日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

おっさん2号の話(本題です)。

2009年06月20日 | お仕事な日々
「聞いたことがあるんだけど、仕事として、したことないはずだよな、
“○○の詩”なんて」

電車の中で資料を読みながら、
妙に引っかかるこのパンのシリーズに、
私は首をかしげていた。

スーパーの事務所でエプロンをつけて、
すでに来ているであろう、営業の人を探した。

そのパンを大量にきっている、
その後姿を見て、私はようやく、
おっさん1号のことを思い出す。

遅ればせながら、嫌な予感がした。

「よろしくおねがいします」とまずはごあいさつ。
気がついた“○○の詩”の営業の人は、
「おっ……」と、小さく声を出した後、いきなり、

「なんや、そのエプロンは!!!」

と、怒鳴ってきた。

便宜上、その人を“おっさん2号”と名づける。

     ★

「ベストやないか、それは。エプロンちゃうやろ」

それは、私ばかりか、私がこのエプロンを買った、
雑貨屋さんに対して、失礼じゃないか。

「いいえ、エプロンとして買いました。
大概、寒い場所で仕事をするので、
年中冬物のエプロンをつけさせてもらっています」

派遣会社で言われているエプロンの規定は、
胸の部分にもちゃんと生地があること以外、
取り立てて言われていない。

私も最初の頃は、
普通に背中でバッテンを作って、ひもで結ぶようなタイプの、
エプロンをつけていた。

が、悲しいかな、なで肩。

気がつくと紐が肩からずり落ちて、
なんともうっとおしく、
どうもサイズが合ったものではなかったらしく(もらいものだったしね)、
胸当ての部分も下の方になり、だらしなく見えたりした。

そして、なんといっても、スーパーは、
夏でも長時間いれば、寒いし、
女の人は、年を取るごとに、
それは腰痛となって、こたえてくるのだから、
自衛を考えるのは、ごく自然なことで。

なので、ある日、小さなスーパーの片隅にある、
服関係の雑貨屋さんで、
背中にもごつい生地があり、
横ボタンで、ずり落ちそうにないこのエプロンを購入し、
相棒のように、着用しているのに。

頭ごなしに、いきなりなんだ、このおっさんは。

「他の人ら見てみ、そんなベストみたいなエプロンつけてないやろ」
「そうですね」

としか、言いようがない。

だからなに?という感じなのだ。私にしてみれば。

例えば、まれに、
スーパーの従業員と同じ格好で仕事をしてほしいと、
着替えさせられるお店もある。

メーカーさんが、ロゴの入ったエプロンを持ってきて、
「今日はこれを来て仕事して」と言われることもある。

私はそれらに逆らってまで、このエプロンに固執しているわけじゃない。

そこにはそこの
統一されたものを着用しなければならないという、
お約束事があれば、それに従う。

だが、そういう場合じゃないとき。

たまたま、私はこだわりを持って探した、
でも必要最低条件をちゃんと守った、
エプロンを着用しているので、
めずらしがられたり、抵抗感を持たれたりすることは、
仕方ないとしても、
このおっさん2号に、
「エプロンじゃない」と真っ向から否定される筋合いはなにもない。

奇抜すぎる格好をして走ったジョイナーに、
『それはアスリートの格好じゃない』と言うようなものだ。

って、デカイか。例えが。しかも、古いか、例えが(笑)

「あー、もう、早く仕事、終わらないかしら」と早速思ってしまう。

が、悔しいので、

「えぇ仕事したろうやないか、このおっさんめ、
エプロンなんか関係ないことを、証明したろうやないけ」

と、アドレナリンが、フル稼働し始める。

     ★

「しばらく、俺の仕事を見てろ。それで覚えていけよ」

と、いうので、
メモ用紙に、おっさん2号がいう口上の、
言葉のイメージを掴むように殴り書きをしながら覚えていく。

ひととおり終えたところで、

「『○○の詩』とは、どういうパンや」
「このパンの良さは何や」

と、試験のように質問され、ことごとく解答していく
(もちろん、メモ用紙は見ないでね)。

「あんた、この仕事な長いんか」「3年目です」……スパッ。
「ここから家、近いんか」「東大阪市です」……スパッ。
「駅はどこなんや」「N駅です」……スパッ。
「派遣元は……○○研か。あそこ、日給安いやろ!」……ナヌッ?

日給は安いのは事実だし、有名な話だ。
が、このおっさんに言われると、なんだか腹が立った。

「どや、この“○○の詩”の専属になれへんか?」「やめときます」……スパッ。
「なんでや!うちの日給は高いで。それに、東大阪やったら、
奈良方面、いけるやろ。あそこ、ちょうど、人が足りないんや。
やけど、俺は管轄が違うから、○○っていうナヨッとした男が、
担当やねん。俺ほど、こわあれへんで」

「いえ、遠慮しておきます。
今の派遣元、気に入ってますし、
コンスタンスに仕事は入れてもらっているので」……スパスパスパッ。

なめんじゃねーよ。
金の問題じゃ、ねーんだよ。

自分が三年も関わっているところの派遣会社を、
否定するところから、入って、
自分の部下を『ナヨっとした男』と言うのは、
なんだか、夫が妻を他人に紹介するとき、
『愚妻』と呼ぶような、嫌な感じがしたし。

おっさん2号の思惑どうりに行くものか、と意地になる。

だが、聞いてみると、
派遣会社も、派遣会社だなぁと思うところもある。

「あんたは、俺が何も言わんでも、
ちゃんとお客さんに『ありがとうございました』と普通に言うた。
この前の子は、ひどかった。ボーっとつっ立ってるだけや。
あいさつもしよれへん。『もうかえれ!』って、言ってやったわ」

それは、基本ができてなさすぎかも……。
パンの仕事って、経験者が絶対条件なのに、
なんでそんな出来てない子が、派遣されちゃったんだろう……。

そうか。
マネキンにかなり苦労をさせられているから、
頭ごなしに言って、
緊張感を持たせて、仕事につかせるのね、というところは理解した。

が、やっぱり長々と関わりあいたくはない。このおっさん。

     ★

「じゃ、実際に販売をしろ」と言われ、
おっさん2号は、煙草を吸いに行くことをはじめ、
いろいろな雑用をしに、場所を離れた。

それにしても、あの時の、おっさん1号め、と、
仕事しながら、回想する。

あの“高級菓子パン”を売るときに使っていた、
パンの説明は、ここの“○○の詩”のパンの説明と、
全く同じじゃないか。

あのパンを自分が実際に食べて編み出した言葉ではなかったのね。

マニュアル化はいいよ。
ある程度、いいことだと思うよ。

でも、あの“高級菓子パン”の口上と、
“○○の詩”のパンと同じうたい文句って、どう考えても、変だ。

それは、前からあの“高級菓子パン”のハタケで仕事をしていた、
営業さんのうたい文句に対して、失礼だ。

今、どうなっているんだろう。あの“高級菓子パン”の部署。
少なくとも、制服だとか、エプロンだとか、
統一されていないけど。

まあ、どうでもいいといえば、どうでもいいんだけど。

     ★

おっさん2号がいるときは、
私はパンの売り場を整理したり、
個人個人のお客さんに、パンの説明をしたりした。

おっさん2号のほうは、元が厳しいんで、
私と一緒に仕事をすることについて、どう思ったかわからないけど、
私の方は、ニコニコ仕事をしながらも、
「早く終わってくんないかなぁ~イヤだなぁ~」と思っていた。

呼吸がちゃんと合わないのだ。

例えば、今から、在庫を見に行こうと思った時に、

「ちょっと、在庫、見てきて」と、言われ、
『今行こうと思ったのになぁ~』見たいな、妙な悔しさを感じたりして。

もう、ヤダヤダ、と思ってしまう。

あの時もそうだ。

あるおばちゃんが、パンを買うかどうか悩んでて、
Aのパンのよさ、Bのパンのよさを、説明したら、
どっちのパンか忘れたけれど、とにかく買ってくれた。

おっさん2号は、ちょっとした軽口で、

「すいませんね。娘が無理を言いまして。
ありがとうございます」

と、マニュアル以外の洒落たことを行った。

私は、ははは……と笑う。

40歳であることは、すでに言っていたので、

――娘かぁ。……う~ん、娘……。娘ねぇ~。

と、心の中でつぶやいた。

その声が聞こえたのか、おっさん2号は、
パンをせっせと切りながら、

「……娘は、ちょっと無理があったな」とつぶやく。
「嫁……、嫁ならまだおかしくないか……、でも嫁じゃあなぁ……」

真面目に考えるなよ、と、内心毒つきつつも、

「孫だったりして」

と、私がつぶやいたとき、
隣にあった、冷凍食品の売り場から、
びゅううううっと寒い風が吹き込んできたような、錯覚がした。

おっさん2号は、急に無口になった。
本気で怒っているような、風が吹いてくる。

笑いのツボが、違いすぎるぅぅぅぅ~!ひゅぅぅぅぅう!

なんで、ツッコミ入れないかな。なに真に受けてるんだよ!

「……俺、いくつやねん」って、本気でつぶやくなよ!!

「……す、すいません。調子に乗りすぎまして……」と、

謝るしかねーじゃねーかよぉぉぉぉおおおおおおおー!!

……書くとそれなりに面白いけれど、やってたその時は、
本当に、凍り付いて、面白くなかった。

     ★

そんなこんなで、夜7時までの仕事なのに、
試食も、販売もどんどん進み、
6時10分には、試食品を出せないほど、
パンが少なくなり、6時半を過ぎたら、

「もう帰ってくれていいです」と、仕事を終わらせてくれた
(もちろん、サインは、夜7時まで労働したというかたちで)。

険悪の状態でも、
いや、険悪の状態だからこそ、
仕事がうまくいくということも、たまにはあるんだな、
でも、もう(特にこの)営業さんと二人の仕事は、もういいや!と思った、
一日でございました。

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