奥武蔵の風

17 三年ぶりのマンジュシャゲ 

 奥武蔵には、日本最大のマンジュシャゲ(ヒガンバナ)の群生地があります。「巾着田 曼珠沙華 (きんちゃくだ  まんじゅしゃげ)公園」です。

 巾着田というのは、高麗川が蛇行して、ひらがなの「ひ」の字の形になった内側を開拓した水田で、近くの日和田山から見下ろすと布袋(ぬのぶくろ)の「巾着」(きんちゃく)の形に見えるところから、そう呼ばれるようになりました。

 高麗川に沿った巾着田の外周が曼珠沙華公園です。川が洪水(こうずい)を起こすたびに上流にあった球根が岸辺に流れ着いて自生繁殖したと言われ、咲きそろうと、それは見事です。昭和末期から平成にかけて国の「ふるさと創生事業」で全国の市区町村に1億円が交付された際、日高市は巾着田を整備して観光名所とすることを決めました。景気のいい時代でしたから、当初は、どんぶり勘定(かんじょう)で「100万本の曼珠沙華」というキャッチコピーで売り出していたのですが、バブルがはじけると、本当にあるのか確かめた方がよいということになり、正式に調査したところ、何と500万本あったという、いわくつきの観光名所です。

 開花の時期に合わせて「曼珠沙華まつり」が開催されるのですが、一昨年と昨年は、コロナ禍で人出を防止するため中止となり、マンジュシャゲも「咲けば人が集まってしまう」という人間側の勝手な都合で、500万本が開花直前に花芽または茎を刈り取られて、無残な姿になってしまいました。

 今年は、三年ぶりに祭りが開催されることになり、主役のマンジュシャゲも三年ぶりに開花を許されることになりました。コロナ禍は終息していないので、祭りはどうかと思いますが、マンジュシャゲの開花の「復活」は喜びです。

 マンジュシャゲの咲く巾着田周辺を舞台にした童話があります。

 主人公の少女が、仲良しの人形を連れて、いつものように高麗川へ遊びに来ました。が、森の中へ蛇行する上流にふと興味を持って、冒険を始めます。ところが、途中で大雨が降りだし、川が増水して帰れなくなってしまいました。お父さんとお母さんが探しに来ますが、いつもの川原に見当たりません。

 少女は、マンジュシャゲの花を何本か折って川に流し、それに気づいた両親が上流へやってきました。しかし、大きな岩のかげで少女は、人形を抱きしめたまま、寒さで気を失ってしまいました。岩の手前まで来た両親ですが、こんな大きな岩を小さな娘が越えられるはずがないと思い込み、岩の反対側にうずくまった少女に気が付きません。その時、人形の体が少女の腕から離れ落ち、渦まく濁流(だくりゅう)に身を投げました。

 自分の命と引き換えに少女の命を助けた人形の物語です。この地、この季節にふさわしい童話として、お勧めします。

  月野一匠 『高麗人形—森のひみつ』  (外部リンク。無料公開のページへつながります)

  https://goldenmoonrabbit.ninja-web.net/KomaNingyou.html

 

<付記>開花期を前に文章を書きましたので、以下の写真は過去のものです。今年は、三年ぶりに、このような本来の生態系が見られるのではないかと思います。

(写真上)© 曼珠沙華公園は、高麗川の流れに沿っています。 

(写真上)©マンジュシャゲの群生は、岸辺の木立の中に展開します。

(写真上)©太陽のよう。幻想的としか言いようがありません。

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