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米国連邦商務省・産業安全保障局とFBIが米国・ロシア内でロシア軍事調達や防諜活動を行った防諜員等を起訴

2012-10-04 20:12:43 | 信頼性の高い情報とは


 10月3日、連邦商務省・産業安全保障局(DOC・ Bureau of Industry and Security:BIS)(note1)はニューヨーク東部地区連邦地裁に対し、テキサスの本部を置く輸入会社およびロシアに本部を置く調達会社と同時に米国やロシア内でロシアの軍事品調達ネットワーク活動を行っていた111人のロシア人を違法にハイテク・マイクロエレクトロニックス(note2)技術を米国からロシアに違法に輸出したとして告訴した。

 また、米国とロシアの会社のオーナーで役員であるアレキサンダー・フィシェンコ(Alexander Fishenko)に対し、ロシア政府に代わり米国内でハイテクマイクロエレクトロニックスを違法に調達すべく未登録の防諜員として活動したとして告発した旨リリースした。

 本ブログは、これら米国連邦機関のリリース内容に即して、起訴内容を概観するものである。なお、防諜問題に詳しい米国の取り組みを理解する上で、このような捜査の緻密さはわが国の情報機関や関連企業にとっても参考とすべき点が多かろう。


1.事実関係

 ロシアに違法に輸出されたとされるマイクロエレクトロニックス技術はさまざまな軍事システム(レーダー、監視システム、兵器誘導システムおよび爆発用の引き金(detonation triggers)等)において広範囲な潜在的利用に関し、米国政府により厳格な管理下に置かれている。

 被告等は10月2日に逮捕され、3日午後にヒューストンの法廷で連邦治安判事ジョージ・C・ハンクス(George C. Hanks Jr.)の面前で罪状認否を問われることになろう(そこで政府は被告を東部地区連邦地裁への移送を求める予定である)。

 これらの違法行為の公開に関連して、商務省は被告から受け取ったり、積み替えたり、そうでなければそれらを支援したとして165人の外国人の個人や会社の責任を追及すべく追加した。彼らの指名は、商品を米国からこれら個人や会社に輸出する前にライセンスを要求することを課すとともに、そのようなライセンスが与えられていなかったという推定を確立した。

2.本事件の計画内容

 起訴状に明らかにされているとおり、2008年10月から現在に至る間、フィシェンコと他の被告は先進的、技術的最先端マイクロエレクトロニックスを米国内の製造業者や供給業者から得てロシアにハイテク商品を輸出するため不正かつシステマチックな共謀の取り組み、一方でそのような輸出をコントロールする政府のライセンスシステムを掻い潜るべく努めた。
 マイクロエレクトロニックス技術に含まれたのは、アナログ・デジタル変換器(analog –digital converters)(note3)、Static Random Access Memory(note4)、マイクロコントローラー(note5)、マイクロプロセッサーであり、ロシアに出荷された。

 これら商品は、応用範囲が広く、さまざまな軍事システム(レーダー、監視システム、ミサイル誘導装置や爆発用の引き金)で頻繁に使用される。ロシア国内ではこれら高性能商品は生産されない。

(1)被告フィシェンコの経歴
 本日、米国政府により告訴され起訴状によると、被告アレキサンダー・フィシェンコはソビエト連邦カザフスタン共和国で生まれロシアのサンクトペテルブルグのレニングラード電気技術大学(Leningrad Electro-Technical Institute)(note6)を卒業した。1994年に米国に移住し、2003年に米国籍を取得した。1998年にヒューストン被告会社「ArcElectronics Inc.(Arc)」を設立した。2002年から現在までArc社はマイクロエレクトロニックスや他の技術につき約5,000万ドル(約39億円)でロシアに出荷した。
 フィシェンコとその妻は、Arc社の独占経営所有者でCEOである。また、被告たるモスクワに拠点を置く軍事調達会社“Apex System LLC”の共同経営者である。“Apex社”は子会社を通じ、ロシア政府のための軍事品の公認供給業者である。

(2)被告アレキサンダー・ポソビロフ(Alexander Posobilov)
 2001年にロシアから米国に入国し、2008年に帰化した。2004年にArcの活動に加わり、軍事用品の調達部長として勤務した。ポソビロフはヒューストンのジョージブッシュ・インターコンチネンタル空港で逮捕されたが、シンガポールとモスクワに出向くところであった。

 被告等は頻繁に仲介調達会社を介してロシアの軍や防諜機関を含む先にハイテク商品を多く輸出したとされている。この輸出にあたり被告等は製造業者や供給業者がこれらハイテク商品を販売するために適用される輸出管理を回避するためしばしば偽にエンドユーザー情報を提供し、また彼らが輸出業者であるという事実を隠蔽するとともに、商務省に提出する輸出記録では偽の分類を行った。例えば、管理され高度に機密性の高いマイクロエレクトロニクスを得るため、Arcは米国の供給業者に対し交通信号機等をロシアに輸出すると偽るとともに、Arcのウェブサイトでも信号機メーカーであると主張していた。事実、Arcは製造業をまったく行わず、もっぱら輸出業者として活動していた。
(以下、省略する。)

3.被告Arc社の社員の告訴

 ポソビロフ、ポソビロフやクレバノヴァに加え起訴状ではセールスウーマンでアドミュラル・バグデキアン(Lyudmila Bagdikian)、アナスターシャ・デアトコーヴァ(Anastasia Diatlova)等に対し共謀違反1訴因、「国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act:IEEPA)違反および「電子通信詐欺(wire fraud)」(note7)により21の訴因をもって告訴した。
 同起訴状によると、これら被告は輸出商品の真の性質、ユーザーやハイテク商品につき偽り偽の情報を用い、ロシアの軍用品調達会社として認可なしに輸出を行った。被告のこれら商品の重要港湾はニューヨーク東部地区ジョン・F・ケネデイ国際空港であった。

4.外国人の被告(Foreign Defendants)

 起訴状によると、フィシェンコはArcの所有者、管理者だけでなくロシアの軍事調達会社2“Apex”の責任者であり、セルゲイ・クリノフ(Sergey Klinov)はCEOである。Apex1とその系列会社はロシア軍と防諜機関を含むロシアの政府機関にマイクロエレクトロニクスを供給していた。

 これら被告は、共謀罪に関しては最大5年の監禁刑、IEEPAおよびAECA違反に関しては最高20年の監禁刑、また司法妨害の罪で最高20年の監禁刑に直面する。さらにフィシェンコはマネーローンダリングを犯す上でのロシア政府の登録されていない機関として行った行動に関し、最高20年の拘禁刑に直面する。

 法人の被告は共謀の訴因に関しては、最高50万ドル(約3900万円)、実質的なIEEPAおよびAECAの訴因に関しては、最高100万ドル(約7,800万円)の罰金に直面する。

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(note1) 殆どの米国輸出管理法は「米国輸出管理規則」(「EAR」)の中で規定されており、米国務省産業安全保障局(「BIS」)によって管理されている。EAR輸出管理規則体制は多くの項目および国に対し複雑で詳細な(25章から構成)、そして様々な輸出規制を課している。(注1)原則として、米国内または米国原産のすべての品目(製品、技術およびソフトウェアとして定義される)は、BISの管轄の対象となる。特許は一般的にEARにおいて、「技術」とみなされる。(モリソン・フォースター外国法律事務所の解説から一部抜粋)

(note2) 大規模集積回路(LSI)とそれを応用したエレクトロニクスの分野。微視的な素子やそれを使った回路の上に成立する電子工学。もう1つの先端分野オプトエレクトロニクスと並列的に使われる。シリコンのVLSI、ULSIなどの技術を中心に、化合物半導体や超伝導体などの高速素子、量子効果素子とそれらの応用技術など、広範囲の技術分野が含まれる。(「知恵蔵」から抜粋)

(note3) A/Dコンバータとは、アナログ信号をデジタル信号に変換するために用いる電子回路のことである。(IT用語辞典Binary から抜粋)

(note4) “Static Random Access Memory” (略称スタティックRAM、SRAM)は、半導体メモリの一種であり、「スタティック」とあるのはダイナミックRAM (DRAM) とは異なるからで、定期的なリフレッシュ(記憶保持動作)が不要である。(Wikipediaから一部抜粋)

(note5) マイクロコントローラーとは、 家電製品や電子機器の制御などに使われる、一つの半導体チップにコンピュータシステム全体を集積したLSI製品。CPU、メモリ、入出力回路、タイマー回路などを一つの集積回路に格納した製品で、単体でコンピュータとしての一通りの機能を有する。(IT用語辞典e-Words から一部抜粋)

(note6)“Leningrad Electro-Technical Institute”は1930年に設立され、現在は「Saint Petersburg State University of Telecommunications」である。(Wikipedeia から抜粋)

(note7) 電子通信詐欺(wire fraud)については、筆者ブログを参照されたい。


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