
ファシストが台頭していく恐ろしさを戯画的に描いた寓話。
国民が一度に一人しか入れないほど小さな「内ホーナー国」の人々は、外側を取り囲む広々とした「外ホーナー国」の一時滞在ゾーンで、自国に住む順番待ちをする日々だった。
ある日内ホーナー国は国土がさらに小さくなり、人々は外ホーナーに飛び出してしまう。そこで、”ややひねこびているという以外にこれといって目立ったところのない平凡な中年男フィル”が、内ホーナー人から税金を取ればいいと言い出した。フィルは内ホーナーの女性キャルにフラれた過去があり、キャルは人妻となり子供もできていた。フィルは内ホーナーに個人的な恨みがあったのだ。
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登場人物たちが普通の人間ではなく、ツナ缶やベルトのバックル、機械の部品や植物から成る架空の生命体で、いかにも“つくりばなし”の体をなしている。だがこれが、独裁政権があれよあれよと成立する過程を端的に表すのに効果的であることが後々わかる。皮肉なユーモアを交えつつ、恐ろしいことを分かりやすく描いているのだ。
フィルは尊敬を集めるような男ではなかったが、ボルトが外れて脳が頭から飛び出すと、独善的な演説が上手くなる。ヒットラーを彷彿とさせる演説で、外ホーナー人の優越性を讃える内容だ。フィルは理不尽な税の取り立てでキャルの夫を解体するよう命じるが、力自慢の親衛隊がいるため誰も逆らえない。暴力的な支配に人々が飲み込まれていく構図が分かりすぎてつらくなる。
親の立場で私がとくにゾッとしたのは、フィルの親衛隊になる力自慢の兄弟ふたり。言われた通りのことしかしないように育てられ、ほめてくれるから、給料をくれるから、なんでも言うことを聞く“ちょうどいい頭の良さ”(言動はコントのよう)の若者たちだ。健全な猜疑心とまっとうな批判力のない人間を育ててしまう危うさを突きつけられた気がした。