昔ばなしというよりちょっとした恋愛小説のよう。娘の女性らしい思いに共感し爽やかな終わりかたでした。
孤独で不遇な若い男女が、それぞれ山の願いを聞き、「私の上に石を置いてくれたら 何でも願いをかなえてあげる」という言葉に従い、山頂で幻想的な出逢いを果たします。
ここはなんだか「果たす」と言いたい。どうにも運命的な出逢いなわけです。
若者のほうは、自分の居場所がなくこき使われる暮らしだけれど、不満は感じないほど健やかな肉体と精神の持ち主。
ある夜、彼は夢の中で山のひめ神に「私はせいがたかくなりたい」といわれ、その願いを叶えるためにひとかかえもある石を持って山にのぼります。
一方、みなしごの娘は「人はみな、冷たいもの」という諦念のなかで過ごしてきました。けれどきっとあたたかい関係に憧れ続けてきたことでしょう。
夜の川に映る山の姿から、山の願いを心に感じるところは、今しも無意識のうちに絶望し、あの世へ行きかけたところを、この世に引き止めた言葉です。
「みすぼらしいのは、いや。」
やはりせいが高くなりたいという山の願いを聞き届けるために、娘は山に登ります。
まさに山の神の導きによって二人は出会い、娘は初めて自分を温かいまなざしで見つめてくれる人に、堰を切ったように身の上話をするのでした。
こういう描写は、民話にはあまり見ないというか、ごく珍しいものだと思いますが、やはり単なる一目惚れではなくお互いに心をほぐして愛しさを募らせた事がよく分かる場面で、しんみりと感情移入させられます。
最後にふたり手をとりあって山を下りるとき、娘の心には、再び 「みすぼらしいのはいや」 という言葉が希望に変わった形で去来します。
「私は、愛される女になろう」
そして若者は、自分が望んでいたものを得た喜びと、娘とふたりで独立する希望を胸に山を下ります。
もはや山の背丈は二の次ですが、山は希望どおり少しでも高くなり、それを叶えてくれた者たちの願いをかなえてくれた、というキレイな結末でした。
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