ICUROK!!

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果てない宇宙で

2023年05月15日 21時58分17秒 | 音楽

生まれた奇蹟は 泡のひとカケラ 深く藍い海の



2023年は私の記憶に強烈に残り続ける年になるだろう。4月のはじまりというのはこの国で生まれ育った人間にとってもう一つの“新年”のような感覚がある。その新しい一年を過ごすために気持ちを整えているさなかで、またしても悲しい知らせが目に飛び込んできた。一報を受けてじわりと心に広がったのは1月の衝撃とは異なる感情だった。ある程度覚悟をしていた部分が大きいのだろう。それでも、何とも悔しく、やるせない気持ちになったまま新たな日々を歩みだし今日に至る。しばらくは上手く言葉がまとまらなかったが、木々が青さを取り戻し昼の時間が少しずつ長くなるにつれ徐々に心も落ち着いてきた。そして今回もこうしてここに自身の言葉を書き残しておこうとおもった。

敬愛する音楽家がまたしても旅立ってしまってから一週間を七回分迎えた。信心深くはなくとも長いことこの国の文化に馴染んでいるゆえか節目というものを意識してしまう。未だに彼を悼む記事があちこちで発信されており、音楽界のみならず彼が与えた影響の大きさを再認識する日々である。4月の衝撃から改めて彼が遺した音楽を聴き続けているが、今まであまり聴いてこなかったごく初期のアレンジャーとしての仕事や界隈のプロデュース作品などもよく聴いている。その幅の広さとアレンジ力の凄まじさは陳腐な言い回しかもしれないが正に類稀なる才能の証左なのだろう。彼の音楽は間違いなく100年経っても200年経っても遺る音楽だ。あらためて確信する。偉大な音楽家だった。

坂本龍一が居なくなってしまった。高橋幸宏に続いてあまりにも早くあまりにも悲しく、無念で悔しくて堪らない。今もたくさんの音源を聴く中で油断しているとつい涙が出てしまう。振り返ると個人的に最初の接点はやはりYMOだった。学生時代にYMOの映像を見て衝撃を受けてそれまで一切興味の無かった楽器に手を出し始めたこととか、SONYから各種再発盤が出たときは趣味の合う悪友たちと自転車をすっ飛ばしてCDショップに走ったこととか様々な思い出も蘇ってくる。かような折に敢えてこんな話をしているのは、最近になって初めてYMOのHello, Goodbyスタジオ録音バージョンを聴いた際の思いを書き記しておきたかったからだ。YMOのカバーも本家のステレオバージョンと同様、ドラムが左チャンネルから鳴っていることに先ず驚いてしまった。そしてフィルインが本家よろしく跳ねる跳ねる。リスペクトとこだわりの塊。ここで改めておもったことがある。やはり優れた音楽はいつまでも遺るし、また、その遺り方もさまざまであり、各々の中で共鳴したものが遺伝子の如く後世の音楽家達にも受け継がれていくのである。正に「芸術は長く、人生は短し」ではないか。こんな私のようなちっぽけな人間にだってその遺伝子的カケラが身体の隅々に散らばり続けている。

坂本さん、あなたのような偉大な音楽家と同じ時代を生きることができたこの奇蹟を噛み締めています。あなたの音楽をずっと愛して死ぬまで聴き続けます。そしていつか叶うならばどこかの宇宙でお会いしたいです。
素晴らしい作品の数々をありがとうございました。いつまでも大好きです。安らかにお休みください。

(最後の傑作『12』を聞きながら。)
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今日の空は

2023年01月22日 21時27分58秒 | 音楽

少し悲しいね。

心にぽっかり穴が空いたような一週間が過ぎた。
一週間前の今日、アルコールの過剰摂取により重くなった身体を布団から引きずり出し、浮腫んだ目で情報端末の通知を見たところ唖然とした。
本当に大好きで自分の人生に多大な影響を与えてくれた存在が突然居なくなってしまった。その日はいつ以来だろうか、声を上げて泣いた。いつかはその日が来るであろうとも今ではなかろう。神も仏もありゃしない。居たとしてもそいつは大馬鹿者だ。妙な憤りすら覚える。気を紛らわすために寒空の下を歩いてみたが、自然と涙が滲んできてしまう。しばらく音楽を聴けなかった。

今少しずつ音楽を聴き始めた。
それにしても声を上げて泣くほど衝撃を受けたところで中々実感が湧かないものだ。きっとこれは到底受け入れられないという自身の気持ちの表れでもあろう。今頃向こう岸ではあの人に挨拶してるのかなとか、はたまたあの人にはまだ早いぞって叱られてるのかなとか、これからどんなセッションを繰り広げるのかななどと明るい想像をしながら好きな曲を掛ける。やっぱり上手いな、格好良すぎるだろとかつぶやきながら。

これから我々は高橋幸宏が居なくなった世界を生きていく。偉大なアーティストの功績は残り、その“遺伝子”は絶えることなく受け継がれていく。すべて素晴らしすぎる。

幸宏さん、これまでもこれからもずっと大好きです。あなたが居る時代に生を受けて、素敵な音楽、言葉、ファッション、そのすべてに出逢えて本当に良かったです。
たくさんの愛をありがとうございました。安らかにお休みください。

(坂本龍一『12』生命の刻まれた音を聞きながら。)

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父の代わりです

2022年12月31日 15時51分05秒 | 映画

恒例の映画10選といいつつ結果がこれで良いのか!?
というわけで、今年はあまりにも時間がないので開き直ってサクッといきます!

『トップガン マーヴェリック』
絶対に面白い映画を見せるからな!という制作陣の気概を感じる堂々のオープニングからキメ画尽くしで駆け抜ける131分。サブスク配信サービスが充実している昨今、やはり映画は映画館の大きいスクリーン&大音響で観てこそだと改めておもわせる大傑作。
ヴァル・キルマーのあの形での出演におトムと一緒に涙し、ルースターの「父の代わりです」で感極まり、最後のトニー・スコットに捧げる文言でハンカチが涙と鼻水まみれでグショグショになってしまった。文句なしの今年ベスト映画である。

『トップガン マーヴェリック』
なので、二回目観に行ったわけなのだが、二回目は既に冒頭から涙を流し始める情緒不安定っぷり。
実はトップガンって個人的に一作目はまったく思い入れがなく、映画としてそこまで面白くないとすらおもっていたのだが、本作により一作目の価値が爆上がりしてるのが凄いのよ。例えばドクター・スリープなんかもそうなんだけど、過去の作品の価値を更に押し上げる作品って中々作れるものではないとおもう。作品の細部まで目を凝らしながらスクリーンにひれ伏す二度目の鑑賞。

『トップガン マーヴェリック』(IMAX)
コクピット専用のIMAXカメラを製作して撮影した制作陣への敬意を表するべく三回目はIMAX上映で。いよいよフレアが飛んでいるだけで涙を流し始める境地に達する。
キメ画と素晴らしいサウンドトラックの往復ビンタが続く本作、チームワークのためにアメフトやるシーンにすべてが詰まっている気がする。もはや言葉は要らないという。当該シーケンスで流れる「I Ain’t Worried」はその後方々で掛かっていて耳にするたびにニヤニヤしてしまうのだった。

『トップガン マーヴェリック』(4DX)
本作でとうとう4DX童貞を卒業してしまった。はじめは酔うかと心配していたがまったく問題なく、4DXとの親和性の高い作品だったので大満足だった。冒頭だけ50回くらい繰り返したい。
そういえば今年は久しぶりに海外に行く機会もあったが現地の飲み屋のお姉さんとトップガンの話で盛り上がった。映画という共通言語は良いものだと改めておもったし、優れた映画は国境や人種など超越して愛されるのだとしみじみ感じたのだった。

『RRR』
インドから来た激熱男汁映画。昔のジョン・ウー作品を観ているかのようなむせ返るほどの濃厚なブロマンス。約3時間の長尺だが全編通して勢いが良く、無駄のない構成で一切ダレないのが凄い。特に何を見せるべきかが明確で回想や次のシーケンスに至るまでの繋ぎの省略の仕方もスムーズで上手い。
ニュータイプばりの阿吽の呼吸で繰り広げる肩車アクションの無敵っぷりに馬とバイクで駆け抜けるゴリゴリのアクションが最高に楽しい。どうしたらそういう発想になるんだよってなるのだが、ノリと勢いが強すぎて突っ込みすら間に合わない。大スクリーンで楽しめる映画ということでトップガンに次ぐ最高のエンターテイメントを堪能した。

『RRR』
なので、二回目観に行ったわけなのだが、とにかく草臥れた心に効く。通常長尺作品は大の苦手なので観ると消耗するんだけど、この作品は観終わったら元気になる驚異の効能がある。
1本でカチッと纏まっている感じからして同じS・S・ラージャマウリ監督作品のバーフバリよりも好み。ナートゥダンスの力強さやラーマさんのなんちゃってランボー無双っぷりは一々気持ち良い。入場特典のポストカードは作業机に飾っており、疲れた時に眺めては元気を貰うようにしている。

『犯罪都市THE ROUNDUP』
マ・ドンソク兄貴は今年も護られたい二の腕大賞を見事に受賞。兄貴自慢の拳に加えて一本背負いが次々炸裂して本当にスカッとする作品だった。
前作のキャラも良い感じで引き続き出演してくれて嬉しい。コメディ要素の入れ方が絶妙で韓国映画お得意の暴力シーンとの塩梅がとても良い。最後みんなで良い仕事したぜ!って感じの飲み会で終わる感じ含め完璧だった。
三作目も制作が決まっているようで、おまけに國村準も出るらしいので大変期待しております。

『サバカン』
2022年のベスト・オブおねショタ映画。80年代の長崎を舞台にイルカを見るため沖合の島に2人の少年が冒険に行くという筋書で、ノスタルジックな夏休み映画として普通に良い作品だった。
途中で出会ったお姉さんのおっぱいばかりみてしまう少年の可愛らしさよ。あと内田のジジイがみかんを盗んだ悪ガキを追いかける構図がホラー映画じみていて個人的にツボだった。
それにしても、本作のタイトルにもなっている鯖缶の寿司は貧しさゆえの料理&あまり人気がないという描写なのだが、どうにも美味そうに見えるのだ。折をみてやってみようかとおもいつつ年末になってしまったが、やはりどこかでチャレンジしてみよう。

『モガディシュ脱出までの14日間』
ソマリア内戦に巻き込まれ南と北の大使館員が命からがら脱出する実話ベースの作品。ホテル・ムンバイやクーデター、アルゴなんかを観た時の感覚にも似た、こんな状況絶対嫌だ映画。脱出する最後の最後まで緊張感が途切れることなく、映画館を出た後えらく消耗していた。
無政府状態のリアルマッドマックス化した地獄の中を脱出するんだけど、お得意の暴力描写やアクションもしっかりしていて見ごたえがあった。毎度のことながら韓国はこうした気骨ある作品を制作できる土壌があり素晴らしいとおもう。

『スパークス・ブラザーズ』
スパークスは今年ソニックマニアでライブを観ることができた。そしてなんとこの年末に再度来日して山田洋次監督と顔を合わせたという。まさにスパークスイヤーとなった2022年。
唯一無二のバンドのデビューから浮き沈みまで2人の大ファンというエドガー・ライト監督がまとめ上げた作品。日本文化好きというのは知っていたが家にパチンコの実機まであるのが凄まじく恐れ入った。同時期に公開されていたアネットは冒頭のスパークス登場意外に正直見所がなく個人的に好きになれない作品だったが楽曲は良かった。引き出しが豊富で器用なバンドなのだなと再認識。なんだかんだ今年サブスクで掛けていた曲を振り返るとスパークスの再生数がかなり多かったらしい。


というわけで2022年の(無理矢理)映画10選は以上。今年は番外編のようなこともやりません。
一年を振り返るとかなり多忙で尚且つあまり見たい作品も多くなかったためこのような結果になってしまった可能性はある。まあ、とにかくトップガンとRRRのインパクトが強すぎた。そしてこの二作品に共通しているのは、劇場の大スクリーンで映画を観ることの素晴らしさを再認識させてくれたことだろう。
来年もぼちぼち楽しみにしている作品はあるものの、まずは自分の時間を大切にして心の余裕を作るところからかもしれない(ここのところ毎年同じようなことを言っている気がするが……)。
一先ずこれからも楽しい作品やこちらの度胆を抜くような作品に出逢えることを祈念しつつ。
それでは、皆様良い年をお迎えください。


陰毛論

2022年03月09日 22時12分58秒 | 戯言

かねてより一部の愛好家に嗜まれてきた陰謀論は情報過多の波に押し出され表舞台に引きずり出された挙句、SF的文脈を失い人心のレガシーコードのようなものに共鳴し混沌を生み出した。現在まさに混沌から別世界の真実とされる荒唐無稽なストーリーが堂々と独り歩きを始めている。

かくいう私も元々その手の話やオカルトは嫌いではない。それは先述したSF的文脈やそこから派生する創作物の類が自身の思考や創作に刺激を与えてくれたり単純にエンターテイメントとして面白いからである。かつて、そうした個人的な嗜好も相まって、陰謀論に関する書物を購読したりWeb上のコンテンツを読み漁ったりしたこともあった。世界の裏側というものを思いもよらない角度から語る手法は読み手を惹きつけ、純粋に知的好奇心を刺激しワクワクさせるものである。一方、これらは共通して、我々は世界を牛耳る巨悪に騙され虐げられてきたのだという論調により、過去に起こった出来事や結果論に対して、ユニークな解釈、はたまた都合の良いストーリーを後付けする構成で成り立っていることが多いのが特徴だ。また、信憑性の不確かな情報ソースによる裏付け、もしくは、その裏付けすらないストーリーが方々で繰り広げられていたものと記憶している。そして、これら情報に触れることにより、陰謀論を別世界の真実として信奉する方々は概ねこうした書物等で体系付けられた思想を拠り所としていることを理解したのだった。個人的にある意味こちらも目覚めさせられるような気持ちになり妙に納得したものである。

さて、もちろん世の中には我々のあずかり知らぬところで表沙汰にならない悪事や陰謀も渦巻いているだろう。人類の歴史の中で実際に暴かれた罪も確かに存在する。しかし、現実世界は陰謀論的思想体系だけで語れるほどシンプルなものではないはずだ。この世界は多様な思想、複雑な利害や因果関係、自然発生的な事象等で成り立っており、白黒で割り切れることのほうが少ないくらいモザイク状で不確かなものだ。いわゆる目覚めている人は別世界の真実が見えるそうだが、逆に何故それが真実と言い切れるのか不思議でならない。例えばマスメディアの情報には真実を歪曲する表現や演出等が多々含まれるのは事実だろう。しかし、だからといって、専門家による十分な分析や考察が行われていない創作まがいのデータやWeb世界に放流された荒削りの情報をそのまま鵜呑みにするのも違うのではなかろうか。ましてや、今まさに同じ世界の時間軸で人が傷つき殺められている状況下において、陰謀論的文脈でそうした殺戮行為を仕掛ける者を肯定し、傷つく人々を愚弄するかのような言動を取るなど言語道断である。そもそも、どちらのサイドに立とうが渦中で苦しむ無辜の民に先ず以て心を寄せて欲しい。そして、百歩譲って余程我々の見ている現実世界が誤りであるというのなら、その根拠をきちんと示すべきだ。

明後日の方向に糞を掛け合うような不毛な議論など望んでいないのでこのお話はおしまいだ。そして、はて、不毛といえば、かの思想体系は不毛でないというのならば一体何なのだと一つ思案して、ここに陰毛論と名付けることにする。

結局、強引に痰壺を煮詰めたような駄洒落を言いたかっただけなのかといえば否定はできない。合掌。


猫ちゃんのブレスを返せ

2021年12月31日 14時08分15秒 | 映画

さあ、恒例の2021年映画10選諸々のお時間がやって参りました。今年は絞り出します。

『Mr.ノーバディ』
普段は工場の冴えない経理担当のオヤジとおもって舐めていたら…という完全に私好みの作品。ボブ・オデンカーク演じるオヤジがすっとぼけた感じでバタバタとロシアンマフィアを片付けていく姿が痛快。この作品、主役のみならず映画全体がどこかすっとぼけた感じの雰囲気なのが個人的にハマってしまったのだ。共演のRZA、クリストファー・ロイドもすっとぼけながらインパクト残しまくりで最高。あと、マイケル・アイアンサイドの容姿がかなり変わっていて最初気づかなかったけどお元気そうで何より。バスでダニエル・バーンハードらチンピラグループに絡まれた時はまだオヤジ覚醒途中で結構ボコボコにされるところや、イキってた隣人のダッジ・チャレンジャーぶん捕るところなんかが好きな場面。最後は殺しの下ごしらえもバッチリで工場にランボー並みの罠を張り巡らせマフィアをイチコロにする盛り上げ方も実によろしい。クソみたいな時代にこういう作品が年に1本は必要なのだ。

『マリグナント 狂暴な悪夢』
不作続きの今年後半戦に突如現れたとんでもない作品。悪霊によるエクソシスト的なオカルトホラーと思いきや後半で全く別の映画になるという今年の映画最大級のインパクトをもたらした怪作。日本昔話、はたまたブラックジャック先生でも登場しそうな大どんでん返しの展開に加え、警察署一つ潰す勢いの大暴れに劇場で笑いを堪えきれなかった。あまり語ると核心に触れてしまうので、あとは興味があれば観てくれとしか言いようがないのだが。こういう作品との出会いがあるから映画鑑賞は止められないと、ついつい水野晴郎顔になってしまう。どこか懐かしさを覚える作品のテイストに合わせてかVHSが活躍するのも嬉しいところ。細かい画作りもちゃんとしていてつくづくジェームズ・ワンという監督は器用な人だ。

『レイジング・ファイア』
ベニー・チャン監督の遺作となった傑作。いよいよ“香港映画”を作るのが難しくなってきた昨今。静かに力強い反骨精神が見え隠れしていて「香港映画ここにあり」という意地を見せてくれたんじゃないかとおもう。バイクチェイスでの無茶苦茶っぷり、ヒートやザ・アウトローを彷彿させる後半市街地での銃撃戦など古き良き香港アクショ映画の底力を感じさせてくれて嬉しかった。鬼に金棒、ドニーさんに警棒とはよく言ったものでラストの警棒vsナイフアクションが超絶クオリティ。教会がステージというのも熱い。ドニーさんが警棒展開したときは「いよっ、宇宙最強!」と掛け声を飛ばしたくなる。そして、ニコラス・ツェーがとにかく色気もあるわでクッソ格好良い。多感な時期に観ていたら確実に特殊警棒とバタフライナイフの購入を検討してしまう職質まっしぐら映画だった。

『ただ悪より救いたまえ』
毎度のことながら韓国製アクション映画のレベルは本当に高くて脱帽する。エレベーター内でのドンパチや階段でのナイフバトルなど個人的に好きなアクションてんこ盛りだった。東京からタイへと殺し屋さん出張追いかけっこバトル。人身売買組織との闘いということでドルフ・ラングレンのバトルヒートを思い出しつつ、毎度のことながらタイは闇が深いな~などと勝手なレッテル貼りをしてしまうボンクラ脳。あと、白竜が使ってた雑居ビルの拷問部屋、日本にもあんな闇プレイスがあるのかなとワクワクしながら観ていた。タイパートでは『オンリー・ゴッド』のおっさんも出演しており、相変わらずカタギの役は似合わない面構えであった。

『ベイビーわるきゅーれ』
こちらは和製アクション映画の心意気。同じく阪元裕吾監督の今年の作品『ある用務員』で注目していた伊澤彩織さんが大活躍。『ある用務員』のJK殺し屋スピンオフ的な趣の作品なのだがスベるかスベらないかギリギリのゆるさをもつ世界観が個人的にハマった。この辺は正直好みが分かれそうなところではあるのだけれども。本作は最後の伊澤彩織さんvs三元雅芸さんの肉弾戦がユニークな振り付けでとても良く出来ていた。伊澤さんの闘った後「疲れた」のボヤキが大好き。もっとあの二人の物語が観たいなぁなどと呟いていたら、続編制作が決定したようでおめでとうございます。二作目は本作のテイストを大切にしつつ更なる大暴れをしていただければと期待している。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』
一応リアルタイム世代には当たるのだけれど本シリーズを観たのはかなり後の方だったわけで、更に特にファンでもないという断りはしたうえで、この作品のためにこれまでのすべてのシリーズ作品が報われたというか救われたというかそんな気持ちがしてしまった。2時間半以上の長尺に詰めるだけ詰め込んで本当にこの長いカルマのようなシリーズを終わらせてしまった。それはもうきっちりと。新劇場版になって登場したマリについて、当初はエヴァオタに媚びるコネメガネ~くらいにしかおもっていなかったのが本作でもう大好きになってしまった。いやー、つくづく手のひらは返すためにあるんですなあ。きちんと終わらせたってのがとにかく高評価となった一本。

『ガールズ&パンツァー最終章 第3話』
魔境での鬱屈した生活の中で出会った、人生最大級にハマった清涼剤のようなアニメシリーズ最終章の第3話目。これまで散々持ち上げておいて7本目に持ってくるとは如何なるおつもりかと叱られてしまいそうであるが、いや、その、作品としてはそらもう知波単大活躍のジャングル戦の続きも激熱で素晴らしいんすよ。不憫じゃないエリカも可愛いし継続のシモヘイヘも良キャラだ。しかし、問題は我が心の母校アンツィオ高校の描写ですよ!あれだけでマイナス10万点ですわ!もう少し活躍を見せてくれー!!というわけで、アンツィオ過激派にとっては残念な結果だったわけだが、いよいよ個人的に期待していたあんこうチーム白旗展開が来たので次回作が超楽しみ。澤ちゃんが覚醒して胸熱展開となるか、はたまた大洗が敗北を迎え桃ちゃんは留年するのか、まだまだ死ぬるわけにはいかないのだ。…畜生!クラウドファンディングでP40買うぞ!

『すばらしき世界』
やれやれ、つい戦車の話に熱くなってしまった。さて、本作は個人的に好きな西川美和監督の最新作。シャバに出た元ヤクザがやり直そうと社会の中で苦闘する姿を丁寧に描写する。社会の厳しさや様々な困難の中で愚直に生きていこうとする少々不器用な主人公にとって皮肉めいたタイトル。それでも一縷の望みを見せつつ最後はズドンと心に迫る。後半は主人公としての視点が若手テレビ屋さんに移っていたのが上手いなとおもった。あとは役者の力。役所広司の枯れた演技と枯れた尻に尽きる。梶芽衣子さん相変わらずお綺麗でもう70代なのが信じられん。

『ミセス・ノイズィ』
騒音おばさんのフラッシュなんかあったなあとしみじみ。人の表層だけを見て先入観や経験値や過去の参照を基に動いた結果すれ違いからの大騒動に発展という寓話的要素を持つ作品。メディアリンチ、ネットリンチもテーマに入れつつコミュニケーションの本質を描く。炎上騒動が広がる中、キャバ嬢が誰よりも冷静な視点で語るのは映画らしくて面白い。極端に説教臭くなったりシリアスになったりし過ぎず、最後は綺麗な落としどころに持ってくる点も良かった。拾い物感のあった邦画の佳作。

『アメリカン・ユートピア』
デヴィッド・バーンといえば『ストップ・メイキング・センス』をたまに作業BGVに使うことがあるのだけど、本作はソロライブの映画化。まず舞台のコンセプトが面白くて滅茶苦茶クール。チンドン屋みたいに一人一人楽器を抱えて舞台上を縦横無尽に動き回る。トーキング・ヘッズの楽曲も久々に聴くと良いものだ。個人的にギタリストのアンジー・スワンが滅茶苦茶格好良くてお気に入り。一方、こういうこと言うと野暮なうえ真面目に怒られそうだがスパイク・リー監督らしい例のBLMに関するシーン構成は些か無粋に感じたりもした。いずれにしても、このライブは生でじっくり見てみたいので何とか本邦に来ていただけないものかしらね。


さてはて、例の如くグダグダと書き綴ってきたわけだが、冒頭でも述べたように絞り出した感が例年以上で大変苦悩した。自分の精神状態のせいなのかわからんが、特に今年後半は大作系映画など一つも面白くなくて、毎週肩を落として劇場を出る始末だった。それでも、『マリグナント』『レイジング・ファイア』『ただ悪より救いたまえ』のような作品に出会えたのは本当に救いだったとしか言いようがない。

というわけで、最後は恒例の各種オマケ大賞コーナー。
女優賞は今年はダントツの一位で伊澤彩織さん。今後の活躍に大期待。次いで男優賞はニコラス・ツェーに決定。もうね、なんなんすかね、あの格好良さは。抱かれたら誰だって全身の毛穴から血を噴いて絶命するわあんなん。
今年のベストバウトは悩んだので異例の二作品から『レイジング・ファイア』のドニーさんvsニコラス・ツェーと『ベイビーわるきゅーれ』の伊澤彩織さんvs三元雅芸さんに決定。午後ローにベストマッチ賞はチャドウィックの死が惜しまれる『21ブリッジ』。劇伴大賞は「あれ、この曲、坂本龍一っぽくね?」とボーっとアホ面してたら本当に坂本龍一だった『MINAMATA-ミナマタ-』。劇中歌大賞は『007ノータイム・トゥ・ダイ』というより女王陛下はいいよな~(いいよなおじさん顔)ってことで「We Have All The Time In The World」に決定。護られたい二の腕大賞は映画自体は今年ワースト級だったが『エターナルズ』のバブみ溢れるマ・ドンソクに。何と四年連続の受賞ということで、これはもはや二の腕界のオメガパフュームっすわ(自分でも何言ってるか分からない)。ベストタイミング賞は『ローグ』のナイスなパク付きを見せたワニさん。餌付けしたい子No.1は『モンスターハンター』のキュートなトニー・ジャー。お前が『直撃!地獄拳』リメイクしろ大賞は『るろうに剣心最終章The Final』の新田真剣佑に。そして最後に、人生辛いので子宮に入れてくれ大賞は『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』のマリさんに決定だ。皆さんおめでとうございます!

やれやれ、2021年もクソ疫病のせいで映画公開自体が減るわ千葉ちゃんが亡くなるわでろくでもない年だった。さすがに来年も同じ状況は勘弁してほしい。良い展望に向かうことを切に願いつつ。
それでは、皆様良い年をお迎えください。