トヨタ自動車・豊田章男社長 特別インタビュー
よい商品、よい仕事、よい人材とは
PRESIDENT 2012年5月14日号
http://president.jp/articles/-/6455?page=2
――この4月に新入社員が入社しましたが、どんなことを期待しますか。
入社式では「感謝の気持ちを持ち続ける」「仕事を楽しもう」「もっとクルマを好きになろう」
という3つの言葉を贈りました。
試練に直面してからのトヨタは就職人気ランキングでは下降気味ですが、
そんな時期にトヨタを選んでくれたのは何かがあると思う。
2012年の新入社員は本当にクルマ好きで、
体育会系の元気印が多く集まってくれたと聞いていますので楽しみです。
自動車メーカーならクルマ好きは当然だと思われるかもしれませんが必ずしもそうとは限らないのです。
新入社員はまず3年間はガムシャラに働いてほしい。
3年が長いと思う人は3カ月でも3週間でも、3日頑張ることから始めてもいい。
どんな仕事でも努力して継続すれば必ず自分の財産になります。
――今後、トヨタで活躍できる人材とはどんなタイプの人でしょうか。
ものづくりは人づくりで、人材育成は私の専管事項。
人を鍛えないといいクルマもつくれません。
新車開発のミーティング時に担当者から「社長にとっていいクルマとは何ですか?」
とよく聞かれるんですが、「あなたにとっていいクルマをつくりなさいよ」と言い返します。
勿論、私にもこだわりがあるので、少し形が見えた段階で、
一緒に試乗してクルマの中で語り合う機会を設けています。
私の意見を聞いて反対だと言う人もいますが、
ものづくりへの信念を持って自分の意思を貫くとがった人間は大いに結構。
でも「いいクルマ」という目的には共鳴してブレないでほしい。
若い力で私の期待を超えるほどの「いいクルマ」が出てくれればいいなと思います。
――技術系の社員については目的がはっきりしていますが、
事務系の人の働き方についてはどうですか。
「いいクルマ」をつくるのに、技術系とか事務系とかを分類するのはナンセンスです。
私自身、事務系出身ですが、技術系の社員と
共通言語を持つためにデザインも走りも努力して勉強しました。
どんなに有能な人でも完璧な人間はいませんから、完璧を求めるつもりはありません。
99の長所があったとしても一つくらい欠点があるはず。
99の欠点があったとしてもたった一つの素晴らしい長所を持つ人もいる。
私は99の欠点があっても、一つの長所を磨きあげるように育てられてきた。
だからこそ、トヨタマンには一つでもこれなら誰にも負けないぞ、
という強みを磨いてほしいのです。
――目標を明確にしながら、常に自分を磨くための努力が大切ですね。
スポーツ選手もそうですが、目標設定を「この程度が限界」と、
自分で勝手に決めつけたらそれ以上のブレークスルーは絶対に望めません。
会社の成長も同じことです。くどいようですが、
社長になって「もっといいクルマをつくろうよ」と言い続けてきたのは、
すべてのステークホルダーに迷惑をかけないためです。
トヨタが持続的に成長をするためには、さまざまな価値観を持つ多くのユーザーに、
時代の変化に合わせて笑顔で受け入れられるだけの商品をつくり続けることしかないと強く感じています。
――今後、世界の自動車産業はどのように変化していくと思いますか。
トヨタが設立される前から70年以上もずっとGM(ゼネラル・モーターズ)が世界一を続けて、
世界の自動車産業を引っ張ってきましたが、
競争によってトヨタもGMを脅かすぐらいの規模に育ててもらいました(笑)。
これから先は、上位7~8社が激しく入れ替わって、
やがて自動車産業全体を考えられる度量の広いメーカーがリーダーとして君臨するのではないでしょうか。
自動車はすでに成熟産業と言う人もいますが、そんなことはない。
これまでも環境対応車など時代のニーズに合わせてモデルチェンジをしてきたし、
今後も成長できる余地はあるはずです。
最優先すべきは「超円高」対策
――5月17日からは日本自動車工業会(自工会)の新会長に就任されますが、
政治・経済が混迷する中で、“六重苦”ともいわれる厄介な難題を抱える自動車業界の
“新しい顔”としてどんなテーマから取り組むつもりですか。
まず、最優先すべきは「円高対策」です。
一時80円台の水準にまで戻ってきた為替の問題にしても、
自工会で志賀俊之会長(日産自動車COO)が発言されていたように、
「超・超円高」が「超円高」になっただけで、決して円安にはなっていない。
私もこのままでは「自動車産業全体が崩壊しかねない」と言い続けています。
トヨタとしては、石にかじりついても国内生産300万台を維持する方針に変わりはないですが、
1ドル=90~100円レベルで推移してくれればと願いながら、
日本のものづくりを守るためにも対策を訴えていくつもりです。
これからの「働き方」についても言及したい。
日本の高度成長期は、先輩たちが明日の日本、明日のわが社のために夢と希望を抱いて
一生懸命頑張ってこられた。それが豊かな暮らしにも結びついてきました。
今後は、「よく働き、よく遊ぶ」といったよりメリハリを持った働き方を大切にしたいと思っています。
※すべて雑誌掲載当時
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