笑わぬでもなし

世相や世情について思いつくまま書き連ねてみました

満韓ところどころ

2005-11-10 | 文学
  満韓ところどころはいつ読んでも、どこから読んでも面白いです。なんでも、国威発揚の意味もこめて、当時の名文家である夏目漱石に白羽の矢を立て、今で言うルポルタージュを書かせる目算であったが、漱石は見事に期待を裏切っています。
  一節を引くと、「佐藤はその頃頭の毛の乏しい男だった。それでみんなして佐藤のことを寒雀、寒雀といって囃した。当時、世は寒雀がどんなものか知らなかった。けれども、佐藤の頭のようなものを寒雀というのだろうと思って、いっしょになってからかった。」という青春譚もあれば、若き頃、漱石はボートをやっていたことも伺えます。
 また自分からかう場面も出てくる。漢字を尋ねられて、「文学者らしからぬ」答えをして、相手に呆れられたことや、英国人に貴公は何人かと問われ日本人だと答える。漱石は心中穏やかならずで、俺は何人に見えるのかと呟いてみせる。
 小生はこの話が好きで、何度も読み直しておりますが、毎回発見のある本です。
日本という国が日清・日露戦争に勝ち、満州へと進みどのような帝国を築いたのか、また現地にいる役人がどのような人物であったのかを漱石一流の筆致で描いております。そして、なによりも 「ここまで新聞に書いてくると大晦日になった。二年に亘るのも変だからひとまずやめることにした」という終わりです。
 「満韓ところどころ」は、ちくま文庫夏目漱石全集の7に納められています。

 

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