「柘榴のスープ」を読みました

2009-08-31 09:00:46 | Weblog



マーシャ メヘラーン著     渡辺 佐智江訳         白水社



時は1970年代後半に起こったイランでのイスラム革命の動乱。その混乱をどうにか逃げてきた美しい3姉妹の物語です。長女のマルジャーンは料理のセンスが光るまじめで現実的な人、次女のバハールは暗い過去を持つが姉妹思い、末娘のレイラーは陽気な美しい足を持つ元気な女の子、この3姉妹がイランを抜け出し、アイルランドの田舎でカフェを開き、そこで生きていく話しです。アイルランドの小さな町バリナクロウに混じった異国情緒あふれる美しい姉妹が起こす出来事を、各章でひとつのイラン料理を交えながら進む(章の頭にレシピまであります)ストーリィです。情景や描写のみならず味覚や嗅覚にまで想像を刺激するためにイラン料理が食べたくなります。イラン料理はいつか食べたいです。特にドルメと呼ばれるラムひき肉とたくさんのスパイスを用いてブドウの葉で巻いてオーブンで焼く料理や、アーブグーシュトと言うやはりラム肉を使った料理も(神父が食べるシーンがたまらない!)とても美味しそうです。この味覚や嗅覚にも訴えてくるというのは新鮮な感覚でした。


料理と気分と精神と官能の世界を繋いだ描写、新しいと思います。


料理を絡めるというのは私には新しく感じるストーリィですし、テクニックだと思うのですが、定番として街を取り巻く人々を巻き込んで登場人物がとても多く、その上非常に生き生きしていているのが、ツイン・ピークス的とも言える世界を醸し出していてその辺もたまらなく好きです。街と取り巻く人に弱い私としてはとても良かったですし、これ続きがありえるのではないでしょうか?是非書いて欲しいです。


料理が好きな方にオススメ致します。

もうすぐ、

2009-08-27 11:08:29 | Weblog
選挙ですね...


候補者さんたちがいろいろなことを訴えるその内容も気になるところ(本当は内容が1番重要なのだと理解できますが)なのですが、その語り口が気になります。


責任力って何ですか?日本を守る責任が総理大臣にあるのは理解出来ますし、当然のことだと思います。野党の人には責任(もちろん少しはありますし、それを言ったら日本国籍がある人にも等しく少なからずの責任が存在しますね)はあまりありませんよね。ですから、責任力があることを証明するのは与党や政府の方だけです。で、自民党を支持してきた人たちが投票者の過半数(与党支持の公明党を含む)の支持の上に政権があったのが、自民党支持者の現政権への不満からの支持離れ、あるいは選挙権を行使しなかった方々が選挙権を行使することによる支持率の低下から、危ぶまれる政権の維持に対して支持を訴える言葉に「責任力」という言葉を使うのは正直可笑しいです。だいたい与党は今までの政権運営が上手く行えていたら(他国が原因の経済危機であろうが)支持されるはずです。なにしろ自民党政権が長いわけですし、その責任も重いですよね。特に最近の総理総裁の投げ出しっぷりは爽快にさえ感じられます、自国民じゃなかったらですけど。好意的に解釈すると、きっと他党より「良い結果」を出せます、ってことなんでしょうけれどね。確かに民主党も酷いけれど(偽メールとか献金疑惑とその説明も酷い)、自民党も負けず劣らず酷いと思いますよ。「良い結果」をもし出せているならこんなに不満を覚える人が多くならないのではないでしょうか。


で、民主党の政権交代が必要なのは理解できますけど、政権交代だけを訴えるのもどうなんでしょうか?自民不支持の流れるところが民主しかないわけではないのですが、消去方で民主に落ち着くことになっているだけなのではないでしょうか?きっと民主政権で様々に変わると思いますが、良くなるところもあるでしょうけれど、悪くなるところもあるでしょうね、なにしろ完全に誰もが満足できて幸福な政策なんてありえないですし、よってたかって何かというと「国」をあてにする方々が多ければ多いほど財政的には厳しくなるわけで。


がんばろー!も意味不明ですよね。ハチマキしてがんばって街中大声出して駆けずり回るよりは、この4年間の間に何をしてきたか?を考えれば良いわけで、がんばる方向がわかりません。4年間の成果を理解してもらうために選挙期間を使うのは効率悪いですし、あからさま過ぎると思うのですが。体力を使って自分が気持ちよく疲れて満足しているように感じます。政治が何なのか?まだよく分かっていない私が言うのもどうかと思いますが結局のところ結果ですよね。


私個人は政党政治にも、そして議院内閣制にも信頼感が持てなくなってきています。ある政策では自民党を支持したいし、違う政策では民主を支持、そんな場合が往々にしてあるのが普通ですし、だからこそ自民党内右派とか左派とかタカ派だのハト派だのが存在したことで自民の長い支持があったのだと思います。だから議員さんたちが内容を吟味して良いところを生かす方向をとってくれれば良いのですが、どうもそんな感じがしませんしね。


また、あの、自民党議員さんでさえコントロールすることが困難であった官僚組織を(舛添大臣の「等」発言は凄かったです)あの、民主党議員さんがコントロールできるか?が非常に疑問です。ダメでも責任は発生しますし、ダメなことがハッキリ解るだけでも良いとは思います。きっと危機感が無いからこそ良くならないんでしょう。


所詮は私たちのレベルが変わらないと議員さんのレベルも変わらないわけで、普段からもう少し政治に関心がないといけないのでしょう。いろいろな意味で議院内閣制民主主義の運用の難しさを感じますが、それでもまだ平和な国なのですからスゴイですよね。



と、またまた愚痴っぽくなってしまいましたし、だからこうしたい!という代案も示せないのですが、もう少しどうにかならないものか?とは考えてしまいます。そんなこと考えていても、家の猫はぐーたらしていつも(食事の時だけは別)眠そうです。しあわせなんでしょうね。

「できそこないの男たち」

2009-08-25 14:07:21 | Weblog
福岡 伸一著          光文社新書


ちょっと前からかなり売れている作家さん、そしてこのタイトルがまた上手い!遅ればせながら手に取ったのですが、これがかなり面白かったです!



著者は理系の科学者でありながら、この文章、そしてこの構成力はとんでもなく素晴らしい語り手です!基本的には私は理系であって文才ある方に惹かれる傾向が強いのですが、この方もまた秀逸!素晴らしい才能です。この作品はもちろんトリビアルな知的興奮をもたらすと共に、漫画「栄光なき天才たち」(マイナーな漫画でスミマセン)のような知られざる世界を垣間見せてくれ、またその導入の素晴らしさから、語り手の世界にいやおう無く引き込むチカラはかなり強力です。


プロローグの絶妙なる切り出しとタイトルから得られる予想を裏切る、しかしその裏切りはどこまでも心地よく、先を読まずにはいられなくさせます。一見どこへ向かっているのか分からなくさせておいて、実は知りたかった話しの真上をいつのまにか歩いている自分を発見できる構成がまた病みつきになる面白さです。まるで霧が晴れた後にじつは目的地までまっすぐ進んでいたんだ!と実感できる気持ちよさを含んでいます。


『見える』ということの意味を知るためにオランダのレーウェンフックなる人物の趣味を通ることの面白さ!この展開と構成と文才に読み手は巻き込まれると、終わるまで抜け出せなくなります。さらに『見える』ことの過程を実践的に表す話しも、医療系に進んだ方には懐かしくも楽しかったことを思い出させます。


そして、染色体の、遺伝子の話しはとても分かり易く、そこに研究の先端で起こっているスリリングな話しを絡めることで「加速」感が得られます。リーダビリティーがとても高く(というだけで評価することはもう無くなった私ではありますが)たまらない書き手です。読みやすく、トリビアルで、様々なトピックのミックス具合が絶妙!そしてついには発生学へと話しは展開して、男とは、というこの本のテーマに肉薄します!


後は読んでいただくのが1番楽しめると思いますが、比喩の使い方、本当に語りたいことへの導入、そして言葉を選ぶセンス、かなり非凡な方だとお見受けしました。


最後の最後、福岡さんの推論がまたとても面白いのです、「余剰」に対する推論と、そしてより身につまされる「あの感覚」と第6の感覚である「加速覚」の連動についての推論。たしかに逃れられない魔力です、私もその一人の男として同意します。


知的興奮と、リーダビリティに興味のある方、そして男の方に、あるいは男に興味のある方に、オススメ致します。

小学校の同窓会、

2009-08-24 16:01:22 | Weblog
先週の土曜日に「武蔵野市立第1小学校」の小同窓会に出席してきました!


私は3年生のときに武蔵野市立第1小学校に転入、卒業前に小金井市に引越し、6年最後の半年くらいを電車通学の後小金井市立第2中学校に入学したので、僅か4年間のお付き合いで、その後全く同級生の皆さんにお会いすることも無かったのですが、このブログの縁などがあってお誘いいただきました。幹事のmiyakeくん、および出席した皆様大変楽しい時間を過ごさせていただきありがとうございました。


呼んでくれたのは3、4年生の時にクラスが一緒だったmiyakeくんです。基本はmiyakeくんのクラス、6年3組の方が多かったのですが、不思議といろいろ思い出すもので(正直自分が何組だったかも失念していましたし、卒業アルバムも長い引越しの多い生活のどこかで紛失)、様々な事柄を思い出しました。思い出せるってかなり凄いことだと思います、なにしろほんの数日前まで完全に忘れていたと思っていることでも、きっかけさえあれば思い出せるのですから。卒業が12歳ですから、今年39歳になる身としては27年前の記憶ということになります、我ながらスゴイことですよね。


6年3組の当時の担任の先生もご出席されていて、それもまたびっくり。しかし20年以上経っても雰囲気が変わらず、もっともっと大きな方だと認識していたのが自分が育ったことを棚に上げてですが、少し背が低くなられたように感じられました。とてもお元気ですし、話しが面白くさすが先生!でした。また、同じ2組の方が1名参加されていて私と同じ班だったyuyamaくん!同じ班の人というのもスゴイ偶然ですが、面影がはっきり感じられてさらにびっくりでした。


みんさんの近況を、そして自己紹介を伺うかぎり、がんばってるんだな~を強く感じました。こういっては失礼かもしれませんが、あの頃の39歳なんてオジサンやオバサンもいいとこだと認識していましたが、男性も女性も見た目が若い!中にはまだ30台前半でいけますよ、という見た目の方も多くて(もちろん男女共々です!)本当にびっくりでした。私は普段着での参加でしたが、もう少し服装に注意した方が良かったかな?と反省です。見た目って少しは重要ですね。


今後も連絡を取り合いたいです、みなさまお疲れ様でした。くれぐれも身体に気をつけて働きましょう。まだ働きざかりとはいえそろそろ注意は必要ですから。

「侍」を読みました

2009-08-20 09:44:06 | Weblog
遠藤 周作著     新潮社



漫画「風雲児たち」を読むようになってから歴史についてとても興味があり、なおかつ少し前に読んだ和辻さんの「鎖国」を読んだことで15~16世紀の世界史と日本史をキリスト教を交えて知ったことでより興味深い関係の本であることが分かったので一気に読んでしまいました。


基本的に史実を基にした(!)小説です、どの程度まで史実なのか?は分かりませんが、それでも凄い事件を扱った小説です。


東北のある藩に使える下級武士の「侍」が藩主(「侍」にはお目通りも出来ない相手)からの命令で外国のノベスパニヤ(メキシコ!)に使節として任命されて海外に渡航する話しです。日本の東北から、太平洋を渡って一路アカプルコを目指す旅が始まります。私はローマにこの少し前の時代に日本人の子供がやはり使節として向かっているのは知っていましたが、この太平洋を横断してメキシコと交易をしようとしていた事実(しかも伊達政宗の命令)はびっくりしました。読み終えてからネットでも調べて見ましたが事実のようです。通辞(通訳)としてキリスト教徒ベラスコ(スペイン人の神父)が間に立っています。ベラスコ神父は日本にキリスト教をもっと布教させたい、そして自分がその指導者として、という野心を隠し持っています。藩主は交易を、ベラスコは布教を、それぞれが思惑を持っていますが、「侍」はただ役目を果たすだけです。そんな「侍」と「ベラスコ」の双方の視点から交互に描いた苦難の旅の過程と、それぞれの信念と、思想と、信仰の物語です。



この当時の太平洋横断がいかに危険なものであったかを考えると、またその役目についても、侍従関係の身分差別の厳しい時代の出来事と考えると、非常に難しい立場に立たされて選択肢の無い「侍」と、交易を許可させる代わりにキリスト教の布教を認めさせ、さらに自分がその導き手にふさわしいと考える策士「ベラスコ」の交互に変わる視点から様々な対比が見られます。「侍」の立場や置かれている状況の厳しさ、またその上での侍、武士というしきたりというか制度の辛さ、その窮屈さに意味を見出す日本的なものと、ベラスコ神父のいう布教の裏に隠された自身(もしくはそうとは認められない虚栄心のようなもの)の欲望を透かすような、それでいて交渉することで打開を図る西洋的なもの、年代的にも地理的にも、そして思想的にもあらゆる意味で違う2人の心の動きを丁寧にその旅路に重ねることでゆっくりと理解できるそれぞれの立場。もちろん簡単にどちらが良くて、どちらが悪いとは言えない「そういうもの」として受け入れられるような言い回しと臨場感がとても不思議なほど並立しています。



それでいて結末はまさに壮絶、もちろんその旅路も非常に苦しく、長いものです。その結果のすさまじさに、受け手はきっと何かを感じ取ると思います。「侍」と「神父」の両方に、それぞれの結末が待っています。


歴史的事実に興味のある方、あるいは伝統的日本人が出会った西洋の信仰というものに興味のある方にオススメします。

「『空気』と『世間』」を読みました

2009-08-19 14:05:17 | Weblog
鴻上 尚史著         講談社現代新書



基本的には山本さんの「『空気』の研究」と、阿部謹也さん(私は知らなかった方です)の著作「『世間』とは何か」という著作を噛み砕いて分かりやすく表した本です。もちろん鴻上さんの考えもその中に含まれたり、新たな意味を見出したり、もしくは上手く例えてくれたりしていますけれど、斬新な、ちょっと思いつかなかった、というようなものは見当たらなかったです。


この本を読んで、阿部さんの「世間」関係の著作をもっと読みたくなるならよかったのですが、少しおなかいっぱいになりました。たしかに山本さんと阿部さんが対談をしたら面白かったと私も思いますが(鴻上さんもそう感じていらっしゃいます)、そういう事実は無かったようで残念です。


「世間」とか「空気」の同調圧力に対抗するべき対策にも目新しいものはなく、社会で働いている方には比較的予想され、すでに普遍化されている対策であると思います。鴻上さんも述べていますが、「世間」や「空気」の利点もあるものでありますし、相手なり、その集団なり、その時々でコミュニケーションの手段とレベルを変えることができるようになれば良いと思います、なかなかできないことでしょうけれど。実際に自分をある程度変え、コミュニケーション能力を上げることが肝心ですよね。また、蛸足のようにいくつもの全く違った、それでいて浸り過ぎない帰属先を複数持つことも(というか家と会社だけ、に問題があって普通いろいろな付き合いがあると思うのですが...)重要ですよね。しかし、それは教えてもらうものでは無い様に私は感じました。


やはり、受け手を中学生から高校生向けに書かれているのではないか?(冒頭のお笑い番組を例に出す辺りにも)と感じました。だとすればそれなりに意味ある著作だとも言えます。


山本 七平さんの「『空気』の研究」に興味のある方にはオススメ致します。この本を読んで、少しでも多くの方が山本さんの本を読んでもらえたら良いことだと思います。

リフレッシュ!

2009-08-17 09:17:34 | Weblog
してきました!特にどこかに出かけたわけではありませんが、本も集中して読めましたし、充実した休みでした。

もちろん家の猫も充実した(?)休みで猫のエサとして高級品である『シーバ』がもらえてご満悦でした。

今日から仕事もがんばります!!

夏休みを、

2009-08-11 09:13:48 | Weblog
明日からいただきます。

少し休んでリフレッシュして戻ってくる予定です。

今日は夜8時過ぎまで普通に診療していますので、よろしくお願い致します。ただ院長は明日以降も診療しています、医院の完全休診は8月15日だけですので、何かトラブルがありましたら、是非ご連絡下さい。

明日からいろいろ本や映画を見たりする予定です、楽しみです。

とはいえ家の猫は毎日が夏休み状態、羨ましくはないけれど、もう少しどうにか猫らしくなって欲しいです。

「人類がたどってきた道 "文化の多様化”の起源を探る」を読みました

2009-08-06 13:34:32 | Weblog



海部 陽介著            NHKブックス


割合世界の遺跡に興味があったりしたので、NHKの特集でやっていたピラミッドの秘密などをみていますと、エジプトの歴史がいかに古いかを実感します。今は西暦2000年ですけれど、紀元前3000年前の話しとかが出てきたりします。つまり今から5000年も前のことですよね。


で、気になったのが、いったいいつ頃から人(大学で少しだけかじった知識で言うなら人類学的にホモ・サピエンスが)文化を持ったのはいつ頃の話しなのか?ということです。クロマニョンや、ネアンデルタール(もしくは、アウストラルピテクスやジャワ原人とかも含む)など、名前は知っていても文明の歴史としての年代記とは全く別の話しとしてしか、あるいは文明の立ち上がりの時期との地続きである話しであると思うのですが、その辺の繋がりがどうも不鮮明でよく分からなかったのです。そんな時に読んだとあるブログで勧めていた本がこの「人類がたどってきた道」です。

とても大きな枠組みで、広く、深い知識と、冷静で科学的根拠(私の業界でもよく使う言葉ですが略してEBMと言います)のあるデータに基づく推察を、素晴らしく読みやすい文章で表してくれています。この文才あってこその本でしょう、著者の海部さんは1969年生まれですから、私とたった1歳違い凄いの一言です。


つまり、この本は人類ホモ・サピエンスがアフリカに生まれ、いかに世界に広がっていったか、またその年代、そして文化、知恵、適応の凄さを教えてくれます。そして、その文化的多様性の成り立ちを理解することで、いわゆる原始人的イメージであったものをかなり崩すだけでなく、今の私たちの生活や考えにまで大きく波及するある考えを理解できます。素晴らしい本でした。


やはり読んでいただくのが1番なのでしょうけれど、猿人、旧人、原人の違い、そしてその系譜、年代を追ってその流れを理解でき起源を科学的にある程度突き詰めたところまでを描いてくれます。ついでアフリカでのブロンボス洞窟から見つかった初期の(といっても75000年前!古代エジプト文明でもたった5000年前ですよ!)模様をめぐる考察!このたかだか模様に関する考察の凄さは是非読んでみていただきたいです。模様を、シンボルを用いることが出来ることの意義の深さ!とても頷ける、そして興奮出来る考察です。


そして骨を使った道具、そして石器、進化の流れを追う時に重要な仮説、「知の遺産仮説」についての言及。この仮説の面白さはまさに知的興奮と言って間違いないと思います。「世代を超えて知識を蓄積し、置かれた環境に応じてそれまでの文化を創造的に発展させていく能力」とその能力を持ったのは古代文明の興った5000年前の話しではなく、50000年前にまで遡れるということです。ものすごい話しですよね。リモート・オセアニアと呼ばれる太平洋に浮かぶ島々への人類の到達(たとえとしてはいわゆるフィジーへは既に3000年前に到達していた!)ことも確かに頷ける話しです(もちろんこの海洋を横断し、航路を使用できたいきさつも詳しく語られますし、ある意味驚愕の事実です)。私たち日本人にも近しい小笠原諸島への事実も(林子平よりもずっと前に!!)目からウロコの話しでした。


また、シベリア平原にあった28000年前!!のスンギール遺跡の墓の豪華さ、そしてその技術と年代とのギャップを感じさせずにはいられない驚きのものです。全く知らなかったのですが、この遺跡の豪華さ、凄いことです、本当にびっくりさせられます。


アフリカで生まれ、ヨーロッパに進出、寒冷地への対応と進化をへてユーラシアやアジアに展開して、ベーリング海峡を超え、アメリカ大陸へ、そして東南アジアからは海洋技術を発展させオセアニアへ...人類がたどった道を細かくそして面白く理解できて、その暁に手にする考え方はとても深い理解の上に成り立つある考えは、非常に重要なものです。そしてこれこそが人類学を学ぶことで得られる中でも特別重要である(もちろん私にとっては、という事です、もちろん様々な知らなかった事実を知る面白さも大きかったですが)視点だと思います。人類の行き着いた先、南アメリカ最南端のフエゴ島、そして東ポリネシアのイースター島こそその最後の地であるのですが、到達の結果の厳しさ、そして運命から得られる理解こそ未来に向けられるべき視点と感じました。


人類という、ホモ・サピエンスと呼ばれる生物種の、分布域の広さと分化の無さ(カブトムシにもたくさんの種類がありますが、ホモ・サピエンスには分化は無い、黒人も黄色人種もアボリジニもアメリカ人もアーリア人も縄文人もすべての人は同じ種であるのです)はひとえに文化的手段をもって適応出来たことです。その上での各地域での個性が現れてくるのです。そんな人類のたどってきた道に、歴史の始まりに、興味ある人にオススメ致します。環境と偶然と文化のなせる旅、その終着点から見えるフェアな視点を持つことの重要性が現代の異文化間交流(経済的にも、文化的にも、軍事的にさえ)に、必要なことなのではないでしょうか?

「縞模様のパジャマの少年」を読みました

2009-08-04 21:10:14 | Weblog
ジョン・ボイン著    千葉 茂樹訳     岩波書店


第2次世界大戦時の悲惨なホロコーストの話しは、たくさん本になり、また映画になり、それぞれいろいろな名作を生んでいます。苦い事実を含んだ話しですので、様々な角度から検証されるべきですし、実際そうなっています。その中でも、この話しは(もちろん創作ではありますが)少し特別な視点から展開しています。迫害を受ける側、そして迫害する側、あるいはより2次的な接触側からが多いのですが、この本は「(父親が迫害する側の)男の子」目線で描かれています。9歳の設定です、ここがほぼすべてのミソです。


アテンション プリーズ!

以下ネタバレ無しでお送りいたしますが、基本バレバレな話しでありますので、より楽しみたい方はご遠慮願います、どうか読まれてからをオススメ致します。出来れば先入観なく読まれるのがもっとも面白い読み方である作品だと思われるからです。それに、この夏、映画化されて見られます(いったいどんな風に撮るつもりなのでしょうか??)。


ベルリンに住む9歳の男の子が収容所の所長として赴任する父親と一緒に収容所の付近で暮らすことになって起こる騒動を追った物語です。9歳にしてはあまりおりこうさんではないTHE・男の子代表のような、感情=行動に近い子がフェンスの向こう側にいる「縞模様のパジャマ」を着たたくさんの人々の中の自分と同い年の子と友達になります。そのことを秘密にして生活するのですが、家に一緒に住むお父さんは軍人で、しかも収容所を管轄する立場なのです。

あまりに当然過ぎることですが、収容所を管理し、ナチスに加担する人々にも家族があり、生活があるのです。そして、子供ともコミュニケーションをとらなければならないのです。

ちょっと無い視点からのホロコーストを扱った物語、なかなか読ませます。これが女の子だったら、まず成立しないしかけではありますが、男の子なりの葛藤もあり、良い結末であって、その点はかなりよかったです。

歴史の重い結果を知りつつも考えさせられる内容になっていて良かったです、男の子に接触する機会のある方に(父親なり、先生なり)オススメ致します。