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(プレジデント)P&Gに学ぶ「純血叩き上げ育成法」

2013年11月05日 20時27分51秒 | 感想&独り言!!

P&Gに学ぶ「純血叩き上げ育成法」

 

世界最大の消費財メーカー。その根幹を支えるのは、
意外にも生え抜きの育成を重視する日本的な人材マネジメントだった。
純血主義の弊害をどのように克服してきたのだろうか。 

ジャーナリスト
溝上憲文=文
text by Norifumi Mizoue
●みぞうえ・のりふみ 1958年、鹿児島県生まれ。

明治大学政経学部卒業。経済誌記者などを経て独立。

経営、ビジネス、人事、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍中。

著書に『隣りの成果主義』『会社を利用してプロフェッショナルになる』など。

高橋常政=イラストレーション

 

 

5年連続二ケタ成長を支える
「内部昇進制」


 ビジネス環境の変化が激しく、スピードが求められるグローバル競争社会では、

有能な人材を外部から調達することが常識となっている。

近年はマネジメント層に限らず役員クラスまで外部から招き入れる大手日本企業も珍しくない。

 従来の日本企業は新卒を囲い込み、年功序列と終身雇用制の下で育成し、

会社に対する一体感と忠誠心を醸成することで競争力において強みを発揮した。

 

ところが、外部と隔絶された温室的風土の弊害として、

内部競争力の低下による人材の劣化と能力の有無に関係のない順送り人事という組織と

人事の硬直化をもたらしたことも事実だ。


 だが、今日において新卒を重視し、中途を受け入れない“純血主義”を一概に悪と言い切れるのか。

必ずしもそうではない。

たとえば世界最大の消費財メーカーのプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は

新卒重視による「内部昇進制」をグローバル規模で実践している企業の一つである。

その方針は徹底している。


 同社ヒューマン・リソース・ディレクターのソン・ドンオンは

「中間管理職以上でいきなり外から入ってくることはP&Gでは考えられない。

もちろん、弁護士や医師、博士など内部で育成できない人材は例外としても、

その例外も少ない。

それ以外はすべて新卒者を採用し、

新入社員時代からCEOになる人材を育てていくという考えだ」と指摘する。


 仮に中途人材を採用するとしても新卒と同じく身分も一兵卒からスタートするという徹底ぶりだ。

だが、内部昇進制が日本企業のように内向きの同質性ゆえに

競争力の低下をもたらすかといえばそうではない。

売り上げ規模は過去5年平均で10%超の成長率を示し約7兆円(2006年度)、

純利益も1兆円を超える高い利益率を誇る。

この高い収益を稼ぎ出す人材力の根幹を内部昇進制が支えている。



 では同社にとって内部昇進制の利点とは何か。

「当社は企業文化、価値観、そしてビジネスの展開状況を含めたすべてにおいて

真のグローバル企業であると自負している。

様々な諸制度やプログラム、システムやデータベースも世界共通に標準化され、

ある人材がどこの国に行っても、

その日から効果的・効率的に仕事が進められる環境が整っている。

同じトレーニングを受けて企業の目的、価値観、仕事の進め方を共有することで言葉が通じるというか、

お互い何を考えているかもグローバルレベルでわかるし、信頼感も生まれる。

同じ企業で一緒に育ってきた仲間であれば、長々と時間と労力を費やして

細かい説明をする必要もなく、

チームワークをとりながら効率的・効果的に仕事ができる」(ソン・ディレクター)

 

 言うまでもなく日本企業が美徳としてきた価値観である。

俗な言い方をすれば「同じ釜の飯を食べた仲間」ゆえの一体感がもたらす

信頼関係や機動力などの強みを重視している。

しかし、その一方で冒頭に指摘したように純血主義がもたらす弊害も発生する。

その点、同社ではリスクを担保する仕組みが縦横に張り巡らされている。


 その核となるのが同社の“憲法”である「企業方針声明書」

(Purpose, Values, and Principles=PVP)であり、

その名の通り、企業方針、価値観、理念の三つからなる。

価値観では「私たちは、世界中でもっとも優秀な人材を引きつけ、採用します。

私たちは、組織の構築を内部からの昇進によって行い、

個々人の業績のみに基づき社員を昇進させ、報奨します。

私たちは、社員が会社にとってもっとも重要な資産であるという信念に基づき、

行動します」と社員重視を謳う。


 内部昇進制を宣言すると同時に、

年功ではないパフォーマンスに基づく報酬・昇進システムを実施。

採用と人材育成の重視を掲げている。

成果主義による厳格な評価制度を入れることで、ぬるま湯的体質を排除するだけではない。

他社のように成果を発揮できない社員と外部の人材を取り替えできない以上、

優秀な人材の採用はもちろん、入社後の育成が決定的に重要にならざるをえない。

しかも育成しても社外に流出すればリスクも大きい。

そうならないためには社員の満足度と業績拡大など会社の目指すベクトルを常に一致させる必要がある。

 同社の年間離職率が3~4%と低いのは、まさにこの点に膨大なエネルギーを費やしているからといえる。

 

 

希望するキャリアを積ませることが
最大意欲をひき出す


 PVPの理念に「私たちは、すべての個人を尊重します」というのがある。

ソン・ディレクターは「社員は個人として尊重されるべきであり、会社のものではない。

社員が仕事を楽しくやるためには、

自分がやりたいと思う方向にいけるようにできるだけ制約をなくすこと、

自分自身の進むべき方向は何が正しいかを考えてもらったうえで自由にやれる環境を用意し、

そこで充実感を感じてもらうことが生産性を高めるという考え方に立っている」と語る。


 たとえば採用は部門別採用であり、

事前に1年後、5年後、10年後にどういうキャリアを身につけられるのかというキャリアパスを具体的に明示し、

本人の志望を重視する。


 また採用にあたっては前述したように人材の質に徹底してこだわり、

グローバルな採用基準にしたがって選考する。

面接にあたっては同社独自に開発した行動科学に基づいた方法による選考を行う。

研修を重ねた面接者が今までの人生で達成したことなどを質問し、

行動パターンを分析する手法であるが詳細は企業秘密だ。

ちなみに以前使っていた試験方法はコンサルティング会社に売却したという。


 部門別採用であることから入社後の人材育成も部門別に行う。

日本企業では様々な部署を経験するジョブローテーションによって

リーダー人材を育成するのが一般的であるが、

同社の場合、所属部門の業務と並行して他の部門も経験するというやり方である。


 たとえば人事部門に入ると部門をまたがる採用・教育などのコア業務を経験し、

その後は製品部門や工場の人事責任者として部門のチームメンバーとして

一緒に仕事をしながら経験を積んでいくことになる。


 しかも異動はグローバル規模で実施される。ソン・ディレクター自身も韓国のP&Gに入社後、

人事部門に配属。最初は生産工場立ち上げの人事スタッフに携わり、

その後、中国の大規模工場の立ち上げに参画するにあたり

人事キャリアの経験を積むべく3カ月間米国に勤務。

米国の各工場で知識と経験を得たうえで中国工場のスタッフとして赴任している。

「人事という立場で研究所や製品部門などあらゆるビジネスを経験し、

会社の全貌を把握できる人材を育成するようにしている。

私自身、自分のキャリアを踏まえて会社に要望し、積み上げてきた。

キャリアパスを選んだのは自分自身であり、やりたかった仕事を突き詰めることで

プロのビジネスマンとしての達成感と誇りを持てるし、

仕事に対する意欲が出てくるようにすることが重要と考えている」(ソン・ディレクター)


 若くして権限を委譲するのも特徴の一つだ。

たとえば各ブランドの一切の権限を持つブランドマネジャー職に入社後5~6年で抜擢される。

もし失敗すれば会社も痛手を被るが「たとえ失敗しても早く成長するし、

長期的には会社にもプラス」(ソン・ディレクター)という判断がある。

海外赴任も珍しくない。

同社の世界の拠点には約3年程度滞在する外国人マネジャーが約2000人存在する。

最大の目的はグローバルな視点で経験を重ね、

そこで獲得した知識やノウハウを自国や他の拠点で活かしてもらうことにある。

 ちなみに同社は経営人材の輩出企業としても知られる。

GEのCEOであるジェフリー・イメルト、AOL元COOのスティーブ・ケース、

マイクロソフトの元COOのボブ・ハーボルドも同社の卒業生である

 

評価者を指名できる
360度評価制度


 社員の自律的なキャリア形成と会社としての適材適所を可能にする仕組みが業績評価と連動するワーク・アンド・デベロップメントプラン(W&DP)である。目標管理制度に近いものであるが、全社的な目標を部門、チームを経て個人の役割に落とし込み、その達成を図るための能力育成計画や成果のレビューを統合したものである。
 具体的には部下が過去1年の業務成果と今後1年の業務計画、それと今後の短期(1~2年)、長期(5~10年)にわたる自身の希望するキャリアについて記入。上司はそれに基づいて前年の成果に対する総括評価とそれを前提に今年の業務計画を遂行するうえでの本人への期待や改善点を含めて総合評価を行う。同時に部下に対し、育成すべき能力と、それに必要な業務の経験と受講すべき研修内容を記した能力開発計画を作成するというものだ。
 この仕組み自体は珍しいものではないが、実効性を高めるための独自の工夫を実施している。その一つが上司の人事評価項目にビジネス上の業績向上の責任とともに部下の育成や組織風土の改善などの組織能力開発上の責任が組み込まれている点だ。管理職が自分のビジネスを伸ばすというのは当然だが「それと同じくらいに自分の部下を自分よりも優秀なマネジャーに育てるべく毎日努力しているかということで自らの業績が評価される」(ソン・ディレクター)ことになる。
 これは社員間の暗黙の了解事項の一つになっているという。その背景には言うまでもなく「内部昇進制である以上、外からリーダーを持ってくることができない。次世代のリーダーを自ら育て続けなければならない」(ソン・ディレクター)という使命感を帯びているからである。
 もう一つが評価の公平性、納得性を担保する仕組みとして導入している360度評価(他面評価)である。他面評価の使い方は各社各様であるが、同社の場合は被評価者自身が自分を評価してもらいたい人を指名し、最終的に直属上司の評価に反映する仕組みである。評価者は部下、同僚、上司と同じレベルの人の中から選ぶことができる。
「たとえば社員Aの上司と同じレベルの人が集まり、それぞれが自分の部下に対してはこういう評価をしているということを互いに披瀝し、評価のバランスがうまくとれているかを話し合う。つまり社員Aから見れば直属の上司だけの評価ですべてが決まるのではなく、他の上司の評価もインプットされることになり、さらに安心できることになる」(ソン・ディレクター)
 一連の総合評価や能力開発計画については上司との話し合いを経て最終的に合意の署名を行う。ところで多くの企業では評価の客観性、公平性を高めるために精緻かつ定量的に測定する評価シートを用意しているが、同社のW&DPはそれほど厳格な評価シートにはなっていない。部下の報酬を決定するのはあくまで現場のラインマネジャーであり、昇給などの処遇に対する説明責任の一切を負うことになる。つまり評価や育成のための仕事の与え方を含めて納得性を得るには何より部下と上司の信頼関係があってこそ成り立つという考えが背景にある。
「評価をするために多くのリサーチやデータが必要になるということはもともと上司・部下間の信頼が構築されていないからではないか。当社のラインマネジャーは人材を採用するかどうかを決定し、入社後は育成を担当し、昇進させるかどうかの意思決定も行う。その意味では上司の決定しだいで部下の運命が決まることになる。意思決定が正しいという確証を得るには部下の強みと弱み、またニーズを100%把握しなければならないし、それがあって初めて部下の能力を100%引き出すことができる。その前提となるのは社員と会社、部下と上司の信頼関係である」(ソン・ディレクター)
「信頼」は前述したPVPの中核となる価値観の一つだ。信頼関係が築かれていれば、多少の誤差はトラブルなく理解され、解消される。同社の育成の根幹となるOJTも信頼関係があって初めてうまくいくのである。逆に信頼関係が崩れるとどんなすばらしい制度も砂上の楼閣に帰するしかない。
 内部昇進制は信頼関係を醸成する基盤でもあるが、それだけで保たれるわけでもない。常に変化する会社と社員の利害を一致させていくためには、信頼関係を築く日々のたゆまぬ努力が不可欠となる。P&Gの実践は日本企業が怠ってきた内部競争力の活性化に大きな示唆を与えるのではないか。

 

 

 
 


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