真衣歌の心~蛸壺の中で

生きているとあれやこれやあるわねえ

ヤマアラシの前世

2021-02-28 10:03:17 | ショートストーリ~
大嘘つきのおばあさんが死にました。
生きていた時についた嘘は数知れず
おばあさんのついた嘘で大勢の人が苦しめられていました。
嘘つきと言うより詐欺師でした。
それでも嘘が上手かったので、
警察の厄介からのがれていました。

おばあさんは死ぬと真っ直ぐに地獄に行きました。
鬼がおばあさんの舌を引っこ抜こうとしました。
1枚の舌が抜かれましたが、
おばあさんは、血も涙も出ませんでした。
『まだ舌が有るぞ。』
そういって鬼はおばあさんの2枚目の舌も抜きました。
『まだまだ舌が有るぞ。』
鬼はあきれてせっせとおばあさんの舌を抜きました。

いくら抜いても舌が有るので、
鬼も頑張っておばあさんの舌を抜き続けました。
舌の先はとがっていて刺すように固く、
その舌が山積みになった頃、
おばあさんは紙袋のようにペッタンコになってしまいました。
所々破れ目がありましたが、
口のあとが一番大きく、裂けていました。

『えい、面倒だ。』
と、鬼は、引き抜いた舌の山を
紙袋の裂け目から投げ込んで蓋をしました。
『こいつは、このまま捨ててしまえ。』

おかげで紙袋は此の世に戻ってきましたが、
どこもかしこも袋から舌の先が飛び出していました。
おばあさんは、自分の舌に刺されて
身体中が痛いのですが、どうする事も出来ません。
日が経つにつれて身体が硬くなりました。

今でも痛い痛いと泣きながら山を荒らして走っています。
それが、ヤマアラシの前世です。

あるOLの会話

2021-02-28 09:43:20 | ショートストーリ~
私のお友達は大きい会社の社長令嬢なの。
一人娘でね、短大を卒業した後、お父様の会社に就職したわ。
そして、就職と同時におうちを出てアパートをを借りたの。
自活してみたかったんだって。
そのアパートから自転車通勤を始めたの。
職場の部署は庶務課で、
この会社では部署により着る制服が違うのね。
庶務課、総務課は青い上っ張りで、
営業はベストスーツ、秘書課は制服がないの。
何と言っても秘書課は花形で、女子社員の憧れの部署だそうよ。


庶務課に配属されたお友達は
毎日会社の制服のままで出勤していたの。
彼女は、そこそこの美人だけど、お化粧もせず、
長い髪を黒のゴム輪で一つにしぼっていたわ。
ありふれた苗字だから
会社の誰もが社長令嬢だとは気が付かなかったそうよ。
おとなしい人で、
なんでもきちんとやり遂げる人だったわ。

その彼女が同じ庶務の独身男性とお付き合いするようになったの。
会社ではそれらしい素振りも見せなかったんだけど、
少し離れた喫茶店で二人がいるのを目撃されたらしいわ。
どこまで進んだお付き合いだったか知らないけど、
お付き合いを始めてから半年ぐらいの時
その彼が、電撃結婚しちゃった。
相手は部長さんの娘で、秘書課にいる人だった。

彼は、無神経にも程が有って、結婚式に彼女も招待した。
出席しようかどうしようかさんざん悩んだ末、
彼女は結局彼の結婚式に出席する事にした。

仲人は社長さんご夫婦でした。
社長さんのながーい祝辞が終わって
そのあと、社長さんは一言付け加えた。
『この野郎、わしの可愛い娘を振りやがって…・おめでとう』


あれから彼女は他の会社に移ったわ。
心配していたけど、爽やかに答えたわ。
『あれは、あれで良かったのよ。』