goo blog サービス終了のお知らせ 

母だって・・・

母はこの街で生きている、
小さな出来事に一喜一憂しながら

母、詩を読む その六

2006-02-10 18:54:22 | 文学
寂光



ともだちのお母さんから

もう長くはないのですよと

聞かされていたから

いくら 月の輝く夜でも

病院へ向かう

ぼくの足取りは重かった



部屋を訪ねた時

眠っていたともだちが

何かの物音で目を醒まし

「やぁ 来てたのか」と

さみしそうに笑って

てのひらを合わせ

同じ経文を

三度くりかえした



ともだちは上体を起こし

生きてることを

たしかめるみたいに

ゆっくりと 時間をかけて

みかんの皮を剥ぎはじめ

窓から射す月の光は

今たしかに在る

ともだちの

この世のかたちに

ひそやかに

降りそそいでいた





清崎進一著  ”新選組になればよかった” より







私が時々紹介させて頂く、清崎進一さんの”新選組になればよかった”の中に

よくこのブログに遊びに来てくださるmisakiさんの

若くして亡くなられたお友達が好きだとおっしゃった詩が三編ある。

改めてこの詩を読むと、詩の主人公とお友達が重なって涙が溢れた。

若くして逝かれた方のご冥福をお祈りし、

今回は「寂光」を捧げよう。








母、詩を読む その五

2006-01-21 15:51:21 | 文学
冬の星座



ほら あれが

オリオンでしょ

左上に

ペテルギウス

そして シリウス

プロキオンよ



冬の星座を数える

君の横顔が

とても美しい



ねえ君

いつか僕が

星になる日がきても

凍える夜空に

この僕を見つけてね



君の好きな

オリオンよりも

きっと早く





清崎進一著  ”新選組になればよかった” より






凍てつきながら冴え渡った冬の夜空は何処までも透明で

冷たい空気の中に、混じり物などひとつも無く

何億光年先からやってきた、小さな星の光さえ見逃したりしない。

もしも命の尽きる時、天空の星のひとつになれば

愛おしい人の澄んだ瞳で見つけて欲しい・・・

きっとそうなんだろう。



清崎さんの詩は情景と共に、その凛として冷たい空気まで運んでくれた。







母、詩を読む その四

2005-12-23 19:58:19 | 文学
星夜のひと幕



星をかぞえた

ななつあった



夢をかぞえた

ひとつもなかった



青春は

たのしかったし

かなしかった



星をかぞえた

ななつあった



愛をかぞえた

何もなかった



ぼくは

生きたかったし

死にたかった





清崎進一著  ”新選組になればよかった” より





”聖夜”じゃなくて ”星夜”だが、X’masを目の前にして、この詩を選んだ。

ちょっと悲しい詩だけれど、言葉でこう言いながら

心で ”夢”と ”愛”を求めているのだと思う。



読んでくださった皆様に、Merry Christmas




















母、詩を読む その参

2005-11-10 19:36:22 | 文学
命のかたち



ぼくという

人間の時間が

終りを告げて



その先 何に

生まれ変わっても

ぼくは ぼくで

ありますように



魚になっても

星になっても

草花になっても

風になっても



命のかたちが

何度変わっても

どうか

ぼくは ぼくで

ありつづけますように





清崎進一著  ”新選組になればよかった” より




魂は生まれ変わると信じるか、信じないか・・・

それは人それぞれに思うところがあるだろう。

しかし、そう信じたときに

”ぼくは ぼくで ありつづけますように”

そう思えることは、何て素晴らしいことだろう。

それは自分を愛していることであり、

自分の周りの人や、生き物や、全ての”縁”あるモノを愛しているから言えるのだと思う。



そういう人に・・・なりたい。




母、詩を読む その弐

2005-10-19 12:47:48 | 文学




十五年前に

この世を去った父を

最近 よく

見かけるようになった



たとえば

一杯飲み屋の

にぎやかな

赤ら顔の

男たちの中に



声をかけると

不意に 父の姿を

見失ってしまいそうで

いつも 遠くから

楽しそうな父を

見守っている



清崎進一著  ”新選組になればよかった” より





私の父も亡くなって十数年経つ。

父は農業をしていたが、よく働く人だった。

今でも車で走っていて、車窓の畑で働く、年恰好の似た男の人を見ると

”父じゃないか?”と思い、つい目で追ってしまうことがある。



この詩を読んだ時、分かり過ぎる位分かり

思わず泣きそうになった。

大好きな父は、今日のように晴れた日は

今も何処かの畑に居るのだ。











母、詩を読む その壱

2005-09-09 01:10:59 | 文学
緑の風が吹く頃



君には

君の夢があって

ぼくには

ぼくの事情があって



君は女の子ばかりの

大学に進むことになり

ぼくは近くの

町工場で

働くことになり



花びらが散って

緑の風が吹く頃

「元気だった?」とか

なんとか言いながら

あの街角で

偶然に会いたいね




清崎進一著  ”新選組になればよかった” より


母、詩を読む

2005-09-07 16:00:41 | 文学
台風が去り、切れ切れの雲の合間に太陽が顔を覗かせている。

空気がすっかり入れ替わり、太陽の光は刺すように降ってくる。



このブログを読んでくださる皆様は、被害に遭われなかっただろうか。

日本の中には、失意の夜明けを迎えられた方も多いことだろう。

これ以上被害が大きくならないことを祈りたい。



さて、今朝の産経新聞の”朝の詩”に大阪市在住の”清崎進一”さんの詩が載っている。

何度も紙面で拝見し、本が出版されることを知って購入したのはもう三年くらい前になるだろうか。

”新選組になればよかった”と題された本には、私の好きな詩がいくつもある。

本の中で控えめに”キラッ”と光る文字達は、私の心の中にじんわりと広がってくる。

”瞬間小説”と評される清崎さんの詩を、いつかご紹介したいと思う。