八っあん あれ、熊さん何をそんなに目を三角にして怒ってるんです?
熊さん おう、八か。これを怒らずにいられるかってんだ。
八 だから何に怒ってるんです?
熊 あのな、運動公園の南の端の小高い場所に数株あって咲くと見事なヤマザクラの株立ちな、そのうちの1株がな…オイオイ…
八 あれっ、今ぷんぷん怒ってたかと思ったら、今度は泣き出しちまって、一体何があったんですか。
熊 だからよ…オイオイ…… ヤマザクラの株立ちの一つがさ、これから咲こうっていうまさにその時に…オイオイ……根元から…オイオイ…切られ…ちまったんだよ…
八 えええええええええ~~~~~~っ!!!!!!!
熊 オイオイ…それでな…オイオイ…切り倒された株元にはやっと咲き出した花がついたままの枝が何本も打ち捨てられていてな…
八 うへぇ~~~!
熊 散り切れずに咲いてんだよ……オイオイ…
八 おぇ~~~っ!
熊 健気じゃねぇか。オイラな、その姿を見てビックリしているうちにな、痛々しくて痛々しくて、涙がボロボロ出てきちまったんだよ。
八 おぉ、もっともだもっともだ。そりゃ熊さんの気持ちよく分かるよ。あのヤマザクラはひときわ見事だったからなぁ…
熊 そうとも、鎌倉の山を歩けばあちこちにヤマザクラの大きな木はあるが、あの株立ちは開けたところにあって全体像が良く分かったし、咲きっぷりも実に旺盛で、満開の姿は見事の一言に尽きた。樹齢だって100年は経っていたはずだぜ。
八 よりによってこれから満開に向かおうっていうサクラを根元からぶった切るなんて無粋で乱暴なことをするなんて、おのれっ、どこのどいつだ、こんなことしやがったのは!
大家さん 聞こえてましたよ、2人の会話。そうか、あのヤマザクラの大株が切り倒されてしまいましたか…よりによってこれからって時に…
八、熊 あっ、大家さん。そうなんですよ、とんでもねぇことが起きちまった。
大家 まったくじゃのう。日本には「武士の情け」とか「惻隠の情」ってものがあるのにのう。同じ切り倒すにしても、せめて満開に咲かせてあげてからってやり方は取れんかったのかのう。
熊 誰がこんなことをしでかしたんでしょうねぇ。ふん捕まえてヤマザクラの仇、ボコボコにしてやりてぇものでさ。
八 大家さん、見当つきませんかねぇ。
大家 う~ん、あそこは私有地じゃからのう。土地の持ち主が切ったとしても、自分の持ち物をどうしようと持ち主の勝手じゃからのう…
熊、八 打つ手がねぇってことでやんすか? 指をくわえて見てろってか…
大家 まぁ、こればっかりはなぁ…残念極まりないが、あきらめるしかないかな。
熊、八 これじゃぁ、ヤマザクラの精も浮かばれませんぜ。オイオイ
株元にはまだ生々しい切りくずが落ちていて、切り倒された直後か、あまり時間が経っていないようである
根方に転がった幹のそばには花が咲いたままの枝が散乱している
5~6本の株立ちだったことが分かる
帰路落とされた枝で「咲く」ヤマザクラ
花はこんなにたくさん…