、そしてコーラスという小規模なユニットだが、オーディエンスにもたらす音は実に厚く、別人格の世界に引き込ませるのに十分な迫力を擁していた。曲終わりで場内から拍手や声援があろうとも、ほとんどそれに呼応することはなく、ドラマは次の場面へと進んでいく。あくまでもエミリーの心の声を表現する場としてそのステージは機能していた。そして、多くがその実際のやりとりで何を言い交わしていたかが(会話が理解出来ないという単純な理由も含めて)解からないながらも、エミリーが持つ喜怒哀楽の感情を読み取り、エミリーが欲する声に耳を傾けていた。



 印象的な場面は数多くあった。コーラスの3人とエミリーが息を合わせたかのように早口をまくしたてる「エボニー・アンド・アイヴィ」、中央に置かれた脚立に座る怒れるコーラスの男性にゆっくりと優しく諭していくような「ジューダス」、コーラスやリズム隊までも巻き込んで興奮をもたらす「ファンク・ザ・フィアー」(コーラスの3名はフロアにまで乱入して踊り歩いていた)、そしてとどのつまりは“無条件の愛”なのだと告げる「アンコンディショナル・ラヴ」など、アップライトをバックにした曲やキャッチーな楽曲がなくとも見る見るうちに引き込まれる訴求力があるステージ。それはバークリー音楽大学で史上最年少講師に抜擢された超絶技巧なベース・テクニック(ステージに置かれたキーボード風のベースを足を使って演奏している姿も!)もあるが、聡明なヴォーカルワークも大きく寄与していた。前作まではそれほどヴォーカルに力点を置いていないような歌い方だと感じていたが、ここでは感情をむき出しにするような力強いヴォーカルを披露。凜とした上質なフレグランスを持ちながらも時に野性や欲望が顔を覗かせるようなヴォーカルには、艶と強い自覚が備わっていた。

 そして、エスペランサを盛り立てたメンバーも彼女の別人格の回想の世界へいざなうのに過不足ないパフォーマンスを見せた。あくまでも寡黙に音を鳴らすギターとドラムに対し、そこかしこにゴスペル色も感じさせながら演劇風のコーラスやパフォーマンスを展開したコーラス隊も実にいいアクセント。コーラス3人(そのうち白人女性のエミリー・エルバートはギターを弾く姿も)がステージ中央に歩み寄り、思い思いにダンスをする場面(“ムーンウォーク”やブレイクダンスも披露していた)にはフロアから歓声や拍手も響いていた。
 
 思いの丈を狂い咲くように鳴らした圧巻のベースプレイを挟み込んだ「アンコンディショナル・ラヴ」(バンドメンバーがそれぞれのパフォーマンスを終わらせた後、ひたすらプレイするエミリーの背後に一人ずつ並んでいく姿は、ディアンジェロのライヴのステージアウト・シーンを想わせる感じも)で終幕。その後アンコールに応えて独りで登場したエスペランサ。中央に立つと眼鏡を外して「エスペランサに戻ろうかしら」と言った後、ヴァイオリンの手振りをしながら徐にア・カペラで「リトル・フライ」を。観客の“アイ・ラヴ・ユー!”の声に投げキッスで応えたエスペランサ。決して長い時間ではないが、エスペランサ、いやエミリーが語る“退化と進化”の一片が垣間見られたような気がした。気高くも人間の心に寄り添うような感情で問いかけた約80分。それは実に濃密に凝縮された、表現者たるステージだった。



◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Farewell Dolly
02 Good Lava
03 Rest In Pleasure
04 Ebony & Ivy
05 Elevate Or Operate
06 Noble Nobles
07 Judas
08 Funk The Fear
09 One
10 Earth To Heaven
11 Unconditional Love
≪ENCORE≫
12 Little Fly(a cappella, Band Less)

<MEMBER>
Esperanza Spalding(vo,b,key)

Matt Stevens(g)
Justin Tyson(ds)
Corey King(back vo,key)
Emily Elbert(back vo,g)
Nadia Washington(back vo)



◇◇◇
















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