缶詰が好きです

以前のプロバイダーが閉鎖になるので、Gooブログに引っ越してきた、缶詰が好きな、ダメ料理人のブログです。

缶詰が好きです

2022年07月24日 | 固ゆで料理人
「UNOHANA ー卯の花ー」  固ゆで料理人
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ダイエット道場から逃げ出した娘を探す仕事がきた。逃げ出した犬を探すよりは楽な仕事だ。
娘を見付けて、彼女が食べようとしていた巨大ハンバーガーを取り上げ、低カロリー食を薦めて、親に引き渡し、料金を貰う。
ついでに腹を減らした娘から怒りの膝蹴りも貰った。
俺の仕事は危険に満ちている。

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窓の外から車の音や路面電車の音、向かいのホテルの玄関の前で言い合いをしている男と女の声。今夜も時間潰し達が街に這いずりだして来て互いに時間潰しを手伝いあうのだろう。
今夜の俺は懐も温かいし、たまには這いずりだして街で呑みたいが、人に言えない場所を蹴られてまだ痛みの引かない俺は、いつものように向かいの安ホテルの看板を見ながら一人でウィスキーを呑むことにした・・・・ラジオからはお気に入りの「クレモンティーヌ」の唄が流れている。結局今夜もこの窓際で潰れるまで呑むことになる・・・これでいいのだ・・・ボンボン。

3杯目のウィスキーを注いだところでドアベルがチリンと鳴った。
今日は火曜日・・火曜は俺のラッキーデイ・・・また仕事がやって来た。
デスクに向かって腰を下ろし、持っていた酒を引き出しにしまい、依頼人のことを待つ。
俺たちの仕事は依頼人を出迎えるようなことはしない。これがこの職業の伝統だ。

現れたのは体重150キロはあろうかという男だった。
男はコレステローレファミリーの頭領のドン・コレステローレだった。
ドン・コレステローレは2階まで階段を上っただけでフーフーと言い汗をかいていた。
俺はドンに要件を訊いた。

なんでもドンはパスタの食いすぎで体重も血圧も心臓も尿酸値も危険な状態になっていて、食生活を変える必要に迫られているということだ。
そこで俺に缶詰を使ったヘルシーフードを作れということだった。
断る理由は無い。ドンに貸しを作るのは良い考えでもある。俺は仕事を引き受けた。
ドンはフーフー言いながら階段を下りて帰っていった。

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まずはヘルシ-フードを選ぶことから始めなければならない。ヘルシーフードといえばジャパニーズだ。
俺の依頼人であるタナカサンに教えを乞うために電話をした。

「え?へるしふうど?オーオー、日本食、へるしたくさんあるますよ!おすすめは一番のおからでございましょう!おから!」

オカラ?・・確か、オカラとは「手のひらトゥ・ザ・サン」という日本の歌に、ミミズやアメンボと一緒に登場する虫のことだ。虫を料理するのはなるべく避けたいのだが・・俺は恐る恐るタナカサンに訊いた。
「それは虫のことデスカ?」
「ノーノー、それはオケラ!オケラではなく、オカラです。オ・カ・ラ」

そういうとタナカサンは俺に豆腐屋を紹介してくれた。
「ポークストリートにジョニー・ザ・ハンサムと言うトーフショップがあるから、そこに行くことがイイデス。私がデンワしてくれます。OK?」
なんでも男前ジョニーは京都で豆腐作りを修業した、この国には数少ない豆腐のプロフェッショナルだそうだ。
と、いうわけで次の日にジョニー・ザ・ハンサムトーフショップに行くことになった。

次の日に男前ジョニーに会いに行った。ジョニーは疑り深そうな小さな目をしたセントバーナード犬のような男で、ハンサムとはほど遠いウォルター・マッソウに似た男だった。
彼はオカラを分けてくれながらオカラの作り方を知っているのか?と俺に訊いた。
俺は素直に知らないというと、ジョニーは作り方を教えてくれた。親切な男だ。本当のプロには親切な奴が多い。

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なんでも、オカラは豆腐を作る過程でできる残滓であり、豆乳の絞りかすのことだそうだ。
しかし栄養価は高く、腹持ちも良いのでダイエットには非常に良い食品であるそうだ。

日本の伝統的な高級レストランで出されるようなオカラは非常に手が込んでいるが、普通は調理法はいたって簡単で、干しシイタケや油揚げやニンジン、長ネギ、等の野菜と一緒に炊くだけで出来上がる。

昔はパラパラになるまで煎り付ける調理法が普通だったが、あまりパラパラだと年寄や幼児は吸い込んで肺炎を起こす場合があると指摘され、現在給食等ではしっとりと仕上げるように決められているところも多いそうだ。

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まずは野菜の煮物を作る。もし野菜の煮物の残りものがあればそれを使えば良い。

今日使うのは牛蒡・人参・長葱・蒟蒻・舞茸・・・それに昆布。

柔らかくなるのに時間がかかる順番に煮ていくことにする。
まずは牛蒡だ。牛蒡は酒・砂糖・醤油・ミリンと昆布で煮る。カツオ出汁は使わない。昆布だけでも十分美味く出来上がる。

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時間を追って具材を足してゆく。
柔らかくなったら少々煮詰めて鍋のまま冷ます。この冷ますときに味は良く染み込むので必ずゆっくりと冷まさなければならない。

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煮るのに使った昆布は、小さく切ってもう一度鍋にいれて煮詰める。これがウマイ!

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全部を細かく切る。どうせ自分が食べるのだからテキトーでいいや・・・てのはいけない。どんなときでも全力を尽くさなければいけない。尽くさなければ料理をする価値はない。

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最初にごま油で軽く長葱を炒める。
そこへオカラを入れて、市販のそばつゆや砂糖、ミリン、醤油を少しずつ入れながら炒める。
オカラはなかなか味が均等に馴染まないので、味を見ながら気長に炒りつける。
ここで自分の好みの味に仕上げていくのが料理の醍醐味だ。

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薄く味が馴染んで来たら具材を投入し、よく混ぜながら炒る。
今回は最後にもう一つ入れるものがあるので薄味で仕上げた。
仕上げの時にゴマ油を少し掛けてやる。

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とっておきの具材は日本の秋刀魚の缶詰。こいつは日本では非常にポピュラーな缶詰だそうだ。
妙な添加物も入っていないし、脂も少ない。本当にヘルシーな缶詰だ。

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これを缶に残った調味液を掛けながらスプーン等で混ぜる。

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なぜか、かすかだがウナギの蒲焼のような味がするのが不思議だ。

以上のことをジョニー・ザ・ハンサムが教えてくれた。

さっそく作ってドン・コレステローレのところに持って行った。
ドンのイタリア料理の店にはファミリーの若い奴らが屯していた。
全員100キロ超えの男たちだ。
ドンは一口食べると目を輝かせ、若い連中にも食べさせた。

そんなわけでドンは大変喜んで、日本から秋刀魚の缶詰を大量に輸入して、俺にオカラレストランをやらないかと誘いをかけてきたが、俺は断り、代わりにジョニー・ザ・ハンサムを教えてやった。

この料理、実はオカラを作らなくてスーパーで買ってきてもそこそこ美味いのができるので、タンフニーノにも教えてやろうかと思う。とにかく、今回もなんとか依頼を完了した。

おれも中年を通り越したし、そろそろウィスキーを止めて、オカラと日本酒に替えた方が良いのかもしれない。
俺はそう考えながら窓際に立ってウィスキーを呑んでいる。 

 


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