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自治体法務の実務

自治体法務を専門にしている弁護士によるブログです。

担当事件が司法試験・論文式で出題されました(2回目)

2018年05月29日 | 日記
[公法系科目]
〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕⑴,〔設問1〕⑵,〔設問2〕の配点割合は,35:40:25〕)
 宗教法人Aは,宗教法人法に規定された宗教法人で,同法の規定により登記された事務所を,約
10年前からB市の区域内に有している。Aは,以前から墓地用石材の販売等を扱う株式会社Cと
取引関係にあったが,Cから,B市内に適当な広さの土地(以下「本件土地」という。)を見付け
たので,大規模な墓地の経営を始めないかとの提案を持ち掛けられた。Cがこのような提案をした
のは,B市においては,「B市墓地等の経営の許可等に関する条例」(以下「本件条例」という。)
第3条の定めにより,株式会社であるCは墓地の経営許可を受けることができず,墓地経営のため
に宗教法人であるAの協力が必要であったという事情による。Aは,大規模な墓地の経営に乗り出
すことは財政的に困難であると考えたが,Cから,用地買収や造成工事に必要な費用を全額無利息
で融資するとの申出を受けたため,Cの提案を受け入れ,本件土地において墓地(以下「本件墓地」
という。)の経営を行うことを承諾した。そこで,Aは,Cから融資を受けて,平成29年9月2
5日に本件土地を購入した(なお,本件土地に所有権以外の権利は設定されていない。)。さらに,
Aは,「墓地,埋葬等に関する法律」(以下「法」という。)第10条第1項に基づき,本件墓地の
経営許可を得るため,本件条例に基づく必要な手続を開始した。なお,B市においては,法に基づ
く墓地経営許可の権限は,法第2条第5項に基づき,B市長が有している。
 Aは,平成29年11月17日,周辺住民らに対して,本件条例第6条に基づく説明会(以下「本
件説明会」という。)を開催した。本件説明会は,Aが主催したが,Cの従業員が数名出席し,住
民に対する説明は,Aの担当者だけではなくCの従業員も行った。本件土地の周囲100メートル
以内に住宅の敷地はなかったが,本件土地から100メートルを超える場所に位置する住宅に居住
する周辺住民らが,本件説明会に出席し,本件土地周辺の道路の幅員はそれほど広いものではない
ため,墓参に来た者の自動車によって渋滞が引き起こされること,供物等の放置による悪臭の発生
並びにカラス,ネズミ及び蚊の発生又は増加のおそれがあることなど,生活環境及び衛生環境の悪
化への懸念を示した。しかし,Aは,その後も本件墓地の開設準備を進め,平成30年3月16日,
B市長に対して本件墓地の経営許可の申請(以下「本件申請」という。)をした。
 他方,本件土地から約300メートル離れた位置にある土地には宗教法人Dの事務所が存在し,
Dは,同所で約10年前から小規模な墓地を経営していた。Dは,本件説明会の開催後,本件土地
において大規模な墓地の経営が始まることを知り,自己が経営する墓地の経営悪化や廃業のおそれ
があると考えた。Dの代表者は,その親族にB市内で障害福祉サービス事業を営む法人Eの代表者
がいたことから,これを利用して,本件申請に対するB市長の許可処分を阻止しようと考えた。D
の代表者は,Eの代表者と相談し,本件土地から約80メートル離れた位置にあるDの所有する土
地(以下「D所有土地」という。)に,Eの障害福祉サービスの事業所を移転するよう求めた。E
は,これを受けて,特に移転の必要性はなかったにもかかわらず,D所有土地を借り受けて事業所
(以下「本件事業所」という。)を設置し,平成30年3月23日,D所有土地に事業所を移転し
た。本件事業所は,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」に定められ
た要件に適合する事業所で,短期入所用の入所施設を有しており,本件条例第13条第1項第2号
の「障害福祉サービスを行う施設(入所施設を有するものに限る。)」に該当する。本件事業所は,
従来のEの施設の利用者を引き継いでいたことから,定員に近い利用者が日常的に利用し,また,
数日間連続して入所する利用者も見られた。
 B市は,本件事業所の移転やDの代表者とEの代表者に親族関係があるという事情を把握してい
なかったが,D及びEがB市長に対して平成30年4月16日,本件申請に対して許可をしないよ
う求める旨の申入れを行ったことにより,上記事情を把握するに至った。D及びEの申入れの内容
は,①本件墓地が大規模であるため,B市内の墓地の供給が過剰となり,Dの墓地経営が悪化し,
廃業せざるを得ないこともあり得る,②本件事業所が本件土地から約80メートル離れた位置にあ
り,本件条例第13条第1項の距離制限規定に違反する,③本件墓地の経営が始まることにより,
本件事業所周辺において,本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪
化が生じ,本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念がある,④本件墓地の実質的経営者
は,AではなくCである,⑤仮にB市長が本件申請に対して許可をした場合には,D,E共に取消
訴訟の提起も辞さない,というものであった。
 B市長は,本件墓地の設置に対する周辺住民の反対運動が激しくなったことも踏まえ,本件申請
に対して何らかの処分を行うこととし,平成30年5月16日,法務を担当する総務部長に対し,
法に関する許可等を所管する環境部長及びB市の顧問弁護士Fを集めて検討会議を行い,本件申請
に対して,許可処分(以下「本件許可処分」という。)を行うのか,あるいは不許可処分(以下「本
件不許可処分」という。)を行うのか,また,それぞれの場合にどのような法的な問題があるのか
を検討するよう指示した。
 以下に示された【検討会議の会議録】を読んだ上で,弁護士Fの立場に立って,設問に答えなさ
い。ただし,検討に当たっては,本件条例は適法であるとの前提に立つものとする。
なお,関係法令の抜粋を【資料関係法令】に掲げてあるので,適宜参照しなさい。

〔設問1〕
 B市長が本件申請に対して本件許可処分を行い,D及びEが本件許可処分の取消しを求めて取消
訴訟を提起した場合について,以下の点を検討しなさい。
⑴  D及びEは,上記取消訴訟の原告適格があるとして,それぞれどのような主張を行うと考えら
れるか。また,これらの主張は認められるか。B市が行う反論を踏まえて,検討しなさい。
⑵  仮に,Eが上記取消訴訟を適法に提起できるとした場合,Eは,本件許可処分が違法であると
して,どのような主張を行うと考えられるか。また,これに対してB市はどのような反論をすべ
きか,検討しなさい。

〔設問2〕
 B市長が本件申請に対して本件不許可処分を行い,Aが本件不許可処分の取消しを求めて取消訴
訟を提起した場合,Aは,本件不許可処分が違法であるとして,どのような主張を行うと考えられ
るか。また,これに対してB市はどのような反論をすべきか,検討しなさい。

【検討会議の会議録】
総務部長:市長からの指示は,本件申請に対して本件許可処分を行った場合と本件不許可処分を行っ
た場合それぞれに生じる法的な問題について,考えられる訴訟への対応も含めて検討してほ
しいというものです。法第10条第1項は,墓地経営許可の具体的な要件をほとんど定めて
おらず,本件条例が墓地経営許可の要件や手続を具体的に定めているのですが,本件条例の
法的性質についてはどのように考えるべきでしょうか。

弁護士F:法第10条第1項の具体的な許可要件や手続を定める条例の法的性質については,様々な
見解があり,また,地方公共団体によっても扱いが異なるようです。本日の検討では,本件
条例は法第10条第1項の許可要件や手続につき,少なくとも最低限遵守しなければならな
い事項を具体的に定めたものであるという前提で検討することにしましょう。

総務部長:分かりました。では,まず,本市が本件申請に対して本件許可処分を行った場合の法的問
題について検討しましょう。この場合,D及びEが原告となって本件許可処分の取消しを求
めて取消訴訟を提起することが考えられます。このような訴訟は,法的に可能なのでしょう
か。

弁護士F:D及びEに取消訴訟を提起する原告適格が認められるかどうかが争点となります。取消訴
訟の他の訴訟要件については特に欠けるところはないと思います。D及びEは,本件許可処
分が行われた場合,それぞれどのような不利益を受けると考えて取消訴訟を提起しようとし
ているのでしょうか。

環境部長:まず,Dについては,既にDの墓地は余り気味で,空き区画が出ているそうです。本件墓
地は規模が大きく,本件墓地の経営が始まると,Dは,自らの墓地経営が立ち行かなくなる
のではないかと懸念しています。墓地経営には公益性と安定性が必要であり,墓地の経営者
の経営悪化によって,墓地の管理が不十分となることは,法の趣旨目的から適切ではないと
考えることもできるでしょうね。

弁護士F:ええ。そのことと本件条例が墓地の経営主体を制限していることとの関連も検討する必要
がありそうです。

環境部長:次に,Eについては,D所有土地に本件事業所を置いています。Eは,本件墓地の経営が
始まることにより,本件事業所周辺において,本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の
生活環境及び衛生環境の悪化が生じ,本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念が
あると考えています。本件事業所の利用者は数日間滞在することもありますので,その限り
では住宅の居住者と変わりがない実態があります。

総務部長:D及びEに原告適格が認められるかどうかについては,いろいろな考え方があると思いま
す。本市としては,D及びEが,原告適格が認められるべきであるとしてどのような主張を
行うことが考えられるのか,そして,それに対して裁判所がどのような判断をすると考えら
れるのかを検討する必要があると思います。これらの点について,F先生に検討をお願いし
ます。

弁護士F:了解しました。

総務部長:次に,仮に原告適格が認められるとした場合,本件許可処分の違法事由としてどのような
主張がされるのかについて検討します。主張される違法事由については,DとEとで重複が
見られますので,本日は,Eの立場からの主張のみを検討したいと思います。

環境部長:Eは,まず,本件事業所がD所有土地に存在することで本件許可処分は本件条例第13条
第1項の規定に違反すると主張しています。そのような主張がされた場合,本市としてはど
のように反論するのか考えておく必要がありますね。

弁護士F:そうですね。また,本件においては,仮に,本件墓地の経営許可を阻止するため,DとE
が協力して本件事業所を意図的にD所有土地に設置したという事情があるならば,このよう
な事情を距離制限規定との関係で法的にどのように評価すべきかについても,検討する必要
がありそうです。

総務部長:F先生が今指摘された事情は,Eの原告適格に関しても問題になるのではないでしょうか。

弁護士F:原告適格の問題として整理する余地もあると思います。しかし,本日の検討では,原告適
格ではなく,本案の主張の問題として考えておきたいと思います。

環境部長:本件許可処分の他の違法事由として,Eは,本件墓地の実質的な経営者は,AではなくC
であると主張しています。

総務部長:本件墓地の実質的な経営者が,AとCのいずれであるかは検討を要する問題ですね。仮に
実質的な経営者がCであるとした場合,法的に問題があるのでしょうか。

弁護士F:本件条例によると,墓地の経営者は,地方公共団体のほか,宗教法人,公益社団法人等に
限られています。仮に本件墓地の実質的な経営者がCであるとすれば,このような点も踏ま
え,法や本件条例の関連諸規定に照らして違法となるのかについて,注意深く検討する必要
がありますね。

総務部長:では,この点についてもF先生に検討をお願いします。また,以上のような本件許可処分
の違法事由について,Eがこれら全てを取消訴訟において主張できるかについても,検討す
る必要がありますね。

弁護士F:はい。Eが,自己の法律上の利益との関係で,いかなる違法事由を主張できるかにも注意
して検討すべきと考えています。

総務部長:次に,本件申請に対して,本件不許可処分を行った場合です。この場合にはAが本件不許
可処分の取消しを求めて取消訴訟を提起することが想定されます。本日は,この取消訴訟に
おける本案の主張の検討をお願いします。

環境部長:環境部では本件不許可処分をする場合の処分理由として,次のことを考えています。(ア)
本件墓地周辺の生活環境及び衛生環境が悪化する懸念から,周辺住民の反対運動が激しくな
ったこと,(イ)Dの墓地を含むB市内の墓地の供給が過剰となり,それらの経営に悪影響が
及ぶこと,(ウ)本件事業所が本件土地から約80メートル離れた位置にあること,の3点で
す。

弁護士F:(ウ)については先ほど検討しましたので,本件不許可処分の問題としては,検討を省略し
ましょう。まず,(ア)について補足される点はありますか。

環境部長:Aは,本件墓地の設置に当たっては,植栽を行うなど,周辺の生活環境と調和するよう十
分配慮しているとしていますが,住民の多くはそれでは十分ではないと考えています。

弁護士F:次に,(イ)についてですが,本件墓地の経営は,B市内の既存の墓地に対して大きな影響
を与えるのでしょうか。

環境部長:Dの墓地を含めて,B市内には複数の墓地がありますが,いずれも供給過剰気味で,空き
区画が目立つようになっています。本件墓地の経営が始まれば,Dの墓地のような小規模な
墓地は経営が破綻する可能性もあると思います。

総務部長:では,これらの(ア)及び(イ)の処分理由に対して想定されるAからの主張について,本市か
らの反論を含めて,F先生に検討をお願いします。

弁護士F:了解しました。

【資料関係法令】
○ 墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)(抜粋)
第1条 この法律は,墓地,納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が,国民の宗教的感情に適合し,且
つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われることを目的とする。

第2条 この法律で「埋葬」とは,死体(中略)を土中に葬ることをいう。
2,3  (略)
4  この法律で「墳墓」とは,死体を埋葬し,又は焼骨を埋蔵する施設をいう。
5  この法律で「墓地」とは,墳墓を設けるために,墓地として都道府県知事(市又は特別区にあつ
ては,市長又は区長。以下同じ。)の許可を受けた区域をいう。
6,7  (略)

第10条 墓地,納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は,都道府県知事の許可を受けなければな
らない。
2  (略)

○ B市墓地等の経営の許可等に関する条例(抜粋)
(趣旨)
第1条 この条例は,墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号。以下「法」という。)
第10条の規定による経営の許可等に係る事前手続並びに墓地,納骨堂又は火葬場(以下「墓地等」
という。)の設置場所等,構造設備及び管理の基準その他必要な事項を定めるものとする。

(墓地等の経営主体)
第3条 墓地等を経営することができる者は,原則として地方公共団体とする。ただし,次の各号の
いずれかに該当し,B市長(以下「市長」という。)が適当と認める場合は,この限りでない。
⑴  宗教法人法(中略)に規定する宗教法人で,同法の規定により登記された事務所を,B市(以
下「市」という。)の区域内に有するもの
⑵  墓地等の経営を目的とする公益社団法人又は公益財団法人で,登記された事務所を,市の区域
内に有するもの
2  前項に規定する事務所は,その所在地に設置されてから,3年を経過しているものでなければな
らない。
(説明会の開催)
第6条 法第10条第1項の規定による経営の許可を受けて墓地等を経営しようとする者は,当該許
可の申請に先立って,規則で定めるところ〔注:規則の規定は省略〕により,墓地の設置等の計画
について周知させるための説明会を開催し,速やかにその説明会の内容等を市長に報告しなければ
ならない。
(経営の許可の申請)
第9条 法第10条第1項の規定による経営の許可を受けようとする者は,次の各号に掲げる事項を
記載した申請書を市長に提出しなければならない。
⑴~⑹  (略)
2  墓地又は火葬場の経営の許可を受けようとする者は,前項の申請書に次の各号に掲げる書類を添
付しなければならない。
⑴  法人(地方公共団体を除く。)にあっては,その登記事項証明書
⑵  墓地又は火葬場の構造設備を明らかにした図面
⑶  墓地にあっては,その区域を明らかにした図面
⑷  墓地又は火葬場の周囲100メートル以内の区域の状況を明らかにした図面
⑸  墓地又は火葬場の経営に係る資金計画書

自己紹介

2013年10月28日 | 日記
ブログの宣伝をかねて、簡単に自己紹介させていただきます。
1 弁護士登録10年目になります。
  したがって10年ほど自治体法務を専門にしています。
2 全国各地の地方公共団体・関連団体から依頼を受けています。
  担当した事件が地方自治の判例雑誌のみならず一般の判例雑誌・判例集にも掲載されています。
  新司法試験の行政法の論文試験にも出題されました。
3 地方自治の専門誌に連載をしています。
  自治体法務や行政法に関連する書籍も複数執筆しています。
4 所属する弁護士会で自治体法務や行政法を所管する部門の責任者をしています。
5 法科大学院で行政法の実務家教員をしています。
6 自治体法務や行政法に関連する研修会の講師をしています。
7 複数の地方公共団体で委員をしています。
8 自治体法務や行政法についてFAXやEメールで法律相談を受けています。
  所属事務所の顧問先でない団体・職員の方個人からも受けています。
9 「事務方を守る」という一貫した姿勢で仕事をしています。
  ただし、国については一緒に仕事をすることもありますが、訴訟を提起することもあります。
10 東京広島県人会の会員です。それ行けカープ ~スラィリーの宝物~
   縁故地は広島のほか、多摩地区と23区です。
   



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2013年10月28日 | 日記
 差し当たり、地方公共団体や行政に関連する判例・裁判例を月1回ペースでUPし、いずれ、ブログ読者の方(地方公共団体の職員の方に限ります。)からの無料法律相談をお受けできるようにしたいと思います。
 また、ブログ読者の方と自治体法務について議論できるようになればと思います。
 なお、いただいたコメントは予告なく削除することがあります。
 よろしくお願いします。