創作 「生と死展」 林美沙希
「今にも死にそうな貴方へ。私が貴方の決断をお助けしましょう。私が描いた作品たちを、心逝くまでお楽しみ下さい。」
挟まっていたチケットを持って、少年は歩き出した。
通り道のない森の中へ進む。鮮やかな夕焼けは木々に隠れ、カラスの鳴き声が響き渡っている。どれ程時間が経っただろうか。少年は突如現れた灰色の洋館に入った。
大広間にある巨大な絵。生き生きとした葉っぱとそれを食らう虫。食べられた跡は葉脈だけが無惨に残っている。今にも動き出しそうな絵に少年は一瞬目を丸くしたが、すぐに目を逸らした。
先へ進み、今度は廊下にある絵の前で立ち止まった。一列に並んだハートの上に同じ数の矢が描かれている。数も形も大きさも均等だが、妙に生々しい。今にも拍動が聞こえてきそうだ。少年はその絵をじっと見つめて、暫くは人形のように動かなかった。
少年はまた歩き始める。ある絵を見つけて
首を傾げた。扉がある。小さいが重く厳重な扉は、少年の力では開かなそうだ。扉の先に何かがある。だが少年はため息をついて絵を睨みつけ、また歩き出した。
ふたつの道に分かれている。ひとつは明るい照明で前には門がある。鍵が必要だ。もうひとつは先の見えない暗い道で、門はない。疲れている少年は鍵探しには付き合っていられない。迷わず暗い道へ進んでしまう。
何も見えない道に、絵画など意味が無い。どうせすぐに出口だと思っていた少年は焦りだした。一向に着く気配がない。前後が分かるよう、壁をつたって歩こうと手を伸ばした。額縁がある。中身がない。スルスルと吸い込まれて、辺りは静まり返った。