何年か前、結婚観をめぐり、今更ながらの処女論争を繰り広げた友人同士が街でばったり出くわした。
Aが結婚したことを人伝に聞いてたのでBはそのことに触れてみた。
「したんだけどね」
Aは浮かぬ顔である。
ははあ、望み通りの処女にぶつからなかったのだな、と思い、話をほかにそらそうとすると、彼の方から説明しだした。
「あの頃、俺たちはガキだったんだな、とつくづく思うんだ」
Bはにやりとした。
「そうだろ。女が結婚前に三人や五人、いや、二十人だって肉体関係のあった男がいたって、ちっとも不思議はない時代なんだ今は。そもそも処女論争、童貞論争自体がアナクロニズムで馬鹿げている」
持論が通った喜びに浸り、もう何もいうまい、と思っていると、彼はその先をしんみり続けたのである。
「彼女はその晩、血を出したさ。純情に泣いても見せた。それで俺は満足した。やっぱり処女はいいと思った。幸福だった。ほんとはそれだけでよかったんだ」
Bは拍子抜けしながら、
「それなら何もいうことはないじゃないか」
と首を傾げて見せると、Aは、違うんだ、といやに力をこめて言った。
「興信所から今になって付け足しの報告が入った。あの時はガードも固かったようだ。じつは、彼女には五つになる隠し子がいたんだ。五つだよ。どえらい格差だと思わないか? あの時の涙はいったい何だったんだ。その時の俺の落胆ぶりを想像してみてくれ。その日以来、俺は女に関する論争には一切加わらないようにしているんだ」
「それでどうする。嫁さんとは別れるのか?」
Aは首を振った。
「それとこれとは話は別だ」
「別れないのか?」
Aは怒って言った。
「愛している女とどうして別れなきゃならないんだ」
「・・・」
