※…
このささ山には、尻尾が長くて大きなウサギが
います。
ある日、山へ出かけるおじいさんが太郎に言い
ました。
「夕方には帰ってくる来るから、おかゆをつく
って待っててくれ」 「うん、わかった」
太郎はおじいさんを見送ると、おかゆを作るな
べを洗い始めました。
するとその音に気づいたウサギが、 「おや?
なべを洗っているのか。という事は、今から
飯を作るんだな。
よしよし、飯が出来上がるまで、ひと眠りだ」
と、横になって昼寝をはじめました。
さて、夕方になるとおかゆも出来あがり、いい
においがしてきました。 ウサギは飛び起きる
と、太郎の家へ行って言いました。
「太郎、何をしているんだ?」
「ああ、おかゆをつくっているんだよ」
「おかゆ? うまいんか、そのおかゆって
のは?」
「そりゃあ、うまいよ」
「なら、ちょっと食わせてくれや」
「だめだめ、そんな事をしたら、じいさまに
怒られる」
「なあ、ちょびっとだ、ほんのちょびっとだ
けだ。おら、おかゆってのを食ってみてえよ」
ウサギがあんまりしつこいので、太郎はしか
たなくなべをウサギに渡しました。
「じゃあ、ほんのちょびっとだぞ」
するとウサギは、うれしそうにおかゆを食べ
始め、 「あち、あち、あちいがうまい、い
やあ、うまい! じつにうまい! ほんとう
にうまい! ああ、うまかった。
じゃあ、さいなら」 と、ウサギはなべを返す
と、あっという間に山へ帰ってしまいました。
太郎がなべの中を見ると、なんと空っぽです。
こうしてウサギは太郎をだまして、おかゆを
みんな食べてしまいました。
おじいさんが山から帰って来ると、太郎はなべ
をかかえてションボリしています。
「太郎、おめえ、なべをかかえて何をしてるだ
?」 「あっ、じいさま。実は、ウサギにおかゆ
を全部食われちまっただ」
「なんと・・・」 これには、おじいさんも
ガッカリです。
翌朝、おじいさんは山へ出かける前に、太郎に
言いました。 「太郎、今日はウサギに、おか
ゆを食われるでねえぞ」
「うん、大丈夫だ」 太郎ははりきって、お
かゆを作りはじめました。
そしてタ方になると、またウサギがやって来
ました。
「あっ、お前は昨日の! やい、お前に食わす
おかゆはないぞ! とっとと帰れ!」
するとウサギは、まじめな顔をして言いました。
「太郎! そんな事を言ってる場合じゃないぞ!
お前のじいさまが、山で倒れたんだ!」
「えっ! 本当か!? そりゃあ大変だ!」
太郎はあわてて、山ヘ走って行きました。
するとその後ろ姿を見送りながら、ウサギは
ニンマリです。 「ウッヒヒヒヒ、うまくいっ
たぞ」
「じいさま、待っていろよ!」 太郎が山を登
って行くと、ちょうどおじいさんが山からおり
て来るところでした。
「これ太郎。そんなにあわてて、どこへ行く
んじゃ?」 元気なおじいさんを見た太郎は、
自分がだまされた事に気づきました。
「しまった!」 おじいさんと太郎が大急ぎ
で家に戻ってみると、おかゆのなべが空っぽに
なっていました。
またウサギに晩ご飯をを食べられてしまった
二人は、お腹が空いたままふとんにもぐり込
みました。
そしてまた次の日、太郎がおかゆをつくってい
ると、 「太郎さん」 と、またウサギがやって
来ました。 「また来たなっ! もうかんべん
ならねえ、ウサギ汁にしてやる!」
人の良い太郎も、さすがに怖い顔です。
するとウサギは、ペコペコと頭を下げて言い
ました。 「まっ、待ってください。今日は、
あやまりに来たんです。本当に、すまん事です」
そんなウサギを見て、やさしい太郎はウサギを
許してやりました。 「よし、許してやるから、
とっとと山へ帰れ」
「いや、それではおらの気がすまねえ。じい
さまに、これをやってくれ。これは不老長寿
(ふろうちょうじゅ)の薬じゃ」
ウサギはそう言うと、竹の水筒を太郎に渡し
ました。
「ふろうちょうじゅって?」 首をかしげる
太郎に、ウサギは言いました。
「お前、じいさまに長生きしてほしいだろ。
これは、長生きの薬なんじゃ」 「本当か?」
「もちろんだ。
でもこの薬は、すぐになべで煮ないとだめなん
だ」 「なべ? お前、うまい事を言って、ま
たおかゆを食うつもりじゃろ?!」
「何を言っているんだ。太郎、お前はじいさま
に長生きしてほしくねえのか?」 「そりゃあ、
長生きしてほしいが」
「そうだろう。さあ、おらがなべを空っぽにし
てやるから、早くその薬を煮込むんだ」
そう言うとウサギは、またまたおかゆをたいら
げてしまいました。
やがておじいさんが山から帰って来ると、太郎
はうれしそうに不老長寿の薬の事を話して、さ
っそくなべで煮た薬をおじいさんに差し出しま
した。
「さあ、じいさま。これ飲んで長生きしてくれ」
「ああ、だが、変な色合いじゃのう。それに、
においも少々」
おじいさんは首をかしげながら、一口飲んでみ
ました。
そして目を白黒させると、おじいさんは飲み込
んだ物をはき出しました。
「うえ~っ! なんじゃ、こりゃあ! これは、
ウサギのしょんべんでねえか!」
怒ったおじいさんは、太郎に言いました。
「太郎! まきを切るナタを持って来い!
今からウサギを、ひどい目にあわせてやる!」
山では、おかゆをお腹いっぱい食べたウサギが、
草むらで大きくなったお腹をさすっていました。
「ああ、今日も食った食った。さて、明日はど
うやって太郎をだましてやろうか」
するとそこへ、ナタを振り上げたおじいさんが
やって来たのでビックリ。
「やばい、じいさまだ!」 ウサギは、あわ
てて逃げ出しました。
「このウサギめ! よくもしょうべんを飲ませ
たな! ウサギ汁にしてやるからな!
えいっ! とうっ!」 おじいさんはナタ
をふりまわしながらウサギを追いかけますが、
ウサギは素早くピョンピョン飛んで、おじいさん
をからかいました。
「やーい、じいさま、年じゃのう。くやしか
ったら、つかまえてみろ」
「このー! これでもくらえっ!」
おじいさんはウサギめがけて、ナタを投げつけ
ました。
ウサギはピョンと飛びはねてナタをよけました
が、長い尻尾だけはよけそこなって、ナタでス
パッと切れてしまいました。
「・・・ああっ! いてっ! いてっー!」
尻尾を切られたウサギはあまりの痛さに、何
日も何日も山の中を泣きながら走りまわりま
した。
そのためにウサギの目は泣きすぎて赤くなり、
足も走りすぎて前足と後ろ足の長さが違うよ
うになってしまいました。
それからです、ウサギの尻尾が短く、目が
赤くて後ろ足が長くなったのは。。…
※…
僕が妊娠の報せを聞いたとき、クールに「そうか」
と言おうと思っていた。
しかし、その言葉が出る前に、僕の目からは涙が
溢れていた。
実は、ママは子供を授からないことで自分を責め
ていた。それを僕は決して口にしなかった。
涙はふつふつと溢れ、止めることはできなかっ
た。君がまだ生まれる前から、ただママのお腹
にいるだけで、僕たちは幸せを感じていた。
その後の十月十日、僕たちの心は君に向けられ
ていた。
ママは厳しい食事制限を守り、運動を控え、人
混みを避けていた。ママが外出を自粛するなんて、
想像できるだろうか?
そして、君のための準備が進んだ。
君の服を選び、家を清潔に保ち、君の場所を作
るために家具を変え、車まで買い換えた。
僕が手を洗わないでトイレに行くような男だっ
たが、君のために毎日うがいと手洗いを始めた。
最初の三ヶ月間は不安だった。
僕は知らなかった。早期流産の割合が15%もあ
るなんて。…
病院での検査報告を受け取るたび、僕の心は
震えていた。でも、エコーの写真を見ること、
君の心臓の音を聞くことは、僕たちにとって大
きな喜びだった。
つわりのせいで、ママの全身に湿疹が出たこと
もあった。ママの腕や腿は、ひどい状態になる
ほど湿疹が広がった。
強い薬が使えないから、夜中でも痒さに眠れない
こともあった。
辛そうなママを見て、僕は初めて根拠のない嘘
をついた。「大丈夫、絶対に良くなるよ」と。
その時、僕はこれが半年以上続くなら耐えられ
ないと思った。
でも、ママは信じられないほどの意志の強さで
つわりを乗り切った。
それでも、君がお腹にいることで僕たちは幸せ
を感じていた。
おじいちゃんやおばあちゃんも、とても幸せそ
うだった。僕たちは顔を合わせるたびに、君の
ことを話していた。
君の体重がどうなったか、性別はわかったか、
名前を決めたかとかね。君の体重が1グラム増
えるだけで、僕たちは喜んでいた。
そして、君の家族はみんな、君が生まれること
を1年近く心から待ち望んでいた。
ついに君が生まれた瞬間、僕たちはみんな涙を
流した。うれしさで溢れ、うれしさで。
君が生まれてきたことがうれしくて、僕もママ
も、おじいちゃんもおばあちゃんも、ひいおば
あちゃんまでもが泣いた。
君の出産中、僕はあまりに懸念事項が多すぎて
うろたえていた。院長先生に「パパしっかり」
と言われて、やっと声を出して「がんばれ」と
ママに言った。
ママは本当にすごかった。
僕が言いたいのは、君が生まれただけで、神に
感謝して涙を流した人が少なくとも8人もいる。
君は価値ある存在なんだ。…
そして、君が生まれることを通じて、僕自身
も生きていることが許されていると感じること
ができた。
もし君が自信をなくしたり、不安を感じること
があるなら、この話を思い出してほしい。
君は生まれてきただけで、本当に価値がある
存在なんだ。
本当に生まれてきてくれて、ありがとう。…