「まことにひさかたな」
と、犬山城に入った秀吉は、しきりと鼻さきで虻の羽音のような鼻歌を鳴らしているほどに上機嫌であった。「まことにひさかたな故郷(尾張)の春であるわい」というのである。なるほど春であった。
それもたけなわであり、犬山城から見はるかすと、木曾川をはさんで美濃と尾張の田園には菜の花畑の黄が野にたちこめるもやを靉々と染めあげている。秀吉はそれをみて、少年のころの春をおもいだしたのであろう、「いくさよりも野あそびがしたくなったわ」としきりと言い、「家康ごとき者を相手のいくさは、わが野あそびである」ともいった。しかし、
「その野あそびがてらに」
と、犬山城に入るやすぐ大物見の命令をくだした。
司馬遼太郎「新史 太閤記」より
交通:名鉄犬山線「犬山遊園」駅から徒歩15分
管理人メモ:国宝4城のひとつ。
二枚目の写真は、天守閣前の休憩所にあったものです。タッチパネルで見たい部分を拡大、回転できるというハイテク機器。やるねぇ。