素敵サイト「貴腐人の苑」の夜騎士さまより、頂き物アルバムに「笑う月・前語り」を頂いてから、続きを心待ちにしておりましたが、この度、完結編「笑う月・結び」を頂戴したので、こちらに掲載させて頂きます(^^)。
というのも、当初は一枚だけ、挿絵を描かせて頂いて、頂き物アルバムに載せさせて頂こうと思っていたんですが、気がついたら調子に乗って挿絵が三枚に…(^^;)。
お話の内容も、今回は18禁のラインを引かなくてもいいと思いましたので、こちらにイラストを交えて載せさせて頂こうと思いました。
土方さんに恋してるのに隠そうとする銀さんがなんともいじらしく、また、土方さんがおっとこまえ!!
宿の女将とか板前さんもいい味出してて大好きです!
最後を締める飴の逸話が、なんだか深くて人生の深みを感じさせてくれました~(^^)。
それでは皆様もご堪能下さいませ?
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「笑う月・結び」
壱
月が出ていた。
銀色の細い月だ。
暗い夜空の中、小さく光る星星を従えてくっきりと浮かぶその姿は、緩く弧を描いて、まるで空が笑っているように見える。
(笑われて当然なコトしてるしなぁ・・)
ホゥ、と、一息吐いて、銀時は、見入っていた夜空から視線を引き剥がし、足を踏み出した。
疲れた身体を、時折揺ら揺らとふらつかせながら、銀時は人影が疎らになったかぶき町を泳ぐように歩いて行く。 煌びやかなネオンや店の看板は灯りを落とし、夜露に濡れた道は、街灯に照らされて所々が光って見えた。 まるで、塒へ帰る銀時を導く標のようだ。
夜明けまでにはまだ、数時間あった。
今夜は神楽が留守番をしている。 銀時が飲みに出る夜は、神楽を新八の道場に預けることにしていたが、今夜は妙のシフトの都合が悪く、泊まる事が出来なかった。 神楽の腕っ節がどれだけ強いと言っても、銀時にとっては未だ小さな女の子に過ぎない。 あれでいて、案外寂しがりな彼女を置いて遊びに出る事への後ろめたさは、どうしたって拭えなかった。
銀時は、足を急がせた。
万事屋の玄関の鍵を外し、静かにブーツを脱ぐ。 居間の押入れを覗き、臍を出して眠る神楽の腹に、蹴飛ばされて隅に追いやられたタオルケットを掛けてやる。
今からなら、一風呂浴びても新八が来るまでにひと眠り出来るだろう。
銀時は、ピクピクと耳を動かす定春の頭をひと撫でして、風呂に向かった。
「・・あ~ぁ、また、こんなに・・・」
洗面所の鏡に映し出される自分の姿に、銀時は眉を下げて溜息を吐いた。
肩から鎖骨のライン、胸の辺りと、脇腹から臍に至るまで。 土方の残した情熱の痕が、点々と付いていた。
目を瞑ってズボンを脱ぎ、下着に手を掛ける。 臍から下は見ない。 確認するまでも無い。
・・・服を着るときにもう、散々見ているし。
(最初のときよりは全然いいけど)
あん時ゃひどかった、と、顔を顰めながら、銀時はシャワーヘッドを手に取った。
店を出る前にトイレである程度掻き出したが、とても充分とは言えない。
水流を強めに尻に当て、反対の手の指でその部分を拡げる。 今夜は二人揃って余裕が無くて、ゴムを着ける僅かな時間さえ待てず、性急に求め合った。 お陰で、ひとりいらん苦労をする破目になっているのだが、それさえも嫌ではないのだ。
終わってるな、と、自分でも思う。
(当分、人前で脱がねぇように気ぃつけねぇと)
こんな風に、土方と抱き合う関係になった一番最初の夜に。
切羽詰ったような顔をした土方に、気を失うまで貪られ、ふと、目を覚ました銀時の目に飛び込んだのは、皮膚病でも患っているのか、と、思えるほど鬱血痕だらけの身体だった。
あんまり驚いて、引き止める土方を振り切って逃げ帰ってしまい、散々後悔したのだ。 これでは、次に土方に会った時どんな顔をすれば良いのやら、見当もつかない。 どっぷりと落ち込んでしまった銀時だったが、土方の方はたいして気にもしていなかったらしい。 日を置かずばったり顔を合わせた時、何事も無かったかのように言葉を交わし、それどころか、呑みの約束まで取り付けて来たのだ。
首を捻る銀時だったが、惚れた相手に誘われて嬉しくない訳がない。 そうして何度か酒席を共にして、周囲に呑み友達という認識が出来上がった頃。
マサカの“2度目”だった。
その日は、居酒屋で長谷川と呑んでいた。
二人して金が無いので、コップ一杯の冷酒と漬け物、大将の好意で焼き鳥を一本分け合って、ちびちびやっていた。 侘しい卓だったが、楽しくてよく笑っていたように思う。
そこへ偶々やって来た土方が加わり、気づいたらいつもの料亭の布団の上だった。
何か、気が立つことでもあったのか、始めからやや暴走気味の土方に、最初の夜の痣だらけの身体を思い出し、せめて、服で隠れる場所だけにしてくれと、泣きながら─────啼かされながら頼んだのだ。
後始末を終えて、ついでに身体も洗う。 垢すりタオルに石鹸を泡立てて背中を襷掛けに擦ると、肩甲骨の辺りがヤケにヒリヒリと痛んだ。
(・・・あいつ、ま~た噛みやがったな)
ひどい男だ、と、思う。
自分の跡を人の身体に散々刻んでおきながら、当人は涼しい顔をして、こっちからの愛撫を拒むのだ。 何故かは分からない。 単に、そういう行為の痕跡が残るのが煩わしいからなのか、それを他人に見られる事が恥ずかしいからなのか。
何れにせよ、銀時が文句を言える立場ではないのだけれど。
(・・・・・今度はどれくらいもつかなぁ)
自分の肌を鏡に映すたびに、消えずに残る痣を探す。 女々しいと自嘲しながらも止められない。 そうやって、ひとつひとつ消えるまで眺め、あぁ、残らず消えちまったなぁ・・・と、溜息を零す頃電話が鳴る。
土方から頻繁に掛かって来るようになった電話に、当初、新八などは首を傾げていた。 いつの間に仲良くなったのか、聞かれる度に冷や汗を掻いていたものだが。
『銀ちゃん、マヨと遊んだら風呂入るヨ。 タバコのニオイがしみしみネ』
神楽の指摘を受けたときは、内臓がひっくり返るかと思うほど驚いた。
土方と“そう”なってしばらく。 神楽が留守番するしないに関わらず、夜明け前には必ず帰っているが、疲れた身体では寝床に倒れ込むのがやっとで。 起き抜けに、絞ったタオルで身体を拭くくらいが精々だったのだ。
鼻の良い神楽には、煙草の匂いが余程臭く感じられたのだろう。
(気付いて言ってるわけじゃないよな・・)
2回だけ、斑点だらけの身体を拭いている所を見られたことがある。 ・・・風呂入れの忠告を受けたのは、2回目に見られた直後だったか。
(バレてないバレてない)
自分に言い聞かせるように、心の中で繰り返す。
銀時は、頭から湯を被ると丁寧に髪を濯いだ。 煙草の匂いや、その他諸々の痕跡を身体から洗い流して(愛撫の痕は消えないが)日常に帰って行く。 しかし、朝っぱらから石鹸の香りを振り撒く自分を、子供達はどう思っているのだろう。
気にはなるが、藪から蛇をつつき出す気は無いので沈黙を守ることにする。
敷きっ放しの布団に倒れこむと、途端に睡魔に襲われた。 枕を抱えて目を閉じると意識が下へ
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