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『黒い家』/貴志祐介 【読後感想】

2008年07月06日 | Book
注:ある意味で、ネタバレしてる気がします

貴志祐介著『黒い家』読みました。
非常に面白かったです。

以前、何か調べものをしていて、偶然目にした
映画「黒い家」のサイト。
粗筋なんかを読んじゃって、けっこう基礎的な粗筋を知ってまでしても、原作を読んでみたいと思った本です。

結末に近い部分までの粗筋を知りつつも、寝る間も惜しんで読み耽ってしまう程、非常に面白い本でした。

顧客の家に呼び出され、子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう生命保険会社の若槻。顧客の不審な態度から、彼は独自調査に乗り出す。その行き着く先は若槻の想像を遥かに超えた恐怖が待ち受けている。
と言う感じの内容です。

ジャンルとしてはホラーに分類された小説ですが、非常に「人間」という‘生き物’を細微に描いている小説で、別角度で見ると「社会派」的小説にも感じられました。

生命保険に関する記述は素晴らしく、その社会性を鋭く描いています。
保険契約ノルマに対する問題、受け取る側の金への執着、生命保険という制度への言及など、この物語を形成する諸悪部分を上手く掘り下げています。

「心を持たない人間」が形成される過程に関する記述も、仮説をベースにしているにもかかわらず、突飛的に感じる箇所が無く、寧ろ、今後の社会に対するリアルな恐怖を思わせます。

「非人間的」な行動を犯す登場人物が描かれているのに、その恐怖が「人間」として恐ろしさを感じさせている筆には、改めて筆者の力量を感じずにはいられません。
また、「非人間的な恐怖」が「人間の犯す恐怖」として描かれている、その根底を支える一つとして、主人公、若槻の恋人、恵が語る「性善説」が有ります。
絶望的な恐怖を与えられた恵が、その恐怖の根源である人物にさえも「性善説」を唱える様は、いささか鬱陶しさも感じますが、この物語の唯一の希望の光としてパンドラの底に弱々しいながらも、その存在を主張し、それが、「人が犯す恐怖」を描く上で、有用に活かされているのは確かなようです。

人知を超えた存在が、人間に恐怖を与える物語を描くのは、非常に簡単でしょう。
それは、人の能力を超えた力が前提とされ、当然の如く、人が立ち向かうには困難だからです。

しかし、この物語のように、姿かたちや生命体としては「人間」であるにもかかわらず、そこから生み出され与えられる恐怖を「心」の問題として描き出すのは、容易ではないと思われます。

非常に読み応えのある1冊です。

日本、韓国ともの映画は両者とも観ていませんが、この「心」をどう描いているのでしょうね。ちょっぴり見てみたい気もします。
鬼気迫る場面を映像として映し出せば、その「恐怖」を伝えることは目的として達成されると思いますが、
この小説の本質を映像化するのは、難しそうですね。


<関連サイト>
映画「黒い家」(1999年公開)

黒い家(1999) - goo 映画黒い家(1999) - goo 映画
映画(韓国版)「黒い家」公式サイト


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