缶詰が好きです

以前のプロバイダーが閉鎖になるので、Gooブログに引っ越してきた、缶詰が好きな、ダメ料理人のブログです。

太平洋の向こう側

2022年07月24日 | 固ゆで料理人
「太平洋の向側 3」  固ゆで料理人
  Chapter3 深夜プラス缶  Part1

二人は
「サバ?」
「サバ ヴィアン」
フランス語も日本語も解からない俺には理解ができない冗談で、二人で何度も笑っている。
国は違っても、子供じみた冗談は何度も繰り返しても可笑しいらしい。

「サヴァ・ビア~ン!ハハハハハ・・・」

まあ、仲良きことは美しきこと哉だ。

タナカサンはドロテを連れて、日本の水産加工船「コバヤシ丸」の船長に会いに行くことにした。
タナカサンは船長と知り合いなので、彼女を連れて行き、彼女がカンドーしたのが日本のサバカンかどうかを確かめに行くことになった。
タナカサンは何故かとても楽しそうだった。
大方の日本人男性は、美少女キャラが好きなのかもしれない・・・俺には理解するのが難しい趣味だ。

二人は
「そうですか、ドロテさん、貴方は竜巻に巻き込まれたですか。」
「ウィ、竜巻で目的地が変わります。」
「昔々、私は読みました。カンザス州で竜巻に吸い上げられて、知らない土地で案山子を作ったり、機械油を街角で売ったり、ライオンの飼育をしたりして何とか故郷に歩いて帰った少女の旅のドキュメンタリーを。」
「それはかわいそうなハナシですね・。」
「そうですね・・・あなたはその人よりラッキーです。なんと言ってもその女の子のハナシは前世期の初期の物語なのですから・・・。」

そうしゃべりながら二人はタナカサンの前世紀初期の英国車で波止場に向かった。

タナカサンがなんでこんな古い車に乗っているかと言うと、これはドン・コレステローレの親父さんが使っていた車を譲り受けたからだ。
ドンはサンマ缶とオカラのダイエットレストランが大当たりしたので、御礼にこの車をタナカサンに譲った。
ドンの親父さんの先代のドン・コレステローレはこの車をイタリアに行った際に現地の足用に購入し、そのまま気に入ってアメリカまで持って来たそうだ。

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俺はドン・コレステローレに今度の仕事の終了の電話をするために、一度事務所に帰ることにした。
電話を入れて、全て終わりだ。
それから朝食を摂ろう。

事務所に帰り、机に腰掛けて机の上の電話を取り上げる。電話をするときはデスクに腰掛けるのが俺の仕事の伝統だ。
ドンの電話をすると、後でかけ直すとのこと。
俺はドンからの電話を待ちながら何か朝食になりそうなものを探す。

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着替えやら歯ブラシやら銃やら弾やらを入れたバッグに、今回の仕事で貰ったJapanese秋刀魚の缶詰があった。
これでサンドウィッチでも作ろう。

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秋刀魚の缶詰と玉ねぎはとても良く合う。これは本当だ。あまり見た目は良くないが、玉ねぎと炒めてもウマイ。

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玉ねぎ、レタス、マヨネーズが基本だが、秋刀魚の味だけでサンドウィッチを作ると味が薄いので、マスタードやオリーブオイル、ビネガーなんかも少し使うのが美味い。ドレッシングなんかを使えば楽だ。
醤油系のドレッシングなんかもとても合う。

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オーブントースターで軽く焼いてもウマイが、ホットサンドウィッチメーカー等で焼いてやると尚ウマイ。
又、これを焼き鳥缶や牛の大和煮缶で作ってもウマイ。

野菜が多目のサンドウィッチはウマイ。この国には美味いものは少ないが、色々な野菜の入ったサンドウィッチは凄くうまい。
サンドウィッチを一齧りしたところで電話が鳴った。

呼び出し音が3回鳴ったところで受話器を取り上げる。何故そうするのか今となっては思い出せないが、俺はいつも3つ数えてから電話を取り上げることにしている。

「おい、気をつけろ」
電話の向こうのドンが言った。
「今、カンザスの仕事に一緒に行ったハーヴェイから電話があって、奴は狙われたそうだ。」
「誰に?」
「狙ってきたのはコウ兄弟の弟の方のコウ・ケツアツだったそうだ。」
「兄貴のニョウサンの仇討ちか?」
「多分そんなところだろう・・・このままで済ましちゃ連中のメンツが立たないからな・・」
「ジョニーたちは大丈夫なのか?」
「ああ、うちの兵隊たちを護衛に付けている。」
「ならひとまず安心だが・・・・」
「なにかあったら連絡を取る。携帯を持ち歩けよ!・・じゃあな。」
「ああ・・・。」

携帯も重要だが、ワルサーも大事だ。
俺はこれからどんなときにも足首に括り付けておかなければならないヘル・ワルサーの作った芸術品に弾を込めながら、今回のカンザス行の仕事を思い返した。

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依頼の電話が鳴ったのは、もう1週間も前のことだった。

太平洋の向こう側2

2022年07月24日 | 固ゆで料理人
「太平洋の向側 2」  固ゆで料理人
Chapter 2 日本缶詰の謎

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おや、これはオレンジの缶詰じゃないか?
俺は彼女に訊いた。
彼女が言うには魚の缶詰と一緒に貰ったオレンジのシラップ漬け缶詰の空き缶だという。
魚の空き缶は竜巻の中でなくしてしまったそうだ。

俺は教えた。
「これはアメリカの缶詰ではない。これはジャパンの缶詰だ」
ドロテが訊きかえした。
「ジャポネ?」
「そうだ、ジャパニーズ、ジャポネだ」
俺はちょうどポケットに入っていたアメリカ製のスパム缶を見せながらさらに説明した。

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先ず、明らかに字が違うことは判るだろう。
そして、アメリカの缶詰の表記内容は多分消費期限の日時を書いてあるということが想像できる。
記号の意味は解からないが、Oがオレンジを指していることだけは判る。そしてこの大きさの文字はサンマの蒲焼缶詰を大量に運んだ俺には馴染みの文字だ。

ジャポネの缶詰は字も大きく見やすく、内容も判り易い。
それに比べて、俺の知っている限りではアメリカンもフレンチもイングリッシュもイタリアンも、表記の内容はは良くわからないし文字が小さい。だから俺はジャポネの缶詰とすぐに判ったのだと彼女に説明した。
彼女は俺の説明を聞いてしばらく黙り込んでいた。

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バスはちょくちょく荒野の真ん中のような場所にある小さな停車場に止まる。

俺はなんとなく昔読んだラフカディオ・ハーンの「停車場にて」と言う短編を思い出していた。
これはハーンが目撃したことを文章にしたらしく、小説ではないらしいが、妙に心に残る短編だった。
尤も、小説の停車場は鉄道だったが・・・。

バスが停車場に止まるごとに乗客は増え、車内は混んできて席が少なくなったので、自然にドロテは俺の隣の席に移って来て、一緒にわが祖国を見ていた。

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何かを思いつめていた彼女が唐突に口を開いた。
「日本の缶詰のこと、知ってる人、知ってますか?」
俺は答えた。
「ウィ、知っている。ムシュー・タナカと言うジョポネを知っているから、紹介しよう。」
彼女は安堵した表情を浮かべると、又わが祖国を目に焼き付けることに精を出し始めた。
色々あるが、俺の国もナカナカのモノだ。

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俺も又無言でフロントガラスの向こうを見続けた。
いつしか地平線まで雲が伸びてきた。
その向こうには太陽が沈みかけている。
路は雲を抜け太陽までまっすぐに伸びている。
バスの運転手が低い声で古いカントリーウェスタンを口ずさんでいた。
ヘタな歌だが聴くとは無しに聴いてしまう。
もうじき恋人がカリフォルニアからコロラドへ帰ってくるという歌だ。俺たちとは逆の方向だな。
なんにせよ、もうじき俺も「ホーム」に帰れる。

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ホームタウンについた。
すぐに事務所に入り荷物を降ろす。
そしてムシュー・タナカに電話をして明日会うことにする。
向かいの安宿は今日も空き部屋有りと看板が出ている。
彼女にこのホテルを紹介し、明日一緒にTANAKA-SANに会うことにした。

彼女をホテルまで送り、一人でホテルを出ると「空室有り」の看板が「満室」に変わった。
どうやら最後の空室だったようだ。今日は火曜日。火曜日は俺のラッキーデイ。
今日の幸運は最後の空室だったようだ。

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翌朝、ケーブルカーに乗ってタナカサンに二人で会いに行く。
彼女はケーブルカーが気に入ったようだ。
尤もこの街でケーブルカーが気に入らない外国人なんて居るわけがないが・・。

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Mr.タナカに会うと、早速表記の説明を始めてくれた。

ジャポネの缶詰の表記は品目・調理法、形態、製造年月日、生産工場の表記であり、OMYのOM部分は、品目。この場合はミカンを表し、後ろのYは形態、この場合はシラップ漬けを表す。因みにシラップとはシロップ、またはサイラップのことだ。どうしてか判らないが、缶詰関係ではシラップと発音され、表記されるのが決まりだそうだ。

さて、もしこのOMYの末尾のYがKであたったら、この缶詰はミカンの蒲焼ということになる。そんな製品はあり得ないからエラープリントと言うことになる。
日本の品質管理ではエラープリントは殆どあり得ないが、缶詰めファンの間では、ミカンの蒲焼とかニシンのジャムのようなエラープリントが見つかった場合、缶詰コレクターの間では切手の様に珍重され、高額で取引されているという話もたまに聞く・・が・・真偽は定かではない。

と、言うことだった。

さて、缶詰の表記については勉強になったが、ドロテのカンドーした魚の缶詰が何かは依然として判らない。
そこでタナカサンはドロテに訊いた?

「缶に書いてあるところの文字で、貴方、覚えている字、ナニでございますか?」
俺はMr,タナカの声が何故か上ずっているのに気が付いた。
ドロテはちょっと子供っぽいが、良く見るとなかなか可愛い。昔の歌手のダニエル・ビダルに似ている。
日本人はこういう感じの女の子が好きなのかもしれない。

ドロテが答える。
「オオ、字ですね~、ソウですネ~・・・・MKと言うのがあったと覚えておりますネ~」
「そうなんですね~・・・MK!MKですか!・・・ソレ、マッケラルです!サバです!多分サバの水煮です」
なにやら二人の会話は英語で無いように聞こえるが、これも英語なのだ。英語が世界標準の言語であることに間違いは無さそうだ。
「MKはサバの缶詰でございますネ!」
「サヴァ?ヴィアン!サヴァビアン!」

俺は、フランス語が話せるわけではないが、何故かこの二人の会話がここに進んでいくような気がしていた・・・そしてその通りになった・・・トレ・ヴィアン!

ここまで判ればあとはカンタン。
丁度波止場に日本の魚加工船「小林丸」が停泊中だという。
タナカサンは船長と知り合いなので、後で船に彼女を連れて行き、ドロテのカンドーしたのがサバカンかどうかを確かめに行くことになった。
タナカサンは何故かとても楽しそうだった。

しかし、俺の仕事はここまで・・・・だと思ったのは大間違いだったことを知ることになる。

太平洋の向こう側

2022年07月24日 | 固ゆで料理人
「太平洋の向側 1」  固ゆで料理人
Chapter 1 Strangers on the Bus 

いつもの様に窓辺に立ってスコティッシュウィスキーをグラスに注ぐ。
外は暗くなってきた。向かいの安ホテルの「空室有り」の赤いネオンが俺の顔を日本製のホラー映画みたいな色に染める。
又、今夜も「呑みの時間」が来た。

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窓の外からはアメリカ製バイクの音や路面電車の音、安ホテルの玄関の前で言い合いをしている男と女の声、街角で吹いているストリートパフォーマーのサックスの音、遠くの方から銃声のような破裂音も聴こえてくる。それに毎晩この時間になると隣のオフィスから聞こえる魚の缶詰を開缶するパカンと言う音・・・何故魚の缶詰か判るのかって?それは必ず魚の匂いが流れてくるからだ。

その魚の缶詰の匂いがこの数日間の事を思い出させる。

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その日、俺はこの街から2000マイルほど離れたカンザス州ウィチタで帰りのバスを待っていた。
バスで帰るには2日くらいかかる距離だが、俺は高いところが嫌いなので仕方がない、俺が高いところが嫌いなのは赤ん坊の頃乳母車から落ちたとか、その類の体験に依るような気がするのだが・・・原因は判らない。
多分、ただ高い場所が嫌いなだけなのだろう。

それに仕事で使った銃も何丁か持っているので、どちらにせよ飛行機は使えないし、自分の車やレンタカーを使って移動するには中西部は危険だ。
何 と言っても危険なのは小さな郡や町の保安官達で、他州ナンバーを見つけては難癖をつけて罰金と言う名の賄賂を取り立てることが天職と思っている奴が多すぎる。
そして今持っている銃を見付けられたらどういう難癖をつけてくるか判らない。

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派手な撃ち合いになるかもしれないので、用心の為にこんな大きな奴を持って来たのだから・・・

だから俺はグレイハウンド長距離バスで俺のホームタウンに帰ることにしたのだ。

バスが休憩の為に止まる度に毎回必ずウィスキーを呑めば、帰路に二日かかるとしても、ノストロモ号のクルーのように殆ど寝たままで自分の街に帰れる寸法だ。
エイリアンがバスに侵入するとは思えないので、ノストロモよりも格段に安全でもある。

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そんな訳で、俺はバスディーポーでウィスキーを呑みながら今回の仕事のことをボンヤリと考えていた。

そもそも仕事の始まりはドン・コレステローレの依頼だった。

以前俺がドン・コレステローレに紹介し、今はドンと一緒にヘルシーフードの店を経営しているジョニー・ザ・ハンサムと言うこの国唯一の豆腐職人をカンザスまで無事に運ぶ仕事だった。
一見簡単な仕事の様だったが実はかなり危険を伴う仕事で、リーダー兼運転手役の俺の他に、元海兵隊員で拳銃での戦闘のスペシャルインストラクターだったハーヴェイと言う、ジェームズ・スチュアートに似た男も護衛に加わった。
そして護衛の対象であるウォルター・マッソウに似た「男前のジョニー」、それとジョニーの会計士でやたらと神経質なフェリックスと言う男。

俺たちはドン・コレステローレのシトロエンを使い、陸路カンザスへ行くことになった。
ジョニー・ザ・ハンサムとフェリックスの他に、日本から届いたばかりの秋刀魚の蒲焼缶詰を数ケース。これはアメリカ向けSANMA TERIYAKIと書かれた新製品だ。
それと俺の頭の中にある秋刀魚の蒲焼缶詰めを使ったオカラ料理のレシピ、それに新作の秋刀魚の蒲焼を使った炒り豆腐のレシピ。

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これはこの国で入手しづらいオカラを止めて、硬く絞った豆腐を炒って使うレシピだ。
ジョニー・ザ・ハンサムは、このレシピの為のオキナワ風の硬い豆腐を作りに来た。そして豆腐工場作りに来た。
海のないカンザスにこの手のレストランを開き、そこを拠点にしてヘルシーフード帝国を広げるドン・コレステローレの作戦は良いアイディアだ。
今この国のヘルシーフードはビッグビジネスになろうとしている。

そこでドンの商売に目を付けた他のファミリーがこの職人ごとこの秋刀魚缶とレシピと豆腐工場を奪おうとしているという。

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シトロエンはドンの車として名の知れたヴィンテージカーであり、一般人は羨望の眼差しでこの車を見るし、ストリートギャングのような雑魚の悪党はこの車を見ただけで震え上がり、ケチなカージャックなんて思いもよらなくなる。
つまり余計な仕事を省いて、本物の襲撃者だけに準備、対応すれば良くなるという訳だ。
余計なチンピラに対応して大事な弾を減らすのも御免だしな。

又、車は囮で、実はチャーター機で空路を往くと言う偽情報を流し、敵を混乱させることにした。日本の狂言師ではないが・・ヤヤコシヤ~ヤヤコシヤ・・・・

そんな訳で色々あったがなんとか仕事をやり終え、ウィチタで解散した俺たちはそれぞれの帰路についたわけだ。

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ここウィチタのバスディーポーも、各地のバスディーポーの例に漏れず中は安全、外は危険な場所だ。別に無駄に危険な場所にいることもないので、ディーポーの中の待合室でヒップフラスコに入れたバーボンウィスキーを呑む。
パブリックな場所でも飲酒は禁じられていると思うが、カンザスの法律を知らないので取り敢えず呑む。どうも俺の人生は取り敢えず呑むが多すぎるような気がするが今更直す気もない。

待合室で呑んでいると、そばにいた女が声をかけてきた。なんでも西海岸に行くのだが、自分は外国人で、このバスで良いのかどうか、そして、正しいバスに乗ったとしてもどこで降りるか自信がないそうだ。
その気持ち、良く判る。
俺は外国人ではないが、この国の交通機関は非常に判りづらい。
俺も乗ったバスが無事に西海岸につくか、それともジョージ・ベンソンのようにブロードウェイについてしまうか心配なのだと女に言った。
彼女は意味が解らなかったようだ。俺は「忘れてくれ」とつまらない冗談を打ち消して、兎に角行く方向は一緒だから付いて来れば良いと言った。

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バスに乗ると何故だか心が弾んだ。仕事を終えて懐が温かくなったからではなく、バスに乗ったことが何故か嬉しかったのだ。
長距離バスは駅馬車の時代から続くこの国の象徴の一つだ。俺は自分でも気が付かないうちに、このバスに乗って、この国の国民だと確認することを望んでいたのかもしれない。

俺は寝るのを止めて、子供のように一番前のシートに座り、フロントガラスからこの国を見ることに決めた。何処までも変わりのない中西部の風景を、何時までも見続けてしっかり目に焼き付けておこうと決めたのだ。
その瞬間、俺と子供との違いはウィスキーだけかもしれない。

ここからの乗客は俺と外国人の女の二人だけ。
席を隣にしなかったが、なんとなく話をするようにはなるシチュエーションになった。
おれは彼女に交換殺人の依頼をしようかと思ったが、冗談が通じにくい相手であったことを思い出して止めた。

彼女の名前はドロテ・・・ラストネームは俺には発音できない。
ドロテはフランス人だそうだ。
彼女の故郷は魚と羊で有名なノルマンディー地方の出身だそうだ。
ある日、ドロテはアメリカ人にラベルの剥がれてしまった魚の缶詰を貰った。
ノルマンディーには非常に美味しい魚の缶詰のメーカーがあり、彼女はそれ以上に美味しい缶詰がある訳がないと思いつつ、試しに食べてみたところ、あまりにも美味しかったことに感銘を受けて、その缶詰を探しにアメリカに来たのだが、東海岸を探し廻ったのだが結局見つからず、南ダコタまで来て、大統領達の顔を見ているときに突然竜巻に巻き込まれ、ここカンザスまで飛ばされてきたそうだ。

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俺は昔、カンザスで竜巻に巻き込まれてどこか知らない国へ飛ばされて、案山子を作ったり、ライオンの飼育をしたり、油さしを売り歩いたりと、非常に苦労をして生きて抜いた女性のドキュメンタリーを読んだような気がするが・・・中西部は竜巻で飛ばされる事故が多いらしい。
だから彼女が南ダコタから竜巻に乗ってここまでやって来たと言うことを俺は信じた。別に疑う理由も無いわけだしな・・。

俺が窓の外に見入っていると、彼女が話しかけてきた。
「貴方はこの国で一番美味しい魚の缶詰を知っていますか?また、それはなんという缶詰ですか?」
なにやら辞書のようなものを引きながらの質問で、非常に文法的に正しい質問だ。
俺は答えた。
「No」
この言葉はどんな外国人にも通じる。
彼女はがっかりした顔をした。
この国では良い魚は獲れるが、良い調理法が無いのだと教え、良くは判らないがシアトルの方に行ってみたらと薦めた。

彼女は落胆した様子でシートにドサッと腰掛けるとバッグから空き缶を取り出した。
俺は何気なくその缶を見た。

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おや、これはオレンジの缶詰じゃないか?
俺は彼女に訊いた。
彼女が言うには魚の缶詰と一緒に貰ったオレンジのシラップ漬け缶詰の空き缶だという。
魚の空き缶は竜巻の中でなくしてしまったそうだ。

俺は教えた。
「これはアメリカの缶詰ではない。これはジャパンの缶詰だ」・・と。

                   続く
 

缶詰が好きです

2022年07月24日 | 固ゆで料理人
「臆病者のスープ」  固ゆで料理人
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久しぶりに自分の街を海の上から見た。
湾内は一年中寒く、小さなボートの上で人を待つ仕事は辛い。

今日の仕事は湾内の島に男を迎えに行く仕事だった。
正確にはイギリス人だかスコットランド人だかを島の東の沖1.6キロの位置でピックアップする妙な仕事だった。
泳げない俺は、普通はこんな仕事を引き受けることは無いが、その男はグラハム・カーの紹介だと言っていた。。
俺には友人が少ないから、友人は大切だ。だから仕事を引き受けることにした

島は昔は刑務所島だったが、とっくの昔に刑務所は閉鎖され、観光客向けのホテル島になった。
だが、いつしかそこも寂れ廃業してしまった。
今では無人の島になっている筈だ。
ソフィア・ローレンがイルカの置物を売っていたり、ローレン・バコールが安宿を経営しているような島ではない。只コンクリートの残骸があるだけの島だ。

その島の東の指定された所に5時間待つと、突然海から泡が立ちマスクをした男が上がってきた。
俺は男がボートに上がるのに手を貸した。

男は礼を言った。発音から多分スコットランド人だろうと見当をつけた。
男はダイビングスーツを脱ぐと、その下には白のタキシードを着ていた。
不思議な格好をした男だと思ったが、俺もボートの上でトレンチコートを着ているのだからお互い様か。

俺は指定された場所にボートを付けると、男はボートから降りて、どこからか取り出した真っ赤なバラを襟にさすと、海岸で開かれていたパーティーの会場へ消えて行った。

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事務所に帰り、ベルトから38口径を外してテーブルの上に置く。そしてそのまま自動的にウィスキーを注ぐ。

今頃あのスコットランド人は冷えたマティーニでも呑んでいるのだろうが、俺はいつもの通り窓際に立ってスコティシュウィスキーを呑んでいる。
昔、スコッチウィスキーと言って、スコットランド人に怒られたことがある俺は、スコティッシュウィスキーと呼ぶことにしている。

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事務所の向かいの安宿は、今日も部屋が空いている。
俺はラジオを点けた。
女の声で「貴方はどのタイプ?」と訊いている。
俺はどのタイプだろう・・・・友達のいない淋しいタイプか?
おれはしばし自分のタイプを考えた。思い浮かべる俺のタイプはどれも人生に対して否定的なものだった。
そのうちラジオの声が「熱・頭痛タイプあなたには、赤い・・・」
風邪薬のCMだった。

そういえばどうもフラフラする。海上に5時間も居たから風邪を引いたのかもしれない。
あのイギリス人は拳銃を持ってこいと言ったが、風邪薬を持ってこいとは言わなかった・・あいつがワルイ。
俺は人のせいにするタイプだ。

さてこんなときどうするか・・・冷えて風邪をひいたら、昔からチキンスープ飲むと決まっている。
気が弱くて心優しいタイプの俺には似合ったスープと言える。
*訳者注:チキンには臆病者、弱虫の意がある。

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俺はさっそくキャンベルチキンヌードルスープを探したのだが、この前食べてから補充をしていなかった。
だからと言ってここで諦めることはない。どうやら俺は不屈のタイプのようだ。

おれは以前ミスタータナカに貰った日本製のチキンの缶詰を思い出した。謂わばサムライチキン・・・どうも矛盾する呼び名になってしまった・・。

兎に角タナカサンに貰ったチキンの缶詰と、以前買った日本製のフィッシュスープの粉末を使ってチキンスープを作ることにした。

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他に冷蔵庫の片隅に引きこもっている野菜たちを引きずり出す。いつもは引きこもった野菜が多いのに、今日に限ってあまりいない。

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ようやっと見つけたヒッキーはこれだけ・・・・だがこれで充分。

なんだか体がフラフラしてきた。熱が出てきたのかもしれない。
兎に角手っ取り早く仕上げてスープを飲もう。

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カップ1杯くらいの湯を沸かし、粉末のスープの素を溶かす。
このスープの素は無添加であり、缶詰も基本的に無添加なので無添加の食品が出来上がる。
缶詰は添加物が発明される以前の食品保像法であり、従って保存料を基本的には使わないで済むのである。そこが缶詰の良いところなのだ。

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次に缶詰を投入。調味液も必ず入れる。
フィッシュ系のスープとチキン系スープのダブルスープだ。
ところでWスープと表記するのは違うのではないだろうか?Wと言う字はダブル・ユーと発音する。つまりDouble・U・・・Uが二つの意味だ。
だからすでにUが2重と言う意味の字を使って、2重の意味とするのは間違っていると思う。だからDoubleスープと表記しなければいけない筈だ・・・俺は細かいタイプかもしれない。

湯が沸いてから5秒経過。

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缶に残った調味液を無駄にしてはいけない。缶に湯を注いで残った調味液を溶かして鍋に入れる。こうすれば缶も綺麗になり、空き缶を捨てるときに洗う手間も省ける。ワンショット・トゥーバーズと言うやつだ。

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薄く小口に切った野菜を投入。
ここまで10秒。
野菜が柔らかくなるまで1分くらい煮るが、人参等の硬い野菜を入れなければその必要も無い。
最後に溶き卵を入れて蓋をして火を止める。

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湯が沸くまでに野菜を切っておけば、湯が沸いてから1分30秒で出来上がる。アラン・ラッドの抜き打ち並みに速くできる。

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仕上げに塩でも醤油でも、或いは味噌でも入れると良いだろう。
又少し味を濃く仕上げてライス等を入れても良い。

結局今日は窓際でスコティッシュウィスキーを止めて、ジャパニーズチキンスープを呑むことになった。

体の内側から温めれば体の外側も温まるという。チキンスープは風邪の引き始めには良さそうだ。普通に美味いチキンスープ。独り者の俺が熱を出しても簡単に作れる。これはお奨めだが・・これで冷えた心が温まればもっと良い・・・・。

海の方から大きな爆発音が聞こえてきて、花火が上がったように明るくなった。
ラジオではテロリストグループが壊滅されたようなことを言っている。
あのイギリス人がキチンと仕事をしたのだろうか?ま、俺には関係のないことだ。
俺は不精なタイプなのだ。

スープを呑みながら窓の外を見ると、今夜もホットドッグとシュガーポットを両手に掴んだ男が走っていく。その後からソフト帽を被ったリチャード・ウィドマークに似た刑事が追いかけていく。

今夜もいつもと変わらない寒い夜だ。
この街の夜は冬も夏も寒い。
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缶詰が好きです

2022年07月24日 | 固ゆで料理人
「UNOHANA ー卯の花ー」  固ゆで料理人
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ダイエット道場から逃げ出した娘を探す仕事がきた。逃げ出した犬を探すよりは楽な仕事だ。
娘を見付けて、彼女が食べようとしていた巨大ハンバーガーを取り上げ、低カロリー食を薦めて、親に引き渡し、料金を貰う。
ついでに腹を減らした娘から怒りの膝蹴りも貰った。
俺の仕事は危険に満ちている。

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窓の外から車の音や路面電車の音、向かいのホテルの玄関の前で言い合いをしている男と女の声。今夜も時間潰し達が街に這いずりだして来て互いに時間潰しを手伝いあうのだろう。
今夜の俺は懐も温かいし、たまには這いずりだして街で呑みたいが、人に言えない場所を蹴られてまだ痛みの引かない俺は、いつものように向かいの安ホテルの看板を見ながら一人でウィスキーを呑むことにした・・・・ラジオからはお気に入りの「クレモンティーヌ」の唄が流れている。結局今夜もこの窓際で潰れるまで呑むことになる・・・これでいいのだ・・・ボンボン。

3杯目のウィスキーを注いだところでドアベルがチリンと鳴った。
今日は火曜日・・火曜は俺のラッキーデイ・・・また仕事がやって来た。
デスクに向かって腰を下ろし、持っていた酒を引き出しにしまい、依頼人のことを待つ。
俺たちの仕事は依頼人を出迎えるようなことはしない。これがこの職業の伝統だ。

現れたのは体重150キロはあろうかという男だった。
男はコレステローレファミリーの頭領のドン・コレステローレだった。
ドン・コレステローレは2階まで階段を上っただけでフーフーと言い汗をかいていた。
俺はドンに要件を訊いた。

なんでもドンはパスタの食いすぎで体重も血圧も心臓も尿酸値も危険な状態になっていて、食生活を変える必要に迫られているということだ。
そこで俺に缶詰を使ったヘルシーフードを作れということだった。
断る理由は無い。ドンに貸しを作るのは良い考えでもある。俺は仕事を引き受けた。
ドンはフーフー言いながら階段を下りて帰っていった。

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まずはヘルシ-フードを選ぶことから始めなければならない。ヘルシーフードといえばジャパニーズだ。
俺の依頼人であるタナカサンに教えを乞うために電話をした。

「え?へるしふうど?オーオー、日本食、へるしたくさんあるますよ!おすすめは一番のおからでございましょう!おから!」

オカラ?・・確か、オカラとは「手のひらトゥ・ザ・サン」という日本の歌に、ミミズやアメンボと一緒に登場する虫のことだ。虫を料理するのはなるべく避けたいのだが・・俺は恐る恐るタナカサンに訊いた。
「それは虫のことデスカ?」
「ノーノー、それはオケラ!オケラではなく、オカラです。オ・カ・ラ」

そういうとタナカサンは俺に豆腐屋を紹介してくれた。
「ポークストリートにジョニー・ザ・ハンサムと言うトーフショップがあるから、そこに行くことがイイデス。私がデンワしてくれます。OK?」
なんでも男前ジョニーは京都で豆腐作りを修業した、この国には数少ない豆腐のプロフェッショナルだそうだ。
と、いうわけで次の日にジョニー・ザ・ハンサムトーフショップに行くことになった。

次の日に男前ジョニーに会いに行った。ジョニーは疑り深そうな小さな目をしたセントバーナード犬のような男で、ハンサムとはほど遠いウォルター・マッソウに似た男だった。
彼はオカラを分けてくれながらオカラの作り方を知っているのか?と俺に訊いた。
俺は素直に知らないというと、ジョニーは作り方を教えてくれた。親切な男だ。本当のプロには親切な奴が多い。

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なんでも、オカラは豆腐を作る過程でできる残滓であり、豆乳の絞りかすのことだそうだ。
しかし栄養価は高く、腹持ちも良いのでダイエットには非常に良い食品であるそうだ。

日本の伝統的な高級レストランで出されるようなオカラは非常に手が込んでいるが、普通は調理法はいたって簡単で、干しシイタケや油揚げやニンジン、長ネギ、等の野菜と一緒に炊くだけで出来上がる。

昔はパラパラになるまで煎り付ける調理法が普通だったが、あまりパラパラだと年寄や幼児は吸い込んで肺炎を起こす場合があると指摘され、現在給食等ではしっとりと仕上げるように決められているところも多いそうだ。

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まずは野菜の煮物を作る。もし野菜の煮物の残りものがあればそれを使えば良い。

今日使うのは牛蒡・人参・長葱・蒟蒻・舞茸・・・それに昆布。

柔らかくなるのに時間がかかる順番に煮ていくことにする。
まずは牛蒡だ。牛蒡は酒・砂糖・醤油・ミリンと昆布で煮る。カツオ出汁は使わない。昆布だけでも十分美味く出来上がる。

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時間を追って具材を足してゆく。
柔らかくなったら少々煮詰めて鍋のまま冷ます。この冷ますときに味は良く染み込むので必ずゆっくりと冷まさなければならない。

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煮るのに使った昆布は、小さく切ってもう一度鍋にいれて煮詰める。これがウマイ!

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全部を細かく切る。どうせ自分が食べるのだからテキトーでいいや・・・てのはいけない。どんなときでも全力を尽くさなければいけない。尽くさなければ料理をする価値はない。

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最初にごま油で軽く長葱を炒める。
そこへオカラを入れて、市販のそばつゆや砂糖、ミリン、醤油を少しずつ入れながら炒める。
オカラはなかなか味が均等に馴染まないので、味を見ながら気長に炒りつける。
ここで自分の好みの味に仕上げていくのが料理の醍醐味だ。

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薄く味が馴染んで来たら具材を投入し、よく混ぜながら炒る。
今回は最後にもう一つ入れるものがあるので薄味で仕上げた。
仕上げの時にゴマ油を少し掛けてやる。

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とっておきの具材は日本の秋刀魚の缶詰。こいつは日本では非常にポピュラーな缶詰だそうだ。
妙な添加物も入っていないし、脂も少ない。本当にヘルシーな缶詰だ。

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これを缶に残った調味液を掛けながらスプーン等で混ぜる。

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なぜか、かすかだがウナギの蒲焼のような味がするのが不思議だ。

以上のことをジョニー・ザ・ハンサムが教えてくれた。

さっそく作ってドン・コレステローレのところに持って行った。
ドンのイタリア料理の店にはファミリーの若い奴らが屯していた。
全員100キロ超えの男たちだ。
ドンは一口食べると目を輝かせ、若い連中にも食べさせた。

そんなわけでドンは大変喜んで、日本から秋刀魚の缶詰を大量に輸入して、俺にオカラレストランをやらないかと誘いをかけてきたが、俺は断り、代わりにジョニー・ザ・ハンサムを教えてやった。

この料理、実はオカラを作らなくてスーパーで買ってきてもそこそこ美味いのができるので、タンフニーノにも教えてやろうかと思う。とにかく、今回もなんとか依頼を完了した。

おれも中年を通り越したし、そろそろウィスキーを止めて、オカラと日本酒に替えた方が良いのかもしれない。
俺はそう考えながら窓際に立ってウィスキーを呑んでいる。