序文--未来のために

2016-08-30 | 第二集

被爆証言を遺そう!ヒロシマ青空の会  序文、第2集のための序文

 

     
  序文--未来のために

 一九四五年八月六日人類未曾有(みぞう)の核爆弾によって一瞬にして広島市が壊滅し、この世の地獄を現出した。凄惨をきわめた状況は、核時代の現代に生きる我々にとって忘れてはならないことであり、もし再び核兵器が使われることがあるならば、それよりさらに数千倍の破壊力を得た水爆によっていっそう激烈な破滅に直面することを心に銘記しておかねばならない。それはたんに人類の絶滅にとどまらず、生物全体の絶滅にもつながる、まさにこの世の終末を招来するものである。
 
 このような重大事を考えるならば、核兵器の放棄と封印は、速やかに実現されねばならないにもかかわらず、むしろ現状はアメリカ・ロシア・中国・イギリス・フランスなど既保有国に加え、インド、パキスタン、北朝鮮などの諸国家の開発もしくは保有によって、核問題は新たな脅威となって拡散している状態にある。

 核兵器がもし地上で再び使われたらどのようなことになるか、その悲惨さを知るには、現実に原子爆弾の爆発を体験した人々の声が、なによりも強固な拠りどころとなる。つぶさに語られる声は、人から人に真摯に伝えられるとき、新たな力を生むはずである。その声を受け止めるところにこそ、未来への道がつながっていくものと信ずる。広島・長崎の被爆の痛みこそが、それを二度と繰り返さない核兵器抑止へ基盤とならなければならない。

 しかし今、それを伝える声は、被爆者の高齢化とともに、この世界から遠のき、埋もれていこうとしている。
 被爆者の貴重な体験に耳を傾け、二度とその悲劇が繰り返されないよう、今もう一度体験を掘り起こし、現代の重大な記録として、この世界にとどめ、再提出したい。

 また、原爆は自然災害ではなく、人間の意志と行為によって産み出されたものである。私たちと同じ人間が造り出し、一つの戦略の下に実行された人間の行為である。今それに思いをめぐらし、原爆がどのようにしてつくられ、現代の世界にどのような危機的状況を生み出しているか、人間の立場から考察し、その危機を回避する方途を探すことは、地球市民の立場から、つねに求められなければならない。人間どうしの行為として理解を深めていくところに、真に未来につながる根本的な解決の道が見つかるかもしれない。
 
 私たちは強くそれらを願って、この本を出版することにした。一人でも多くの人の目に触れ、心に残ることによって、人類存続への希望の道につながることを心から祈るものである。
                 二〇〇四年八月六日                
                                        ヒロシマ青空の会一同



  第2集のための序文


 今回新たに三人の方から貴重な被爆証言をいただき、「遺言『ノー・モア・ヒロシマ』」第二集を出版することができた。
 原子爆弾の惨酷な状況は、人を代えて聞くたびに、まったく別な角度から破壊の空間のすさまじさを教えてくれる。新たな視点から当時の破壊状況はさらに広がり、深まっていく。爆発時の物理的な状況と多様な惨劇の構造が、より大きな被爆都市空間を形成していく。
 それぞれの人の遭った地獄が、総和としての都市の残酷な姿を突きつけ、全体の巨大さを連想させてくれる。その惨劇のとめどなさは、原爆そのものの巨大さと言っていい。一人一人に襲いかかった悲劇と苦悩の集積の上に、とてつもない破壊力があらためて浮かび上がってくる。
 人類が今どのような危機の上に立っているか||被爆者の言葉があらためてリアルにそれを実感させてくれる。
 証言を聞くたびに感じるのはまた、一人一人の苦しみの深さである。地獄の体験を抱えつつ生きることの苦悩の深さも、あらためて人間の存在の闇を見せてくれる。
 生きた被爆の声に触れさせていただくことによって、同時にそこから死んでいった方々の無念の思いや呻きや慟哭が鳴り響いてくる。そしてそれが一つの力となって合流してくることも感じる。
 今あらためて私たちボランティアは、被爆者の声の重みを痛感し、犠牲者の無声の嘆きを聞いて、これらを後の世に遺すことの意義と使命とをより深く実感している。はじめはこの作業がこれほど過去の惨劇に肉迫し、時代の重大な役割を担っているとは想像できなかった。しかし少しずつ活動が軌道に乗り、形ができ、証言を聞くその輪が広がり始めるのを覚えたとき、同時に、私たちが果たさなければならない役割は、きわめて大きいことを再認識した。未来への橋渡しは、今しかできない。
 被爆六十年を経た現在、当時の惨状を思い返し、現在も続く危うい状況を知って、その上に立って未来をめざすことをおろそかにしてはならない。核弾頭ミサイルは数千倍の威力を持って現在も我々の都市、我々の文明の破壊を狙っているからである。証言の真の意味はここにある。この方向にこれらの尊い証言がつながり、人々の胸に収められ、新たな力となって湧き出していくことを願って止まない。
二〇〇五年八月六日
                --原爆被爆六〇周年を迎えて
                                       ヒロシマ青空の会一同




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