笑わぬでもなし

世相や世情について思いつくまま書き連ねてみました

糟糠の妻 ホーソン

2005-05-26 | 文学
「妻を娶らば才長けて、見目うるわしく情けあり」とは「人を恋うる歌」の歌い出しであるが、才長けて情けある妻が当今、どれだけいるのか知らない。世に糟糠の妻といえば、山内一豊の妻である。山内一豊の話を知るものが少なくなったから、糟糠もまた死語になるかと危ぶんでいたが、来年の大河ドラマが山内一豊の妻になるとネット上で知り、糟糠は踏みとどまるかも知れぬ。
 糟糠の妻は洋の東西を問わない。ホーソンは「緋文字」で有名なアメリカの作家であるが、作家になる前は税関として生計を立ていた。仕事上で失敗を犯して、馘首される憂き目に遭った。作家としての才能に自信も持てぬまま、ただ夢を漠然と追っていた矢先の馘首である。愛する妻に困窮生活を強いるのは如何。馘首された事実を妻に告げると、良人の才能を信じる妻は、筆で立たんと薦めた。その間の生活費は良人が尋ねると、妻は莞爾として、一年分の生活費を貯めておいたという。
 かくして、ホーソンの「緋文字」は成った。緋文字は英語のscarlet letterをそのまま訳したもので、英和辞典を引けばその意味が出てくる。すなわち、ピューリタンの間で姦通を示した A(adultery) の文字のことで、物語では姦通を犯した婦人が緋色のAの文字を刺繍した服を着る場面がある。
 話し転じて、クリント=イーストウッド監督、主演の「マディソン郡の橋」では、メリルストリープとダンスをする場面で彼女は赤いワンピースを着ている。原作を読んでいないので、原作者の意図かイーストウッドの意図かわからぬが、赤い色のワンピースは、緋色を模したものであろう。イーストウッド自身、数回結婚しているから糟糠の妻はいるとはいえない。
 今週末より、イーストウッドの新作が公開される。アカデミー賞云々あるが、賞などはどうでも良い。あの渋い顔つきと艶のある声が聞こえるだけで、暗室へ足を運ぶ価値があると喧伝しておく。
 

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