ベリーガーデンのお庭番

果樹栽培・果実生食・ジャム加工・映画・音楽(60~70年代ポップス)・アマチュア無線を楽しんでいます。

「 ねえ・・・ 」  至福の時間

2006年04月07日 | Weblog

妻に癌が見つかり、正月直前に専門病院に転院して
検査待ちの間の出来事でした。
会社で仕事中の昼休みに携帯が鳴り、それは妻の病院
からの連絡でした。
「ご主人ですか?奥様の容態が変わったので至急
来てください」
癌が見つかってまだ3週間ほど、検査も受けていないのに
何があったのかと思いつつ病院に向かいました。

病院に着いて妻のベッドに向かうと妻は身動きもせず
横たわっていました。
昨日まで普通に話しをして身の回りのこともこなして
いたのに。
「朝から意識が無いのです」と看護師が説明してくれました。
耳元で名前を呼んで肩を揺すってみましたが反応がありません。
為すすべも無く、そのままベッドの脇で妻を見守りました。
既に痛み止めはモルヒネしか効かなくなっており、その影響
かも知れないと医師に言われました。

夕方7時過ぎ、突然妻の目が開き私と視線が合いました。
ナースコールを押して看護士を呼び出しましたが誰も来ません。
「起こして」と妻が言ったので点滴の管を脇に寄せ、
妻を抱き起こしました。
「ねえ、手をつないで」 入院以来気丈な妻でしたが、
初めての甘えの言葉。
私がベッドの縁に腰掛け、妻は横座りで私の左に
寄りかかりました。

「ねえ・・」 妻はひとこと言って目を閉じました。
私に寄りかかりながら、顔はかすかに微笑んでいます。
私は右手で妻の右手を握り、左手で妻の体を抱き寄せて
支えました。
しばらくしてから妻はまた「ねえ・・」と言いました。
寄りかかった妻の体温が伝わってきます。
しばらくしてから妻はまどろむように、私の手を握る
力が弱くなってきました。

そのとき看護師が「どうしました?」と病室にやって来て、
「体力を消耗するから横になりましょう」と妻をベッドに
寝かせました。
私は病院に泊まり込んで妻を見守ることに決め、妻に
「今夜から一緒にいてあげるから着替えを取ってくる」と
伝え、妻は「うん 待ってる」と返事をしてくれました。

一旦家に帰って着替えや洗面道具を持って1時間半後に
病院に戻った時には、もう妻は話かけても返事は
ありませんでした。
その後一週間後に亡くなるまで意識が戻ることは
ありませんでした。


「ねえ・・」 わずかな時間でしたが夫婦として最期で
最高の至福の時間だったと思います。

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