花日和 Hana-biyori

ギケイキ

町田康「ギケイキ―千年の流転―」(河出書房新社)
「告白」が面白かったので、新刊を見かけたとき衝動買いしちゃいました。


ギケイキは、「義経記」ですね。牛若丸こと源義経が、現代人のそこらのオニイチャン口調で自らの過去を語ります。たとえば平家に追い込まれた父親の義朝が殺され、
「母は私たちを連れてとりあえず実家に逃げた。はは、私は生まれた瞬間から逃げていた。なーんてね。いまは思う。」

とか、こんな感じ。相変わらず流ちょうな漫才のような文体で、内容もギャグ漫画のよう。「告白」のときは、第三者として物語を語る者だけが現代人で、登場人物の話し方や考え方はまだ明治の人に寄せていたように思いました。が、こちらは語り部の義経が完全に今風の、それも世の中をなめきった上から目線の若者(成仏していない霊だけど)でした。

掟破りではありますが、ややこしい平安時代の物語が分かりやすく面白く読めました。うーんでも、唐突に終わるので「へ?ここでおわり?」と拍子抜けもしました。兄・頼朝が挙兵して味方を集め進軍するところへ、なんとか合流しよう!と必死で早駆けに駆ける、というところで終わります。
※追記
後で知りましたが、これはまだ続きがあるようです。道理でなあ。しまった…。しかしとりあえず最初に書いたそのまま残しておきます。


これをもう終わり?と思うのは、私が司馬遼太郎の「義経」や各種大河ドラマを大変面白く見てしまっていたからでしょう。やっぱりお兄さんの不興を買って追い詰められて死ぬところまでやるのかなと勝手に思っていたわけです。ていうか、思うよね?この文体で、義経の目線で、そこまでみたかったのよ私。

しかしまあ、平清盛のことを「大河ドラマやなんかでみたことがある人も多いと思う。」と言ってしまうのだから、みんなが知っているような話をしてもしょうがない、ということでしょうか。本文のなかでも、たびたび自分の最後は…ということをさらっと挟んでいるのでいいのかな。

この本で多く割かれる内容は、
・義経が強くなるための秘伝の書を手に入れようと潜入した屋敷でのこと
・弁慶のいわくつきな出自と義経に出会うまでのメンヘラな傍若無人ぶり
・義経との運命の出会いから弁慶が家来になるまで

特に弁慶の出自に関しては、本当かどうか知りませんがえーなるほどね、と思うドラマチックなものでした。いつも義経との出会いのところで急に現れる人なので、坊さんのくせに刀千本狩りとか無茶なことをするようになったのは何故なのか、どんな精神構造の人なのかが分かった気がして新鮮でした。

それと、義経の家来になるといっても、やられてすぐに平身低頭じゃないんですね。考えてみたらそうかも。1度はやられるけれど、その場ではなかったことにして去り、次の日にストーカーみたいにつけていって、一緒に読経までしています。この読経の場面でまた魂をゆさぶられる弁慶なのでした。その後また戦うのですが、その時はすでに義経に心酔しきっていたのですね。そういう描写が細かくて、非常に読み応えがありました。
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