数奇な人生を送った王妃たち。
殷の妲己、ローマ帝国のアグリッピナ、フランスのマリー・アントワネット、清の西太后ービッグネームが並ぶ。
中でもカトリーヌ・ド・メディシスの人生は壮絶である。
フィレンツェの大富豪メディチ家に生まれるが、すぐに両親が他界。
幼い頃より政争に巻き込まれて修道院に閉じ込められたり、市中を引き回されて見世物にされたりした後、
フランスはヴァロワ朝の王子(後のアンリ二世)に嫁ぐ。
そして、夫の愛人問題などでさんざんな目に遭う。
やがて王妃になるが、王は馬上試合の傷がもとで落命。
彼女の生んだ王子も次々王位に就くが、いずれも天珠を全うできずに王朝は断絶。
当時のフランスはカトリックとプロテスタントの激しい対立の中にあり王族も両派に分かれて抗争していた。
そうした中でサンバルテルミの大虐殺が起こり、数千人とも数万人とも言われるプロテスタントが殺されるが、カトリーヌはこの事件の首謀者とも言われている。
彼女は、身近に預言者を置いていた。
世界の滅亡を予言したあのノストラダムスもその一人である。
ノストラダムスは、彼女に「貴女はサン・ジェルマンのそばで死ぬでしょう」と予言していたと言われている。
フランスにサン・ジェルマンの名を持つ土地は多いが。カトリーヌは決して近づかなかった。
最晩年の死の床についたときも、自分はサン・ジェルマンから遠い地にいるから大丈夫だ、と思っていたらしい。
ところが、祈りのために司祭を彼女が病床に呼んだときに、事態は一変する。
この司祭の名前がサン・ジェルマンだったのだ。
カトリーヌはそれを聴いてすぐに絶命したという。
ノストラダムスはこの事を見通して「サン・ジェルマンのそばで」と言ったのだろう。
『マクベス』の魔女のペテンだが、この話は世界滅亡の予言よりも人間臭くておもしろい。
重厚きわまりない歴史の主役も、かくも滑稽な死を迎えるもの。そんな悲喜劇に喝采したい。
(歌人 情報科学者)