
韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(104)
「夏はやっぱりビールだ。乾杯しよう」
ノ家の家族はビールで乾杯した。そこにはクムスンだけがいない。
ビールをぐいと飲んだ後、ピルトは言った。
「クムスンが遅いな」
「おばあさんの家に寄るそうよ。お婆さんも知って大騒ぎしてるはず」
ジョンシムの言葉にピルトは頷いた。
「おばあさんが知ったなら、もう心配ないだろう」
「私もそう思う。もう心配ないわ。おいしでしょ?」
「久しぶりだから余計うまい」
「本当に久しぶりだ」とテワン。「兄さんが結婚前はよく買ってきた」
ソンランはシワンを見る。
「そうなの?」
「ああ、何回か」
だから、シワンの彼女は豚足が好物だと思ってたの。なぜ食べないの? 嫌い?」
「食べますけど好きではなくて。以前は銀行の工事で作業員の夜食で買ったのね。でしょ?」
シワンを見るソンラン。
「そうだな」シワンは笑う。「食べろよ。少しは食べれるだろ?」
頷いてソンランは箸を伸ばす。つまんだ豚足の肉を口に持ってきたとたん、ソンランはそのにおいに不快感を見せた。
「どうした? 消化不良?」
「急に嫌なにおいがして・・・お腹を壊したのかな?」
「夕食に何食べた?」
「職員たちとジャージャー麺を――」
「ビールを飲んだら」
「そうね。ビールにするわ」
「ソンラン」ジョンシムが言った。「とりあえず飲まないで」
「えっ?」
「気になるから、念のために飲まないで」
「違いますよ」
ソンランは笑って否定するが、ジョンシムは引かない。
「何いうの――時期的にもありえるわ」
「母さん、もしかして・・・」とシワン。
「そう。妊娠かもしれないわ。つわりじゃないかしら」
シワンはソンランを見て笑った。ソンランは答えた。
「違います、お義母さん」
「もしかして・・・避妊してるの?」
「はい。当分はそうすると」
「でも分からないよ」とテワン。「知り合いで避妊に失敗した例も聞いてるよ」
ソンランがおかしそうにビールを飲もうとすると、ジョンシムはすかさず咎める。
「飲まないでったら」
ソンランはグラスを卓上に戻した。
部屋に戻るとソンランはシワンを見た。
「何げに嬉しそうね?」
「何げにじゃなくて露骨に嬉しいんだよ」
「約束を忘れたの?」
「忘れてないよ。今もちゃんと守ってるだろ。それでもできたなら――喜んで受け入れないとね」
「絶対違うから喜ばないで」
「本当に違うの? 日数を計算してみたら?」
「違うってば」
「それならいいけど・・・」
ヨンオクは店の外からクムスンの姿を捜した。まもなくクムスンは彼女の視野に入ってきた。
クムスンは同僚と楽しそうに仕事をしていた。
――私の娘・・・ごめんね。この罪をどうすればいい? あなたを捨てた上に、死んでも消えない罪を犯して。呆れてるわよね。自分の子が隣にいても分からない私に。ひどく辛かったよね。やりきれず身を震わせ、悔しくて苦しんだわよね。それなのに本当に綺麗でいい子に育ったわ。
人間は180度以上の視野を持つ。ヨンオクの姿はクムスンの視野の端っこにかかっていたのだ。ある瞬間、自分を見つめる誰かの気配を感じ、クムスンは振り返った。
窓の外にヨンオクが立っている。
二人の視線は重なった。まっすぐ自分を見つめる母親の視線にクムスンは耐えられなかった。恋しさや照れくささより、先に立ち上がったのはイジけた気分やスネた感情だった。クムスンはとっさに母親を無視した。目をそらしていた。
クムスンの行為にヨンオクは打ちひしがれた。当然の仕打ちと受け入れつつ、ヨンオクはクムスンの姿をなおも追った。しかし、クムスンは振り返ろうとしない。
ヨンオクはあきらめ、寂しさを抱えて背を返した。力ない足取りで美容室の前から去った。
やがて、恋しい気持ちに引かれ、クムスンは母親を振り返った。その時はもうヨンオクの姿はない。
今度はクムスンが後悔に苛まれた。
スンジャはジョムスンに言った。
「私、今日は遅くなります。夕食の分まで作りましたから、ちゃんと食べてくださいね」
ジョムスンの返事はない。
「お義母さん。何とか言ってくださいよ。お義母さんは、いつもクムスンじゃなく私にだけ怒りますよね」
「・・・」
「クムスンには言葉を失ったわ。間違いなくお義母さんの孫娘です。ひどいことを言って、食事をさせるくらいですから」
ジョムスンは横になったままスンジャの方を向き直った。
ジョムスンの目を避けてスンジャは言った。
「行ってきます」
この時、チャイムが鳴った。
入ってきたのはヨンオクだった。
「お義母さん、いらっしゃいますか?」
スンジャはジョムスンを呼んだ。ジョムスンはすぐ居間に出てきた。
ヨンオクを見て意外そうにしたが、すかさず言った。
「ここに何のようだ?」
「お話があります。少しでいいんです」
三人は円卓の前に落ち着いた。
スンジャが飲み物の話をすると「水分は取れないんです」とヨンオクは答える。
「ひどく顔色が悪いわ」
「心配しないでください。今回の件がすむまでは絶対倒れません」
「当たり前よ。それを言うために来たの?」
「違います」
「私が言ったはずよ。”生きて2度と会うことはない”と」
「だから来ました。最後に会ってお話しようと」
「・・・話しなさい」
「話す必要もありませんが――当然、手術は受けません」
「・・・」
「できるだけ早く去るつもりです。生きて2度と戻りません」
「それも当たり前だ」
「それから――許して頂ければ、去る前に――あの子に何かしてあげたい。できることがあれば喜んで何でもします」
「ないよ」
「お義母さん――何でもいいんです。クムスンのためになら」
「ふざけるな」
「!」
「勝手なことを――いまさら母親面をするつもり? そんな資格があるの?」
「・・・ありません。私も分かってます。だけど・・・」
「ならいい。黙って、もう行きなさい」
「・・・」
「何? 自分で考えても罪が大きすぎるかい? このまま死んだら地獄行きは決ってるし、もう死が近いから、後ろめたくて来たのかい?」
「・・・」
「もう帰りなさい。お前の顔を一瞬でも見たくないんだ」
「お義母さん――去る前に・・・最後に1度だけ、クムスンに会わせてください」
ジョムスンはヨンオクを睨んだ。
「どうかお許しください――誓って、去った後は、2度と生きて戻りません。許されない罪を犯しましたけど・・・」
「分かるなら黙って去れ。これ以上、罪を犯すんじゃない」
「・・・」
「会ってどうする? 謝るのかい? 謝れば許されるの? 謝ったらあの子の傷が癒されると思う? お前らが何をしたか分かるのか?」
「・・・」
「行け。さっさと帰れ。早く」
ヨンオクは頷いて立ち上がる。
「では、お元気で」
ジョムスンの前でも打ちひしがれ、ヨンオクはスンジャの家を後にした。
ミジャとウンジュは美容室に戻ってきた。店をウンジュに任せ、ミジャは先に帰った。
ウンジュは仕事中のクムスンに声をかけた。
ウンジュは顔をあげた。
「今日、夕食を一緒にどう? 話があるの」
「・・・」
「もしかして、先約でもある?」
「はい。今日は・・・」
説明しようとするとウンジュの携帯が鳴った。
「もしもし――はい、パパ。今、ショーから戻ったとこです――えっ? ママとまだ連絡がつかないと? 私にも連絡はないわ。どういうこと? 夜中に黙って出たの? ひょっとして――ママは道端で倒れたのでは?」
話を聞いているクムスンは心中穏やかではない。
「明日、透析だから体調もよくないはずよ。いったい何があったの? とにかくすぐに帰宅するわ」
携帯を切るとウンジュは言った。
「ごめんなさい。急な用事ができたの。明日はどう?」
「はい。大丈夫です」
「それなら明日の夜に」
ウンジュは奥に入っていった。
クムスンはヨンオクのことが気がかりだった。朝方のことを思い出した。
母はあれからどこへ行ったのだろう?
クムスンは母に取った自分の行為を悔やんだ。
研修医がジェヒに訊ねた。
「チャン先生の奥様が行方不明なんですが、聞きましたか?」
「聞いたよ。お疲れさん」
研修医が帰った後、手持ち無沙汰にしているとクムスンから電話が入った。
「珍しいな。どうした?」
「聞きたいことがあって――怒らないで答えてください」
「分かった。何だ」
「昼間に聞きました。今朝から行方不明だと・・・戻ってきましたか?」
「ああ・・・まだ・・・まだ連絡もない」
「そうですか・・・分かりました。ありがとう。さようなら」
「白菜」
「・・・」
「大丈夫か?」
「いいえ。大丈夫じゃないわ。忙しいですか?」
「忙しくなんかないよ。今どこだ?」
公園のベンチに腰をおろし、クムスンはジェヒがやってくるのを待っていた。
「早かったですね。どうぞ」
クムスンの横に腰をおろし、ジェヒは辺りを見回した。
「いいところだな」
「・・・副院長の通話を聞いたら、明日、透析だという話だったけど・・・それなら、明日まで戻らないとまた危なくなるんじゃないですか?」
「そうだな。だから戻ってくるよ」
「実は――朝、美容室に来てたの」
「・・・」
「たぶん――私を見るために。私を見つめてたけど――私の方は無視してしまった」
「・・・」
「すごく冷たく――悪いでしょ?」
「お前、昔から悪いだろ。だから、”悪い白菜”なんだよ」
「・・・」
「でも、よくやった。そのぐらいしないと」
「そうよ。そうでしょ? 悪くないよね? でもね――腹が立つの。心配になるなんて」
「・・・」
「腎臓だけで気持ちはあげないつもりだったのに、イライラするわ。何で心配になるのよ。何もしてくれなかったのに・・・」
ジェヒはそっとクムスンの背中に腕を回した。肩を抱こうとした時、クムスンは立ち上がった。
「先生」
とジェヒを振り返った。クムスンの身体がスポンと抜け、ジェヒの腕は抜け殻を抱いた格好になった。それを見て、クムスンは次の言葉を失った。
ミジャは一人の寂しい食事をしようとしている。
「あの子ったらまた遅いわ。期待もしなかったけど、約束を守らないなんて――ああ、ほんとにさみしい。魂も、心も、身体も孤独だわ。こんな風に1人で食事するのも、独り言を言うのもさみしい。それを1人で聞くのも。それしか言えないのもさみしいわ」
ご飯の食器を手にした。
「ご飯よ。お前もさみしい?」
クムスンがテーブルに戻ってくる。
「注文はしたよ」とジェヒ。「俺が払うから勝手にした」
「分かったわ」
店員がやってくる。
「テストしますか?」
「けっこうです」
ジェヒは答えた。
「ワインを1杯だけ飲もう」
「・・・」
「飲もう」
「酒は飲まないわ」
「1杯だけだよ」
「私はけっこうです」
「わかった。でも、乾杯くらいはしろよ」
「・・・」
「おい、白菜。俺の手がかわいそうだろ」
クムスンはやむなくワイングラスを手にした。ジェヒに乾杯を付き合った。
「できたら・・・病院に電話して聞けないですか? 戻ったかどうか」
「出来ないよ」
「・・・」
「心配するな。明日、透析だから、夜に戻ってくるよ」
「本当に戻ります?」
「戻るよ。透析を受けないと生きられない。だから安心して、食事がきたら、まずは楽しく食べよう。いいな」
「わかりました」
「正直、奥様が知ってよかった。知ったから――手術はしないだろう」
クムスンはジェヒを睨みつける。ジェヒはその目をいなすように顔を背けてワインを口にする。それから訊ねる。
「身長はいくらだ?」
「163です」
「意外に小さいな。体重は?」
「48キロです」
「腰のサイズは?」
クムスンは怪訝そうにする。
「では趣味は?」
「・・・大食いして寝ること」
「それが趣味か? ただの本能だ」
「ほっといて」
「何? お前な・・・」
「じゃあ、先生の趣味は?」
「俺? 白菜の栽培」
クムスンは呆れて、ムクレ顔になる。
それを見て、ジェヒはいたずら小僧のように喜ぶ。
クムスンは飲みたくもない水を飲む。
「髪型だけど、結ばない方がかわいい」
「・・・」
「今のは似合わないよ。美容師になるんだろう? 本当に似合わない」
「・・・」
「現在の教育課程は?」
「染色です」
「そうなの? もう半年経つだろ? 遅い方だな」
「急がば回れよ。実力を身につけないと」
「その髪型だとまだ実力も怪しいぞ」
「・・・」
ジェヒはあらぬ方を見てワインを飲んだ。
料理が運ばれてくる。
「待ってたよ――食べよう」
食事を終わって二人は店を出る。
クムスンは浮かない顔で歩く。エレベーターがきた。エレベーターに乗るとクムスンは訊ねた。
「どこに行きます?」
「病院」
「それなら――行ったら私にメールしてください。戻ったかどうか」
「・・・」
「お願いです」
ジェヒは何か考えるようにしてクムスンを見た。
「分かったよ」
「ありがとう」
クムスンを見、正面に向き直ったジェヒは焦って訊ねた。
「したら、何してくれる?」
「えっ?」
「キスしてくれ」
クムスンを見た。
「じゃなきゃしない」
二人は顔を見合わせ、背け合った。
ジェヒは突然緊急ボタンを押した。
エレベーターは止まった。
「何をするの?」
なじるクムスンにジェヒは迫る。
「どうしたの?」
身体を寄せ、顔を近づける。
「大声出すわよ」
ジェヒは不器用丸出しで口を近づけていく。
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