法隆寺金堂壁画 (お借りしました)
和辻哲郎のベストセラー「古寺巡礼」は、東京の哲学青年が奈良を訪れて寺院や博物館の仏教美術を鑑賞して回る名作です。その情熱的で分析的な記述は多くの仏教美術ファンを長く魅了してきました。
ただ「古寺巡礼」は奈良の鑑賞ガイドではないのです。和辻先生は奈良の美術を通して、中国やインド、さらにギリシアの美術を想っています。「古寺巡礼」の書き出しは、
昨夜出発の前のわずかな時間に、Z君の所でアジャンター壁画の模写を見せてもらった。
です。簡単に書かれていますが、大正7年(1918)5月に関西に向けて出発する、その前の月に東京大学美術史の滝精一博士のアジャンター調査隊が帰国して、その報告として派遣の出資者であるZ君(善一郎)の父(原三渓)へ壁画の写しを持参したと思われます。それをたまたま見たのです。
和辻先生の奥さんはZ君の妹と懇意で、そうしたつながりもあったでしょう。この壁画の写しは関東大震災で失われてしまいます。
そして、和辻先生は奈良へ向かいながら、その壁画の印象からインドの芸術、人々を想うのです。もちろんこの旅の最後は法隆寺です。法隆寺の壁画(1949年焼亡)はまだ見ることが出来ました。
この壁画を見ながら、和辻先生はアジャンター壁画と比べて、似たところも認めていますが、統一感にすぐれるのは中国のおかげであったり、インドの衰退を考えて、ギリシアの影響を見ようとしています。
今考えると妄想のようにも思われますが、日本の当時の仏教美術は西方(アジア~)の影響を見ることが出来るのではないか、という話です。