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教員沼野のwindow.今社会学の時代。Come to 広島国際学院大学「現代社会学部」.

大阪弁を言語学的に説明すると

2018-08-06 22:49:17 | その他(日誌など)
「大阪弁を言語学的に説明すると」のアウトライン
‘18/08/04 「みんなのサマーセミナー」
沼野治郎
旧大阪外国語大学(中国語科)卒、
アメリカで言語学を学ぶ

発表者の経歴
1941年上海生まれ、西宮育ち、現在高槻に住む
大阪外大(上本町八丁目)で学んだ語学好き
30代にアメリカへ留学、言語学を学ぶ(修士)
促音の言語学的分析、山口県周南方言の言語学的説明を試みた
2年間、中国ハルピンで日本語を教えた

1 なんでやねん (なぜなのだ、どうしてなのよ)   
な ん で ・・どうして、なぜ
    や  ・・指定の助動詞。「そうだ」の「だ」
 ねん  ・・指定の助動詞「や」について、断定する 
     気持ちを強める助詞。「そやねん」(そうなのだ)。 

「ねん」の語源 (「のや」の訛り。意味「・・のだ、・・のよ」) 
 のや → ネヤ → ネー  →  ネン
 noja > neja >  nej, ne: > nen
相手に柔らかく、穏やかに語りかける表現  

2 否定表現「・・へん」
例 行かへん、知らへん、書かへん
由来・変化
   行きはせぬ>行きゃせん>行かへん
 サ行音とハ行音の子音交替 s → h
 s → h の弱化
 例 おばさん > おばはん  それなら>ほな
   すみません > すんまへん
* 「きゃ」→「か」は否定が続くので未然形に   

3「・・してはる」の「はる」
有力な説
「なさる」がなまり→「なはる」
            →「な」が省略され→「はる」
「はる」の活用
 未然  連用  終止  連体  仮定  命令
 はら  はり  はる  はる  はれ (な)はれ
命令形もあるが敬語なので「なはれ」に
   → なさる > なはる、「な」の省略を支持

[s] → [h] について 
この現象は「弱化」lenition
 発声の方法、時に位置の変化を伴う
〇弱化の2種  i opening 開口
          ii sonorization
いずれも強い音から弱い音へ
〇 fricative 摩擦音 debuccalization 発声位置奥へ
   [s]    →     [h]
〇 古アイルランド語 sona(happy) -> hona

4「あかん」 例 麻薬はあかん
変化
  埒が明かぬ  →  あかぬ  →  あかん
        前半省略   akanu > akan
  語末音脱落
                        apocope  
apocope の英語例 cup of tea > cuppa tea
  photograph > photo
鎌倉三代記 「まだまだと明かぬ評定聞いて居る気はござらぬ」・・埒が明かぬとほぼ同じ意味

省略・脱落
後半省略の例   [一部で全体を表す]
 おおきに(ありがとう)
 さようなら(ごきげんよくいらしてください)
  それなら
  そうならば

5-1 えげつない  (意味: 露骨、節度を超えている) 
語源に二説、その一
 いげちない → いげつない → えげつない
  (むごい)
 上方語源辞典の説明 (新明解語源辞典が紹介)
 言葉の変化として無理のない過程で、あり得る変化?

5-2 えげつない
語源に二説、その二
 えぐい+ない→えぐっけない→えげつない 
  いやな   甚だしい 
西垣幸夫説
えぐっけない → えげつない
 この部分、音位転換(metathesis)ではないか
 例 bridd > bird, hros > horse, thridde > third
clapse > clasp, foliage > foilage, cavalry>calvary

6 よう・・せん (意味: とても・・できない)
よう [善う、良う、能う] <副>(ヨクの音便)
 下に否定の語を伴って、「とても・・できない」
   例文 わてほんまによう言わんわ
古文の「え(得)~せず」の名残り
  「人のそしりをもえ憚らせたまはず」(源氏 桐壺)
  訳 人の誹謗をも気がねなさることもおでき  にならず

7- 1 おもろい7-2 しんどい
1 おもしろい → おもろい  「し」の脱落
    例 「お前おもろいやんけ」  (相手を認める表現)

2  辛労(心労)の転
    しんろう + い (形容詞化)
    → しんろい
    → しんどい  (「ろ」>「ど」  発音の強化?)
* 類似の例 「面倒」から「めんどい」



8 語彙(二つ)
1 「なおす」、大阪弁で「片づける」
   物や人を適当な場所や位置におさめるという意味  が平安時代からあった(堀井令以知)。東京生まれ、東京育ちの夏目漱石が小説に多用。
2 「さら」、大阪弁で「新品」
  説明1 語調を整える接頭語「さ」が「あら(新)」についた。 
  説明2 「更」からきた可能性。改めるという意味がある。唐書「更新辞也」(更とは新しいという言葉なり。沼野)

 9 アクセントの特徴  (高さアクセント)    
語尾が上昇 (尻上がりアクセント)
   〇● 海、空、松、箸(←→共通語では ●〇)
 ○○● すずめ、掃除、左、うさぎ / 目が痛い
                         ○○●○○
頭高アクセント(上とは逆) 
 ●〇 山、川、夏、町、橋、犬、馬、花、月、雨、耳
中高アクセント
 〇●〇 バナナ、トマト、はしご、最後、(かぶと虫) 
* 関西方言のアクセントは「方言マーカー」、際立っている。

10 おわりに
言語の変化について
1 話し手は効率、能率性を求め、最小限の努力で疎通を図ろうとする。→音声面の簡略に向かう
 2 社会の変化、世代の交代、他地域の人々との接触により絶えず変化していく。
 3 元の形、また変化の過程がある。そして、どの方言にも個性、存在価値があって相互の間に優劣はない。

* 方言の研究にはまだまだ隙間がある(異説がある、定説がないものが割合多い)

「わて」
語源
  ワタクシ > ワタシ > ワタイ  > ワテ 
[ku] 脱落    [sh]脱落  [ai]→[e]
  母音の融合                         
〇参考例 
   たいへん > てぇへん   ・・したい > ・・してぇ
   ・・しない > ・・しねぇ    たかい(高い) > たげ(ぇ)
                              東北弁 
   おまえ > おめぇ 


子音の発声位置


橋の端を通って箸を買うてきて。
● ●●         ●     
 〇           〇     
橋の端を通って箸を買うてきて。


参考にした資料(一部):
大西拓一郎「現代方言の世界」2008年
真田信治編「方言学」2011年(その中の高木千恵「関西方言の実態」)
小学館「日本国語大辞典」1973年 
堀井令以知編「上方ことば語源辞典」1999年 
John T. Jensen, “Principles of Generative Phonology: An Introduction” 2004

アンケート
1 面白かったですか? 1)はい 2)いいえ 3)まあまあ。( 60% 50% 40%OK )
2 わかりやすかったですか? 1)はい  2)いいえ  3)まあまあ
3 1) 大阪弁に誇りを感じた  2) 大阪弁はやはり方言(おかしい) 3) どちらでもない 
4 この講座は役にたちましたか? 1) はい  2) いいえ  3) まあね
5 その他(何でも) 

 
    








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