


吃音のあとの静寂に小鳥来る 福本啓介
月朧抱きしめられてゐたりけり 同
昼月と共に過ごせり保健室 同
小春日の昨日に我を置いて来し 同
さくら咲き記憶喪失終はりけり 同
また回り出す年越の換気扇 高野ムツオ
無辺へと千手を垂らし菊枯れる 同
不立文字風に渦巻く落葉こそ 同
天の狼咆哮雪が降り出せり 同
冬の蝿昨日の朝日今日も浴び 同
終末に備え固まる黒海鼠 渡辺誠一郎
数え日や終わらぬ旅の旅衣 同
産声を忘れ宣戦布告かな 同
障子貼りゐていつの間に囲まれし 今瀬剛一
冬の星糸で繋いで贈らむか 同
瀧凍り始める寒さかと思ふ 同
ショール巻いて母が見えなくなりしかな 同
やがて会ふはずの枯野の二人なり 同
瀧深く隠して山の眠るなり 今瀬一博
鮟鱇の腹の白さよ雪催 同
目瞑れば吾も大柚冬至風呂
ペンギンの胸の広さや春隣 大木あまり
霜の花忘るるために歩きけり 同
鎌倉の水羊羹と無常観 同
マスクして逢ふや双子座流星群 同
立ち泳ぎするかに揚羽飛ぶことよ 同
入院も旅と思へば冬うらら 同


薔薇咲くや抜歯のあとのあをぞらを 鈴木総史
とんばうや蝦夷にあをぞらあり余る 同
背広にも晩年のあり漱石忌 同
薬飲むみづのまばゆし風信子 同
実石榴や触れればくづれさうな家 同




ころがしておけ冬瓜とこのオレと 坪内稔典
長崎に住もう枇杷咲く五、六日 同
リンゴにもオレにも秋の影ひとつ 同
ねじ花が最寄りの駅という日和 同
夕べにはすっかり晴れて栗ご飯 同
地平の目まだ半びらき真葛原 佐怒賀正美
乗るによき父の背いつか天の川 同
地球まだ知られぬ星か磯焚火 同
亀鳴くや天の沖には磁気嵐 同
くねりだす街の石みち鳥渡る 同
青嵐や骨のみで立つ電波塔 同