雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(最終話その1)






韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(最終話その1)


 二人は祭壇に上がった。
「新郎新婦は向かい合ってください」
 二人は向かい合う。

――お前に興味だと?

 ジェヒは思い返す。

――少女ぶるから遊ぶつもりだった。
――少女ぶったことはないわ。息子がいると言わなかっただけ。
――同じことだ。冗談のつもりか?
――乱暴な言い方はやめて。

――早く行けよ。
 電話番号を書き込んだ紙切れを彼女の前に投げ落としたこともある。
――行けってば。はっきり言っておくぞ。二度と声をかけるな。

――無視するのか?
――あなたが言ったのよ。

 クムスンは笑顔でジェヒを見つめあげる。同じ場面がオーバーラップしていたかもしれなかった。

 クムスンも続いて思い返す。

――ダメだ。手術だけはダメだ。ダメだと言え。ダメだと断れ。

――おんぶだ。子供はおぶるに限る。白菜、おんぶだ。

「本日2人はこの場において、人生の先輩として新郎新婦にひと言申し上げます」

 二人への祝辞を聞きながら、キジョンは隣に座るウンジュに気遣いを見せる。けれど、ウンジュはすべてふっきった穏やかな表情を見せている。
 ヨンオクもこんな日に立ち会えたことへの感謝でいっぱいの様子だ。
 フィソンにお菓子を与えるゆとりまである。ウジュもソンランと一緒の生活に馴染んだ様子が垣間見える。
「おいしい?」とソンラン。「ウジュは従弟の面倒も見てね」
 二人を見てご満悦のシワン。
「新郎新婦、行進」
 バージンロードを戻る二人にお祝いと冷やかしと紙テープが舞う。


 結婚式も無事終え、二人はホテルに入る。
「予約しています――ク・ジェヒ、ナ・クムスンです」
 二人は部屋に入った。
「では、ごゆっくり」
 ベルボーイは引き下がった。
 広く豪華な部屋である。
 ジェヒが荷物を持って入ってくる。
「腹減ってないか?」
「少し・・・」
「じゃあ、着替えて夕食に行こう」
「ええ。では少し待ってて」
「ああ」

 クムスンは出かける準備をしだす。離れた場所でクムスンを眺めていたジェヒは、これまでと違う華やいだ雰囲気をふと彼女に覚えた。 
 後ろから歩み寄る。
 衣服を取り出しているクムスンの両手を後ろから回して握った。握ったまま彼女を抱きしめた。
「・・・」
「クムスン・・・俺たち結婚したんだな」
「ええ。結婚したわ」


 ノ家の家族はピルト宅に集まっていた。
 ジョンシムが驚いて言った。
「そうなの? 明日? じゃあ、駆けつけないとね」
「母さんが? なぜ?」
「なぜって、息子の初めてのCM撮影よ。母さんも行かなきゃならないでしょう」
「ああ、もう・・・ノー、ノーサンキューだ。母さんは家にいて、心の中で応援してよ」
「行ったらダメなの?」
「お義母さんが行ったら、テワンさんが緊張するわ」
 ソンランにシワンも同調する。
「そうだよ。母さんは行かない方がいい。また次の機会があるよ」
「そうさ。俺の神話は今から始まるんだ」
「こいつは相変わらずよけいなことばかり言うな」
「まったく・・・1度行ってみたかったのに・・・分かったわ。次にする。でも、明日は何をしよう」
「いつも予定がある人みたいだな」とピルト。「寂しいのか?」
「当たり前よ。寂しくて当然だわ」
「なら登山にでも行くか?」
「登山?」
「ああ」
「家にいても落ち着かないし、いいわね」
「ああ、一緒に行こう」
「だけど・・・クムスンがきれいだったな」
「そうね。本当にきれいだった」
 ジョンシムはピルトの腕を叩く。
「もっと早く嫁に出すべきなのに」
 シワンやテワン、ソンランは二人のやりとりに笑顔を向けた。


 家の中までシワンはウジュの手を取って入ってくる。
「さあ、着いたぞ――ウジュも今日は忙しかっただろ」
「少しね――着替えてくるよ」
 部屋に入ろうとするウジュをソンランは呼び止める。
 ウジュの手を取り、しゃがんだ。
「おじいちゃんたちはどう? 面倒で嫌い?」
「いいえ」
「そう。それじゃあ――あの・・・正直に答えてね」
「・・・」
「正直にね・・・おじいちゃんたちと暮らすのはどう?」
「・・・」「
「いいのよ。嫌なら嫌と言って」
「嫌じゃないよ」
「嫌じゃないのね。それなら・・・一緒に暮らしてもいい?」
「はい。僕はかまわないよ」
「なら、おじいちゃんたちと一緒に暮らす? おじいちゃんもおばあちゃんも、とても寂しがってるから。一緒に暮らしたら喜ぶわ」
「いいよ」
「ありがとう、ウジュ」
 それを聞いて嬉しそうにするシワン。
 ソンランはシワンを振り返る。
「シワンさん、いいでしょ?」
「もちろんです」

 スンジャはクムスンからもらったお腹の子と対話できる機器を取り付けた。
「これでいいわね」
「ええ」
「あの、赤・・・」
 スンジャは話が続かず笑い出す。
「恥ずかしくてできない」
「何が恥ずかしいんだ。こっちへよこせ」
 サンドがマイクを握る。
「あー、マイクのテスト中、マイクのテスト中――赤ちゃん、パパだよ。聞こえるかい? あっはははは」
「やめてよ」とスンジャ。「この子が驚くわよ」
「そうなのか?」
 スンジャは再びマイクを握らせる。
「小さい声で――驚いてばかりだと性格が悪くなるわ」
「分かった。小さい声でな」
「赤ちゃん・・・パパだよ。いま隣にママもいるし、クマお姉ちゃん・・・年が離れすぎだけど・・・お姉ちゃんもいるし――あっ、おばあちゃんが来たから代わるよ」
「母さん」
 サンドからマイクが伸ばされる。ジョンムスンはその手を叩いた。 
「お義母さん!」
「くだらないから片付けて」
「お義母さん――赤ん坊に聞こえますよ。それじゃあ子供が、オギャーじゃなく”くだらない”と泣いてしまいます」
「まったく目を開けて見てられないよ――ねえ、クマ。クムスンはなぜ出発は明日なの?」
「飛行機の時間のせいよ。クムスンがすごくきれいだったわね」
「新婦用の化粧をしたら誰でもきれいなの。高いんだから」
「・・・」
「お義母さん・・・いま何してるかしら」
「知らないよ」
 

 クムスンとジェヒはドリンクルームに出向き、ジュースなど飲みながら時間をつぶしていた。”プリティーウーマン”の歌がBGMで流れている。
 メロンジュース(メロンサワー?)をストローで飲みながら、ジェヒはちらとクムスンに目をやる。
 クムスンもイチゴジュース(イチゴサワー?)など飲みながら、ジェヒの熱っぽい視線を感じながら気もそぞろである。
 ジェヒがおもむろに切り出す。
「俺たち」
「・・・」
「そろそろ部屋に戻る?」
 クムスンはジェヒを見る。
「なぜ? まだ、ここに?」
 クムスンはストローを握ったまま黙って頷く。
「じゃあそうしろ――もう一杯飲む?」
「いいえ。私はいいわ」
 会話も弾まず、退屈していたくないのに部屋に戻ろうとも言い出せない状況。
 たまりかねてジェヒは言った。
「もう行こう」
「・・・」
 ジェヒはクムスンを抱いて部屋に入ってくる。
「ねえ、おろして」
「映画ではこうするんだよ」
 二人は戻りつき、ダブルベッドの縁に腰をおろす。
 二人の気持ちは落ち着かず、目も合わせず、態度も表情も落ち着かない。
「待ってて」ジェヒは言う。「電気を消すよ」
「あの・・・浴室に」
「さっき、シャワーはしたぞ」
「歯磨きをしたくて」
「ああ、歯磨き・・・」
 クムスンは席を外し、浴室に出向いた。歯磨きもすんでいる。鏡で自分の顔や身体など眺め回す。下着はどれがいいのかなど考えたりも・・・。 
 その間、ジェヒは明かりを調整し、腕立て伏せなどやってクムスンが戻るのを待った。
 気配を感じてジェヒは慌ててベッドに飛び込む。クムスンは戻ってくる。
「終わった?」
「ええ」
 クムスンはベッドにあがってこない。
「どうした?」
「カバンを整理しようと――明日は朝早く出発するから」
「あはっ、それなら俺がぜんぶ準備したよ。おいでよ」
「飛行機のチケットも?」
「確認したよ。早くおいでよ」
「ええ・・・そういえば――みんなに電話するのを忘れてるわよね?」
「・・・明日、空港で出発前にするんだろう」
「そうだった・・・」
 やむをえない。ジェヒはベッドを脱け出る。クムスンの手を取り、ベッドに連れてあがった。
 二人はペタンと並んで座る。ジェヒはそろそろとクムスンに顔を寄せていく。クムスンは目をつぶった。目をつぶったクムスンを見てやんちゃのジェヒは笑い出す。
「ハニー、目を開けて」
 クムスンは目を開ける。
「今さら恥ずかしがってもう・・・」
「ハニーって・・・何です?」
「何でだよ。夫婦なんだしお前も言えよ。ハニー、ハニー」
「気持ち悪いわ。やめてよ」
「それじゃ・・・先生と呼ぶつもりか? それは嫌だ」
「じゃあ、何と呼べと? 適当な呼び方がないわ」
「それならあるじゃないか。あなた」
「それも・・・」
「なぜだ。夫婦なんだぞ」
「あなたは遠慮がなさ過ぎるわ。結婚してすぐにそんな呼び方を・・・」
「それほどに――この日を待ってた」
「・・・」
「ずっと待ってた――心の底から」
「・・・」
「俺だって今・・・震えてるんだ」
「だからって・・・私ほどじゃ・・・」
「・・・」
「だからって・・・私ほど切実だったかしら」
「・・・」
「抑え切れなくて・・・私はどうしても口に出せなかった」
「クムスン・・・俺たち、どうして出会えたと?」
「それは――ク・ジェヒとナ・クムスンだからよ」
「その通りだな。お前は賢いよ。2世の心配はないな」
「ひどい。本気で心配してたの?」
「俺たち――子供は3人以上だな。孤独から卒業だ」
 クムスンは笑顔で大きく頷く。
 ジェヒはそっと顔を近づける。キスをしてから明かりを消した。




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