「B29エノラ・ゲイによる原爆投下」 第一集

2016-09-07 | 第一集

1集「B29エノラ・ゲイによる原爆投下」



●●B29エノラ・ゲイによる原爆投下

ボイス・レコーダーによる決定的瞬間の記録
 
 太平洋戦争時米軍は人類史上初めての原爆投下に際し、ボイス・レコーダーをエノラ・ゲイに積み込み、投下の決定的瞬間を録音していた。
 
 以下は、広島市立宇品中学校教諭・永田邦生先生が提供してくださった、エノラ・ゲイ機内の原爆投下の状況を生々しく伝える乗組員たちの言葉である。ちなみに、永田先生は、原爆の問題を考える平和教育の教材として、このテープを生徒たちに聞かせ、各自に感想を求めている。
 
 原爆を考え出し、製造して、爆撃を計画し、実際に投下したのも、同じ人間であることを想い起こしながら、決定的瞬間を振り返ってみたい。

「……です」
「フィヤビー大佐(爆撃手)以外の乗務員は全員遮光メガネ(原爆の強烈な光を避けるための特殊メガネ)をかけています」
「ボブ、彼女(原爆)を起こせ」
「確認」
「進行中。爆弾発射までまだほんの少し間がある」
「原爆は三〇秒以内に投下態勢に入る」
「視界、前方はどのようか」
「クリアーだ。72飛行路には何の敵の妨害もない」
「作動完了警報です」
「飛行機を守れ」
「よし、やったぞ(爆弾投下準備完了)」
「急降下、急旋回の用意だ」
「18秒……15秒前……接近…接近、爆弾投下」(爆弾投下から43秒後に原爆は爆発することになっている。その間に安全圏に退避すべく全速で急降下右旋回)
……
「ジェリイ、何かわかったか」
「何も」
「6、5、4、3、2、1…(爆発)」
「でかいやつだ」
「まるで……のようだ」


“……(unintelligible),Sir.”
“All crew members except for Major Ferebee, on glasses.”
“Bob, get her up.”
“check...”
“We'are running. There'll be a short intermission before the bomb goes off.”
“AB coming up in about 30 seconds.”
“Vision, how's it looking ahead?”
“Clear. There's no enemy interference on the 72 flightpath.”
“I'm turning on the drone.”
“Secure the airplane.”
“You got it. ”
“Stand by for a full break and turn.”
“18...15 seconds....Approaching...approaching...and now, bomb's away.”

“Jerry, did you get anything yet?”
“Nothing.”
“6,5,4,3,2,1(explosion).”
“Yes, it was a big one.”
“Looks like (unintelligible)” 
                                                
“……(unintelligible),Sir.”
「……です」
“All crew members except for Major Ferebee, on glasses.”
「フィヤビー大佐(爆撃手)以外の乗務員は全員遮光メガネ(原爆の強烈な光を避けるための特殊メガネ)をかけています」
“Bob, get her up.”
「ボブ、彼女(原爆)を起こせ」
“check..”
「確認」
“We'are running. There'll be a short intermission before the bomb goes off.”
「進行中。爆弾発射までまだほんの少し間がある」
“AB coming up in about 30 seconds.”
「原爆は30秒以内に投下態勢に入る」
“Vision, how's it looking ahead?”
「視界、前方はどのようか」
“Clear. There's no enemy interference on the 72 flightpath.”
「クリアーだ。72飛行路には何の敵の妨害もない」
“I'm turning on the drone.”
「作動完了警報です」
“Secure the airplane.”
「飛行機を守れ」
“You got it. ”
「よし、やったぞ(爆弾投下準備完了)」
“Stand by for a full break and turn.”
「急降下、急旋回の用意だ」
“18...15 seconds....Approaching...approaching...and now, bomb's away.”
「18秒……15秒前……接近…接近、爆弾投下」(爆弾投下から43秒後に原爆は爆発することになっている。その間に安全圏に退避すべく全速で急降下、急旋回を続ける)
.....
“Jerry, did you get anything yet?”
「ジェリイ、何かわかったか」
“Nothing.”
「何も」
“6,5,4,3,2,1(explosion).”
「6、5、4、3、2、1…(爆発)」
“Yes, it was a big one.”
「でかいやつだ」
“Looks like (unintelligible)”
「まるで……のようだ」




 ●原爆投下の決定的3分間--「エノラ・ゲイ」による--
 
 原爆投下の決定的3分間を、「エノラ・ゲイ」(ゴードン・トマス/マックス・モーガン共著/松田銑訳/TBSブリタニカ)は次のように叙述している。ボイスレコーダーとは若干の違いがあるが、そのときの状況は別な角度からよく伝えられている。少し長いが、ここに引用させていただきたい。

 ちなみにエノラ・ゲイの乗組員は以下の通りである。
機長・操縦士      ポール・ティベッツ
副操縦士        ルイス
爆撃手         フィヤビー
レーダー士       ビーザー
航法士         バンカーク
無線通信士       ネルソン
原爆点火装置設定担当  パーソンズ
電気回路制御・計測士  ジェプソン
後尾機銃手・写真撮影係 キャロン
胴下機銃手・電気士   シューマード
計器手         ドゥゼンバリー
レーダー技術士     スティボリック


 もうあと一分間。
 ティベッツがインターコムに向かって言った。
「眼鏡をかけろ」
 一二人のうち九人がポラロイドの眼鏡を目にかけた。とたんに真っ暗で何も見えなくなった。
 ティベッツとフィヤビーとビーザーだけが眼鏡を額にかけたなりにしていた。それでなければ仕事ができないからだった。
 ルイスは眼鏡をかける前に「航空日誌」に注を書きこんだ。「目標爆撃の間はしばらく記入中断」
 三〇秒前。
 
 いくつもの事が一時に起こった。フィヤビーが広島市がファインダーの中に入り出したと叫んだ。ビーザーがパーソンズに声をかけ、日本のレーダーが爆弾の近接自動信管を起爆させようとしている形跡はないと言った。ティベッツのすぐ後ろに立っていたパーソンズが眼鏡を押し上げて、ティべッツに「たしかにこれが目標だ」と認めた。パーソンズが眼鏡を下ろすと、ティべッツがインターコムに向かって口早に命令した。
「信号音停止用意||旋回用意」
 それが前原子力時代の彼の最後の言葉であった。
 
 フィヤビーは、まだ眼鏡を額にかけたまま、じっと目標から目を放さずにいた。空中偵察写真の白黒の像が色彩のある像に変わって展開していた。緑と柔らかいパステル色と、建物のくすんだ色とが、大きな人の指のような形の陸地の上にぎっしりと並び、広島湾の濃青の海の際まで連なっていた。太田川の六本の分流は茶色であった。市内の主要な街路はにぶい金属的な灰色に見えた。薄い紗のような霞が市の上空にかすかに光っていたが、フィヤビーの視野を曇らせはしなかった。照準点のT字型の相生橋がまさに彼の照準器の中心の十字線のところに来かかっていた。

 「やったぞ」
 フィヤビーは最後の調整を行ない、信号音のスイッチを入れた。それはピッ、ピッ、ピッという低い連続音で、フィヤビーが爆撃航程最後の一五秒間の自動時限装置を作動させたことを示すのだった。
 爆弾が爆弾庫に引っかかって、落ちないということにならないかぎり、もうフィヤビーのするべき仕事はなかった。
 一マイル後ろのグレート・アーティストの機上では、爆撃手のカーミット・ビーハンが爆弾倉の扉を開き、落下傘に付けた爆風測定器を投下する時を待っていた。
 二マイル後ろのマークワードの九一号機は写真撮影の位置につくため、九〇度の旋回を始めた。
 
 エノラ・ゲイの信号音は三機の気象偵察機も受け取っていた。そのうちイーザリーの機は、もう広島から二二五マイル離れて、基地へ向かって進んでいた。
 その信号音は硫黄島のマックナイトも聞いた。彼はもう不要になった予備機、トップ・シークレットの操縦席に坐ったままであった。マックナイトはユアンナに信号音が聞こえると知らせ、ユアンナがテニアン島に無線で報告した。
「爆弾が落ちようとしている」

 午前八時一五分一七秒。エノラ・ゲイの爆弾倉の扉がパッと開いた。そしてこの時には誰も何もしなくてもよかった。世界最初の原子爆弾は自動的にいままでかかっていた掛け金を離れて落下した。

 それと同じ瞬間に--制御盤につながっていたケーブルが爆弾から外れ、信号音が止まった。
 エノラ・ゲイは、突然に九〇〇〇ポンドも軽くなったので、一〇フィート近く跳ね上がった。
 機尾のキャロンはカメラをギュッと握りしめ、保護眼鏡で何も見えないのに、どちらヘカメラを向けたものかと思案していた。
 ティベッツはエノラ・ゲイを右へ急角度に旋回させはじめた。
 グレート・アーティストの機上ではスイーニーがエノラ・ゲイの爆弾倉から爆弾が出て行くのを見た。ビーハンが爆風測定装置を放した。
 九一号機の機上ではカメラが回転し出した。
 午前八時一五分二〇秒。
 この三秒の間に、フィヤビーは「爆弾が落ちる!」と叫び、照準器から目を離し、エノラ・ゲイの機首のプレキシグラスを通して、初め真下を見、それから後ろを振り返った。
 彼の眼には、爆弾がサッと爆弾倉から落ち、爆弾倉の扉がバタンと閉まるのが見えた。ほんのまばたきするほどの間、爆弾は何か目に見えぬ力で支えられて、機の下に宙ぶらりんになっているように見えた。
 それからグングン落ちはじめた。
「それは速度が加わるまでは少しぶらん、ぶらんと揺れたが、そこから先は予期どおりまっすぐに落ちていった」
 爆発まであと四〇秒あった。
……

 エノラ・ゲイの機上では、ティべッツが激しい動力急降下で右方向へ一五五度の急旋回を続けていた。
 スイーニーのグレート・アーティストは左へ向けてそれとまったく同じ運動を行なっていた。
 爆弾の内部では、時限装置が点火電気回路の第一スイッチを入れ、電流が点火装置に向かって定められた区間だけ前進した。
 ティベッツはキャロン(機関銃台座に特別配置されたカメラ撮影担当)に、何か見えるかと尋ねた。キャロンは、自分の砲塔の中に大の字に張りつけになったように身動きもできず、引力の作用で頭からぐんぐん血がひいていくのを覚えながら、やっと喘ぎ喘ぎ一言答えた。「何にも」
 ビーザーも激しい急旋回の力で身動きができず、自分の装置の辺りに視線を据えたまま、針金磁気録音機のほうへ手を持ち上げようと努めていた。
 ほかに誰も身動きする者はなかった。
 あと二〇秒であった。

 その時……広島放送局のアナウンサーは、空襲警報を放送するためにスタジオに入った。広島飛行場の半地下壕の通信室では、安沢少尉が通信会議の場所を問い合わせていた。
 防火帯では、監督たちが号笛を吹き鳴らし出した。何千人もの作業員たち(その多くは学校の生徒の少年、少女であった)に定められた待避所へ駈けて行けという合図であった。
……

 エノラ・ゲイの機上では、ジェプソンが秒読みを始めた。ティべッツは眼鏡を引き下ろしたが、そうすると何も見えなかった。彼は眼鏡をかなぐり捨てた。
 機首では、フィヤビーも初めから眼鏡はかけなかった。
 エノラ・ゲイは、もう息もつけない急旋回運動の終わりに近づいて、フィヤビーの照準点からは約五マイル離れ、市からぐんぐん遠ざかっていた。ティべッツがキャロンに問いかけたが、後部射手はまた「何も見えない」と答えた。
 ルイスは我知らず操縦桿を握り締めた。ビーザーの手はやっと針金磁気録音機のスイッチを入れることができた。ネルソンは見えないながらも無線機のほうを見つめた。スティボリックがレーダーのスクリーンを明るくして、眼鏡越しに見えるようにした。シューマードも見えないながらに胴体の砲塔の中から外を眺めた。ドゥゼンバリーは片手をスロットルに掛けて、爆風でエノラ・ゲイのエンジンがやられはせぬかと心配していた。
 ジェプソンは秒読みを続けた。あと五秒。
 その同じ瞬間に||爆弾の内部では、地上五〇〇〇フィートの高度で気圧スイッチが動いた。爆弾の外殻が空気をつんざく音がごうごうという衝撃波音に高まっていたが、まだ下界では聞き取れなかった。
……

 広島放送局では、アナウンサーが空襲警報のサイレンを鳴らすボタンを押し、息を切らしながらマイクに向かって放送し始めた。「午前八時一三分、中国軍管区発令……」
 ジェプソンの秒読みは続く。四○、四一、四二、……。
 アナウンサーは読み進んだ。「……敵大型機三機……」
 その瞬間に||ジェプソンの秒読みは四五に達した。
 爆弾の点火装置が地上一八九〇フィートの高度で作動した。

 午前八時一六分ちょうど、原子爆弾はエノラ・ゲイを離れてから四三秒の間に、ほとんど六マイルの距離を落下し、相生橋から八〇〇フィート外れ、島医院の(※ほぼ)真上で爆発した。

 午前八時一六分から一〇〇〇分の一秒・・・広島のどんな時計でも計れないほどの短い時間・・・の間に、針の先ほどの大きさの紫がかった赤い一点の光が、直径数百フィートの火の玉に膨れた。その中心の温度は五〇〇〇万度であった。
 爆発直下の地点「爆心地」の島医院でも温度は摂氏数千度に達した。閃光の熱は一マイルの距離で火災を生じ、二マイルの距離で人の皮膚を焼いた。
……
 
 ……ほとんどすべてが、ボップ・キャロンが、保護眼鏡の陰で、閃光に思わずまばたきした一瞬のうちに生じた。 エノラ・ゲイの乗員は、みんなその閃光を見、その強烈さに圧倒された。誰も一言も言わなかった。
 ティベッツは「口の中にその光の味を感じたが、鉛のような味だった」
 この世の物とは思えない、そのすさまじい光は、操縦席の計器盤と、ドゥゼンバリーの管制盤と、ネルソンの無線機と、ビーザーの前の装置の棚とをカッと照らし出した。 (保護眼鏡をかけてもなお閃光のまぶしさに思わずまばたきした)キャロンが目を開けた時には、閃光は消えていた。しかしその閃光に取って代わった物も、同じくすさまじかった。キャロンの言葉によれば、それは「地獄をのぞいた」ような光景であった。

 広島では火焔のつむじ風が吹きまくっていた。幅一マイル以上の地域のなかから、赤と紫の巨大な灼熱の火の塊が天に立ち昇っていた。火の柱の根本には超高温の空気が吸いこまれており、そこでは一切の可燃物が燃え上がっていた。
……

 広島から一○マイルばかりの空をいまだに市を後ろにして飛んでいくエノラ・ゲイの機上では、まず最初にボップ・キャロンが、機尾の見晴らしのいい場所から、恐ろしい現象が起こるのを見つけた。巨大な空気の塊が輪になって、ぐんぐん大きく広がりながら音速で上昇し、エノラ・ゲイ目がけて押し寄せて来る。後部射手(キャロン)はゾッとして目がくらみそうになりながら、仲間に知らせようとした。

 しかし、彼の絶叫は言葉にならなかった。
 原爆の衝撃波を目で見たのは、キャロンが世界で初めてであった。それは空気が猛烈な力で圧縮されたために、有形になったように見えたのである。それはキャロンの目には、「どこか遠くの天体の環が外れて、我々めがけて飛びかかってくる」ように見えた。

 彼はもう一度わめいた。
 それと同時に、その空気の環がエノラ・ゲイの翼と機体に衝突して、機を高く投げ上げた。ティベッツは操縦桿をつかんだ。しかしティベッツがひどく懸念したのは、衝撃波よりもむしろ衝撃波に伴った音であった。ティベッツはヨーロッパでの爆撃飛行の時のことを思い出して、それは「八八ミリ砲の砲弾がすぐ横の脇で破裂した」音だと思った。彼はすぐ「高射砲だ!」とどなった。
 フィヤビーも同じように感じた。「畜生め、こっちを撃ってるぞ!」
 二人の歴戦の古強者は必死になって、機の周囲に高射砲の煙の束が見えはせぬかと探した。機の中は狂乱状態になった。

 それから四秒も経たぬうちに、インターコムにわいわい入り乱れる声のなかに、キャロンがもう一度、きわ高い金切り声を上げた。
「もう一つ来るぞ!」
 背骨も折れそうなほどの衛撃で、第二の空気の壁がエノラ・ゲイにぶち当たった。機はもう一度投げ上げられ、ネルソンは危うく席から飛ばされかかり、ビーザーはころころと転がった。一人が取り乱してわめきはじめた。ティべッツがそれを叱って黙らせた。 衝撃波は来た時と同じく、あっと言う間に去っていった。エノラ・ゲイの機内には落ち着きがもどってきた。

 ティべッツが乗員に話しかけた。
「オーケー。あれは地面からはね返ってきた衝撃波だ。もうこれ以上は来ない。高射砲ではなかった。落ち着け。さあ録音を始めよう。ビーザー、いいか?」
「ええ、大佐」
「乗員を一人一人まわって、感想を録音してくれ。簡単明瞭に話せよ。ボップ、君から始めろ」
「いやあ、大佐。まったくすごい」
「目に触れることを簡単に言うんだ。ラジオ放送に出演してるつもりでやれ」
 キャロンはそのとおりにした。エノラ・ゲイは広島から一一マイル離れた上空を一万九二〇〇フィートの高度で旋回しはじめたが、キャロンはその機上で、永久に忘れられない、生ま生ましい目撃談を述べた。

「煙の柱がどんどん上へのびている。中心は火のように真っ赤だ。その芯の真っ赤な、紫がかった灰色の煙の塊がモクモク渦を巻いている。全体が沸き返っている。焔がそこら中から噴き出ている。大きな石炭の炉から噴き出る焔のようだ。焔の数を数えてみよう。一、二、三、四、五、六……一四、一五……駄目だ。数えきれない。あ、来た。パーソンズ大佐の話されたきのこ型の雲だ。こっちへ来る。煮えくり返る糖蜜の塊みたいだ。きのこの形がどんどん膨れる。多分、横が一、二マイル、高さが半マイルぐらいかな。ぐんぐんぐんぐん上る、上る。この飛行機とほとんど同じくらいの高さで、まだ上へのびる。真っ黒だが、ちょっと紫がかった雲だ。きのこの根元は厚い雲が広がっていて、そこからたくさんの焔が吹き出ている。広島の町はあの下にちがいない。火と煙とがうねって渦巻きながら、山の麓の丘のほうへのびる。丘が次々に煙の下に隠れている。いま町で目につくのは、大ドックと飛行場らしいものだけだ。それはまだ見える。そこには飛行機が並んでいる」

 ティべッツは大きな輪を描いて、雲のまわりを旋回した。その時のきのこ雲の頂上は六万フィートまで昇っていた。
 ビーザーの録音の順番を待ちながら、ルイスは「航空日誌」に書く「文句に苦しんで」いた。同乗していた乗員のなかには、後日、ルイスがきのこ雲を見た時の第一声は「うわあ、あの化け物を見ろよ!」だったと主張する人たちがいた。しかしルイスはそのあとで「うわあ、おれたちは何をしたんだ?」と書くことにした。

 ティべッツの感想は「わたしは驚いた。いやショックを受けたと言ってもいい。わたしは何か大きな事を見るだろうとは思っていたが、しかし大きいとは何だろう? わたしが見たのは絶大な規模の出来事で、その意味するところは、おそらくわたしが実際に想像したより、はるかに大きい破壊が行われたということだ」

 ビーザーはごく簡単に自分の後世に残す言葉を語った。「とてもすごい。やれやれ安心した」
 ネルソンとシューマードとドゥゼンバリーとは、「恐るべき」とか、「信じられないほどの」とか、「気絶しそうなぐらい」とか、「壊滅的」とかいう言葉を使って、見た物を表現しようとした。スティボリックは「これで戦争は終わりだ」と感じたと言った。フィヤビーとパーソンズは爆撃報告書を作るのに忙しくて、感想の録音どころではなかった。

 機尾ではキャロンがやがて世界中で使われることになる写真を撮りはじめていた。
時速二一五マイル、高度二万九〇〇〇フィート、機外温度摂氏氷点下一八度。エノラ・ゲイは爆撃した都市のまわりを一周し終わった。……
……
 エノラ・ゲイの機上では、ネルソンがすでに攻撃成功の報告を送っていた。
……「みごと命中。あらゆる点で大成功。目に見える効果はアラモゴードより大。爆弾投下後、機内は異常なし。基地へ向かう」

     「エノラ・ゲイ」(ゴードン・トマス/マックス・モーガン共著/松田銑訳/TBSブリタニカ/一九八〇)


編集部注※
引用上、わかりやすくするため、省いたところ、また( )で説明を加えた箇所があります。なお、原爆の爆心は、現在では島医院の真上ではなく、ほんの少しずれていることがわかり修正されました。引用文の中では※印の部分です。


      
   


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