人が英会話を習おうとする時、又、子どもに習わせようとする時、「止めた方がいい」という人がいる。英語を話せない人がいうのは寓話と同じで負け惜しみだが、英語を話せるのにそういう人がいる。自分が「甘い葡萄だ」と知っているのに、他人には「酸っぱい葡萄だ」といって採らせない卑怯である。哲学者中島義道氏は、誠実である。本書で「英語はできた方がいい(=甘い)けれど、妙なコンプレックスはそぎ落とした方が断然愉快だ」ということを体験から正直に教えてくれる。 . . . 本文を読む
久々の硬派の論、『私家版・ユダヤ文化論』は、西洋哲学研究者、内田樹の本領発揮の書である。戦争の世紀20世紀は、最大の戦争(第二次世界大戦)において600万の犠牲を出した受難者ユダヤ人のことを避けては語れない。内田樹は、勇敢にもユダヤ文化論を私家版としてユダヤ教の起源にまでさかのぼって説き起こした。ナチの迫害が神話の起源から続く長い長い迫害であり、反ユダヤの心理までも精神分析的手法を交えて説き起こすユダヤ文化をわしづかみに理解させる書である。 . . . 本文を読む
イエドヴァブネ、ワルシャワ、アウシュビッツ、ザクセンハウゼン、市谷、ソウル朝鮮総督府跡、三十八度線、オドゥサンなど、凄惨な虐殺や戦闘のあった場所で政治学者とジャーナリストが「戦争」を真正面から見つめ、語ったユニークな書『戦争の世紀を超えて』(森達也VS姜尚中)20世紀は戦争の世紀。人々がその記憶を忘れかけたのか、21世紀も更に輪をかけた戦争の世紀になりそうな世界状況にストップをかけたいという切実さが胸に迫る書。 . . . 本文を読む
肝の据わった内田樹氏の『知に働けば蔵が建つ』は、いわゆる常識的でない発想の仕方が詰まっている書である。「ブログの書き散らし」に手を入れてまとめた本と言われているから、話題はいろいろ、かつ荒削りで大学の論文みたいに綺麗に首尾一貫する所はない。しかし、ものごとの捉え方に内田氏のユニークな発想がそこここに見られる面白い書物だ。 . . . 本文を読む
記憶力はあればあるほどよいというものではない、と教えてくれる書『記憶と情動の脳科学』(ジェームス・L・マッガウ著)企業が記憶力をよくするサプリメントとかの産業化を競っているらしいが、この本を読むとやめた方がよいと分かる。人間忘れるから助かっている面が多々あるという。「右脳開発」「脳活性化」だのと売らんかなの仕掛けが行き過ぎ、特に小さい子を持つ母親への不安を掻き立てるのは子どもにも悪影響があり、困りものだ。 . . . 本文を読む
学者が大学の研究休暇をもらって英国の学者仲間とだけ交流して、英国が分かったと思い、「イギリス」礼賛の書を書き、「ゆとりのある」「おとなの国」などという評価をして、読み手に誤解を与える風潮を戒める林信吾氏の書『これでもイギリス好きですか?』平易なことばで綴られた「イギリス」の大まかな100~200年間がわかる歴史書でもある。 . . . 本文を読む
アメリカ南北戦争時の将軍オールグレーンはアメリカ先住民討伐の理不尽に傷を負い、迷える魂を抱えていた。自暴自棄な中、日本の西欧近代化、特に明治政府の戦争における武器の近代化(ギャトリング・ガン=連打機関銃)の導入をはかる時に兵士に銃の使い方を教えるお雇い外国人として来日する。一方、近代化で日本の武士道も風前の灯となっていたこの時期、近代化に抗する孤高のサムライ勝元と敵味方として出会う。人よんで騎士とサムライの遭遇。捕虜として囚われるが、武士道の精神を知るにつれ迷える魂が救われていく。 . . . 本文を読む
コメディアンの太田光氏と人類学者の中沢新一氏の『憲法9条を世界遺産に』は、近頃珍しい身体をはった9条解釈対談書である。普通の護憲の書とは違う輝きを放っている。縦横、自由に自分の人生観も掘り下げ、文化・歴史にもおよび、哲学にもおよび、生と死の考察にもおよび、これほど深くて広い9条解釈を読んだことがない。 . . . 本文を読む
スエーデン式『アイディアブック』には、第2弾がある。フレデリック・ヘレーンには、双子の兄弟テオ・ヘレーンがいて、第2弾は二人の共著となっている。子どもの発想には非常にユニークなものがあり、その発想を大人まで持ち続けたり、大人になってからも子どものそういう発想を見逃さず学ぶ姿勢があると、アイディアが広がり、ビジネスする上でも生きる上でも肝要だという考えの書である。 . . . 本文を読む
タイトルがショックだ。『記憶が嘘をつく!』である。解剖学者養老孟司とTVキャスター古舘伊知郎の珍しい組み合わせの対話書。平気で嘘をつくように見える人がいる。ごく最近のことでもこちらが覚えていることと随分違ったことをいう人がいるので、あきれることがある。しかし、ヒトが改竄するというより、どうも脳がそう思いたい時にそうなるらしい、というのがこのタイトルの意味するところのようだ。 . . . 本文を読む
小さくて光る本を見つけた。フレドリック・ヘレーンという人の『スェーデン式アイディアブック』である。少ない叙述で、「エッ!」「ヘー!」「本当!」というような逸話、事例が集められている。アイディア=創造性というものは、強制的に「考えろ、考えろ!」と教育してできるものではない。又、アイディアを奇抜・奇天烈なものという固定観念で考えられるが、それも違うとこの書はいう。 . . . 本文を読む
コンピューターに心や感情を持たせる研究の最前線で何が考えられているかのトピックを再び取り上げる。いつかも言及した『話す科学』アダム・ハート・デイヴィスが世界的な科学者にインタヴューした書に、MIT(マサチュウーセッツ工科大学)で、ロザリンド・ピカードという女性研究者が取り組んでいる対話があった。タイトルは「映画ではHALの頭の中で何が起こっているのかわからない」である。 . . . 本文を読む
医学界の常識を告発し続ける米山公啓氏の書『脳は本当に歳をとるのか』。生れ落ちてから人の脳神経細胞は減る一方であるというのはなんとなく常識化している。「毎日10万個もの脳神経が死ぬ。そして再生はしない」ということが一般の我々も日常言ってはばからなかった。老齢化を極端に恐れ、忌避する傾向が日本では強い。その状況に一矢報いる書である。 . . . 本文を読む
この5年間の脳科学的知見の発展振りはすごい。今、それを踏まえてスピルバーグが「A.I.(Artificial Intelligence=人工知能)」を創るとしたら、ちょっと違ったものになったのではないかと思い、書いてみたくなった。脳・人工知能といった領域の科学的知見が進むに連れて、いよいよ人工物と自然の生物との間の距離が開き、簡単には創れないということが分かってきた5年間だと思うからである。 . . . 本文を読む
「心なんて身体の奥も奥、奥底にあるに決まっている」と通常思われている。私もそう思っていた。この書を見た時、何!?という感じを受けた。河野哲也『心はからだの外にある』は、まずタイトルで、エッ?不思議な考え方もあるものだと思った書である。帯に「性格なんてナンセンス」ともある。少々難解だが、通常の考え方じゃないものの魅力が詰まっている書だ。 . . . 本文を読む