「おや、ハっつあんに熊さん、2人とも口をとんがらせて、ナニ怒ってるんです?」
「あっ、大家さん、いいところに来てくれた。これが頭に来ずにいられるかってんだ、なぁ、熊さん」
「おうよ、八の言うとおりでさぁ。あのキシダのヤローですよ。‶なにもしないかく〟のままでいりゃぁいいものを、何トチ狂ったか、いきなり『原発を新増設するぞぉー』って叫び出したじゃねぇですかい。冗談じゃねぇ。こちとら原発は再稼働だって反対してんのに、何でいきなり新増設に飛躍しなきゃなんないんですか」
「熊さんの言うとおり! プーチンじゃあるまいし、議論も何もかも吹っ飛ばしていきなり結論めいたことを言い出すって、ふざけるにもほどがある。大家さんはどう思います?」
「2人が頭に来るのもよく分かる。ワシだっていささか『エッ!』っと思うくらいに唐突だからなぁ。驚かされたワイ。何しろこれだけ感染者が出ているってのにコロナに無策、物価が上がろうが効果的な対策はゼロ…、防衛費だって死んだアベなんちゃらが主張したGDP比2%ってのも言いなりで膨らませちまう気でいる。大幅に増大する分の財源をどうねん出するかなんて知らん顔だしな。流れで行けば福祉予算など国民の命と暮らしに直結する予算を削るところから始めるだろうしな…」
「そうそう、大家さんの言うとおり。俺たちの年金を削るなんてことはねぇーでしょうね。そんなことされたら発展途上国みたいな暮らししなきゃならなくなっちまう。そもそも新しい資本主義を生み出すなんて言って就任したのはいいけど、まだ何にも中身が示されないし、奴の頭の中はスッカラカランの空っぽだってことが既にバレちまってる、なぁハっつあん」
「そうとも、あいつは大きな志を持ってソーリダイジンになったんじゃなくて、そもそもソーリダイジンになることが目標だったとしか思えねぇんだな。だから、目的を達した後の出がらしなんだよ。だから知恵なんかあるわけねぇ―し、国民のために今こうしなきゃ不味いってことさえよく分かってねぇーんだよ。だったらこのまましばらくじっとして黙ってくれてりゃいいものを、急に原発新増設だなんて…、あきれて開いた口が元に戻らなくなっちまって…これがホントに閉まらない話ってやつだぜ」
「大家さんっ、キシダのやろーは歴代ソーリダイジンに多かった‶財界妾〟そのまんまじゃねぇ―ですかい。今度の件だって寝物語に『電力どうすんだっ! 原発再稼働だけじゃなくて、新増設まで決めろっ! さもなくばこれっきりだぞ。うまくやれば残りの任期はまっとうさせてやるし、あわよくばその先も…』とかなんとかそそのかされたとしか思えねぇ。国民を馬鹿にすんなってんだ!」
「うんうん、熊さんがそう考えるのも無理ないな。何しろ唐突過ぎる」
「おいらたちは我慢ならねぇんですよ。原発事故引き起こした国ですぜ。事故から11年経った今でも原発を動かすことについて賛否は割れてんですぜ。それを、何の議論も無しに一足飛びに新増設だなんて…既成事実化して方針として打ち出すなんざ、とても民主主義国家とは言えませんぜ」
「そうだっ、ハっつあんの言うとおり、これじゃ全体主義国家じゃねぇ―ですかい。やだやだ。国会で議論し尽くして、それで終わりじゃなくて、最低でも原発新増設に関する国民投票を行って、一人一人の国民の意思を確かめることを求めるね。それで賛成が上回るなら、この国を捨てるかしぶしぶとどまるか決めるが、力ずくの強行採決やなし崩しは絶対に御免だねっ」
「そうだな、ワシも長いこと生きてきたが、こんなに重要なことを藪から棒に言い出す政権には初めて出会ったな。これなら‶なにもしないかく〟のままでいてくれた方がよっぽどいいかもしれんなぁ…」
(見出し写真は湘南海岸自転車道沿いの辻堂西海岸=昨日)