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[読書メモ] 電子書籍の衝撃 (佐々木俊尚・著)

2010-04-12 20:33:08 | 書評

佐々木俊尚氏著の「電子書籍の衝撃」を読んだ。4/14正午まで110円セールと格安になっていたので速攻で購入した。非常に面白かったので久しぶりに読書メモを書きたいと思う。


http://store.d21.co.jp/system/items/info/dis88759808

内容についての感想

これからの書籍がコンテンツとしてではなくコンテキストとして、他のソーシャルメディアの中に組み込まれることによって、読まれ方が劇的に変わる。ぞくぞくするような未来を感じさせる内容だった。

インターネットサービスの進化により、情報発信においてプロとアマとの格差をなくす「フラット化現象」が進んできた。電子書籍においてもフラット化が加速する。本書においてもセルフパブリッシングについて、プロ・アマの区別なくフラット化された著者たちと読者との間の双方向メディア化の可能性を紹介している。Ustreamのような動画共有サービスも、放送局や新聞と個人との区別をフラット化させる原動力になりつつある。

私がiPadに非常に注目しているのは、上記のようなコンテキスト重視のメディア文化における最適のデバイスになるだろうという予想からだ。ソーシャルメディアにアクセスしながら、自分が関心のあるコンテキストの中に出てきたニュース、映画、動画、音楽、電子書籍など多種多様なコンテンツの間を自在に行き来できる。まさしく「context media viewer(コンテキスト・メディア・ビューワー)」と呼ぶにふさわしい。

本書では「自分にとって最も良き情報をもたらしてくれる人」をマイクロインフルエンサーと呼んでいる。芸能人のような広く浅く影響を与えるのではなく、独自のコンテキストを構築できる能力を持っており、比較的少人数ではあるが深く影響を与えるような人である。それらの人たちとフォロワーをつなぐのは、ブログやツイッターのようなソーシャル・ネットワーク・サービスである。

余談だが、ツイッターに比べてAmebaなうがいまいち勢いがないように見えるのは、集めたインフルエンサーが芸能人中心であり、フォロワーが水平拡散してゆく伝搬力(いわゆるつながる力)がツイッターに比べて弱いためではないだろうか。ここにもフラット化の影響が感じられる。

テレビ・新聞・書籍といった単方向のレガシーメディアに代わって、ブログ・ツイッターのような双方向のSNSメディアが主流になり、インフルエンサーとフォロワーがコンテキストを通じてマッチングされる。情報はコンテンツとしてホール・パッケージとして流通する形から、さまざまなコンテクストの中に「リパッケージ」され、引用されたり加工される形で流通するようになる。

このような「リパッケージング」の手法は様々な分野で使われるだろう。特に高度に専門家が進んだ学術や芸術の分野で、そのコンテンツの価値を理解してコンテキストとしてリパッケージを行い、ソーシャルメディアを通じて流通させることが出来る「専門的マイクロインフルエンサー」が今後次々と出てくると私は予想する。

レガシーメディアとの関連についての意見

本書で明快に述べられているように情報がコンテンツとしてではなくコンテキストとして流通するという流れに対して、日経新聞の個別記事へのリンク禁止問題のように時代の流れに逆行する動きがみられる。あくまでもコンテンツ提供者としての古き良き時代にしがみつこうというわけである。

また、記者クラブのような既得権をたてに情報発信者の新規参入を拒絶し、フラット化を妨害しようというレガシーメディアの抵抗はつとに有名である。

「ダダ漏れ」配信が典型例となったように情報発信においてもフラット化が進み、ただでさえ厳しい未来しかないレガシーメディアなのに、膨大なコストを掛けて電子化というコンテンツ体裁だけを整えて、新しい「ニュースコンテキストプロバイダー」へ変革できるわずかな可能性を自ら閉ざす。実にもったいないことであり、かつ愚かしいことだ。日経新聞だけではない。本書で述べられているように、コンテンツが「切り抜き」されるを拒否し、フラット化に抵抗し、コンテキストの中に生き残る活路に気づかないレガシーメディアは、早晩衰退してゆくのではないだろうか。

最後に電子書籍としての出来映えについて

一度の購入でPCとiPhoneの両方で読めるシステムになっている。両方で読み比べてみたが、iPhone版の方はページめくりが小気味よく、さくさく読める。それに対してPCは縦書き表示に変更可能であり、表示エリアを変えると1ページ当たりの行数を変えることもできる。

本を自分の読みやすいレイアウトに変えて読めることも電子版で可能になった機能で、とても新鮮だった。ただ、PC版のT-Timeビューワーはページめくりのアニメが異常に遅いなど挙動が少し変だった。今後改良されてゆくだろう。

PCで読んでると肩や目が疲れてくる。集中して読むあまり、姿勢や腕が緊張してしまうからだろうか。画面は小さいがiPhoneで読むのは意外と楽で、結局ほとんどの部分はiPhoneで読んだ。iPhoneだと持ち替えたりできて、負担の掛からない姿勢で読めるためかもしれない。また、私は横書きの方が読みやすかった。

ついでにいうと、ツイッターなど多くのネットメディアは横書きがスタンダードである。横書きでの情報の速読が日常になっている。新聞電子版も横書き表示が可能になったらいいと思った。