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メモリー&ダイアリー

団塊世代の昨日と今日の出来事

建物のネーミング

2007年04月27日 | 仕事一途
 “トリアージ”と聞いて思い出したことがある。《カヤージ》である。

 10年余り前、市役所本庁舎の近く、電車通りから1つ入った通りに面する小規模な賃貸の共同住宅に関わったことがあった。住宅金融公庫の融資を受けた民間の建物で、建築主は個人の土地所有者だった。
 建物には名前を付ける。
 建築主に相談したところ、「息子が《カヤージ》にしたい」と言っているということだった。
 謂れを尋ねてみると、英国の競走馬の名前だと言う。
 そこで、所在地名を添えて、《カヤージ○○○》とした。
 馬の名前が付いた建物は初めてだった。入居者は「何語だろう」と首を傾げたことだろう。

 公共建築物の名前は、行政庁が決めてくれるから、こちらで考えることはない。

 法人とか個人が建てる場合は、建物名を考慮しなければならないが、ほとんどは建築主と相談して決める。
 設計時に決まっていれば良いが、多くはなかなか決定しないので、<仮称○○ビル>で申請したり、工事に取り掛かることになる。

 分譲マンションであれば、デベロッパーが決めているシリーズ名を冠するのが一般的である。大抵は<シリーズ名+地名>となる。

 国の制度に基いて建てた市の一括借上げ住宅の場合は、あらかじめ、市がシリーズ名を定めていた。5棟ばかりを設計したが、管理上の便利さもあってか、<シリーズ名+地名>になった。他の物件では、さらに個人名を加えた建物もあったようだ。

 個人の場合は、1棟の場合がほとんどだから難しい。
 個人名に固執される建築主もいる。賃貸住宅では避けて欲しいと思うのだが、要望を聞かない訳にはいかない。
 無難なのは、地名であるが、既に使われていたりすることもある。

 法人が所有し、なおかつ使用する場合は、法人名を付ければ良いから、悩まされることはない。

 ユニークな例を2つ。いずれも建築主が希望されたものだ。
 姓の1文字を使って、<○風館>。
 姓を英訳したものに初孫の名前を加えた<ポート○○○>。

 2番目のお孫さんが生まれた折、2棟目を期待したが、そうは問屋が卸さなかった。

  *今日の誕生日の花: フジ (花言葉:恋に酔う 懐かしい思い出)
     《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

建築士の講習会受講

2007年02月16日 | 仕事一途
 随分と古い話になるが、ブログの更新停滞と財布紛失の原因になった「建築士事務所の管理講習会」の受講の件を書いて、決着を付けたいと思う。

 平成18年度の講習会は、昨年の11月に開催された。
 当県では県都で2回、県東部の市で1回、都合3回の開催であった。

 主催者は、3回合わせて定員380名を予定していたが、会場の机配列表によると、実際の受講者数は510名を超えていた。
 私は県都での2回目を受講した。定員140名とあったところへ192席が用意されていたことからも、耐震設計偽装とそれに伴う建築基準法改正などが受講対象者に心理的圧迫を与えていたことが分かる。かく言う私も、そのうちの一人であった。

 通勤ラッシュの時間帯であることを見越して、受付時間に間に合うように車で出掛けた。会場までの距離は6、7㎞ほど。種々の講習会や試験の場合、県都に居ることの有り難味をいつも実感する。地方ごとであっても、当県都は必ずと言って良いほど、その会場になるのである。

 車を会場近くの駐車場に置いて、開会15分前にはあらかじめ決められていた席に座った。かなり後目の席で落ち着くことが出来た。

 挨拶に続いて、<1.建築事務所の枠組みと課題><2.業務のあり方を見直す>の2つで90分、休憩10分、<特別講演>の45分があって1時間の昼食休憩。
 午後は<3.建築士事務所の業務責任>と<4.建築士事務所が目指すべきもの>が間に休憩を挟んでそれぞれ60分ずつあった。
 講師は科目ごとにそれぞれ違った。スライドを見せたり、テキストを使ったりと工夫はあっても、短時間ではなかなか理解出来るものではない。しかし、そうかと言って、後日改めてテキストを読み返すなどということもしなかった。何らかの問題に直面した時、対処の参考にすべきものを教えて貰ったということで良しとする。
 <建築士事務所の賠償責任保険>の簡単な話も、繰り込まれていた。一般には知られていないかと思うのだが、設計ミスによって発生した損害を補償する保険があるのだ。かって勤務した事務所で、その保険が役立ったことがあった。

 閉会の挨拶の後、「建築士事務所の管理講習会」と「建築士事務所の開設者講習会」の受講証明書2枚を貰って講習会は終わった。

 気になったことが2つ。
 場内の案内放送で、住宅メーカーの社員がまとまって受講しているようだと分かった。開設者若しくは管理建築士以外の場合は、建築士の資格を持っていたとしても受講の法的義務はないので、少し奇異に思った。近い将来に備えるという意味合いはあるが。

 もう1つは、隣席になった若い女性である。はっきり見た訳ではないので、そうとだけしか言えない。
 その女性、ある科目の講演中に、文庫本を読んでいた。その程度の講演だったとは言えるかも知れないが、その大胆さに少々驚いた。

 耐震設計偽装に端を発した建築関係法令改正によって、新たな講習が課せられるということも、ほぼ決まっているようだ。
 ありふれた言い方だが、有意義な講習になるように企画して頂きたいと思う。

     *今日の誕生日の花: レンテンローズ (花言葉:丈夫)
        《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

建築士の講習会案内:後編

2006年10月16日 | 仕事一途
 建築士に対しての講習に関することは、前述したように建築士法第22条第1、2項に規定されていて、その条項は 第4章 業務 の中にある。
 そして、《建築士法施行規則》の第17条の20で講習を実施する者(日本建築士事務所協会連合会、日本建築士会連合会等)と講習の名称(定期講習、特別講習)を定めているが、具体的な措置は書かれていない。

 その具体的な措置は、県が2つの告示、[建築士を対象とする講習の指定に関する規程]と[県建築士事務所指導要綱]で定めている。
 いずれも、国(現国土交通省)の通達を受けて作成されたものであるに違いない。講習は都道府県知事に任されているのだ。

 [建築士を対象とする講習の指定に関する規程]では、講習の内容と講習を行う機関の指定に関する事項が規定されている。
 [県建築士事務所指導要綱]では、事務所の開設者と管理建築士(事務所の設計業務等を専任で管理する建築士)の責務、講習会の受講、事務所の登録又は登録更新の申請について定められている。

 この、事務所の登録又は登録更新申請の規定の中で、「過去5年以内に受講した指定講習の受講終了書又は受講証明書の写し」が必要であるとされている。
 これが、建築士に講習を義務付けている唯一の規定である。
 講習会の受講の規定で、「事務所の開設者と管理建築士は、所属する建築士に対して、講習会を受講させるように努めなければならない」とあるが、義務付けてはいないために、これは有名無実化している。

 ここまで法令集を捲って、やっとたどり着いた講習会に関する規定を、まとめると下記の通りである。
 ・事務所の開設者に対しては、建築士法第27条の2第2項第3号で研修を実施すると定めて
  いる。研修を実施するのは指定団体の日本建築士事務所協会連合会である。そして、県の
  告示で5年毎の受講を義務付けている。
 ・事務所の管理建築士に対しては、建築士法第22条第2項に基き、県の告示により、指定講
  習として5年毎の受講を義務付けている。
 ・上記以外の建築士には、努力目標はあるが、受講を義務付けたものはない。講習会の案内
  にも、受講対象者は事務所の開設者及び管理建築士と明記してある。

 これでは、建築士の資格取得後、設計及び工事監理に必要な知識及び技能の維持向上を図る方策が、事実上何もないと言われても仕方ない。この度の建築士法改正により、講習を制度化するということにも一理ある。

 案内によると、講習会は2会場で延べ3回行われ、定員は合わせて380名となっている。受講が5年毎であるとすれば、そんなところかも知れないと思う。
 因みに、受講料は14,000円(テキスト・税込)である。ただし、これは建築士事務所協会の会員である場合であって、私のような非会員は17,000円となっている。

 建築士の講習についての実際を整理しようと試みたのだが、随分と時間を要してしまった。法令を理解するのは骨が折れる。

          *今日の誕生日の花: ヒヨドリバナ (花言葉:清楚)
              《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

建築士の講習会案内:前編

2006年10月15日 | 仕事一途
 先日、地元建築士事務所協会から、平成18年度の知事指定・定期講習「建築士事務所の管理講習会」と、社団法人日本建築士事務所連合会が行う「建築士事務所の開設者研修会」の開催案内が届いた。
 講習会と研修会の2つになっているが、別々に開催される訳ではない。同じ内容のものである。

 案内文の冒頭には、「建築物の設計や工事監理は、国民の生命・健康・財産を守るうえで極めて重要な仕事です。これらの仕事を行う専門職能としてその資格を認められた建築士・開設者として常に必要な知識及び技能の維持向上に努めることは、当然の責務です。」(原文のまま)とある。
 今までに何回か目にした案内文であるが、初めて詳細に読んだ気がする。昨今の耐震偽装問題が頭にあるからだ。ただし、開設者は建築士資格の有無を問わないはずであるから、意味不明の部分がある。言い回しも少し変である。

 この管理講習会の法的位置付けは、少々ややこしい。
 建築士法の第22条第1項では「建築士は、設計及び工事監理に必要な知識及び技能の維持向上に努めなければならない。」と、努力目標を掲げている。そして、同条第2項で「国土交通大臣及び都道府県知事は、設計及び工事監理に必要な知識及び技能の維持向上を図るため、必要に応じ、講習の実施、資料の提供その他の措置を講ずるものとする。」としているが、具体的な講習等の措置は定められてはいない。

 《建築士法》に規定されている内容を改めて確認してみる。
 第1章 総則
   建築士資格(免許)には、一級建築士・二級建築士・木造建築士の別があり、各々が設計
  または工事監理出来る対象を明示している。
 第2章 免許
   建築士たるには、試験に合格した上で各建築士名簿に登録することによって免許を取得す
  ることが必要であるとしている。
   一級建築士に関わることは国土交通大臣が所管し、他は各都道府県知事の所管である。
 第3章 試験
   試験の実施方法と受験資格を定めている。
 第4章 業務
   設計及び工事監理を行う場合の留意事項を示している。
 第4章の2 建築士会及び建築士会連合会
   建築士は、都道府県ごとに建築士会を設立することが出来るとあるが、会員であることを
  義務付けてはいない。なお、各都道府県建築士会を会員としたものが建築士会連合会であ
  る。
 第5章 建築士事務所
   設計及び工事監理を業とする者は、建築士事務所を定めて、その登録を受けなければな
  らないとある。
   登録を受けた者が「建築士事務所の開設者」であり、設計業務等を専任で管理する者が、
  「建築士事務所を管理する建築士」である。両者は同一人である場合も、異なる場合もあ
  る。建設会社に属する建築士事務所では異なることが多い。
   また、登録は5年間有効であり、引き続き業務を行う場合には、更新の登録が必要である
  と定めている。
 第5章の2 建築士事務所の業務の適正な運営等を図ることを目的とする団体の指定
   日本建築士事務所協会連合会が指定され、「建築士事務所の開設者」に対する研修を行
  うとされている。なお、この規定は平成9年に新設されたものである。
 第6章 建築士審査会
   建築士の試験に関する事務を司り、懲戒等を処理させるために、一級建築士に関わること
  には中央建築士審査会、他には都道府県建築士審査会を置くとある。
   耐震偽装に関わった例の一級建築士の免許は、中央建築士審査会の同意を得た上で取
  消しになったのが、その一例である。

 《建築士法》をこれ程に詳しく読んだのは、建築士の試験勉強以来のことである。

          *今日の誕生日の花: シオン (花言葉:追憶 遠くの人を思う)
              《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

建築士法等の改正案

2006年10月11日 | 仕事一途
 今朝からのニュース及びネット記事で、国交省が建築基準法や建築士法、建設業法の改正案をまとめたということを知った。
 耐震強度偽装事件を契機に、何度かの改正内容が観測気球的に上げられて来たが、ようやく国会に提出し得る案になったようである。

 NHKニュースでは、大体次のように報道していた。
 「構造設計の実務経験が5年以上の一級建築士を対象に、構造設計の実務に関する知識や住民の生命を守るという建築士としての倫理などを学ぶ専門の講習を行い、受講した者を新たに『構造設計一級建築士』に認定する。そして、この資格を持つ建築士だけに7階以上の高さの建物の構造設計を行うことを認める」

 ヨミウリ・オンラインの記事は、もう少し詳しく、そして少々違っている。
 「高さ20m超の建物の構造(設備)設計は、新設する分野別資格『構造(設備)設計一級建築士』の取得者意外に許さない。木造住宅についても耐震強度計算を審査対象とする。設計事務所に所属する建築士に対して、3年に1回程度の専門講習を義務付ける」

 アサヒ・コムの記事では、ヨミウリ・オンラインと以下の部分の表現が違う。
 「一級建築士に『構造設計一級建築士』と『設備設計一級建築士』の専門資格を設け、中高層の建物を建てる際には、設計が法令に適合しているかどうか、建築確認の申請前に両専門建築士のチェックを義務付ける」

 上記のように、NHKニュースと他の2つの記事では、『設備設計一級建築士』に関する部分が大きく相違している。以前にも同じようなことがあった。
 このことを国交省のホームページで確かめることが出来ない。改正案は与党に示された内部資料の段階のものであるからだ。恐らく、これらの3つの内容を合せたものが正しいものかと思われる。

 『構造設計一級建築士』の資格を新たに設けることについては、異存はない。ただ、構造実務に関する専門知識の有無の判定には十分な留意が必要であると思う。

 問題は、『設備設計一級建築士』の資格取得者数にある。
 設備設計は、大きく分けて2つの分野に分かれる。給排水・衛生・空調設備等を扱う機械設備と、動力・電灯コンセント・照明器具・電話・テレビ共聴・自動火災報知設備等を扱う電気設備である。
 この2分野共を設計出来る者は少ないはずである。それ以上に、一級建築士資格を持つ設備設計者自体が稀である。そうすると、資格者数は限られるから、該当する設計のチェックが十分に出来るのであろうか。
 このことについては、《一級建築士に専門資格新設!》と《特定建築士の新設へ》で書いたことがある。
 この疑問は、近く国会に提出される改正案そのものを見てみないと解消しない。

 アサヒ・コムの記事中に、「能力不足の建築士が野放しにされていたことが一連の事件の背景にあったことから、すべての建築士に定期講習を義務化する」と書かれてあった。
 「能力不足の建築士」とは如何なることに基いて言っているのだろうか。
 耐震強度偽装で問題となった件数は、多くの建物の内のごく一部であり、それに関わった構造設計者は数人ではなかったか。
 構造計算書をチェック出来ない意匠設計者がいるのは、建築士法上の不都合であって、建築士の能力の問題ではない。内科医に外科の手術が出来ないのと同じことなのだ。

 建築士は、それぞれが得意にしている専門分野で、誠実にその能力を発揮しているのである。

          *今日の誕生日の花: ダリア (花言葉:栄華 優美)
              《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

ワールドトレードセンター:後編

2006年10月08日 | 仕事一途
 WTC1、WTC2は計画された通り、飛行機の突入の衝撃によって、直ちに崩壊することはなかった。
 崩壊は、構造部材の損傷とその後の火災発生によるものである。

 建物の構造を的確に表現する知識を持合わせていないが、報告されたものを要約すると、下記のようなことになるかと思う。
 建物の重量は中央のコアで支え、床はそのコアから伸ばされたトラス構造の梁によって維持されている。コアは32本の柱と耐力壁で構成される。柱や梁の材料は鋼材である。火災等の高熱から守るために、鋼材には耐火材が被覆されている。

 飛行機の衝撃には耐えることが出来た。しかし、損傷を受けて耐火材が剥がれた鋼材は、衝突直後に発生した火災による高熱に晒されることになった。一時的な火災であれば、鋼材の耐久性も維持される。だが、離陸したばかりの飛行機の燃料は多くが残っており、そのため火災は長く続き、鋼材の耐久性は徐々に低下して行くことになった。
 高熱で解かされた鋼材は、構造材としての役目を果たさない。耐え切れなくなった時、崩壊が始まった。部分的だったとしても、上部にはまだ15階、30階という重量が載っており、瞬時に崩れ落ちる衝撃に下階は耐え切れない。それが連鎖的に起こって、短時間のうちに一挙に崩壊してしまった。

 テレビの映像からも分かったように、後から突入されたWTC2の方の火災状況が激しかった。そして、WTC1よりも下の階に突入されていた。
 このことが、WTC2が突入後1時間で崩壊した原因だろうと思われる。
 WTC1の崩壊は1時間40分後であった。

 実際に起こったことから類推すれば、崩壊に至る過程は解明出来るだろう。
 しかし、突入とその後の火災から崩壊を予想した、という話を未だ耳にしない。予想した専門家もいるだろうとは思うが、それも自身の内に留められてしまったに違いない。
 二次災害とも言うべき崩壊で、救助活動等に当たった人達が亡くなったのは残念である。

 米国では高層建築物は飛行機の衝突を考慮した設計をしているということだが、日本において、その想定をして建物を設計しているということは聞いたことがない。これは、私の勉強不足かも知れない。
 耐火性能は法令で定められている。建物の用途や高さ、その構造部位によって、30分から3時間までの耐火時間の要求がある。万一の火災発生時の安全避難と建物の耐久性維持を目的としている。
 WTC1及び2の崩壊を受けて、ある建設会社が実際の鉄骨造の建物で耐火実験をした。耐火被覆材と性能と崩壊の状況を調べたのだ。所定の耐火時間を経過した後、建物は一挙に崩れたそうである。鋼材は建設資材としては有効、不可欠ではあるが、熱には弱いということが改めて確認されたのだ。

 それにしても、WTC1及び2の建物幅とボーイング767型機の大きさ、突入位置、燃料の多寡等々、テロリストの考えることには恐怖を覚える。

  *今日は、「入れ歯ケアの日」「木の日」「骨と関節の日」だということだ。
   語呂合わせだけではなさそうであるが・・・

          *今日の誕生日の花: サラシナショウマ (花言葉:雰囲気のよい人)
              《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

ワールドトレードセンター:前編

2006年10月07日 | 仕事一途
 今日から、全国で、映画『ワールド・トレード・センター』の公開が始まるが、これは映画の内容の話ではない。
 5年前のテロによって崩壊した『ワールドトレードセンタービル』のことを、先月書こうとしたのだが、頭の中で思うようにまとまらなかった。映画の公開に合せて、再度挑戦したのである。

 ご存知のように、ワールドトレードセンター(WTC:世界貿易センター)はニューヨークのマンハッタン南端に位置し、7棟の建物で構成されていた。
 2001年9月11日、このうちの高層建物2棟がテロの標的にされ、結果的に完全崩壊してしまった。残る5棟の建物も高層棟崩壊の巻き添えを受け、全て崩壊若しくはほぼ全壊という惨状を呈することとなった。

 WTCは、日系アメリカ人のミノル・ヤマサキのコンペ案が選ばれ、彼が設計に当たった。全体の工事は、1966年に始められて73年に完成した。
 高層棟(WTC1:北棟、WTC2:南棟)の概要は次のようになっている。
  屋上高さ:417m  最頂部(尖塔)高さ:528m  階数:地下6階 地上110階  形状:一辺が63.4mの正方形

 設計に際しては、大型ジェット機が衝突しても崩壊しないように考慮された。
 大戦終了直前の1945年7月、エンパイアステートビルにB25爆撃機(全長16m、全幅20m)が衝突したことを教訓としている。

 しかし、旅客機ボーイング767型機(全長48.5m、全幅47.6m)のテロによる突入に対して、WTC1、WTC2は最終的には共に耐えられなかった。
 旅客機の突入から崩壊までの時間経過は以下のようであった。(アメリカ時間による)
 《WTC1(北棟)》
  8時46分:94~98階部分に突入  10時28分:崩壊  経過時間:1時間42分
 《WTC2(南棟)》
  9時3分:78~84階部分に突入  10時5分:崩壊  経過時間:1時間2分

 その時、私はNHKテレビの「ニュース10」を見ていたのだが、途中で切り替わって、WTC1が高層部から黒煙を上げている画面になった。
 事故かのような話でもあり、私もそう思っていたが、間もなく、飛行機がWTC2へ突入する様子を映した。
 こうなれば単なる事故ではないことは分かるが、テロであるとは思い至らなかった。すさまじい画面に食い入るばかりで、ただただ唖然としていただけだった。

 次に驚くべきことが起こった。WTC2が崩壊を始めたのだ。そして、あっという間に崩れ落ちてしまった。
 余り時を措かずして、WTC1の姿も消えてしまった。

 その後しばらくして、私は1つの疑問に行き当たった。
 何故、崩壊を予想出来なかったのだろうか、ということである。
 予想出来て、それを伝えることが可能であったならば、救助活動に当たった消防士や警察官の犠牲を少なく出来たのではないだろうか、建物の側にいて崩壊の巻き添えになった人を減らすことが出来たのではないだろうか、と思うからである。

          *今日の誕生日の花: コスモス (花言葉:調和 乙女の真心)
              《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

定礎石

2006年09月13日 | 仕事一途
 自分が携わった建物の近くを通ったりすると、つい、見てしまったりする。
 特に賃貸の建物の場合は入居状況が気になる。もちろん、入居率が良ければ嬉しい。

 先日も、ある建物の前を車で通り掛った時、急いでもいなかったので、車を止めた。
 町中の建物だから、敷地に余裕がない。道路側から見れば、敷地一杯に建物が建っているようである。
 建物の正面に向かって、右手側に車や自転車の出入口が、左手側に入居者用のポーチがある。その間に自転車置場があるのだが、道路からは、タイルを張った壁に見えるだけだ。自転車が、直接見えないようにしてあるのだ。
 ポーチと言っても、間口3m余り、奥行き6mしかない。左側の敷地境界線沿いは、タイル張りの塀になっていて、その塀に沿って、幅60㎝の細長い植込が玄関扉まで延びている。自転車置場の壁の前にも、幅2mで奥行き1mの植込がある。
 建て替える前の庭にあった石灯篭や手水鉢が、そこに置いてある。樹木や草花が所狭しと植わっている。何時見ても、手入が行き届いている。オーナーの顔が目に浮かぶ。

 玄関を入って住戸案内板を見る。16戸の内、入居は14戸のようであった。少しがっかりである。せめて、もう1戸でも入っていれば・・・

 玄関を出て、自転車置場側の壁に目をやった時、定礎石に気付いた。大きさは、幅45㎝に高さ30㎝、赤い御影石である。
 この定礎石の文字は、オーナーの子息がパソコンで書いたものだ。文字はパソコンらしい丸文字で、「定礎」とあり、文字の隣に足跡と思しき模様がある。
 オーナーに、その原稿を頼むと、「息子がデザイン関係の仕事をしているから、彼に書かせる」と言うことだった。それがこれである。ありきたりのものしか見て来なかった私には、初めての経験だった。

 「定礎石」について、以下のような説明を見つけた。
 定礎石は、建設に際して行われる起工式や竣工式等の行事の一つ、「定礎式」で埋め込まれる。欧州の石造建築で基準となる石を置く“CornerStone Laying Ceremony”に由来し、本来は建設初期の段階で行われるものである。しかし、日本では、ある程度完成した時点で、工事の安全を祈願する儀式となっている。定礎石は、通常南東の角に置かれる。多くの場合、定礎石の奥には、発注者、施工者、図面、氏神のお札や、その時の通貨、新聞雑誌、社史等を納めた定礎箱を埋め込むことがある。

 私には、定礎石についての知識は全くない。だから、的確に書き写してはいないだろうと思う。

 私にとっての定礎石とは、「“定礎”及び竣工した年月を彫り込んだ石で、玄関等の目に付きやすい壁に埋め込むもの」であるだけだ。
 この仕事に就いて以来、ずっとこれで通して来た。誰にも教わらなかった。これ以上のことは、考えもしなかった。

 この建物の定礎石は、他のものに比べるとデザインされていると言えるし、型通りでないのが良い。私も気に入っている。

 ある学校法人の校舎や会館には10棟近く携わったが、定礎石の原稿は、理事長が全て書いて下さった。人柄が滲み出ているような文字だった。

 あるオーナーには、「自筆が良いですよ」といくら頼んでも書いて貰えず、パソコンが書いた明朝体の文字を渡された。

 「適当にしておいて下さい」とか「お任せします」というオーナーもいた。

 折角の機会だから、オーナーには、筆を持って是非書いて頂きたい、と思う。
 何10年先でも、目に止まるものだと考えれば、感慨一入のものがあるだろうと思うのだが。

          *今日の誕生日の花: キキョウ (花言葉:変わらぬ愛 気品)
              《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

眺望を失う:後編

2006年09月12日 | 仕事一途
 計画建物の南側、100m先は川である。その川は、東から流れた来たもので、西に150m余り行って南西方向に流れを変えている。なお、東から流れて来た川は、左手で二つに分かれていて、分かれた方は南に流れている。
 だから、向こう岸の一帯は、川に挟まれた状態になっている。そこは、城下町として形作られて以降は寺の町で、現在、13ヶ寺が甍を並べている。
 敷地の西側の道路は、橋を渡って、その寺の町の真ん中を、真直ぐ南に貫いている。路面電車も走るメイン道路は、寺の町の西側にある。

 建物の10階からは、左手、すなわち、東南方向には城を含む広い公園を眺めることが出来る。公園の向こうは当市の中心市街地である。オフィスビル、商業施設、高層ホテル、スポーツ施設、官庁施設等々、全てが見える。公園の西側には、川が流れていて、さらに川の西側、真南方向が寺の町になる。寺の町の向こうや右手側には、果てしなく町並みが続く。遥か遠方には海が煙っている。海には島も浮かんでいる。
 同じ町内の左右や目の前にある建物は、視界を遮る程のものではない。

 この眺望を如何に生かすべきかを考えた。
 東側のパブリック部分と西側のプライベート部分を繋ぐ廊下の南側全面をガラス窓にした。家の中を移動する時には、町中が見渡せる。
 廊下の北側真ん中を玄関にする。玄関扉を開けて自宅に入ると同時に、別世界が眺められる。

 東側には、北に居間・食堂、南に奥さん用の1部屋がある。その1部屋の上に、もう1部屋を乗せた。部分的に11階にした訳である。道路側と違い、道路斜線制限の規制を受けないので出来たことである。
 南側を高くした円弧状の屋根を架けることによって、2層にした。居間・食堂の天井も高く、そして変化を持たし得る。上の部屋には、居間から屋内階段で上がる。
 この部屋は主人用である。座ったままで、眺望が楽しめようにした。

 施工途中や竣工後に、自分の目で結果を確認して、一人ほくそ笑んでいた。

 夏の竣工だったので、ある日、屋上で花火見物をしようということになった。夕刻に、所有者夫婦、施工会社の副社長、営業社員、現場監督とその家族、それに私の関係者が集まった。方角の関係で、花火は思った程には見ることが出来なかったが、眺めとビールは最高だった。

 4年半後、南側の土地に建物が建つことになった。
 借家人に手を拱いていた医者と駐車場の所有者が、土地を手放したのだ。2つの土地を合わせれば、有効利用可能な土地になる。
 分譲マンションも手掛ける地場大手ディベロッパーが、ワンルームの賃貸マンションを計画したのだ。収益性を考えれば、容積率一杯に建てるのは当然だから、建物は13階建てだった。

 隣の一部11階の建物よりは高い。眺望を楽しめる窓も塞がってしまうだろう。

 私が竣工させた建物の所有者は、僅か5年後に、眺望を失ってしまった。
 ガラス張りの廊下は、逆に覗かれてしまうかも知れない。
 今となっては、居間・食堂の東側に開けたバルコニーだけが救いである。

 私が建てた建物も、誰かの眺望を奪ったに違いない。市街地の建物の宿命なのだ。
 こうなることもあり得ると見込んで計画しなければならなかったと、反省頻りである。

          *今日の誕生日の花: ツリフネソウ (花言葉:安楽)
              《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

眺望を失う:前編

2006年09月11日 | 仕事一途
 6年前の夏に、1棟の賃貸マンションを竣工させた。
 建築場所は、JR駅前商店街のはずれに位置する。この駅は、新幹線が停車する当市玄関駅の隣の駅である。

 地域の都市計画上の条件は、商業地域、建蔽率80%、容積率400%。
 敷地は間口10m、奥行き42mで東西に細長い。西側だけが、幅員10mの道路に接している。
 道路側から28mまでは長方形だが、それより東側は台形で、東に向かって狭まくなっている。それ故、敷地面積は400㎡余り。
 大きな木造2階建ての店舗兼住宅が建っていた。店舗は休業中。土地の所有者が住んでいる。

 敷地の北側は4階建ての店舗兼自宅兼賃貸ワンルームの建物。
 東側には木造2階建ての戸建住宅。両家の間には、過去に土地を巡る対立があった由。計画説明にお伺いした折、幾つかの注文があった。何時、如何なることでお願いする立場になるとも限らない。平生の近所付合いが大切であることを痛感した。
 南側には木造2階建ての店舗兼住宅。店舗は休業中。土地と建物の所有者は30㎞も離れたところのお医者さん。借家人は少し偏屈だとの評判がある30歳過ぎの夫婦。敷地の間口は5m、奥行きは30m余り。
 その南側は駐車場になっている空き地。間口は6m余り。所有者はお医者さんとは別人。
 なお、南側の東、残り12mの部分には、家具店の駐車場の建物がある。

 店舗も休業中であり、土地の有効活用を図るため、自宅を賃貸マンションに建替えることが目的であった。
 計画する建物の条件は大きく2つ。
 1)当市の特定優良賃貸住宅制度の適用を受ける。住戸数は20戸までだが、それよりも少ないほうが良いという市の意向があった。各住戸は20坪(66㎡)程度の3LDK。適用されると、全住戸が市の借上げ住宅になり、20年間の家賃が保証される。ただし、保証されるのは近隣の賃貸住宅を参考に算出した家賃の88%。
 2)最上階に土地所有者の住宅を配する。現在は年配の夫婦のみ。息子が隣接県でデザイン関係の仕事に従事。娘は嫁いで首都圏に居住。

 計画に取り掛かってから2年余に、種々の手続きと工事を経て、以下のように完成する。
 建物の全体は、土地の西側の長方形部分に納めた。住宅だから形が整った方が良い。
 間口9.1m、奥行きは2つのバルコニーを含めて23.1mの鉄筋コンクリート造10階建てになった。
 建築面積は220㎡弱で建蔽率53%。延べ面積は1500㎡弱、容積対象面積は1290㎡で容積率316%。容積率は余っている。

 1階には、建物の玄関と駐車場、駐輪場を置く。
 2階から9階までは、各階に2戸の住戸で計16戸。住戸は東向きと西向きである。奥行き1.5mのバルコニーに7.3mの住戸を、中にエレベーターと階段、開放廊下を挟んで、対象的に配置した。中央部分の奥行きは5.5m。
 10階は、自宅である。東側に居間・食堂と台所、日中を過ごす1部屋のパブリック的諸室と、トイレ、浴室等を配置。西側に8畳の和室と12畳の洋室、納戸、トイレ等のプライベート的諸室を置いた。
 西側の屋上は陸屋根にして、所有者が物干や植栽に私的に使用出来るように配慮した。東側は円弧状の屋根になっており、利用出来ない。

 9階までは、普通の計画であると言って良いが、10階の計画については、少し趣向を考えた。

 1棟の建物を字句で説明することは、大変な作業だと改めて理解した。
 問題の核心は次回に譲る。

          *今日の誕生日の花: ソバ (花言葉:あなたを救う)
              《NHKラジオ深夜便 案常備の花》カレンダーより

違反建築物を放映

2006年09月08日 | 仕事一途
 何気なく選局したテレビの映像に、考えさせられる場面があった。

 当地では、夕刻前の時間帯は、各局共、自局製作の番組を放映する。地元のニュース、話題、イベント情報、グルメ情報等が競うように流される。

 たまたま目にした番組で、東京のど真ん中に自宅を建てた建築設計士を紹介していた。狭い敷地に、如何にアイディアを採り入れた設計をしたかについて説明しながら、自宅を案内するコーナーである。
 何故に東京なのか、について、まず問うてみたくなったが、これは措くとしよう。

 1軒目。30歳過ぎの男性建築設計士。(私には、建築家と建築設計士との差は途方もなく大きい)
 細長い敷地に、建蔽率を考慮しながら、開放感のある住環境を得るために、中央にガラス窓で囲まれた中庭を配した住宅が紹介される。確かに趣旨は実現されているようだ。

 続いて、寝室の案内。嬉々として、「ここは寝るだけなので、天井は出来るだけ低くしました」
 なるほど、頭の上すれすれが天井である。天井高さは1m80~90cmであろう。
 しかし、建築基準法施行令第21条第1項で、「居室の天井の高さは、2.1m以上でなければならない」と規定している。そして、住宅の寝室は、立派な「居室」である。
 よって立派な法令違反である。わざわざ、違反を公にするのも珍しい。
 「寝室の天井高を抑えたことで、居間の天井を高くすることが出来ました」
 確かに高い。4、5mはありそうだ。それ程あるなら、寝室に回してやれば良いのに。

 続いて2軒目。3、4歳のお嬢さんがいる30歳過ぎ(他人の年齢はさっぱり読めない)の夫婦の建築設計士。
 これも細長い敷地。敷地なりに間口が狭く、奥行きのある3階建ての鉄筋コンクリート造の建物である。正面に向かって左側の壁に階段がへばりついている。階段には折り返しがなく、3階までまっすぐに伸びる。そして、階段の各踊場と2、3階のフロアが繋がっている。1、2階のフロアからは、階段の形状、要するに段々がそのまま見えるのだ。
 間仕切り壁や建具のついていないコンクリートだけの状態をイメージする。それが現に住んでいる状態なのである。
 浴室や洗面等の案内はなかった。キッチンは見えた。

 この建物の何処に問題があったのか。
 階段に手すりがない。
 施行令第25条第1項に、「階段には、手すりを設けなければならない」とある。この項は、4年前位に新設されたから、それ以前の建物であるならば適用は免れる。ただし、このように公に紹介されるのであれば、問題であろう。
 同条第2項は、「階段及びその踊場の両側には、側壁又はこれに代わるものを設けなければならない」と規定している。左右への転落防止のため、壁か手すりを設けることを求めている。
 フロアから段々の形状が見えるということは壁がない。壁がなければ手すりが必要である。しかし、手すりがない。
 従って法令違反である。

 広く見せたいがために、フロアと階段の間に、壁もなければ、手すりもない。子供が生まれたので、階段への転落防止用にネットを張ったということであった。子供ならずとも怖いと思うだろう。
 手すりのない階段を、3階から下へ降りようとすれば、1階まで転落しそうで怖いと思うのが普通である。

 怖さが理解出来ない建築設計士は、傲慢でしかない。

 耐震偽装であれ程騒がれたのに、テレビ局は、何故ノーチェックで放映してしまったのだろうか。

 その前に、我々建築設計士の浅はかさと傲慢さを恥ずかしく思う。

          *今日の誕生日の花: タマスダレ(花言葉:潔白な愛)
              《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

建物は危険が一杯

2006年08月28日 | 仕事一途
 先日は、シュレッダー事故について、製造者の責任を糾弾する記事を書いた。
 製造者の責任を問うたのは、「製品が使用されるであろうあらゆる状況を想定した上で、危険と思われる事象を排除し得る製品を販売することが、製造者には求められている」という理由による。

 私は建物の設計に携わっているが、入居者や利用者の安全を考えて設計しているとも書いた。
 私の意識の中には、「建物が誰にも安全であることは、なかなかに難しい。それに引き換え、シュレッダーを安全な物にすることは容易である」という思いがあった。
 自分のことは棚に上げて、他人のことをとやかく言うに等しい。分かってはいたが、気を付けさえすれば安全を確保出来るということが、羨ましくもあったのだ。

 建物を誰にとっても安全であるようにすることは、困難と言うしかない。

 以前、マンションの開放廊下から子供が投げ落とされるという事件があった。これは悪意を以ってなされた行為だった。
 その事件の直後に、やはり開放廊下から女の子が落ちて亡くなるということがあった。原因は、子供たちの“遊び場”になっていたことによる事故だった。
 どちらも意外なことではあるが、想定出来ないことではない。

 では、その事件や事故を防ぐ方法はあるのだろうか。
 壁か格子状の金物で塞いでしまえば解決する。壁には窓を設ける必要があるが、格子を付ければ大丈夫だ。
 しかし、開放廊下には、別に重要な役目がある。
 火災時の消火・避難活動の場になるのである。だから、開口の大きさや手摺の床面からの高さは、関係法令で数値が定められている。
 事件・事故の防止と消火・避難活動のどちらを重視するかということになれば、答えは自ずから明らかとなるだろう。

 開放廊下と同じ形状のものとして、バルコニーがある。
 バルコニーからの幼少児の転落事故も多い。洗濯機や花鉢等が、手摺の高さをないものにしてしまうからだ。

 室内も危険ばかり、と言っても良い程、子供や高齢者、身体に障害のある人のみならず、健常者にとっても危険は溢れんばかりである。
 浴室の床面は滑るし、浴槽に溺れる幼児は多い。階段では足を滑らせるし、床の段差には躓いてしまう。ドアで手指を挟むし、窓ガラスで指を切ることもある。
 物理的なことばかりではない。
 接着剤や建材等に含まれるホルムアルデヒド・トルエン等の揮発性有機化合物の吸引は、身体へ悪影響を及ぼす。これは、シックハウス症候群と言われる。

 これらに対して、行政は手も拱いている訳ではない。
 階段には、必ず手摺を付けることにした。
 揮発性有機化合物の使用制限とその対策のための法改正もあった。
 住宅性能表示制度という良質な住宅供給を促す政策誘導も採られている。

 しかし、結局のところ、建物は人間が生きて行く上での基本的要件である「衣食住」の一つである、ということに甘えて、安全に使用して頂くしかない。
 “よろしくお願いします”

          *今日の誕生日の花: ヤマハハコ (花言葉:純情)
              《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

業務経歴

2006年08月14日 | 仕事一途
 手元に、建築設計の仕事に携わってから、現在に至るまでに担当した建物等をリストアップした2枚のメモ用紙がある。
 発注者と打合せの上、計画から実施設計まで、また多くは工事監理を含めて、私が主体となって担当した物件を、経年順に並べたものである。
 一地方都市での仕事故、各々は余り大きな建物ではないし、件数自体も多くはない。しかし、それぞれの建物には、いろんな思いが詰まっている。

 最初に勤務した設計事務所には、11年間、お世話になった。リストには21件を数える。
 半数近い10件が学校法人の建物である。大学の拡充期に当たり、高校を含めて、毎年仕事があった。高校の武道場から、大学の校舎、大学会館まであって、私も充実していた。
 県の建物も5棟あった。教育施設2棟と県営住宅3棟である。取分け、教育施設の1棟にはかなりの精力を注いだ。一番の出来かも知れない。
 後は公営と民間の共同住宅が多く、民間は1棟しかない。それは事務所の歩んで来た道でもあった。

 2番目の事務所には、3年半勤務した。その間に、7物件の10棟を担当した。
 市立の学校で4棟、市営住宅を3棟と、市との関わりが多かった。
 民間は、店舗兼住宅1棟と賃貸共同住宅2棟であった。

 次の自営では、3年余りの間に、様々な物件に巡り合った。
 まず、都営住宅の標準設計作成。都庁まで、打合せに何度も行った。
 大規模な卸売市場、ゴルフ場のクラブハウス、私鉄の駅舎、自動車部品工場は初めての経験であった。
 分譲マンションも初めて手掛けた。4棟210戸をまとめたりもした。
 土木関係の仕事を含めて11件、バラエティに富み、一番忙しい時期だったと思う。

 そして、知人と共に設立した設計事務所。1人では忙しい過ぎて、この話に乗った。
 とにかく、共同住宅が多かった。分譲は4棟で150戸、賃貸は7棟にもなる。事務所や自宅を併殺した賃貸も3棟あった。
 住宅金融公庫と住宅改良開発公社には、本当に良く通ったものだと思う。
 スーパー銭湯1棟を含めて、7年間に15件を担当した。

 2度目の、現在に至る6年間の自営。
 営業力の無さに泣かされて、それこそいろんな仕事をしている。
 共同住宅3棟、スーパー銭湯1棟、社屋事務所1棟は、言うことなし。
 外装の改修も経験した。土木関連の建築の仕事もした。トイレ棟も書いた。
 グループホーム設立の改修図面作成にも苦労したが、資金調達出来ず、断念したこともあった。
 
 現在までに、70件近くの仕事に関係して来た。同僚の物件手伝いを含めれば、まだまだ多い。
 我々の仕事は目に見えるし、長く残る建物もあるだろう。 
 紆余曲折はあったが、幸せだと思う。

           *今日の誕生日の花: ホオズキ (花言葉:自然美)
              《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより 

一応、設計終了

2006年08月11日 | 仕事一途
 4ヶ月も掛かって、1件の仕事が、ようやく終了した。
 しかし、それも最終ではない。取り敢えず、ここまでにしておいて欲しいという発注者側の意向に沿ったものだ。

 先月初めまでは、順調だった。
 私が書いた基本設計図に基いて、構造と設備の設計に取り掛かるということだった。
 私も、建築確認申請に必要な図面の作成に入った。基本設計図を手直ししたり、新たな図面を書いた。

 全体像が見えたところで、構造、設備と整合しなければならないと思い、メール添付で図面を送った。いくつかの質問も添えた。

 しかし、いくら待っても返事が来ない。
 仕方がないので、図面作成は私の考えで進めることにした。電話でもして、「直に仕上てくれ」とでも言われたら、少し困る事情もあった。
 それでも、一応の区切りが来てしまった。
 また、メール添付で図面一式を送付した。

 そうしたら、「ここまでしておいて様子をみたい」というメールである。そう言われれば、私は何も言えない。遣り残したことは多いが、やむを得ず、一応終了しておこうということである。

 最初から曖昧ではあった。
 良くあることではあるが、この件は、土地と事業収支を提示して、事業主を探そうということのようだった。事業主には、「賃貸収入はこれこれで、建築確認の手続きも進行中ですから、直にでも建てられますよ」という説明で済む。事業主にとっては至り着くせりである。その分、少し高く付いて、結局は同じことではあろうが。

 最近、金利が上がりつつある。お金を借りての事業には黄信号である。状況が悪い。半年早ければ、違ったかも知れない。
 図面を書いておいて言うのもおかしいが、建設コストが幾分高くなりそうな計画である。土地の広さと形状に制約されるので、こうならざるを得ない計画ではあった。私も頭を捻ってみたが、致し方ないとも思われた。
 近隣説明で歩いた中に、そのことを指摘した方がおられた。
 全く別のルートで、同じ土地に、同じような計画で、「事業主に云々」の話が来たというのである。計画から判断して、事業収支が良くなさそうだったので断ったということだった。理解出来ないことではなかったので、その時、少し不安を覚えた。

 図面としては、良くまとまった。実施図面をA3版に書いたのは初めてであったが、何とか納まった。立面図が横倒しになっているが、A2版でもあることだ。
 実は、私は、1枚の図面に、いくつかの図を如何に整然とバランス良く配置するかを考えるのは得意なのだ。自己満足に過ぎないと言われれば、それまでであるが。

 お盆も近いので、少しゆっくりしようと思う。

    *今日の誕生日の花: オモダカ (花言葉:秘めたる慕情、高潔)
       《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

設計ミス:その6

2006年08月08日 | 仕事一途
 知人に頼まれて設計した建物で、竣工後に、思ってもみなかった事態が発生した。

 建物は、7階建ての社屋事務所兼共同住宅。1階は玄関と駐車場・駐輪場、2階と3階が事務所、4階から7階に賃貸のワンルームマンションが20戸という計画であった。床面積は1000㎡足らずの小規模な建物である。

 オーナー住宅兼社屋の事務所部分が手狭になり、新たに土地を求めた上で、上記の建物を建てて、事務所を移転、合わせて賃貸収入を得ようと考えたものだった。会社創立30周年の記念事業でもあった。
 その会社は土木・橋梁設計を業としていた。

 問題は、気持ちも新たに仕事を始めて、直に起こった。
 設計事務所だから、図面を書く。もちろんパソコンを使用する。そのパソコンが“誤作動する”と言うのである。これでは仕事にならない。
 原因は電源の引込経路にあった。建物全体の電源だから、かなりの容量になる。その引込ケーブルが、設計室のある2階の床スラブに埋込まれていて、そのケーブルの周囲に電磁波が発生し、床上のパソコンに作用するということだった。

 元々、電気は苦手だから、設計時には考えもしなかったし、そのような問題に遭遇した経験もなかった。電気設備の設計は、専門の設計士に頼んだが、引込みについては特に注意しなかった。後は設備設計士が、計画図から問題点ありと読み取ってくれなければ、それまでである。設計で気付かなければ、誤作動は起こって当たり前である。

 給排水設備の配管は、現実的に実感出来て、曲がりも自由ではないので、計画する時から、配管のスペースは確保する。
 電気の配線は、曲がりくねっているから、どうにでもなるだろうと思ってしまう。配線を通すスペースを設けることは、余りしないし、設けているのも余り見ない。
 引込む位置にも問題がある。多くの建物がそうであるように、この建物の場合も、電源を電柱から引込むことになった。そうすると建物の横から入れざるを得ず、必然的に床スラブを通すことになる。

 引込み位置を変えることによって、障害は取り除いたが、経験して初めて分かることだとしても、何とも、お粗末なことだった。

 電気の配線には、他のことでも問題があるように思う。
 マンションの工事現場に行くと、多くの配線用の配管が、柱や床のコンクリートに埋め込まれているのを見る。鉄筋と見紛う程なのである。その結果、断面欠損が生じて、所定の構造強度確保に問題がありそうに思われる。しかも、配管は、より耐力が要求される下階程、多い。
 十分な留意が必要である。

     *今日の誕生日の花: トロロアオイ (花言葉:知られぬ恋)
        《NHKラジオ深夜便 誕生日の花》カレンダーより

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