雪が降り止んだ朝。
音の正体は坂道に積もった雪をどかすためにアスファルトにスコップがこすれているのだ。
ガラス越しに外を見るとボクの家の前の道路にまでスコップをふるう人の姿が見える。
これはイカンと押っ取り刀で外に出たが、1軒隣のダンゴ3兄弟のうちの受験生を除く大学生2人が母親の指図の下、大車輪で雪をかき分けている。
「いやぁ、ありがとうありがとう、ここはボクが変るからほかを頼むよ」と礼を言って戦列に加わる。
そうこうするうちに隣近所からも人が出てきてガリガリ、ゾリゾリという音が家々の前から聞こえるようになった。
写真で見る如く、チリトリを持って参戦した5歳の男の子を含めて総勢8人、ボクを含めると9人がズラ~っ並んでゾリゾリジャリジャリ。
来し方、積雪があればだれが呼びかけるわけでもなく、何となくスコップを振るう音が聞こえてくるとそれを合図にそれぞれに家から人が出てきて雪かきしてきたが、それはここが坂道で通学路にもなっているから雪を放置したままだと凍結したりした場合とても具合が悪いというのが最大の動機だろうと思われる。
暗黙の合意事項のようなものである。
何を隠そう、ボクもその重要な戦力となって奮闘してきたのだ。
まだ40歳そこそこだったある年は午後から降り出した雪が除雪されないまま踏み固められてしまい、一夜明けてみると特に車の通りがあるカーブした坂道がアイスバーン状態になってしまい、放置しておいては危険だと言うことで土曜日と言うこともあり、休みの旦那どもがそれぞれの連れ合いに尻を叩かれて駆り出されたんである。
しかし踏み固められた氷状の雪はスコップでは文字通り歯が立たず、鍬を振り上げてたたき割ってから取り除くという余計な手間に大汗を書いた記憶がある。
ボクの住む住宅地の一角の良いところは誰かが号令するわけでなく、皆がそれぞれ自主的に出来る範囲で行動する点かもしれない。
今回だって同じことで、ダンゴ3兄弟の長兄と次兄の奮闘が引き金になって、それぞれに家から人が出てきたんである。
家の前の除雪が一段落した後、かつて鍬をふるった道路にも戦線を拡大していた兄弟を手伝った。
普段道ですれ違ったって照れなのだろうか、ロクに挨拶もしないのだが、「いやぁ、キミたち兄弟は大車輪だねぇ、とても助かるよ」と声を掛けたら長兄が「いやぁ、労働力×時間=課題解決ですから」とクソ真面目な顔をして大学生風? にやや気負った調子で答えたのがとても微笑ましかった。
ある時、ボクが庭に出て草花の世話をしていたら、通りがかった小学生がボケの花を見て「これは本物の花ですか」とあまりにも哲学的な質問をするものだから一瞬たじろいだ覚えがあるのだが、あの時のガキである。
好青年に育ったものだ。こういう青年たちに鉄砲を担がせては絶対にいけない。
正直なところ晴れ渡っていたし、どうせ夕方までには溶けて消えてしまうだろうさ、と思って除雪の必要はないだろうと思っていたのだ。
わが地域にはまだ連帯意識というのか共同体意識のかけらのようなものがちょっぴり残っているようである。
ヘタすりゃ天然記念物にされかねないような絶滅危惧のあるものだろうから、とりあえずは大切にしておいた方がよさそうだものネ。
せめて滑らずに歩けるところを確保しようと、号令もしないのに大勢の人が出てきてスコップをふるう
コメント一覧
heihoroku
高麗の犬
最新の画像もっと見る
最近の「随筆」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事