と言ったって、駅の改札口を出て商店や飲食店が密集する街を1時間ほどぶらついただけである。
それで何が分かるかと問われればその通りで、表面のそれもほんの一部分をサッと軽く撫でただけに過ぎないから、実際のところは何も分かっちゃいないのだ。
見知らぬ街を歩くとはそもそも、そういうものであるし、空白のアルバムに撮ってきた写真を1枚貼り付けるようなものなのだ。
降りたのはJR中央線の中野である。
中央線という路線そのものに縁がなく、とりわけ新宿以西は西部劇の舞台さながらの未開の原野と言ってよい。
唯一例外は隣の高円寺で、ここには大学時代の先輩の下宿があって、遊び歩いた末に横浜方面に帰る電車がなくなると転がり込んで寝かせてもらった。
今考えると高円寺との付き合いもそれだけのことで、駅と先輩の下宿を往復しただけの話だ。
街の空気に浸ったとはとても言い難い。
あとは多磨霊園に行くのに武蔵小金井を利用するだけである。
サーモンピンクの電車が行き来するそれ以外の駅には降りたためしがないのだ。
で、足跡を印した3つ目の駅は北口に降り立った。
「二合会」という俳句の集まりをここで開き、この街を吟行することになったのだ。
改札を抜けると狭い駅前広場があり、すぐにアーケードをもつ商店街が伸びている。
平日の昼下がりだが、駅前もアーケードの下も人だらけである。
大勢の人が行き交っているのだからさぞかし活気があるかと思えばそうとも感じられない。
男女を問わず様々な年齢構成の人々はただ渡り廊下を行き来しているようにしか見えない。どこだって同じかもしれないが…
この街を吟行場所にした句友にアーケードの先に何が有るのかと聞けば「中野ブロードウエーがある」という。
フム、聞いたことがあるな。なんだっけそこは? と聞き返すと一風変わった店が集まっている雑居ビルだという。
わけても「まんだらけ」という店が有名で、ビルの中に何と27店舗を構え、ありとあらゆる趣味の品々をそれぞれの店が特化して並べているという。
ボクは鉄道模型の店に魅かれたが、中に入るのはやめておいた。
あれはもう卒業したのだ。
もっとジジイになって足腰が立たなくなればもう一度遊ぶことがあるかもしれないが…
何するところか知らないが中野サンプラザっていうのも見えた。
ブロードウエーを抜けて行き着いた新井薬師が随分とこじんまりしているのだなぁと感じつつお賽銭を投じ、会処に指定された沖縄料理店に収まったのだが、この間たどった街の印象は随分と飲食店と飲み屋の多い街だと言うことに尽きる。
正直言ってこういう街を知らないでいてよかったと思う。
句友に言わせると飲み屋はどこも新宿よりも入りやすい感じがするんですよねという。ほれ見ろ、危ない危ない。
吟行するには面白いところかと思ったんだけれど、季節感は見上げる空にしかありませんでしたね。
設営した張本人の弁だが、人がうごめいている所には季節感だって漂っているに違いない。それをくみ取れない我らが未熟なだけなのだ。
季節感とは無縁の未熟者のボクの吟行句
中野っていつの街だよ天高し
犬公方の綱吉が統治した時代には東京ドーム20個分という敷地に犬屋敷が置かれたそうだ。
戦前は陸軍中野学校、政治犯を収容した中野刑務所…、そして高級住宅地。
戦後は? 青島幸男ってのもブロードウエーの上のマンションに暮らしていたそうだ。
この街が輝いたのはいつのことなんだ? そういう思いを込めたのだ。
兼題の「林檎」を加えたその他の提出句は
むいてよと妻に手渡す林檎かな
神の子に原罪負わせし林檎かな
神無月いつから雨季の仲間入り
得意げのJアラートや秋寒し
中野駅北口改札を抜け、目の前のアーケード商店街を進むと
ブロードウエーの金看板も誇らしげな雑居ビルにぶち当たる
特定の人がよだれを垂らす店が
その名も言わずと知れた「まんだらけ」
まんだらけだけで27店舗も
こちらは鉄道模型店
思いもよらず新井薬師はこじんまり
ここでは蚤の市も開かれるとか。それにしては狭くないか
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