好きなカラーの糸を2本どりで編むニット。
いつも野良や編みしごとをしていると、なんて非効率なことをやっているんだろうと我ながら思うこともあります。
なんでやるんだろう・・・理由をたくさんあーでもないこーでもないと言ってみているけれど、多分本質は「こうしたいから」というびっくりするくらいシンプルなことなのかもしれません。
例えば食材。味にこだわる方もいるし、安全性にこだわる方もいるし、考え方はそれぞれなのだけど、それに対する仕事量や、経費なども含めて納得して購入されているのだと思います。
例えば身にまとうもの。素材や風合いを見る方もいるし、デザイン性や斬新さを求める方もいると思う。それもまた、それに対する仕事量や経費なども含めて納得して購入されているのだと思います。
わたしは家具が大好きなので、家具職人さんたちを憧れのまなざしで見ています。納期もかかるし、デメリットも多くとても高価だけれど、今まで買った家具はどれひとつ飽きたりしたものがありません。だから、買うときは思い切ったけれど、とてもよいものをいただいたとうれしく思っています。
さて、毛糸。
毛糸、高くなりましたね。わたしは20年程ブランクが空いたので(空きすぎw)、特にそう思うのだけど、食べ物や衣類、道具などと同じように、ひとくちに糸といっても、素材や作られ方は、まったくといっていいほど違います。
野呂さんの糸を使わせてもらうようになって、本当によさを実感するばかりで、感動すら覚えます。
通常、糸は、異物がたくさん混入しているので、それを薬剤などを使用して化学的に処理するか、機械をつかって高速で糸に混じった異物を取り除きます。
野呂英作の糸は、なんと薬剤や機械を使わずに人の手によって、相当な時間を投じてこの作業をしています。
・・・それはなぜ?
それは、素材の風合いをそこねないため、環境のためです。
また、わたしはあまりミシン仕事ができないのですが、それでも子どもが3人いるので必要に迫られてミシンをかけることがあります。
以前とてもいい布を友人にもらって、それを子どもの給食袋にしました。
3年経った今も、そても色が鮮やかで、洗濯を干すときも生地がピンとなっていて、とても美しいです。
逆に、とても安いかわいい布でもナフキンを作ったことがあります。それは洗濯のたびに色落ちする感じで、干すときも生地がよれて・・・。
わたしは布に関してまったく詳しくないのですが、素材、染料、工程などが、多分別物なのだと思いました。
野呂ヤーンの色。美しく、力強く、深い輝きを持っています。そしてなにか編みあがると、必ず水を一度通すのですが、まったく色落ちもありません。
野呂ヤーンの色は、大自然の世界を糸に表現したもの。
あまりそういう意識なく最初は使いはじめたのだけど、ある秋の夕暮れ、空をみて、野呂ヤーンと同じ色だ!と驚いたのです。
夕焼けの色、そこにちょっとだけ残る青い空の色、ピンクになった空の一部、紅くなった葉っぱの色、まだ緑色をした葉っぱの色、そして土の色・・・。
段染めされていて、1本の糸にこのようなさまざまな色が入ってきて、編んでいくうちにどんどんいろが変わってきて、心がどきどきします。
もともと染料は、草木染めの糸をさがしていたのですが、ほとんど存在しなく、あっても入手がとても困難で、今も模索中なのですが、野呂英作の染料はとても高級なものを使用しているそうです。
羊の毛をいただいたり、染料で環境を汚すことは、できるだけ最小限にとどめたいなあという気持ちもあるので、少なくとも、いい素材のものを少しだけ生産して、たいせつにしてゆく暮らしが共有できたらいいなあと、今考えながらやっています。
動物の素材をつくる現場はかなり凄惨なところもあると聞きます。だからためらいも出るのだけど、ネイティブアメリカンの「自然の恩恵は、必要なだけいただきなさい」という戒律があって、わたしはよくこの「必要なだけ」という言葉を目安にするところもあるのだけど、このことに関しても、これを踏み外してないかな?と自分をふりかえりながらやっていく必要があるかなとも思っています。
そんなこんなで、今40~50gで1000円弱の糸を使用しています。
経済性を考えて、もう少し素材を下げてという選択もあるのかもしれないけれど、せっかくつくるのに、自分がこれって思ったものでつくらないとおもしろくないし、こんな子育て大変な中に時間を割いて身を削ってまで、つくりたい!という情熱がわくかなぁと思うと、その選択は難しいのです。
さて。
最近、野呂英作の糸の歴史などをいろいろ調べていて、野呂英作のサイトもそうだけど、ウィキペディアや、ほかのニット編む人の情報なども見ながら糸についてのいろいろな情報や、みなさんの見方を見ています。
そして、感動的な野呂英作のポリシーに触れました。
ここからは、わたしが今編みしごとカタログを作ろうとしているのですが、その最後のほうのページに、野呂ヤーンの歴史という感じで1ページ掲載したいなと思っていて、その原稿をつくったので、それをこちらで抜粋させてもらいます。
野呂英作の糸は、手間のかかる独自の製法による高級毛糸を、世界的に販売している愛知県一宮市の会社です。
大自然の豊かな色彩を表現した美しい糸は、世界中で愛され、生産された糸の3分の2は、海外で販売されています。
当初は、どの店舗に商品を持っていっても、「愛知県の田舎から出てきた青年の変わった毛糸」という扱いしかされませんでした。
まったく毛糸が売れぬまま3年が経過し、ついに横浜の店舗が、野呂氏の熱意に負けて、商品を店舗に置いてくれることになりました。
この毛糸が、店主の予想を裏切り、驚くほど売れ、以前は相手にしてくれなかった店舗からも声がかけられるようになり、その後わずか数年で、野呂ヤーンは全国に広がりました。
現在は海外でも高く評価されていて、世界中のニッターたちに愛される糸となっています。
「効率は一切考えない」
「デメリットのかたまり」
「売れないものをつくる」
この3つを開発のポリシーとして語っているそうです。
この結果、野呂英作ではないと決して製造不可能な商品となり、収益の安定につながる結果となったそうです。
以上「編みしごとカタログ」から抜粋------
わたしはいろいろなことに対して、まだひとつひとつ確かめながらやっている状況なので、ポリシーというものまでは、とても遠いのですが、このポリシーを見て、やっぱり激励されたように思いました。
精を出して仕事をするんだけど、ふと、こんな非効率な・・・デメリットばかりじゃない・・・こんなの売れるわけないよねぇ・・・と、先が見えないような気持ちになることないですか?
これを「ポリシー」にするなんて!
野呂英作さんは、自分が親からもらったものは、元気な身体とこの名前・・・ということで、名前をそのまま社名にされたそうです。
哲学、心意気、そしてエネルギー、そいうことを含めて、野呂ヤーンっておもしろいなあと思いました。
もちろん全部思ったとおりにできることではないけれど、食べ物、身に着けるもの、道具、音楽や絵などのアートなどに関しても、こういうものに惹かれて、こういう人のつくったものを!って感じで好きになっていくことが多いです。
最後に・・・
編みものって、ひと目ひと目だし、ひとつのニットを編み上げるまでに何千目も編むのだけど、そもそも編みしごとを再開したのも、端をミシンでガッとかけてあるものではなく、ひと目ひと目はいでつくった心地いいもの、素材を丁寧に選らんでたいせつに使えるものが欲しいなという気持ちがあってのことなので、そこは自分自身がいつもたいせつに考えていこうと思えました。
すぐに理解してもらえることではないかもしれないけれど、きっと共感してくれる人とつながれることを信じて・・・!