雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(160)




韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(160)


 クムスンの仕事ぶりは自信にあふれ出した。心配事もなくなり、仕事に打ち込めるようになったからだった。
「お客様の顔型は長いウエーブよりも全体を丸くしたら似合うと思います」

 ジェヒも同じだった。投げやりだった時の気分とはまるで違う。戻るべき場所に戻ってからそれは始まる。幾つもの目標がジェヒの身体に気力や活力を漲らせた。ジェヒは困難を一つ一つクリアしていった。

 結婚は間近だ。二人はその準備に入った。
「これはどうだ?」
「色はいいけど平凡過ぎるかも」
「そうか?」
 クムスンの洋服選びは長引いた。
 どの色のどの洋服姿を見ても、ジェヒは首を縦に振らない。要するにクムスンのいろいろのファッションを楽しんでいるところもあった。
「つまりは・・・モデル問題だったんだな。何を着てもダサい」
 クムスンはムクれて着替え室に消えた。どうせこれもダメだというんだろう、の顔で出てきた。
 焦げ茶と白っぽい青、ツートンカラーの上着に六片で構成された花を主軸にしたスカート姿だ。
 それを見てジェヒの難しい顔は緩んだ。うんうんと頷き、笑みに変わった。

 ――これのどこが? 

 と言わんばかりのクムスン。
 ジェヒはクムスンに歩み寄った。
「やあ、かわいい」
「私もそう思う」
「子供はすぐ本気にする――まっすぐに立って」
 ジェヒはクムスンの腰に腕をまわしぐいと引き寄せた。クムスンはギョッとなった。


 キジョンが大変な病気で手術すると聞いてウンジンは混乱した。
「何てこと――もっと早く話してよ」
「心配はいらないさ」
「本当に手術すれば大丈夫?」
 キジョンは頷く。
「パパが約束する。手術して必ず元気になるよ。だからお前も約束だ」
「・・・」
「これからはママを困らせず、言うことを聞いて・・・以前の優しい娘に戻れ。いいな」 
「・・・はい」
 ウンジンはヨンオクを見た。
「いいわ。食事にしましょう」
 ウンジュが言った。
「早く食べなさい。あなたを送ってから入院するのよ――パパ、ウンジンを送ってくるから準備してて」
「準備って・・・何を準備するんだ?」
 ヨンオクが言う。
「準備がないだなんて・・・早く召し上がって」

 キジョンはヨンオクに付き添われ、ウンジュに送ってもらって、早々と病院に着いた。
 個室に入り、着替えさせられ、ベッドを見てキジョンは言った。
「12時までに入院すればよかったのに――こんなに早くから・・・どうしたんだ」
 ウンジュが答えた。
「パパを入院させてママと買い物に行くのよ。何で?」
 ヨンオクは含み笑いした。
「早く横になって」
「いいよ。行ってこい」
「早く横になって」とヨンオク。「休まないとダメなの」
 キジョンは咳払いしてベッドにあがった。
「まったく、ママには逆らえないのね」
 ドアが叩かれた。担当医が顔を出した。
「先生」
「オ先生が担当か。よろしく頼むよ」
「はい。イ先生は手術中であとで来ます」
「パパ、私は手続きをしてくるわね」
 出て行く時、ウンジュは訊ねる。
「手続きは1階ですか?」
「ああ、はい、そうです」
「ありがとう」
 あとから1階におりてきたオ医師は、キジョンの入院手続きを行っているウンジュを見かけた。彼の目に彼女の印象はよかった。


 クムスンとジェヒはジョムスンのところにやってきた。
「おばああさま・・・ご挨拶に伺いました」
「ええ、いらっしゃい」
「叔父さんと叔母さんも」
 二人は正座し、額を床にこするほど深々とお辞儀をする。それから再び立ち上がる。
「座って、座って」とジョムスン。
 二人は着座する。
「準備は終わったのか?」とサンド。
「はい」とクムスン。「叔母さん、洗濯機をありがとうございます」
「いやいや、それしかしてやれなくて・・・」
「そうね」とスンジャ。「余裕が出たら今度はいいのを買ってあげるわ」
「クムスン、おめでとう。とてもきれいになったわ」
 照れるクムスン。
「そうよ。お義母さん――嫁に行くと決ったら、クムスンは顔が満月のように美しくなりました」
「何を言ってるの」
 ジョムスンはスンジャの物言いがいつも気に入らない。
「容姿はもともといい娘よ、クムスンは」
 ジェヒは笑いながら同調する。
「そうです、おばあさま」
「ええ、そうよね。ほら、ごらん」
 笑いながらクムスンは横に手をのばす。
「あの・・・叔母さん」
 紙袋を差し出す。
「これは?」
 クマが袋から何か取り出す。紙箱を開けた。
「ああ、これ・・・おなかの赤ちゃんとお話をするものだわ」
「まあ、そんな道具があるだなんて――ありがとう」
「あの・・・それと――これはみんなの分ですけど・・・おばあちゃん、叔父さん、叔母さん、クマ――服を一着ずつ用意したくて」
「何を言い出すんだ。いいや、いいんだ――クムスン、お前の気持ちは十分わかってるから、気持ちだけもらう。母さんの服も俺が準備するから」
 封筒を押し返す。
 横でサンドを見て物欲しそうにするスンジャ。
「早くしまうんだ」
「先生と私からなんです」
「そうです。私たちが準備した気持ちなんです。お受けください」
 ジェヒはそっと封筒を前に戻す。
「いや、それはダメだ。ダメだ。早くしまって」
「あなた・・・ク君とクムスンの気持ちなのよ」
「ええ、そうよ」とジョムスン。「クムスンももう大人なんだから、ほら、受け取ってあげなさい」
「それじゃあ、わかった。クムスン、ありがとう。君も」 
「・・・」
「ク君――クムスンをよろしく頼む」
「・・・」
「クムスンは――昔から苦労ばかりで・・・だから、これからは幸せにしてやってくれ」
「はい、必ず幸せにします」
 その言葉にジョムスンも満足そうだ。
「クムスン――話があるわ」
 ジョムスンは立ち上がった。クムスンはついて部屋に入った。
 着座するとジョムスンはクムスンの手を取った。
「悪いわね――私は何もしてあげられなくて・・・」
「おばあちゃん・・・そんなことを言わないでよ」
「だけど・・・私にはもう願いはないわ。もう死んでもいい」
「・・・」
「お前が・・・いい人に出会って再出発するから、私はもう満足よ。明日すぐ死んで」
「おばあちゃん・・・なぜ、そんなことばかりいうの? まだ何の孝行もしてないのよ。これからは私が孝行するわ」
「違うの。あなたを育てながら、孝行はもうしてもらったわ」
「何を言うのよ。私は心配ばかりさせてたわ」
「違う。違うわ。クムスン偉いわ。本当に――何ていい子なの。ありがとう。本当にありがとう」
「おばあちゃん・・・これからは幸せになるのよ。うまくいくわ。これからはいいことがあるわ。ニコニコと笑えるわ」
「愛してるわ。本当にありがとう。おばあちゃん愛してるわ」
 クムスンはジョムスンの胸に飛び込んだ。
 ジョムスンは涙を浮かべた。
「かわいくて、優しい子・・・」


 ノ家はフィソンを連れて水族館見物を行った。フィソンは水で泳ぐいろんな魚が珍しそうだった。
 フィソンがクムスンとともにノ家を出ていくのはもうすぐだ。それで一家揃って出向いてきたのだ。
 家族で楽しく写真を撮り、家に帰ってきた。家にはジェヒとシワン親子もやってきて、一族のそろい踏みとなった。
「じゃあ、まずは乾杯からだ」
 ピルトが音頭を取る。
「クムスン、おめでとう」
「乾杯」
 杯を置いてピルトは切り出した。
「二人は俺たちに娘と娘婿に思えと言ったな――いいよ。そうしよう。今からお前たちは――娘とその婿だぞ」
 ジェヒは喜色を浮かべた。
「お二人ともありがとうございます――これでフィソンと遊びに来れます」 
「俺もその話をするつもりだった――ただ、一年間はここには来るな」
「・・・」
「それがお前たちにもいいし、フィソンのためでもある。フィソンがいつもここに出入りしてると、新しい環境に慣れるのにひどく混乱すると思うからな」
「そうよ」とジョンシム。「あなたも新しいお姑さんで最初は忙しいだろうから、ここには来ない方がいいわ。あなたにもフィソンにも、私たち1年間は会わないことにするの」
「・・・お義母さん」
「そうしましょう。その方がいい。1年後ならよけいに嬉しいはずよ」
「・・・」
「俺もそれがいいと思うよ」とシワン。「フィソンがク君を父親と受け入れるためにも、一番いい方法だと思うよ」
「そうよ」とソンラン。「まずはフィソンを優先しないと」
「俺もだ。賛成」とテワン。
「・・・」
「それでは・・・それで決定だ。そうしなさい。わかったね、クムスン?」
「・・・はい、お義父さま。そうします」
「そういたします」
 ジェヒも頷いた。
「よし、それでいいな。そういう意味でも、もう一度乾杯だ」
「父さん、待って」とテワン。「酒を注いでないよ」
 ジョンシムがジェヒに言った。
「クムスンとフィソンをよろしくお願いしますね」
 杯に酒が注がれた。
 ピルトが杯をかかげた。
「ク君、クムスンおめでとう」
「おめでとう」

 ピルトたちの部屋でフィソンは眠りについた。
 フィソンが水を運んでくる。
「あなたが飲み水を運んでくれるのもこれが最後ね」
「・・・」
「冗談で言ったのよ。あなたもここで一緒に寝る?」
「いいんですか?」
「もちろんよ。フィソンもいるわ」
「枕を持ってきます」
 立ち上がろうとするクムスンをジョンシムは制す。
「待って、座って――あなた」
「うむ」
 ピルトは座卓に手を伸ばす。細長い小箱を持った。
「これは俺たちからの結婚祝いだ。受け取りなさい」
 クムスンは箱を受け取り、ふたを取る。
「・・・」
「気に入った?」とジョンシム。「結婚祝いを何にするか――ずいぶん、悩んで決めたの」
 箱の中に入っていたのはカット用のハサミだった。
 クムスンは感激した。
「すごく嬉しいです。大切にします」
「よかったわ」
「ハサミは――すごく高いのに・・・」
「だってもうすぐ美容師になるんでしょ。初めてのお客さんに使って」
「お義母さん・・・」
「母さんは結婚しても諦めず、美容師の夢をかなえるようにと」
「当然だわ。ジョンワンとの結婚を反対した時、勝手にここに来て、最初に言った言葉を覚えてる? ”お義母さん、今はハズレですけど――””必ず棚ぼたと思えるような””実力のある美容師になる”と言ったわ」
「私がそんなことを?」
「そうよ。忘れもしないわ。まったく、舅と姑の前で”棚ぼた”だなんて」
「まったくですね・・・なぜ、そんなことを?」
「まあ他人事のように――最初、あなたは手のつけようもなかった」
 クムスンは少しおどけた。
「そんな・・・覚えてないですけど」
「それじゃ、結婚した最初の日にトイレで紙をくれと言ったのは?」
「言ってませんよ」
「呆れた・・・」
「いいえ・・・それは覚えてます。だから、私が憎かったんですね?」
「それは違うわ。日が経つごとに”棚ぼた”だと思ったわ」
「・・・」
 ピルトは笑みを浮かべている。
 ジョンシムはクムスンの髪を撫でた。
「こんなにかわいくて・・・優しくて・・・勤勉で・・・それに誠実で・・・何よりも心がとても美しくて・・・こんな嫁はいないわ。本当に”棚ぼた”だったわ」
 クムスンの目は潤んでくる。
「なのに・・・ひどいことをしたわ。一生、一緒にいれると思っては――いなかったけど、もっと優しくすべきだった」
「お義母さん・・・そんなこと・・・」
「後悔をしてるわ。ジョンワンが死んだ時、ひどいことをしたわ。それより――妊娠した時、食事も作ってあげず、あなたを苦しめたことを後悔してるわ。ごめんなさい」
「お義母さん、そんなことないわ」
 ジョンシムの目にも涙が浮いている。
「本心じゃなかったのよ」
 クムスンの目からぼろぼろと涙が流れ出す。
「本当に気にしてません。そんなこと言わないで――そんなこと覚えてもいないわ。私が覚えているのは――お義父さまが・・・警察で夜を明かした時にじつの父親のようにひどく叱ってくれたこと――お義母さんが病気の時、看病してくれたこと――母親が現れた時・・・お二人が一緒に心から胸を痛め、慰めてくれ、抱きしめてくれたこと――そして、大金を準備してくれたこと・・・その時、初めてお義母さんの胸がとても柔らかくて温かくて・・・」
「・・・」
「本当に・・・お二人を慕い尊敬してました。お二人が本当の両親ならよかった」
「・・・」
「私も本当にこの家の家族ならと――じつの娘なら、とそう思って暮らしてたんです」
「・・・」
「でも出ることになって・・・出たら・・・」
「違うわ。私たちの娘になるんでしょ? 泣いたらダメよ。明日は結婚式なのに顔が腫れちゃうわ」
「お義母さん・・・お義父さま・・・ありがとうございます。本当に感謝してます。ずっと健康でいてください。必ずですよ」
「ああ」とピルト。「心配するな。俺たちも健康でいるからお前も健康で幸せにな。お前は、どこでもかわいがられるし、心配はいらないな?」
「そうよ、あなた」とジョンシム。「クムスンはどこでも愛されるわ。幸せになるのよ。愛し愛されてね。必ず幸せになるの」
「はい、お義母さん」
 二人は互いを抱きしめあった。


 そしてクムスンとジェヒの結婚式の日。
 ミジャとジェヒ母子は仲良く並んで来賓の迎えに立った。
 お祝いの客は次々と押し寄せる。
「よかったですね」
「はい、ありがとうございます」
 嬉しそうに応接する息子を横から眺め、軽い嫉妬に見舞われるミジャ。
 対面を見るとクムスンの叔父や祖母たちが庶民的なやりとりで来賓との応接にあたっている。
「あら、遠くから来てくれたわね。ありがとう」
 ミジャと目が合って、ジョムスンはぺこりとお辞儀する。
 ミジャは上品に挨拶を返す。すると、ジョムスンは何度も礼を返す。
 一度でいいのに――と思いながら、ミジャはやむなくまた礼を返す。
 そんな母親の気持ちを思いやっているジェヒに声がかかった。
「ジェヒ」
「おう、来たか」 
 姿を見せたのはキジョンを担当するオ医師だった。続いてジェヒの後輩医師たちもやってきた。
「おめでとうございます」
「よく来た」
「お母さん、よかったですね」とオ医師。
「そうね。来てくれてありがとう」
「おい、少しは口を閉じろ。そんなにいいか」
「最高の気分だからさ。おい、司会をしっかり頼むぞ」
「心配するな。俺をしんじろ」
 二人は親友だったのだ。
 オ医師はジェヒの腕をたたいて会場に入っていった。
 横からミジャが言った。
「ジェヒ、緩んで本当にひどい顔だわ」
「どこが? 何か変?」
「もう、いいわ」
 ミジャと目が合うとジョムスンはまた頭を下げる。
「ありがとうございます――本当にありがとうございます」
 目を合わせるたび、これが続いている。ミジャはたまりかねて言う。
「あの、おばあさま・・・もうおやめください」
「いいえ・・・私の感謝の気持ちをどう表現したら・・・本当にありがとうございます」
 ミジャはまた挨拶を返すことになった。
 ジェヒは横でクスリと笑った。
 ウンジュが姿を見せた。
「おめでとう」
 二人の前に立った。
「院長――おめでとうございます」
「来てくれてありがとう」
「当然のことです。新婦は?」
「ああ、あっちだ」
 指差された方をちらと見る。
「よく似合ってる。またあとで」
 この時、オ医師が司会進行の紙を持って出てくる。彼の目はジェヒの前から歩き去るウンジュの姿に釘付けになった。

 クムスンはウエディングドレス姿で仕事仲間と記念写真を撮っている。
 写真に納まった後、仲間らは口々にお祝いを述べる。
「おめでとう」
「ありがとう」
「お幸せに」
 仲間らが会場に向かった後、ウンジュがやってくる。
「副院長、こんにちは」
「ええ、お久しぶりです」
 クムスンは緊張した目を彼女に向けた。いろいろあったので、クムスンにとっていろんな意味で気にかかる存在だった。
 以前の仲間らと挨拶を交わした後、ウンジュはクムスンの前にやってきた。
「来てくれたんですね・・・」
「きれいよ――おめでとう」
「・・・」
「じゃあ、あとでね」
「副院長」
 クムスンは、背を返し行こうとするウンジュを呼び止めた。
 ウンジュは振り返る。クムスンはためらいつつ言った。
「お姉ちゃんと呼びたいんです」
「・・・いいわ」
「ありがとう。ありがとうお姉ちゃん」
「家にも来て・・・」
「はい」
「・・・今日は頑張って」
 ウンジュは会場に向かった。
 ウンジュを”お姉ちゃん”と呼んで、クムスンの心はすっきり晴れ上がった。彼女の生来の明るさは全開になった。



「では、新郎入場」
 ジェヒは緊張しながらもバージンロードを明るく歩いて祭壇へ行き着く。笑顔のジェヒ。湧き起こる拍手。
 あとは花嫁の入場を待つだけだ。
 花婿の来賓席に父親の顔があるのをジェヒは見つける。父親は笑顔を投げてくれていた。
「続いて新婦入場です」
 父親は花嫁を見て”グーサイン”を出す。

 クムスンとピルトはバージンロードの前に立った。
「やあ、緊張するな」とピルト。「クムスン、お前もか」
 クムスンはピルトの手を握りなおす。
「ええ、私もです」
「緊張せず頑張ろうな」
「はい、お義父さま」
「お父さんだろ」
 クムスンはピルトを見る。
「ほら、前を見て――準備はいいか?」
「はい、大丈夫です」
 ”ローエングリン”の音楽に乗ってクムスンとピルトはバージンロードを歩き出す。
 拍手が沸く。クムスンは一歩一歩ジェヒのもとへ近づいていく。
 歩きながらクムスンはいろいろと思い出す。

――何するの。出てっていくら先生でも・・・分かりました。今、出ていきますから・・・
――人間ができてないわ。
――何だと! おい、待て。待つんだ。
 
 スクーターでぶつかったこともあった。
 倒れたジェヒは言った。

――お前、わざとやっただろ?
――違います。わざとだなんてとんでもないです。急に車の横から出てくるから。
――痛い!  
――怪我をしたんですか?
 自分の手をおしのけジェヒは叫んだ。
――何のつもりだ。

 またこんなこともあった。

――俺は特別だろ。デジカメに掃除に送迎に飯まで・・・じつの兄でもできないことだ。

 ・・・クムスンは微笑を浮かべた。一つ一つの思い出のどれもが今となっては懐かしかった。キラキラと宝石のように自分の中で輝き続けている。
 顔を上げ、ジェヒに笑顔を向ける。

 ジェヒもまた思い出していた。

――何を聞いてもはっきりしないな。
――気になることが多すぎるわ。
――分かった。もういい。

 そうしていきなりつまづいたんだった。クムスンは吹きだしていた。

――大丈夫?
――大丈夫さ。
――何で怒るのよ。私のせい?

 またこんなことも。

――ついて来ないで。
――・・・。
――プライドもないの?
――何だと?
――だから、ついて来ないで。

 ジェヒは笑みを浮かべ続ける。
 すべてはここに至る途中経過だった。彼女はもうすぐそこだ。
 笑顔でバージンロードを歩くクムスン。拍手は鳴り止まない。シワンもテワンもみんな手を叩いている。

 ジェヒは祭壇をおりた。ピルトに向かって頭を下げた。
「頼んだぞ」
「はい。ありがとうございます」
 ピルトはクムスンを見た。
「幸せになるんだぞ」
 ピルトはクムスンの手をジェヒにゆだねた。





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