【試乗記】「まさに男の車!」 アストンマーチン「ヴァンキッシュ」(ビデオ付)
スピードメーターの針が、ゆっくりと210km/hに近づいていく。そのとき私は、
次のコーナーが目の前に迫ってくる。右足で強くブレーキを踏む。この車の優れた性能を引き出すには、
こうしてサーキットで走らせてやるのが一番だ。だが、オーナーたちにはそんなチャンスはない。
そう思うと何やら気の毒に思えてきたのだ。
コ―ナーの立ち上がりで、6リッターV12エンジンが再び活気づき、大きく唸った。
私は我に返り、さっきまでの妙な想いはすぐに消し飛んだ。
オーナーがアストンマーチンという"エンジンのついたアート"をどのように扱おうと、他人が口を挟めるものではない。
オーナーがアストンマーチンという"エンジンのついたアート"をどのように扱おうと、他人が口を挟めるものではない。
寿命がくるまでイギリス王室に公用車として仕えるアストンマーチンもあれば、
金持ちの社長のためにロサンゼルスの渋滞にはまるもの、
あるいは007の映画の中でカーチェイスを繰り広げる最新のボンド・カーになるものもある。
いずれにしても、高額の小切手を切れない私たちが、それを評価することなど夢のまた夢だ。
しかし、ジャーナリズムの世界では、こんな夢が現実になることがある。だから私は今、
しかし、ジャーナリズムの世界では、こんな夢が現実になることがある。だから私は今、
米国ニューオーリンズの郊外にあるNOLAモータースポーツパークで、約2700万円もするこの車を走らせている。
ヴァンキッシュが5年ぶりの復活を遂げた。この斬新な新型クーペの登場は、同時に「DBS」の終焉を意味する。
ヴァンキッシュが5年ぶりの復活を遂げた。この斬新な新型クーペの登場は、同時に「DBS」の終焉を意味する。
代わってこのヴァンキッシュがアストンマーチンの新たなフラッグシップとなったからだ
(と同時に、2011年に復活したばかりの「ヴィラージュ」も2年という短いタームでラインナップからひそかに姿を消した)。
トヨタ「iQ」をベースにした「シグネット」は例外だが、同社が手がけた最近のモデルは
トヨタ「iQ」をベースにした「シグネット」は例外だが、同社が手がけた最近のモデルは
すべて「ヴァーティカル・ホリゾンタル・アーキテクチャ」と呼ばれるオール・アルミ製のモノコック構造を採用している。
ヴァンキッシュのシャーシもこれが基本だ。ここ10年で何度かグレードアップし、今回のものは第4世代となる。
この軽量かつ頑丈なフレームワークをぴったりと覆うボディ・パネルはすべてカーボン・ファイバー製となっている。
同社の発表によると、ヴァンキッシュの新しい車体構造は、DBSよりも軽く、ねじれ剛性は25%向上しているという。
サスペンションは、フロント、リアともにダブル・ウィッシュボーンで、コイルスプリング、アンチロールバー、
サスペンションは、フロント、リアともにダブル・ウィッシュボーンで、コイルスプリング、アンチロールバー、
「ノーマル」「スポーツ」「トラック」のモードから選択可能なモノチューブ式ダンパーが備わっている。
「One-77」用に開発されたカーボン・セラミック製のディスクブレーキは、
フロント(ローターサイズ:398 mm x 36 mm / over 15.7 x 1.4-inch )には6ピストン、
リア(360 mm x 32 mm /over 14.2 x 1.3-inch)には4ピストンのキャリパーが組み合わされている。
また、軽量な20インチのアロイ・ホイールに装着されているのは次世代タイヤのピレリ「P-Zero」で、
フロント(255/35ZR20)とリア(305/30ZR20)でサイズが異なる。
ラック・アンド・ピニオンのステアリングは、油圧式の車速感応パワー・アシスト付きだ。
アストンマーチンといえば、ドイツのケルンにあるエンジンの専用工場で手作業によって組み立てられる
アストンマーチンといえば、ドイツのケルンにあるエンジンの専用工場で手作業によって組み立てられる
6リッターV12エンジンがおなじみだ。ヴァンキッシュ用は「AM11」と名づけられており、
最高出力573ps/6750rpm、最大トルク63.2kgm/5500rpmを実現している。
トランスミッションはリア・ミッドマウントの「タッチトロニック2」の6速オートマティック。
ベントレーと比較すると、ホイールベースと車幅は似たような数字だが、重量は1739kg対2320kgと、
軽量化されたヴァンキッシュが581kg下回る。加速は0-100km/hが4.1秒、最高速は295km/hだ。
しかし、こうしたメカニズムは、語るべき要素の半分にしかすぎない。ヴァンキッシュの魅力はコックピットにもあるのだ。
本体価格が約2700万円(プラス輸送費約19万円。米国の場合)のヴァンキッシュは、
しかし、こうしたメカニズムは、語るべき要素の半分にしかすぎない。ヴァンキッシュの魅力はコックピットにもあるのだ。
本体価格が約2700万円(プラス輸送費約19万円。米国の場合)のヴァンキッシュは、
乗る人を驚くほど満足させてくれる車だ。シート・レイアウトは2+0に加えて2+2も可能だ。
ただし、オプションとなる後部座席は足元がかなり狭いので、やはり2シートにするのが賢い選択だ。
写真ではその魅力が伝わりにくいが、内装にはフルグレーンのレザー、
写真ではその魅力が伝わりにくいが、内装にはフルグレーンのレザー、
アルカンターラ、そしてブライトアルミニウムがふんだんに使われ、レザーのいい香りが漂っている。
もちろん、ヒーター付きフロントシート、ガーミン社のサテライトナビゲーションシステム、iPodコネクター、
オーディオプレーヤーや携帯電話と接続できるA2DPブルートゥース、Wi-Fiハブ5ほか、
高性能のアクセサリー類が数多く標準装備されている。
また、写真には写っていないが、実際には高解像度の警告ディスプレイや、レーダーによるクルーズコントロール、
赤外線のナイト・ビジョンといった最先端の機能も付いていた。
アストンマーチンにはエクステリアのオプションが数多く揃っている。
アストンマーチンにはエクステリアのオプションが数多く揃っている。
ホイールの仕上げ(グラファイト、ブラック、リキッド・シルバー、ダイヤモンド施削)、
マフラーの仕上げ、カーボン・ファイバーのアクセント、特殊なボディカラーなどだ。
試乗車は、ボディカラーが「カユコス・オレンジ」で、オプションとしてメンテが難しいサテン仕上げのボディ・ペイント(約57万円)と、
フル・ブラック・レザーのインテリアが組み合わされている。
One-77スタイルを踏襲したフラット・サイドのステアリング(約9万円)もオプションだ。
個人的にはグロッシー・ブルーのボディカラーが好きなので、私の好みとは違うが、
こうしたユニークな仕上げは確かにメディア好みであることは間違いないだろう。
注目したいのは計器パネルだ。One-77のダッシュボードをよりスタイリッシュに仕上げただけでなく、ブランド独特の新たなテクノロジーが組み込まれている。これまでのダッシュボードが必要以上に人間工学的であったことを思えば(私は2013年型V8ヴァンテージのレビューで、このパネルのレイアウトを「ボタンとスイッチの寄せ集め」と称した)、今回は良い方向に大きく前進したと言えるだろう。配列を少しロジカルにしつつ(おかげで見ていて楽しいものになった)、イルミネーションと触感フィードバックが付いた静電容量方式のグラスボタンを新たに採用している。センタースタックには、ツイルやヘリンボーン織りのカーボン・ファイバーの他、ピアノレッド、ピアノブラック、ピアノアイスモカ(変な名前の色だが、個人的には惹かれる)の各色が用意されている。私たち取材班は一日中コースにいたため、こうしたボタンや、ナビゲーション・システムの付いたインターフェイスで遊べなかったのは残念だ。バング&オルフセン社がカスタムメイドした1000Wのオーディオ・システムで、音楽をほんの一節聴くことさえできなかったのだ。
米国ルイジアナ州エイボンデールにあるNOLAモータースポーツパークは、1年前にオープンしたばかりのピカピカのサーキットで、最終的には全長約8キロ(完成すれば北米最長)のコースが設置される予定だ。現在は工事中なので、取材班は全長約4.4キロ、コーナー数16のノース・トラックのみを使用した。コースはフラットで、スピードを出せるコースなので、激しい雨が降らない限り楽しめる。
コンソール上にあるスロットにクリスタルのキーフォブを挿入すると一瞬の間がある。車載コンピューターがすべてのシステムをチェックするためだ。だが1秒足らずで準備が整い、12気筒のエンジンに火が入って静かな音をたて始めた。エキゾーストはやはりOne-77譲り。ステアリング・ホイールの5時の位置にあるスポーツ・モードのボタンを押すと、インジケーターのライトがついた。すると、それまでおとなしくしていたエキゾーストが大きく唸る(スポーツ・モードでは、エキゾースト・ノートが変わるだけでなく、スロットルの反応が良くなり、ギア・チェンジが37%速くなるようにギアボックスがプログラムされる)。
注目したいのは計器パネルだ。One-77のダッシュボードをよりスタイリッシュに仕上げただけでなく、ブランド独特の新たなテクノロジーが組み込まれている。これまでのダッシュボードが必要以上に人間工学的であったことを思えば(私は2013年型V8ヴァンテージのレビューで、このパネルのレイアウトを「ボタンとスイッチの寄せ集め」と称した)、今回は良い方向に大きく前進したと言えるだろう。配列を少しロジカルにしつつ(おかげで見ていて楽しいものになった)、イルミネーションと触感フィードバックが付いた静電容量方式のグラスボタンを新たに採用している。センタースタックには、ツイルやヘリンボーン織りのカーボン・ファイバーの他、ピアノレッド、ピアノブラック、ピアノアイスモカ(変な名前の色だが、個人的には惹かれる)の各色が用意されている。私たち取材班は一日中コースにいたため、こうしたボタンや、ナビゲーション・システムの付いたインターフェイスで遊べなかったのは残念だ。バング&オルフセン社がカスタムメイドした1000Wのオーディオ・システムで、音楽をほんの一節聴くことさえできなかったのだ。
米国ルイジアナ州エイボンデールにあるNOLAモータースポーツパークは、1年前にオープンしたばかりのピカピカのサーキットで、最終的には全長約8キロ(完成すれば北米最長)のコースが設置される予定だ。現在は工事中なので、取材班は全長約4.4キロ、コーナー数16のノース・トラックのみを使用した。コースはフラットで、スピードを出せるコースなので、激しい雨が降らない限り楽しめる。
コンソール上にあるスロットにクリスタルのキーフォブを挿入すると一瞬の間がある。車載コンピューターがすべてのシステムをチェックするためだ。だが1秒足らずで準備が整い、12気筒のエンジンに火が入って静かな音をたて始めた。エキゾーストはやはりOne-77譲り。ステアリング・ホイールの5時の位置にあるスポーツ・モードのボタンを押すと、インジケーターのライトがついた。すると、それまでおとなしくしていたエキゾーストが大きく唸る(スポーツ・モードでは、エキゾースト・ノートが変わるだけでなく、スロットルの反応が良くなり、ギア・チェンジが37%速くなるようにギアボックスがプログラムされる)。
保護監察官のように我々に入念にチェックを入れるアストンマーチンのインストラクターが、慎重に練習走行を終えた私たちに、ついにスピードを上げる許可を出した。それでも8割程度に抑えて走ったのだが、すこぶるハードで速かった。
ヴァンキッシュが"男の車"であることに気づくまでには、それほど時間はかからなかった。 操舵感、エンジン・パワー、ハンドリングともに、驚くほど保守的だからだ。
ステアリング、スロットル、ブレーキといった主要な制御装置を操るには、がっちりとした手足を持った人でないと難しい。インターフェイスが重いと感じるかもしれないが、私は太い3本スポークのホイールを握ったときの重さや、アクセルを支えるしっかりとしたスプリング、ブレーキの短い制動距離が気に入った。それぞれが私の出す指示に対して、明快に応えてくれる。現在、自動車メーカーの大半が運転時にかかる体への負荷をなるべく軽減する方向に進んでいる中で、アストンマーチンが依然としてほどよい手ごたえのある車を作っていることがわかって、うれしかった。
アストンマーチンが発表したヴァンキッシュの0-100km/hは4.1秒。運転席で感じる加速も、およそそんなところだ(条件がそろえば、これより若干速くなるかもしれない)。だが、この数字はヴァンキッシュの6リッター自然吸気エンジンが持つ力の強さを表してはいない。エンジンはまるでタービンのように回り、燃料が遮断されるまで(最大回転数:推定7000rpm)タコメーターの針を半時計回りに回転させていく
サーキット走行という条件下において、トランスミッションは10点満点中7点の評価。スポーツ・モードに切り替えることで、素早いシフト・チェンジ、急な減速時のシフト・ダウンが可能になり、ギアボックスは驚くほど使いやすくなる。ギア・シフトは迅速だが、1、2回、コーナーでアクセルを強く踏むと、トランスミッションが急にシフト・ダウンして、車体のバランスが崩れそうになった。パドルシフトは便利だが、その位置が悪く(ステアリングコラムの下部に固定されている)、サイズも小ぶりでフラストレーションがたまった。
ボーナス・ポイントは「アダプティブダンピングシステム(ADS)」だろう。試乗している間中、いい働きをしてくれた。使用するには、ステアリング・ホイールの7時の位置にあるボタンを押す。後は3つのモードを選択することで簡単に切り替えられる。このときは「トラック・モード」を選択した。まだ新しいコースはことのほかスムーズで、デコボコ道に反応するダンパーを評価することはできなかったが、車体の揺れは少なく、プラット・フォームの安定性を感じた。タイヤはしっかりと地面をつかみ、トラクション・コントロール(メーカーから「ON」にしておくように要請されていた)は決してでしゃばらない。カーボン・セラミック製のブレーキは非常に優れもので、これは本当に粗を探すのが難しかった。周回を重ねるたびに強く踏み込んでみたのだが、フェードの兆候はまったく見られなかった。
新しいローンチコントロールも試したのだが、あまり印象には残らなかった。作動させるには数秒もかからないが(センターコンソールの下部にある「L/Cボタン」を押し、ブレーキを強く踏み続け、ステアリング・ホイールがまっすぐであることを確認してからアクセルを踏む)、同じクラスの他モデルと比べれば、その立ち上がりは力強くも速くもない。
さえないローンチコントロールは、私の数少ない"NGリスト"に載ったものの一つだ。他には、前述のパドルシフト(指がすぐ届く、ステアリング・ホイールの上に付けてほしい)、奇妙なナビのディスプレイ(画面が目線上にはなく、乗員の胸元を向いている)、そして、人間工学に基づいたデザインにもいくつか疑問の余地がある(One-77と同じステアリング・ホイールながら、クラクションのボタンは、センターから端に移動している)。
そして"OKリスト"に載ったものは、セクシーなスタイリング(リアのトランクの蓋と一体になったスポイラーが、継ぎ目のないカーボン・ファイバーでできていることに気がついた人は少ないだろう)、走り手に自信を抱かせるブレーキ、素晴らしいエンジン・パワー、アグレッシブかつ贅沢なエキゾースト・ノート、そして重量感のある多彩な制御装置だ。加えて、とても魅惑的で良い香りがする内部空間もリストに入れた。
これまでのアストンマーチン車の例にもれず、新型ヴァンキッシュもすこぶる運転していて楽しい車だ。「バランスが良く、落ち着きがあって、そして個性的」といった言葉がすぐに頭に浮かんだが、もちろん、約2700万円もするこの車を正しく表現する言葉など、英語にはない(あくまで個人的な感想だが、ベントレーの「コンチネンタルGTスピード」が安っぽく感じられてしまった)。だが、プリーツの入ったレザー・シートに1時間座った後、私がすべての財産をはたいてでも、この車を予約したいという衝動に駆られたのは確かだ。
午後の早い時間になるとサーキット場は黒い雲で包まれた。どしゃぶりの雨が降り始め、すぐにコーナーのあちこちに水溜りができ、関係者たちを慌てさせた。コースが閉鎖され、私のルイジアナでの楽しい1日は終わった。
変な話だが、この試乗会に参加したジャーナリストは誰一人として、サーキット外での走行を許されなかった。自分のヴァンキッシュをサーキットで走らせる機会が一生ないかもしれないオーナーたちとはまったく対照的だ。これには本当にがっかりする。ヴァンキッシュは速いスピードで走らせてこそ、その力が発揮できる車だからだ(だが後に、オーナーたちが参加できるメーカー主催の走行イベントがたくさんあることを知り、こんな同情もふっとんだ。どうぞ、ご勝手に!)
アストンマーチン社が資金不足に悩んでいることは周知の事実だ(先日、イタリアの非公開投資会社インベストインダストリアルが、アストンマーチンの大株主になったことは、良いニュースとなり得るのか?)。複数のブランドを持つ他の企業が、プラット・フォームと技術の提携に走るなか、アストンマーチンは長い年月をかけてじっくりとかつ巧みに同じエンジンとプラット・フォームの性能を磨き続けてきた。新型ヴァンキッシュは、DBSとOne-77を合体させて、新しいカーボン・ファイバーで覆ったものに過ぎないと言う人がいるが、私はそんな的外れな言葉をまともに取りあったりはしない。その代わり、ヴァンキッシュは、アストンマーチン史上最高の車だということを、みんなに教えてやるとしよう。
【基本情報】
エンジン:6リッターV12
パワー:573ps /63.2kgm
トランスミッション::6速オートマティック
0-100km/h:4.1秒
最高速度:時速295キロ
駆動方式:後輪駆動
車両重量:1739キロ
座席数:2+2または2
メーカー希望小売価格:2700万円(概算)
By Michael Harley
翻訳:日本映像翻訳アカデミー
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