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別冊「バビル2世」マガジン

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高橋良輔監督作品その4「太陽の牙ダグラム」~後編

2009-03-03 20:38:02 | 高橋良輔監督作品関連

高橋良輔のジレンマ

とーとつですが、現在スカパーの東映チャンネルにて、「サイボーグ009」第2シーズン作品が放映中です。
ですが、やはし面白くありません・・・解約するかなあ、東映チャンネル
何度も書いておりますが、009の第2シーズンは高橋良輔監督作品です。が、初回放送時、あまりのつまらなさに(失礼!)、私は2ヶ月くらいで見るのをやめてしまいました。
それから20年近くたって、「ガサラキ」ですっかり高橋良輔ファンになった私ですが、あらためてはっきりと申しあげます。

「太陽の牙ダグラム」よりも以前の高橋監督の作品は、私は好きではありません。好きではない、の最たるものが、009の第2シーズンなんですよ。
今見るとはっきりとわかります。ある種の諦観のもと、高橋監督が冷めた目線で小手先の技を繰り出している、ということが。
─どうやら世間はアニメブームらしい。少女ファンが目の色を変えて「009~っ!」と叫んでいる。ならばそのご期待に応えればいいんでしょ?見た目かっこいい島村ジョーを出して、少女が好きそうな恋人(003)との絡みを出せばいいんでしょ?
ま、ちゃっちゃとやりますか─こんな感じがするんですよ。

しかし監督自身は、そんな熱のない自分に忸怩たるものを感じていたはずです。それっぽいことを述懐されてますよ。「アニメーションの演出に自信が持てなくなっていた」と。
そんな折に持ち上がったサンライズの新企画は、「ガンダムとは違うものをやろうじゃないか」という熱のこもったもの。
そもそもは、おもちゃ会社がロボット玩具を売らんがために立ち上げた企画ですが、ならば思いっきりやりましょうかとなったんですな。

ガンダムはひたすらかっこいい。だったらこっちは泥臭く行こう。
宇宙空間をさっそうと飛ぶガンダムが空軍ならば、ダグラムは地を這う歩兵、陸軍で行こう。

ガンダムによってロボットアニメは新時代を迎えました。簡単に言えば、ガンダム以降のロボットは「戦争の中の兵器」となり、軍隊の中に組み込まれる存在となりました。孤高のヒーローが悪と戦うための道具、ではなくなったわけです。
その路線を踏襲しつつも、テレビシリーズ「コンバット」のようなテイストを取り入れる。これこそは、高橋監督が編み出した「自分色」。
こうして監督は自分の進むべき道をはっきりと見出したのでした。
だから「太陽の牙ダグラム」は、高橋良輔の金字塔、なのです。


全共闘世代の「意地」

第1話、冒頭シーン。荒涼とした砂漠のど真ん中、朽ち果てた鉄の巨人─ダグラムの残骸が現れます。
第1回目でいきなり主役ロボットが「過去の存在」となった姿を晒すとは、まさに空前にして絶後の演出。これがしっかり最終回へとつながっていきます。
わが職場とつき合いのある業者さん(既出)が言うには、「ダグラムの最終回は、子供心にものすごく後味が悪かったですよ。ショックでした」
・・・そりゃ小坊は号泣モノだったろうなあ、大好きなロボットが主人公の手によって(以下自粛)

しかし、この冒頭シーンこそは、(深読みすれば)全共闘世代の「汚れちまった哀しみ」を象徴しています。
実はこの「太陽の牙ダグラム」は、お子様ご無用!ましてや少女ファンご遠慮ください!な、全共闘世代オヤジのための青春アニメであるという見方が出来ます。
中編にていろいろキャラクターを取り上げましたが、いちいちいちいち「それっぽい」人物ばかりです。
となれば、もちろんストーリーも「デロイア独立革命の栄光と挫折」になるのは必然です。

幾多のゲリラ部隊が乱立し、それぞれ好き勝手に動き回っているデロイアのレジスタンスたち。それをひとつに糾合し、連邦軍と渡り合う勢力とするために東奔西走するサマリン博士。
しかし、ひとたびは一枚岩となった革命軍にも、次第に日和見主義の穏健派が台頭してくる。そして、連邦政府との密約により、革命派内の「クーデター」がおこる・・・。
デロイアの動乱に集った様々な人間たちの群像劇。これは、かつて安保闘争に青春をかけた全共闘世代の軌跡そのものではありませんか。
(注・いくらなんでも私は全共闘世代じゃないですよ、念のため)

朽ち果てたダグラムが象徴するものは明らかです。
それは、決して主義主張を曲げず、自らの生き方を貫いたエルネスト・チェ・ゲバラ(全共闘世代のアイドル)の「鉄の巨人」版だということです。

しかし、現実の自分自身は、生きるために妥協した。心の中に哀しみを抱えながら、あえて世俗に汚れることを選んだ。
けれども思う。どうしようもなく思う。「もしも、あの生き方を貫いていたなら?」と。
これは、そんなアラウンド・シックスティのオヤジたちが夢見た「もう一人の自分」の青春物語です。
・・・哀愁がただようなあ。

最後の最後、クリン・カシムは母の胸に飛び込みますが、それでも再び瞳を挙げ、遠い彼方を見つめています。
「そしてまた、少年は旅立つ」
そんなことを暗示する、謎めいた名シーンです。

再び、第1回目の冒頭。
朽ち果てた鉄の巨人を見上げているのは、明らかにキャナリーです。ゲリラ部隊・太陽の牙の紅一点だった女性兵士。
最終回を見終わったあと、きっと誰もがこのシーンに立ち返るでしょう。
何故、キャナリーはひとりなのか?仲間たちは、そしてほぼ恋人同然だったロッキーはどうなった?
キャナリーを残し、男たちは皆、再び長い旅へ出てしまったのだろうか?

男は旅に出る。それこそがさだめ。
女性たちよ、許せ。ヒーローに女は不要なのだよ。

隠れた名作「太陽の牙ダグラム」。その着地点は、ワタクシ的にドンピシャのツボなのでありました


おまけ
本日のお写真は、初回放送終了後じつに25年を経て08年9月に発行された「完本 太陽の牙ダグラム」(一迅社)です。
定価3,000円(税抜)です・・・うへっ
しかし、内容は素晴らしいの一言。高橋良輔監督と当時のスタッフとの対談やらなんやら、てんこ盛りな内容。
1話から75話までのストーリー解説には、予告編ナレーションも掲載。
たまらんよ、これ~

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