今朝の写真は北鎌倉・円覚寺の塔頭、黄梅院にあるマンサクの枝先で見つけたツボミ。
花びらを守って固く閉じていた黄土色の表皮がほころび始め、中からまっ黄色の花弁がほんの少しだけ顔をのぞかせていた。
この分だと、あと5~6日もすれば独特の黄色い細紐か糸くずでもぶら下げたような花が咲き始めるんじゃないか。
寒さの底の「寒」はまだしばらく続くが、春がすぐそばまでやってきていることを、この花のチラッとだけ顔をのぞかせたツボミが知らせてくれている♪
「まんず咲く」
春の訪れの遅い雪国で、雪がまだ残っているうちから最初に咲き出す花がこの花であることから、まず咲く…まんず咲く…マンサク…と名づけられたのだという。
この花を見ると思い出すのが丸山薫の2編の詩。
『まんさくの花』
まんさくの花が咲いた と
子供達が手折って 持ってくる
まんさくの花は淡黄色の粒々した
目にも見分け難い花だけれど
まんさくの花が咲いた と
子供達が手折って 持ってくる
まんさくの花は点々と滴りに似た
花としもない花だけれど
山の風が鳴る疎林の奥から
寒々とした日暮れの雪をふんで
まんさくの花が咲いた と
子供達が手折って 持ってくる
『白い自由画』
「春」という題で
私は子供達に自由画を描かせる
子供達はてんでに絵の具を溶くが
塗る色がなくて 途方に暮れる
ただ まっ白い山の幾重なりと
ただ まっ白い野の起伏と
うっすらした墨色の陰翳の所々に
突刺したような疎林の枝先だけだ
私はその1枚の空を
淡いコバルト色に塗ってやる
そして 誤って まだ濡れている枝間に
ぽとり! と黄色の一と雫を滲ませる
私はすぐに後悔するが
子供達は却ってよろこぶのだ
「ああ まんさくの花が咲いた」と
子供達はよろこぶのだ
丸山薫は昭和20年に山形県の月山山麓に位置する西川町岩根沢に疎開し、戦争が終わって世の中がある程度落ち着くまで、その集落で代用教員を務めた。
日本でも名だたる豪雪地帯に暮らす子どもたちは、だから季節の移ろいには格別に敏感なのだと思う。
2篇の詩には、そういう子どもたちの感性のきらめきが捉えられていて、とても印象深い。
鎌倉に雪は無いどころか明るい太陽の光が降り注ぎ、ロウバイの黄色、ツバキの赤、スイセンの白と黄色、竹林の緑など、さまざまな色彩にあふれている。
それでもチラッと見えたマンサクの花びらの黄色の鮮やかさは、雪国の子どもたちの心を躍らせるように、ボクの胸にも強いビートが響いてくる。
春はすぐそばまでやってきている♪
遠目には枯れ木にしか見えないけれど…