
素敵サイト「地上の白銀」の花束さまより企画アルバムの「手をつないでデートする土銀」にご投稿頂いた「桜色の願い事」と「桜の音色」を合わせて短編にされたものを改めて頂戴しました(^^)。
どうぞ皆様も、より浮き彫りになった土銀の想いに酔いしれてくださいまし(^^)。
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『桜の想いに包まれて』
1.
咲き誇る姿は華やかで、散る姿は儚くて...。
強くもあり、弱くも見えるその木は、淡い色をしている。
拾い集めた願いを花びらに託し、その花は蕾を開く。
想いをのせたそのピンク色は、風に揺られ、舞うように心を伝える。
花びらが奏でる音は繊細で、小さく響き渡り、その音色に包まれ優しい夢をみる。
俺の想いはお前に届くかな?
ちゃんと届いて欲しいから、もう一度だけ願わせて...。
2.
少し開いた戸の隙間から流れ込んできた、暖かみを帯びた風が肌をくすぐる。
その仕草に土方は筆を止め、立ち上がる。戸を開けると、心地よい風があたり、春の訪れを感じた。
休憩がてら一服しようと庭先へ出る。
「もうすぐ、だな」
庭にある小さい桜に話しかける。
(今年はどんな願いを届けてくれる?)
拾い集めた皆の願いを、どんな形で散らすのか...。
風で揺れる、想いを秘めた桜を眺め、眼を細める。
忘れもしない。
あの時、初めて触れたお前の体温は、今でもこの手に残っている。
今より少し緊張したようなその笑顔も、昨日のことのように思い出す。
また、お前と出逢った季節が巡ってくる。
――――――――――・・・
暖かい風に誘われてふらりと外に出た銀時は、公園の片隅に佇んでいた。
少しだけ膨らみ始めた蕾に手を伸ばす。
「まだ咲かねぇの?」
吹き抜けた少し冷たい風に返事をもらい、俺は「わかったよ」と笑って応えた。
青い空はもうすぐ春を連れてくる。
(今年はどんな音を聴かせてくれる?)
想いをのせた花びらはどんな詩(うた)を詠うのか...。
「今年はヘマすんなよ」
あの時みたいに恥ずかしい思いはしたくねぇよ。
今も残るあいつのぬくもりを握り締める。
またふたりで過ごす季節(とき)がやってくる。
――――――――――・・・
なぁ、お前は今、なにを思い出している?
3.
「銀時ー、いるか?」
万事屋の戸を開け、顔を見せたのは土方だった。
「いるー。けど、なに?何の用?どうせ面倒事だろ、帰れ」
「てっめっ、話も聞かずに追い返すな!」
「だから、なにって言ってんじゃん」
土方は目線を横にそらすと、少し照れながら口を開いた。
「あー...、花見...行かねぇか?」
「いーよ」
言い終わったと同時に銀時が返事を返す。
「えっ?いいのか?」
絶対に断られると思っていた土方は驚き、銀時を見た。
「うん。帰りに団子屋寄っていいなら」
「そっちが目当てかよ!まぁ、いい。とりあえず行くぞ」
「はいはい」
そう言ってついて行く銀時の顔は嬉しそうで、少し赤みをさしていた。
ちょうど満開の時期。騒めく風に吹かれ、桜が雪のように舞い散る。
その中に立っていると、まるで幻想の世界に連れ去られたような気分になった。
「すっげぇな」
「あぁ」
この中に自分の願いはないかと、眼を細める。
この中に自分の音はないかと、耳を澄ませる。
夢のような景色に土方は不安を覚えた。今ある現実は夢なのではないかと怯えた。
横にある銀時の手があまりに白すぎて消えていってしまいそうで怖かった。
それは違うと言い聞かせ、手を伸ばす。小さく震える指先でその手に触れると、その手はピクンと震えた。
指先でそこにあることを確認し、指を絡めると、少し低い体温が伝わってくる。
幻じゃないと教えてくれるぬくもりを感じて、土方は笑みが漏れた。
「バカ」
銀時が頬を染め、呟いた。
「この年にもなって、照れてんじゃねぇよ。真っ赤だぞ」
「うるせー」
(違ぇよ、バカ)
銀時は目線をそらし、そう心の中で呟いた。
俺の想いが伝わったのかと思った。そう思ったら恥ずかしくなったんだ。
でも、口ではそうからかう土方の手が震えているのに気づき、銀時は小さく笑った。
その時、耳に響いた音色。
誰かの想い。その知っている声は誰だった?
泣きそうなくらいに優しい音は涙を誘い、それを隠すように少し上を向いて、銀時は必死に涙を我慢した。
なのに、手に伝わる少し高い体温は銀時の瞳を滲ませる。
銀時は眼を閉じ、土方の声に似たその音が、こいつであって欲しいと祈った。
どちらからとも離そうとしない手。
それは、お互いのこたえ。
そんなことを思い出し、ふたりは微笑んだ。
4.
桜は姿を変えながら、時を流れる。
陽を浴びてやわらかく景色を飾り、月の明かりで星のように輝く。
人の気持ちまで変えることが出来るのは、それだけ優しさを含んでいるからだろうか。
散る花びらがなくなると、次は望みの青葉を伸ばし、そして、それも散りゆく。
冷たい風で運ばれた願いを拾い、また、その想いを花にのせて、咲きほころぶ。
そうやって、時が過ぎ行く。
己が最期を告げるかのように散る花びらはなにを意味するのか。
それを手にしたくて手を伸ばしても掴めないのなら、そっとその手のひらを広げて...。
そしたら、望んだ願いはその手ですくいとれるから。
ふたりは瞳を閉じ、青空に描かれた淡い桜色の雪を思い出す。
最後にもう一度だけ、願いを託す。
命尽きるまで、あいつの笑顔を守れますようにと...。
命ある限り、あいつの隣にいられますようにと...。
ふたつの想いをのせた花びらが、今、開こうとしている。
END
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