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じゅにあ★Schutzstaffel II

キン肉マンの2次創作。小説載せてます。(以後更新予定無し)

檻(4)

2019-06-13 22:00:00 | 小説/檻
 
 
 
前回奴が来たのはいつだっただろう。
 
 
この”職務”は身体的には磔(はりつけ)状態だが、頭の中は比較的自由だ。
 
そしてその自由時間、奴の事を考える頻度が増えている気がする。
 
 
 
 
 
 
奴ーーバッファローマンが俺の屋敷に来るようになったのは、俺がこの建物に来るようになった頃よりさらに前の事になる。
 
 
頭首として一族の前に立つ覚悟はしたものの、自分がいかに甘い考えだったかを痛感し打ちのめされた俺は、無性に誰かに縋(すが)りたくなり奴に連絡を取った。
 
考えに考えた末ーーではない。
一族とも国とも関係無く、比較的近くに居て、俺が連絡出来るのは奴かロビンしか居なかった。二択。ならば家族が居ない方が少しでも気楽でいいと思い奴にした。
 
正直それだけだった。
 
 
ーーあの時、深く考えなくて本当に良かった・・・。
 
 
当時の俺は、まだそこそこ素直だった。
だから一度ならず二度も奴を頼り、すると以後、奴は時々俺を訪ねてくれるようになった。
 
 
 
次の約束などしない。事前の連絡も無い。
だから自分が居なかった事だって結構あっただろうに、それでも奴は何時もただ「来た」と、散歩さながらの気楽な体(てい)で俺の前に現れた。
 
 
 
楽だった。それは本当に、俺にとって楽だった。
 
 
 
常に手ぶらで来る。”美味そうだったから”と、プレッツェルや林檎が入った小さな紙袋を持っている事もあったが、荷物は本当にその程度。
 
そして特別何かする訳でもない。家人が出してきた飲み物を口にはするが、二人で食事に出かけた事など一度も無い。時にはソファに放り投げていた本を手に取り、読み終わった直後帰っていったりもした。
 
あれこれ詮索もしてこない。客が立て続けに訪れ、やっと解放されて部屋に戻ると、テラスに直に寝転がって昼寝をしていたのには、驚きを通り越して呆れすらした。
 
 
 
顔を合わせて、俺の話す事をただ聞いて。
 
俺が黙っていると、いつの間にか隣に来て。
 
それでも黙って俯いていると、俺の顔に手を添えそしてーー
 
 
 
何故、何度も来てくれるのか。
理由は大体分かっているが、顔を見る度聞いてみたくなる。
 
だが絶対に聞かないーー聞けない。
 
自分が考えていた以上に優しいーー最初に頼った時、俺は甘ったれるなとぶん殴られる事さえ想像していたーーあの男は、きっとそれを、俺の拒否と解釈するだろうから。
 
 
 
「・・・」
 
 
 
そんな風に奴の事を考えていると、ふと、前回この場所に来た時の一幕を思い出した。
 
無表情で淡々と俺の体に管を刺していた白衣の男。その手が、服を着ていては見えない首やら脇腹やらに散らばる不自然な痕(あと)を目にするや、一瞬びくりと引っ込んだのだ。
 
 
ーー今度は思い切り歯型でも残してもらおうかな・・・。
 
 
我ながら悪趣味だが、笑ってしまいそうになった。
ここへ通うようになって愉快な気分になったのは、これが初めてだった。
 
 
俺だって一応お前らと同じ人なんだ。
お前らと同じ・・・こんな風に生々しい事だってやってんだ。
 
そう言ってやれた気がした。
 
 
 
「・・・」
 
 
 
それにしても奴は、俺が相手で本当に楽しいのだろうか。
 
 
大きさは違えど、それでも所詮は同じ硬い体。どうあれ触っていればそれなりに快感が伴う事は自分もそうだから分からなくもないが、わざわざ俺を選ぶ必要など何処にも無い。
 
俺だけには言われたくないだろうが、それこそ綺麗な女との方がずっと楽しい気がする。
 
 
この事も、何となく知りたくはある。
同じく、絶対聞かないだろうが。
 
 
ただ次に会った時。
気の無い女性を傷付けず遠ざける方法については、尋ねてみてもいいのかもしれない。
 
 
奴のことだ。
悪い笑みを浮かべながら、俺には一生かかっても思い付かないような上手い手段を、そっと耳打ちしてくれそうな気がする。
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・っ」
 
 
そんな折、俺は急に息苦しさをを感じた。
 
たちまち寒気が襲ってくる。
嫌な脂汗が滲んでくる。
 
 
この感覚が来たということは、今日はまだまだ拘束が続くということだ。
 
ここの人間達は、人間と超人、その抵抗力や回復力の差にも興味があるようで、綿密な計算の上なのだろうが、こうして時々俺の体に負荷をかけてくる。
 
 
管が刺さった自分の腕を見る。管は一本ではなく、二本刺さっている。
流石に血を抜かれっぱなしでは、超人だとしても死んでしまう。だから採取された血は沢山の機械を通り抜けた後、再び俺の体に戻されるのだが、その機械の中で、果たしてどれだけ間引きされているのか、違う何かが混ぜられているのか。それこそ傍目には判断しようがない。
 
 
そうこうしているうちに、また例の、耳障りなブザー音がした。
ランプが青に変わっている。
 
寒い。
なのに喉の奥が焼ける。
 
 
最悪だ。
こんな事なら、さっき水を飲んでおけば良かった。
 
 
 
我ながら懲りない奴だと思う。
 
特にここ数年、痩せ我慢をしても、良い事など一つも無かったのに。
 
 
 
 
 
 
震える手で徽章を握り直す。
 
 
明日あの大男は来るだろうか。
 
そんな、希望と呼べなくもない期待を一先ず脇に置きつつ、俺は大きく息を吸った。
 
 

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