実在しない弁護士やNPO法人を名乗る団体から「告発通知」が送られてきた、という報告があいついでいる。「あなたが以前に購入した違法なわいせつ物について、警察に告発する。もし告発されたくなければ、電話をするように」といった内容のことが書かれている。新手の振り込め詐欺とみられ、日弁連は「安易に連絡をとらないように」と注意を呼びかけている。
●実在しない弁護士から「告発通知」が届いた
「こんな告発通知がきたんですが、どうすればいいでしょうか」。広島市で開業する山下江弁護士のもとにそんな相談がきたのは、今年の春だ。実際に届いた文書を見ると、「NPO法人 明日への扉」という団体の「顧問弁護士 向井俊和」を名乗る人物から発せられたものだった。
「告発通知には、過去に購入した違法わいせつ物について、製造・販売していたグループが警察に摘発されたため、購入者も告発すると記されています。しかし、反省すれば告発を取りやめてもよいので、期限までに当団体に電話するようにと促しているのです」
ところが、日弁連に登録している弁護士のなかに「向井俊和」という人物は存在しない。つまり、架空の弁護士の名前を使って、こうした「告発通知」を送りつけているのだ。
「指定された番号に電話すると、『お金を支払えば告発をとりやめる』という話があるようです。こうしてお金をだまし取ろうというのです」と山下弁護士が指摘する。実際に、このような架空の告発通知をきっかけにして「振り込め詐欺」にあってしまった被害者のケースも報道されている。
また、この告発通知では、無修正映像や児童ポルノ動画といった違法なわいせつ物を購入すると、児童ポルノ禁止法7条や刑法175条に違反すると記しているが、仮にそのようなわいせつ物を購入したとしても、購入者が処罰されることはないという。
「これらの条文は、違法わいせつ物を売買目的で製造・販売した提供者を対象にするもので、購入者を罰するものではないからです。違法わいせつ物の単純所持をめぐっては、奈良県や京都府が規制するなど地域レベルでの動きはありますが、いまのところ(2013年6月現在)、告発通知にあるように『法律』で購入者が罰せられることはありません」
●「必ず電話でご連絡ください」という一文が強調されていたら要注意
しかし、そうはいっても、このような告発通知が届いた場合、どうしたらいいか不安になってしまう人もいるだろう。どのように対処するのがいいのだろうか。
「やはり、無視することが一番です。弁護士を名乗る人物からの連絡ですから、すぐに詐欺だと見抜くことは難しいかもしれませんが、『必ず電話でご連絡ください』という文言が強調されていたら、要注意です」
ネットでは、架空の弁護士やNPO団体をかたった「告発通知」については、情報をまとめるサイトもできているので、あやしい告発通知がきたら、そのサイトに掲載されたリストと照らし合わせてみるのもいいだろう。
ただ、児童ポルノの単純所持はいまのところ処罰対象ではないが、5月末に国会に提出され、継続審議となっている児童ポルノ禁止法の改正案が成立すると、製造・販売だけでなく、単純所持も罰せられることになる。そうなると、それに便乗した「架空の告発通知」が不特定多数に送り付けられる可能性が大きい。今後も、この手の告発通知におどらされないように、注意が必要だろう。
【取材協力弁護士】
山下 江(やました・こう)弁護士
広島弁護士会所属。「親切な相談」「適切な解決」というモットーのもと、被害者救済に力を入れる。
ブログ:なやみよまるく http://7834-09.blog.so-net.ne.jp/
事務所名:山下江法律事務所
事務所URL:http://www.law-yamashita.com
弁護士ドットコム トピックス編集部
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